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「勝負所の定めかた」~2021.7.11 UEFA EURO 2020 Final イタリア×イングランド レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■ベタ引きのためだけじゃない

 EURO全部見るマンの隠れた目標は決勝のプレビューを書くことであった。というわけでそれがこちら。

 プレビューでも述べた通り、両チームを比較した時に完成度がより高いのはイタリアの方である。苦手な局面が少なく、どういった展開でも粘りつつ強みを見出しながら跳ね返すことが出来るチームである。というわけでイングランドがどう挑むか?がまず見ていくポイントである。

 プレビューで述べたポイントは『速度』。イタリアは高い完成度を見せているのは自分たちのペースで試合を展開できているから。それに対して、純粋なスピードやアスリート能力勝負では劣る部分もある。また速い展開において、普段通りの精度でプレーができるかもわからない。

 イタリアをスピードの部分で飲み込めるとしたらベルギーかイングランドと考える。というわけでイングランドはイタリアを倒せるポテンシャルは有しているはずというのが個人的な見立てだった。

 その予想を証明したのが開始早々にイングランドに入った先制点である。ケインの間受けから大きくサイドに展開し、サイドから上がったクロスに合わせたのはルーク・ショウ。ケインが間受けでスイッチが入ると横断で見方が上がる時間を稼ぎながら、ゴール前まで素早く運び、イタリアにリトリートする隙を与えなかった。

 イメージとしては準決勝でイタリアと戦ったスペインのやり方に近い。降りる9番(ダニ・オルモ)がスイッチ役となり加速するスタイル。

 だが、それはイングランドの平常運転のスタイルともいえる。降りるケインが攻撃の起点になるのはいつものことである。しかし、この日違ったのはSBのところ。もとい、3バック採用なのでWBのところである。

 今までのイングランドは前戦でタメを作ることが出来ずに、SBの攻撃参加を促すことが出来なかった。したがって大外からのSBのクロスは減っていた。だが、この試合ではケインが背負った段階で、右のWBであるトリッピアーが高い位置に出ていくことが決まっていたかのよう。

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 加えて、トリッピアーがあげたクロスに合わせるのは逆サイドのWBのショウ。WB⇒WBのパターンは大会としては王道の攻略法(ゴセンスとか)。ただ、サイドの追い越しが足りていないイングランドがここで勝負に出るとは思わなかった。

    この日のイングランドが採用した5バックは最終ラインのスペースを埋めることだけではなく、攻撃に置いてサイドを押し上げながら広く攻め込んでいくスタイルを念頭に置いてのものでもあったということである。

■強引さ優先のキエーザの判断

 スターリングとケインの間受けを軸に先制点後も積極的なイングランド。ただ、先制点を手にしたこともあり、こうした攻撃を主眼に置いた姿勢は徐々に減退。自陣でベタ引きをしていくようになる。だが、それも悪い話ばかりではない。5-4-1となり後ろに重心を傾けたブロックにイタリアはかなり苦戦していた。

 中でもキーマンに対して人がついていくスタンスは厄介。インシーニェにはウォーカー、そしてヴェラッティにはフィリップスといった具合で、要人にはマンマークを付けたイングランドだった。

 左の攻撃の主軸であるインシーニェはウォーカーに完敗。ジョルジーニョの相棒役として配球を行うはずだったヴェラッティも窮屈で身動きが取れない状況になる。

 イタリアの攻撃は左サイドの運び役であるインシーニェが中心で構築される。ここから中央でインモービレを経由して敵陣に向かい、逆サイドのキエーザでアタッキングサードで勝負するというのがイタリアの王道パターン。これが機能したのがスペイン戦の後半である。

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 しかし、この試合ではこの流れは完全に不発。ウォーカーの厳しいマークにあっていたインシーニェ以上に、インモービレが消えてしまい、攻撃のリズムを作ることが出来ない。

    これを見たキエーザは外に開いていてもボールが来ないと判断したのだろう。幅取役としての役割が大きかったこれまでの試合に比べて、内側に絞る立ち位置を取る。いわば、インモービレの役割を中抜きして、自身がインシーニェからボールを引き取り、アタッキングサードで仕上げに入るイメージである。

 だが、これには困難も伴う。すでに述べた通り、イングランドの重心は後ろに傾いており人数も多い。特に3バックを敷いている分、中央は強固。キエーザは進んで網の中に入ってきたイメージである。だが、そうでもしなければこの日の前半のイタリアはチャンスを作るのが難しかった。一人抜いて、次の相手を抜ききらないくらいのところで強引にフィニッシュワークに持って行く。要は、今度はイタリアがイングランドをスピードで振り切れるかというチャレンジである。

    前半最も惜しかったキエーザのミドルのシーンである。1人抜いて、それでもまだ立ちはだかる相手の間を抜くようなシュートで、ピックフォードの守るゴールを脅かす。

    もう1つ前半で印象的だったシーンはインシーニェがFKを得た場面。ラインを下げた分、シュートコースを消せばOKと考えたのかウォーカーが待ち構えているところにスターリングが突っ込んできてFK。この2つが前半にイタリアが得たチャンス。惜しいシーンではあるが、どちらもDFラインを越えてフリーでシュートを打った場面ではない。強引さを伴わなければイタリアはチャンスを作ることはできない。

■変化を見逃さないイタリア

 後半も大きく状況は変わらないまま始まった。イタリアが攻め込み、イングランドが跳ね返す。イタリアの保持に対して、時折思い出したようにケイン、スターリング、マウントの3人がカウンターで出ていくスタイルである。

 状況が変わってきたのは60分くらいだろうか。前半の項で挙げたインシーニェに対してスターリングがファウルを犯したシーンのように、徐々にライン間の選手にボールが入り前を向けるようになってくる。

 理由としては徐々に中盤の一角であるフィリップスが前に出ていった時のギャップが大きくなり、ライン間のスペースが空きやすくなってしまったこと。また、このライン間のスペースをDFラインが押し上げられなくなってしまったことでイタリアがこのライン間のスペースで呼吸ができるようになる。

 これを狙ったか後半開始早々に消えていたインモービレに代わってベラルディを投入。インシーニェの0トップを採用し、ライン間に入ったり出たりなどの自由度を上げ、この部分を集中的に狙っていくようになった。

   60分を過ぎるとイタリアの攻撃は徐々にエリアに届くようになってくる。あれ?と思ってから得点までは早かった。セットプレーからキエッリーニがつなぎ、最後はボヌッチ。ベテランCBコンビがつないだ魂のゴールでようやくピックフォードの牙城を崩す。

 こうなると困ったのはイングランド。先に相手に手を打たせて、どうなるかを見守るのがサウスゲートの鉄板。しかし、どう考えても手を打たねばいけない状況である。というわけで珍しく自体の変化に早めに(といっても70分だが)動いたサウスゲート。サカで4バックに移行し、さらにヘンダーソンをライスに代えて投入する。

 ヘンダーソンの役割はフィリップスと同様に構えた中盤から出ていく役割。どちらかといえばヘンダーソン投入以降はフィリップスが低い位置でカバーするシーンがあった。サカの投入で4バック移行したことからもイタリアの攻撃をなるべく高い位置で止めたかったのだろう。

    しかし、この目論見はあまりうまくいかなかった。やや出ていく判断のバランスは改善されたようには思うけど、高い位置からのボール奪取を行い陣形回復に貢献するところまではいかなかった。

    理由としてもう1つ挙げるとすればイタリア側の選手交代。IHに入ったクリスタンテがやたらDFの裏を狙った飛び込みをするので、DFラインを下げざるを得なかったこともDF-MF間をコンパクトにできなかった一因である。

    攻撃的な役割を任されたサカもやや気負いがあったのか、いつもよりもボールタッチに硬さが見られた。徐々に良くはなっていったけど。

 そんな状況でイタリアが優勢の状況は続く。しかし、そのイタリアにも思い通りにいかない部分が。キエーザの負傷である。イタリアはベロッティという基準点型のFWを再び投入。やや流動性を棒に振ったが、それでもイングランド相手に縦パスを入れるところまではいっていた。そのあとのインシーニェの交代まで行くとさすがにきつかったが。

■相棒不在のグリーリッシュ

 延長に入るとさすがにコンディションの差は感じた両チーム。消耗の少ないイングランドの方がまだ元気に見えた。延長戦に入り、サウスゲートが選んだのはグリーリッシュである。

 体力差が効いているところにグリーリッシュの投入でさらに勢いづかせるというのがプランだったのだろう。しかし、これもうまくいかない。グリーリッシュは単体でも脅威だが、彼を追い越す選手がいればさらに輝く選手。同サイドのSBであるショウはもう明らかに上がる足は残っていなかったし、中盤のサカもそこに入り込むほど連携が完成していなかった。

    おそらく、ショウ以外でこの役割が可能な選手は今のイングランドではチルウェルぐらい。だが、そんな彼はベンチ外。コンディション等は把握してないが、コーディとミングスのベンチ入りはどっちかで良くなかっただろうか。

 それ以外は解決策を見いだせなかったのか、サウスゲートなかなか動かず。最終的には試合終了間際物議をかもしたPKキッカー用の交代で選手を入れ替えるくらいのことである。

 そんなこんなでグリーリッシュという二の矢でイタリアを攻撃できなかったイングランド。120分で決着がつかず、PK戦前までもつれもことに。PK戦に持ち込まれるとさすがにドンナルンマ相手には分が悪い。見事2本のPKをストップし、イングランドのホームでの優勝を阻止。53年ぶりの2回目の優勝を果たしたイタリアが王者となりEURO2020は幕を閉じた。

あとがき

■新生イタリアに乗っかった伝統的強さ

 慎重で後出しジャンケンなのがサウスゲートのやり方であり、物量で殴るイングランドのスカッドとの相性とは悪くはなかった。むしろ、それがイングランドを準優勝に導いたといっても過言ではない。だが、延長戦でのテコ入れが不発に終わり、潤沢な交代カードをPK要員の投入にしか使えなかったのはあまり印象はよろしくはない。

    やはり、兵糧戦で優位に立つならば遅くとも延長戦にはその効果が見えてこないと辛い。具体的にはグリーリッシュを取り巻く攻撃のメカニズムが確立できなかったことが、エネルギーを優位に結び付けられなかった理由だと思った。勝負のかけどころは遅くとも延長戦まで。あと、ピックフォードはPK戦1本目の動き方でやばいかな?と思ったけど、よく持ち直してセービングしたと思う。

 結局、スペインもイングランドもイタリアと戦うためにアプローチを変えている。強いチームというのはそういうところな気もする。決勝はまるでかつてのアズーリと戦っているのかのようだっただろう。イングランドが仮に引きこもって1-0で逃げ勝ったとしても、イタリアだけは何の文句も言えないはずである。それだけに勝利でアイデンティティを守ることが出来たのは良かった。

   スタイルは新しかったけど、その上にしっかりキエッリーニやドンナルンマが君臨している。新しさの上に伝統性を融合した今大会のイタリアは多くの挑戦者を跳ね除けた強い王者だった。

試合結果
2021.7.11
UEFA EURO 2020
決勝
イタリア 1-1(PK:3-2) イングランド
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
ITA:67′ ボヌッチ
ENG:2′ ショウ
主審:ビョルン・カイペルス

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