チーム情報
監督:ヤンネ・アンデション
FIFAランキング:18位
EURO2016⇒GS敗退
W杯2018⇒ベスト8
招集メンバー
GK
1 ロビン・オルセン(エヴァートン/イングランド)
12 カール・ヨハン・ヨンソン(コペンハーゲン/デンマーク)
23 クリストファー・ノルフェルト(ゲンチレルビルリイ/トルコ)
DF
3 ヴィクトル・リンデロフ(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)
6 ルドヴィク・アウグスティンソン(ブレーメン/ドイツ)
24 マルクス・ダニエルソン(大連/中国)
4 アンドレアス・グランクヴィスト(ヘルシンボリ)
14 フィリップ・ヘランデル(レンジャーズ/スコットランド)
18 ポントゥス・ヤンソン(ブレントフォード/イングランド2部)
16 エミル・クラフト(ニューカッスル・ユナイテッド/イングランド)
2 ミカエル・ルスティグ(AIKソルナ)
5 ピエール・ベントション(ヴェイレBK/デンマーク)
マルティン・オルソン(ヘッケン)
MF
10 エミル・フォルスベリ(ライプツィヒ/ドイツ)
21 デヤン・クルゼフスキ(ユヴェントス/イタリア)
26 イェンス・カユステ(ミッティラン/デンマーク)
17 ヴィクトル・クラーソン(クラスノダール/ロシア)
8 アルビン・エクダル(サンプドリア/イタリア)
7 セバスティアン・ラーション(AIKソルナ)
20 クリストファー・オルソン(クラスノダール/ロシア)
15 ケン・セマ(ワトフォード/イングランド2部)
19 マティアス・スバンベリ(ボローニャ/イタリア)
13 グスタフ・スヴェンソン(広州城/中国)
FW
11 アレクサンデル・イサク(レアル・ソシエダ/スペイン)
22 ロビン・クアイソン(マインツ/ドイツ)
9 マルクス・ベリ(クラスノダール/ロシア)
25 ヨルダン・ラーション(スパルタク・モスクワ/ロシア)
各試合振り返り
GS第1節 スペイン戦
■コケとぺドリには実直さを感じたが…
4時に起きて、テレビをつけるとそこに広がっていたのは頭で想像した通りのスペイン×スウェーデンの展開が広がっていた。ボールを握り倒すスペイン、それに4-4-2ブロックで対抗するスウェーデン。90分間この綱引きが延々行われたというのがこの試合のざっくりとした総括である。
スペインはサイドにWG、IH、SBの3枚を固めて崩しに挑む。それに対してスウェーデンは徹底的に中盤を引いて受ける選択肢を取る。特にスペインのIHにはCHがとりついて逃がさない。スペインとしては崩しきれない左右の三角形からエリアに迫るルートをなかなか見つけ出すことが出来なかった。
撤退+後方重心での余らせマンマークが主体のスウェーデン。これを打ち破るにはピンポイントでスペースにあわせるクロスを入れるか、対応できないタイミングでエリアに選手が入ってくるかのどちらかしかない。この部分で輝いたのはコケ。前半20分付近にはダニ・オルモへのピンポイントパスであわや得点の機会を演出。その後には自らがエリア内に飛び込むことでスウェーデンの守備陣の虚を突いた。出し手としても受け手としても高水準のコケの部分はズレをつくるきっかけとなっていた。
撤退したスウェーデンの攻撃の希望になっていたのはイサク。推進力のあるドリブルと複数人に囲まれても体を入れ込みながら網を打ち破ってしまう馬力は唯一無二。イブラヒモビッチとは異なるやり方ではあるが、彼は彼なりのやり方を示し、それが多くの人に認められているのは間違いない。
後半はWGを絞り気味にすることでマンマーク気味のスウェーデンに対して4バックだけで横幅を守ることができなくなるように揺さぶりをかける。それでもまだ得点が決まらないスペインは交代でチアゴを投入。実際彼起点のサイドチェンジで薄いサイドを作ることには成功。投入が効果的だったことは間違いない。ただ、アンカーの替えというのはたまげた。割とネガトラの場面で頑張れて、高さのあるロドリを下げたのはバランスを考慮しても結構意外だった。
とはいえスウェーデンの采配はそれの上を行く難解さ。チアゴの投入を失敗に追い込むためのトランジッションの切り札がイサクだった。だからこそそのイサクを交代で下げてしまうというのは非常に意外だった。イサクが下がったので、チアゴをアンカーに据えました!ならわかる。でも、逆だとどっちの采配もちんぷんかんぷんに思えるから不思議である。
後半に目についたのはペドリとアルバの左サイド。特にパスを引き出すためのポジションを取り続けてチアゴのサイドチェンジの受け取り手になったペドリは秀逸。10代と思えないほど90分のプレーに起伏が少なく、ひたすら汗をかきながらパスワークのリズムが快適になるように努めていた。最終盤のスペインの強みはここ。後は決めるだけの場面もなかったわけではないがモラタやモレノにはこれを活かすことが出来なかった。
列強が勝利でEUROを開幕させる中、沈黙してしまったスペイン。スウェーデンが仕掛けた塹壕戦を制することが出来ず、ドローでのスタートとなってしまった。
試合結果
スペイン 0-0 スウェーデン
エスタディオ・ラ・カルトゥーハ
主審:スラフコ・ビンチッチ
GS第2節 スロバキア戦
■2試合連続のクリーンシート。塩漬け+PKで王手
スロバキアにとってはまたとないグループ突破の大チャンス。初戦でポーランドを下したことにより、グループの本命であるスペインと戦う前に決勝トーナメント進出の権利を得る可能性が出てきたのである。
しかし、この日のスロバキアは苦戦した。それもそのはず。スロバキアの今節の相手はスウェーデン。彼らの思想はとりあえずリトリートして守備のブロックを組むことが最優先。自らスペースを明け渡すようなポゼッションをしてしまい、スロバキアに反撃の機会を与えてくれたポーランドとは異なる。
スペイン戦と異なり、スウェーデンはまずは高い位置からスロバキアの攻撃を止めにかかる。しかし、それは取り切るためではなくあくまでテンポを遅らせるため。その後のリトリート時のゾーンDFを安定して迎えるためにまずは初手でスロバキアを止める。ポーランド戦はボールを奪取して即座に加速できたことで攻撃機会を得ることができたスロバキア。この試合ではそもそも初手で封じられる。スウェーデンの望むペースでリトリートすることでスロバキアは保持時のチャンスの芽を摘み取られてしまった。
スペイン戦よりもボール保持の時間が増えたスウェーデン。絞るフォルスベリとシンメトリーにイサクが変形する形で3トップに変形する。その分、LSBのアウグスティンソンが高い位置を取る。後方は残りのDFラインが3枚。もはやEUROでは親の顔より見ているお馴染みの3-2-5変形である。
スロバキアはこれに対して選手の質を重視したマークを敢行。楔が入るフォルスベリとイサクのところをまず重点的に守る。特に警戒を強めたのはフォルスベリ。SHのコッセルニークを低い位置まで下げてフォルスベリについていかせることに。スロバキアもスウェーデン同様、全体の重心を下げながら対応。攻守の切り替えが少ない展開となった。
ドゥダ、ハムシークが前を向く状況を作りたいスロバキアだが、後半も展開は変わらず。スロバキアは保持においての起点を作れないまま時間を過ごすことになる。
しかし、スウェーデンの方は徐々に活路を見出していく。前半に比べてスロバキアのDF-MFのライン間がコンパクトさを維持できなかったこと、そしてフォルスベリへのマークが甘くなってきたことで段々と押し込む時間が長くなってくる。
フォルスベリがフリーになったことでラインの裏と逆サイドへの横断を使いながら徐々にスウェーデンがペースを握りだす。押し込んだ状態を作ったことで先制点を得たスロバキア。PK奪取は押し込んだ状況が続いたからこそだろう。これをフォルスベリが決めて先行する。
その後、反撃に転じるスロバキアだが結局スウェーデンをこじ開けることができず。未だにオープンプレーでは得点も失点もないスウェーデン。手堅い守備と1つのPKでスロバキアに代わりグループEの突破に向けて有力なポジションに躍り出た。
試合結果
スウェーデン 1-0 スロバキア
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
SWE:77′(PK) フォルスベリ
主審:ダニエル・シーベルト
GS第3節 ポーランド戦
■大エースたる所以は見られたが…
勝ち点4を稼ぎすでに突破が決まっている首位のスウェーデン。迎えるのは最下位ながらも勝てば自力突破が可能であるポーランドである。
勝たなければいけないポーランドの立ち上がりは慎重だった。ゆったりとしたボール回し、そしてレバンドフスキ目掛けたロングボール、そしてそのこぼれ球を押し上げた2列目が拾うという泥臭いやり方だった。
しかし、その慎重な姿勢は早々に崩される。イサクのポストからワンツー気味にシュートコースを作ったフォルスベリが先制パンチ。スウェーデンが先制したのは開始わずか2分のことだった。
というわけでスウェーデンは早速得意な4-4-2での塹壕戦をスタート。ポーランドはスロバキアやスペインに比べば前線のクロスに合わせる能力は高かった。それでもスウェーデンの牙城を崩すのはハードモード。時折、アクシデンタルにカウンターのチャンスがポーランドに転がってくることもあったのだが、スムーズに縦に急ぐスキルが足りていない様子だった。
レバンドフスキをうまく使えないポーランドを尻目に、イサクを使ってラインの駆け引きをするのは問題なくできていたスウェーデン。機会は少ないが、DFラインとの勝負で優勢に立つことは多かった。
ビハインドのポーランドは後半に3-1-4-2に変更。前線の受け手とプレスの強化を行うことで、より前の圧力を高めるやり方である。しかし、このやり方は初戦のスロバキア戦で見せた被カウンター対応がスカスカの形。当然、スウェーデンにカウンターの機会を与えるようになる。
このきっかけを活かしたのは途中出場のクルゼフスキ。コロナウイルスで合流が遅れたメジャー大会の初舞台において、見事なカウンターを発動。フィジカルを活かしてフォルスベリのお膳立てをした。
しかし、カウンターを完結させる個の力なら大エースのレバンドフスキも負けていない。強引な1点目は2人のDFの間からGKの届かないところに叩きこむミラクルショット。ポーランドは選手交代でWBにアタッカーを動員。突破力を強化すると、クロスを再びレバンドフスキが叩きこみ同点に追いついた。文字通りの大エース。
だが、最後に試合を決めたのはスウェーデンの方。再びカウンターからのクルゼフスキ。今度は後ろから走りこむクラーソンを使い、後半追加タイムに勝ち越し。奇跡の逆転を願うポーランドサポーターを地獄に叩き落した。
レバンドフスキの孤軍奮闘が目立った3戦だったが、最終節に敗れてポーランドは敗退。スウェーデンの強固なDFブロックとフォルスベリ、クルゼフスキの2人のテクニシャンにグループステージ突破を断たれてしまった。
試合結果
スウェーデン 3-2 ポーランド
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
SWE:2′ 59′ フォルスベリ, 90+4′ クラーソン
POL:61′ 84′ レバンドフスキ
主審:マイケル・オリバー
Round 16 ウクライナ戦
■予定調和を打ち破った数的優位とラストワンプレー
グループステージで内容的にはなかなかパッとしなかった中堅国が上積みを果たし、別の姿でノックアウトラウンドに登場するというのはEURO2020のトレンドといえるだろう。このラインに乗ったように思えた国の1つがスウェーデンである。
確かに、グループステージから3-2-5変形での攻撃は標準装備している様子は見て取れたが、基本的には4-4-2で塹壕戦を築いて相手が焦れるのを待つというのが基本的なやり方のように思えた。だが、この試合においては立ち上がりからがっちりボールを保持する。
ウクライナがこの日採用した5-3-2のフォーメーションに対してスウェーデンが狙い目としたのは3センターの脇のスペース。フォルスベリがこの位置で前を向くのが第一目標である。
しかし、ウクライナがケアすればいいのはこれだけではない。ラインを上げようとするとイサクが裏に抜けだす姿勢を見せていたし、大外にはSBのアウグスティンソンがオーバーラップしてくる。ウクライナは前線のプレスバックの意識がそこまで高くないので、これを最終ラインで処理しなければいけない。手薄なバックス相手に立ち上がりからゴールに襲い掛かるスウェーデンだった。
それに対して、ウクライナはそもそもの立ち位置でできるギャップで勝負。シャパレンコのようにIHの選手がDF-MF間で前を向くことができれば、そこから前に進むことができる。先制点を奪ったのはウクライナ。左のハーフスペースから、逆サイドに一気に展開。サイドチェンジのフォローに入ったヤルモレンコから再び逆サイドにトリッキーなクロスを送ると、これをジンチェンコが叩きこんだ。
追うスウェーデンも絶好調のフォルスベリのミドルから素早く同点に。試合は保持におけるオフザボールが好調な上に、4-4-2でのブロックの強度を備えるスウェーデンがやや優位に立っていた。
後半も積極的な好ゲームとなっていたが、70分を過ぎると強度が一気にダウン。交代策もほぼ講じなかったことから、やはり両チームとも層の部分には不安があるのかもしれない。
延長戦に入っても焦れた均衡が続くと思われたが、風向きを変えたのはダニエルソンの一発退場。これにより、保持するウクライナと撤退するスウェーデンという構図が延長戦でくっきり出ることになった。それでもスウェーデンにとっては撤退守備の局面はお手の物。ウクライナが積極的な攻勢をかけるシーンも目立たなかったこともあり、PK戦を覚悟した観客も多かったはずだ。
だが、最後の最後で試合を決めたのはウクライナ。ジンチェンコのクロスから決勝点を決めたのは途中出場のドブビク。うれしい代表初ゴールは貴重な殊勲弾となった。PK戦の予定調和を打ち破った数的優位とラストワンプレー。ベスト8最後のイスはウクライナが手にすることとなった。
試合結果
スウェーデン 1-2(EX) ウクライナ
ハンプデン・パーク
【得点者】
SWE:43′ フォルスベリ
UKR:27′ ジンチェンコ, 120+1′ ドブビク
主審:ダニエレ・オルサト
大会総括
■変わり身を見せたノックアウトラウンド
今や、どこでも保持はできて当たり前。今大会でいえば北マケドニアやハンガリーのようなチームも、保持に力を入れていかに自陣での撤退の時間を減らすかという部分にスポットを当ててチーム作りに挑んでいた。
そんなチームと一線を画していたのがスウェーデンである。4-4-2で仕掛ける塹壕戦は今大会における唯一無二のスウェーデンのトレードマークだった。自陣深くに相手を引き込み、ひたすら跳ね返し続ける。
このご時世にそういう戦い方を選べるのは跳ね返しにそれなりに自信があるから。高さにモノを言わせて試合を殺すやり方は相手からしても厄介だし、極東の地で早朝から眠い目をこすりながらEUROを見ている日本人サッカーファンにとっても睡眠導入的な部分で非常に厄介だった。
そんな低い位置での構えで攻撃を成り立たせているのがイサク。先日、ソシエダとの契約を更新したばかりのアタッカーは低い位置からでも相手をぶち抜ける馬力がある。それでいて、馬力系アタッカーにありがちなパスワークの拙さなどもない。非常に滑らかであり、エゴも少なくで球離れも悪くないタイプ。ロングカウンターには間違いなく有用だが、専用機ではないことが非常に好感が持てる選手である。
4-4-2+イサクという武器でグループステージを突破したスウェーデンだが、変わり身を見せたのはラウンド16のウクライナ戦。確かに保持においてはグループステージでも3-2-5変形は見せていた。だが、ウクライナ戦では3センターの脇をひたすらポゼッションでつつきまくるスタイルでウクライナ相手に優位に戦いを見せたのだから驚きである。
中心になったのはフォルスべリ。この大会では絶好調でハーフスペースで前を向けばミドルシュートかラストパスが刺さりまくる状態に突入していた。ウクライナにとって厄介だったのはイサクが常に裏を狙う素振りを見せていたため、簡単にフォルスベリの使うライン間を圧縮できなかったこと。この試合のスウェーデンの完成度はグループステージとは段違いだった。
残念だったのはフォルスベリとイサクがバテたりいなくなったりしてしまうと同じように攻めるのがむずかしくなってしまう点。それだけに飛ばして入ったウクライナ戦では前半か後半の早い時間で勝負を決めたかった。70分以降にグッと機能性が落ちてしまい、延長後半に仕留められてしまった。
イブラヒモビッチの欠場で苦戦が予想されていたスウェーデンだったが、グループステージ突破のノルマは達成。4-4-2でのアイデンティティとそこに上乗せする保持のクオリティを兼ね備えたスウェーデンはラウンド16敗退組の中では最も次のラウンドでのサッカーが見たかったチームである。
頑張った選手⇒アレクサンドル・イサク
できればアーセナルでも見たかったです。