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「EURO 2020 チーム別まとめ」~デンマーク代表編~

目次

チーム情報

監督:カスパー・ヒュルマンド
FIFAランキング:10位
EURO2016⇒予選敗退
W杯2018⇒ベスト16

招集メンバー

GK
1 カスパー・シュマイケル(レスター・シティ/イングランド)
22 フレデリク・レノウ(シャルケ/ドイツ)
16 ヨナス・レッスル(ミッティラン)

DF
2 ヨアキム・アンデルセン(フラム/イングランド)
26 ニコライ・ボイレセン(コペンハーゲン)
13 マティアス・ヨルゲンセン(コペンハーゲン)
18 ダニエル・ヴァス(バレンシア/スペイン)
6 アンドレアス・クリステンセン(チェルシー/イングランド)
3 ヤニク・ヴェスターゴーア(サウサンプトン/イングランド)
4 シモン・ケアー(ミラン/イタリア)
5 ヨアキム・メーレ(アタランタ/イタリア)
17 イェンス・ストリガー・ラーセン(ウディネーゼ/イタリア)

MF
10 クリスティアン・エリクセン(インテル/イタリア)
8 トーマス・デラネイ(ドルトムント/ドイツ)
23 ピエール=エミール・ホイビュルク(トッテナム/イングランド)
15 クリスチャン・ネルゴーア(ブレントフォード/イングランド)
24 マティアス・イェンセン(ブレントフォード/イングランド)
25 アンデルス・クリスティアンセン(マルメ/スウェーデン)

FW
9 マルティン・ブラースヴァイト(バルセロナ/スペイン)
20 ユスフ・ポウルセン(ライプツィヒ/ドイツ)
7 ロベルト・スコフ(ホッフェンハイム/ドイツ)
12 カスパー・ドルベリ(ニース/フランス)
21 アンドレアス・コーネリウス(パルマ/イタリア)
14 ミッケル・ダムスゴーア(サンプドリア/イタリア)
11 アンドレアス・スコフ・オルセン(ボローニャ/イタリア)
19 ヨナス・ヴィンド(コペンハーゲン)

各試合振り返り

GS第1節 フィンランド戦

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■90分戦いきった両者に称賛を

 フィンランドの歴史的な国際試合初勝利という結果以上に、この試合の最も大きなトピックスになったのは前半終了間際にデンマークのエリクセンに起こったアクシデントだろう。幸い、容態は安定しているという一報までは確認できており、ひとまずは安心という所だろう。デンマークの選手、スタッフをはじめ、このゲームに携わるすべての人がこの事態に迅速にかつ適切に向き合い、90分を無事に終えることができた。関係者各位に大きな称賛を送りたい。そして、一日でも早いエリクセンの回復を祈りたい。

 試合に関してはデンマークが一方的に押し込む展開になった。5-3-2で構えるフィンランドに対して、デンマークはサイド攻略を軸に挑む。特に右サイドのケアーから逆サイドに低弾道で送るフィードは効果的。5バックの手前、そして3センターのスライドが間に合わない位置に送り込むフィードでデンマークは横に揺さぶることができていた。

 しかしながらクロスに対してフィンランドが粘り強い対応をしたこと、そしてGKのフラデツキーがゴールマウスに立ちはだかったことで得点を許さない。加えて、サイドからのボールの精度という部分でエリクセンという戦力を失ってしまったことも影響はあっただろう。

 後半はフィンランドもより攻め気が強かった。そもそも、フィンランドは保持の機会こそ少ないが、少ない機会ではボールを大事にする傾向が強かった。特にWBが高い位置を取り、大外を起点にすることで押し込み返そうという狙いが見られた。その狙いがこの試合で唯一実ったのが先制点の場面。左サイドから上がったクロスをポーヤンパロがねじ込み、ファーストシュートで先行する。

 守備面でも後半は攻略されていた右サイド側にカマラを置くことで、手当てを行うフィンランド。ただ、デンマークの狙いは相変わらずこちらのサイド。このサイドをカマラがいない間に攻略することである。サイドチェンジから3センターをどかしたところで同点のチャンスとなるPKを奪取。しかし、これはホイビュアが慎重に蹴りすぎた結果、フラデツキーに止められてしまう。

 最終盤はヴェスターゴーアを左に入れて、さらなるテコ入れを図ったデンマーク。しかし、最後の最後まで跳ね返したフィンランドがデンマークをシャットアウト。よくしのぎ切った。デンマークにとっては手痛い敗戦だが、この試合を90分やり切った彼らには目いっぱいの称賛を送りたい。

試合結果
デンマーク 0-1 フィンランド
パルケン・スタディオン
【得点者】
FIN:59′ ポーヤンパロ
主審:アンソニー・テイラー

GS第2節 ベルギー戦

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■超ワールドクラスの証明

 この試合の10分に行われるエリクセンの拍手までに失点するわけにはいかなかっただろう。デンマークの立ち上がりには鬼気迫るものがあった。この大会では珍しいオールコートマンツーでベルギーに面食らわせる。すると、2分には先制点がデンマークに。デナイデルのパスミスを誘ったデンマークのプレス、そしてポウルセンのフィニッシュとセレブレーションは録画みてもグッとくるものがあった。

 3-4-3のミラーでの戦いだが、明らかに出足はデンマークの方が上。対面の選手に反転する自由を与えず、前進する余裕を持つことができないベルギー。中盤のティーレマンスという供給源を封じられた上に、最終ラインのビルドアップのためのサポートや動き直しが少ないため、早々に手詰まりになる。

 左サイドのトルカン・アザールとカラスコのコンビまでボールをつなぐことさえできれば、チャンスにはなりそう。だが、その機会は限定的。好調のルカクにもボールは入らなければ意味がない。

 ベルギーはプレスの勢いでもデンマークに劣っていた。プレスには出ていくものの、反転する余裕は持たせる程度の距離しか詰められず。オフザボールの動きをサボらないデンマークにとって前進は難しくなかった。前半は保持も非保持もデンマークペースだった。

 後半に試合を一変させたのはデ・ブライネ。中盤に降りてくることができるデ・ブライネの登場で中盤のボールの預けどころを見つけることができるようになったベルギー。加えて、ルカクをサイドに逃がすことで前半よりも広い範囲で勝負できるように。同点ゴールはこの形から。ルカクの裏抜けから、前線に顔を出すところまで攻めあがったデ・ブライネが後方から追いついてきたトルカン・アザールにラストパス。同点に追いつく。

 さらに、デ・ブライネは決勝点も。エデン・アザール投入でアタッキングサードの質が上乗せしたベルギーはデンマークの守備を完全に崩す。デンマークはデ・ブライネの登場以降、どうしても押し返すことができずに自陣に釘付けになった。

 終盤はブライスワイトとダムスゴーの2人を軸に敵陣に迫るも、デンマークは最後の一崩しを上乗せすることができず。前半はデンマークペースだったが、デ・ブライネの登場で戦況が一変。アウェイの地で鮮やかな逆転劇を決めてみせた。

試合結果
デンマーク 1-2 ベルギー
パルケン・スタディオン
【得点者】
DEN:2′ ポウルセン
BEL:54′ トルカン・アザール, 70′ デ・ブライネ
主審:ビョルン・カイペルス

GS第3節 ロシア戦

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■宿ってしまったんだから仕方がない

 本拠地パルケンでの2節で連敗を重ねてしまったデンマーク。それでもめぐりあわせで言えば突破の可能性は残っている状況。ここまで後押しをしてくれている大観衆、そしてエリクセン。気を落とせるようなシチュエーションではないのは逆転突破に向けた救いだったはずだ。

 そんな敵地に乗り込んだロシアは今日も元気にジューバ大作戦。いつもに比べるとやや左に傾きながらボールを収めて前進を狙う。ロシアの前進はこのジューバ大作戦とゴロビンを軸としたドリブルに寄るロングカウンター。長いボールとドリブルでの陣地回復でデンマークのゴールを目指す。

 一方のデンマークはやや右偏重。クリステンセンが時には右のSBに入るようにして右サイドを押し上げたこともあり、右サイドは割と人が密集。入れ替わり立ち替わりで選手が飛び出してくるデンマークの右サイドはロシアにとって対応がしにくかっただろう。

 時間が進む中で目立つようになったのはデンマークが入れる中央への楔。30分付近くらいから中にダイレクトに縦パスを刺すシーンが目立った。そして、ロシアはややそのパスへの対応が甘かった。ロシアはその代償をきっちり払うことになる。間受けの旗手となったのはダムスゴー。そのダムスゴーがライン間で前を向くと右足を一閃。GKが一歩も反応できない虚を突かれたタイミングでデンマークが先制する。

 後半も均衡した展開だったが、ミスが出たのはロシア。バックパスをこの日振るわなかったポウルセンにプレゼント。この大会の彼のセレブレーションにはどうしてもグッときてしまう。

 後半のロシアはジューバ大作戦の効果がだいぶ薄れていた。デンマークはここに2人守備者をつけるようになっていたし、そもそもジューバへのロシアのロングボールの位置がずれるようになってきた。そのためにロシアはソボレクを投入し、ツインタワー作戦に移行。その結果、なんとなくプレッシャーは分散。押し込んだところでドリブルを仕掛けたゴロビンがきっかけでPKを獲得。試合をわからないところまで引き戻す。

 しかし、ここからのデンマークにはもう太刀打ちする術はなかったように思う。なんというか完全に宿ってしまった。79分のクリステンセンのゴールとかはもうなんか言葉もない。勝つって知っていても『すげぇ』って言ってしまうような得点だった。宿ってしまってはもうロシアとしては正直できることはない。でも宿ってしまったものは仕方ないし、ここに宿るべきだったし、俺も宿ってほしかった。

 スタンドの思いを投影したかのようなゴールラッシュですべてをひっくり返す逆転突破を果たしたデンマーク。勢いを持ったアンダードッグとしてノックアウトラウンドに殴り込みだ。

試合結果
ロシア 1-4 デンマーク
パルケン・スタディオン
【得点者】
RUS:70′ ジューバ
DEN:38′ ダムスゴー, 59′ ポウルセン, 79′ クリステンセン, 82′ メーレ
主審:クレマン・トゥルパン

Round 16 ウェールズ戦

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■手打ちの早さで主導権を渡さず

 序盤から互いに攻め手が見つからない展開の中で、どちらかと言えば優勢に試合を進めていたのはウェールズ。5-4-1に構えるデンマークに対して、同サイドの攻略として大外とハーフスペースの出し入れで勝負。特に狙いをつけていたのは右サイド。中盤とDFラインの間が開いたところにベイルが入り込んで放ったミドルがもっとも惜しいシーンだった。

 デンマークはこのベイルを軸とした横移動への対応にやや手を焼いていた。ややリズムをつかめないデンマークは早々にシステム変更。クリステンセンをアンカーに置き、ベイルとのペアリングでもっとも脅威になるラムジーを封じる。そうなるとベイルは孤立。相手を多少動かせてもチャンスメイカーとして彼を活かすことができなかったウェールズだった。

 一方のデンマークはウェールズよりも横幅を使った攻撃が軸。デンマークが布陣変更した4-3-3は、ウェールズの守備と噛み合ってしまう。というわけで保持側のデンマークは工夫を施さなくてはいけなかった。その中で違いを見せたのはダムスゴー。固まっている中盤への降りる動きから攻撃を一気に加速。中盤とDFラインのつなぎ目に上手く付け入った形でデンマークに先制点をもたらす。ベイルの仕掛けに対する連動したオフザボールが機能しなかったウェールズとは対照的なスムーズな加速となった。

 ビハインドで迎えた後半、ウェールズはベイルとジェームズの位置を入れ替える。攻撃参加に積極的なメーレに対して戻れるジェームズを配置することで手当てをする。加えて、ラムジーが低い位置まで降りてくることでクリステンセンとの駆け引きをはじめようとする。

 が、その矢先のデンマークの追加点である。ネコ・ウィリアムスの痛恨のクリアミスがドルベリの目の前に転がってしまい、ウェールズをさらに突き放す。ボールを引き出す動きと持ち運びができるブライスワイトの良さが垣間見えた2点目でもあった。

 この2点目でウェールズは硬直したように見えた。ラムジーとウィルソンを並べることでクリステンセン周りにフリーの選手を作ろうという意志は見えた。だが、デンマークは2点目をきっかけに5-3-2かつトップにも中盤の守備参加やサイドチェンジ阻害を課すベタ引きでロングカウンターに注力するスタイルに。このデンマークに対してウェールズは突き動かすことができなかった。

 ここからはデンマークのいいところ博覧会。今大会で絶好調の香車系WBの1人であるメーレが3点目を奪うと、フィニッシュだけが決まらなかったブライスワイトがさらに追加点。ウィルソンの退場や、ベイルの抗議など終盤は心身ともにボロボロだった感のあるウェールズ。対照的に状況への手打ちの早さが際立ったデンマークがベスト8一番乗りを決めた。

試合結果
ウェールズ 0-4 デンマーク
ヨハン・クライフ・アレナ
【得点者】
DEN:27′ 48′ ドルベリ, 88′ メーレ, 90+4′ ブライスワイト
主審:ダニエル・シーベルト

Quarter-final チェコ戦

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■交代選手の質の差が最後の結果を分ける

 立ち上がりから落ち着かない状況が続いた中で早々に先制したのはどちらかと言えば押し込まれていたデンマーク。セットプレーから1つ目の好機を制し、やや前に出る。

 基本的に攻守の切り替えが少ない展開。共に時間をかけて前進していくというスタイルのように見えた。時計が進むにつれてようやく徐々に両チームの前進の仕方にカラーが出るように。

 先制されたチェコはショートパスをつなぎながら前進。方針の問題なのだけど、縦に刺せるタイミングが合っても、無理に入れることをせずにマイナスのパスを使いながら少しずつ前進していく。終着点としてはとりあえずエリア内に選手を多く送り込みたいのだろう。だからこそ、ゆっくり進む。ただし、決まったメソッドはない。スマートさはないものの、焦れずにつなぎながらPAに人が入り込むのを待つ印象である。だが最後のクロスが決まらない。クロスを跳ね返すことに長けているデンマーク守備陣に阻まれ続ける前半だった。

 一方のデンマークは先制点を取ったこともあり、じっくりとしたビルドアップ。相手が出てくるところを待ち、縦に進む隙を見せた瞬間高い位置まで出ていく。相手を引き寄せながら、一気に縦に行く瞬間を狙っていく形である。

 デンマークの2点目はこの形が活きた形。クーファルとの駆け引きをメーレが制せるとヴェスターゴーアが判断し、加速の号令となるスルーパスが出る。そこからのアウトに欠けたクロスで追加点。前半終了間際にデンマークがさらに突き放す。

 後半の頭はチェコの猛攻。4-1-3-2に変更し、高い位置からのプレスをさらにかけていく。前線にもデフォルトで人数を多く配置。畳みかけるようなプレスで早々に1点を返したのは計算通り、高い位置での圧力を増して一気に追いつく算段だったはずだ。

 その後はデンマークが5-3-2にシフトチェンジし、重心を下げる。その分、チェコが保持、デンマークがカウンターという構図が後半はよりはっきりした形である。そういう構図の中で効いたのはポウルセン。ロングカウンターの担い手とプレスバックの1人2役をこなしながらチェコを攻守に苦しめる。

 一方のチェコは終盤にシックが腿を抑えながら退くとどうしても最後のゴールの預けどころが定まらなかった印象。最後の最後はシックという意識はアタッキングサードにおけるチェコの面々のプレー選択にも如実に表れていただけに、彼の不在は重くのしかかった。

 終盤は競り合う形になったが、紙一重の差になったのは交代FWの質か。ポウルセンが見事なリリーフを見せた一方で、シックの不在が効いたチェコは最後の一押しが効かなかった。

試合結果
チェコ 1-2 デンマーク
バクー・オリンピック・スタジアム
【得点者】
CZE:49′ シック
DEN:5′ デラニー, 42′ ドルベリ
主審:ビョルン・カイペルス

Semi-final イングランド戦

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■兵糧攻めで120分勝負を制する

 スペインとイタリアという内容も結果も濃密なカードに比べれば、準決勝のもう1つのカードは非常にさっぱりしたカードになった。互いに相手のDF-MF間に突撃して、どこまで前を向けるか?という部分でのシンプルなデュエルの応酬という展開である。

 イングランドの攻撃陣に対してデンマークは非常に警戒を強めていた。サカ、ケイン、スターリングの3人にはデンマークは最終ライン5人でチェックをかける。特にライン間で受ける意識が高いスターリングが前を向こうとすると2人でなるべく囲うように対応。場面によっては1人しかチェックをかけられないシーンもあったけど、その場面での対面のラーセンの対応を見れば確かに1人では危ういなと妙に納得する。

スターリングは正対し加速されると止められないが、特に正対するためにイングランドの周りの選手が工夫を施すこともないので、デンマークが2人で囲う状況を作ること自体は難しくはなかった。数の論理での対抗のため、イングランドはSBのオーバーラップなど後方から枚数を確保すればチャンスが出来そうなもの。だが、イングランドは前線に起点を作ることが出来ず、後方から援軍が上がってくる時間を確保することが出来ない。

 せいぜい対応策はCHのフィリップスを高い位置に置くことでロスト時の即時奪回を狙っていくくらいである。セカンドボールに備えた人を送り込むというのは確かに対策にはなっているが、逆にこれをデンマークに利用されるパターンもあった。

デンマークの攻撃も狙いはライン間で受けること。ただ、イングランドよりはより呼吸をしながらライン間でうけることが出来る。なぜならフィリップスが前がかりになって開けた穴が発生することがあるから。この穴を突けるデンマークの方がむしろライン間で時間を得ることが出来る頻度は多かったように思う。

 ジリジリした展開の中で先制したのはデンマーク。ライン間で受けたドルべリへのファウルをきっかけにFKを2連続で得る。すると、これを売り出し中のダムズゴーが直接叩き込む。横方向のコースでいえば少し甘かったかもしれないが、縦方向の軌道が非常にハード。ピックフォードにとっては難しい状況になってしまった感がある。ライン間で受けるしなやかさを見せたドルべリで得た好機をダムスゴーが生かしたデンマークが前に出る。

 しかし、イングランドもわずかな連携の糸から同点に。右サイドに流れることが多かったケインを降りて受けると、ほぼノータイムでサカの走り込みに合わせたスルーパスを披露。後ろに目でもついてのかってくらいの精度。

サカの走り込みのスピードを考えると、ワンテンポでもケインの出すタイミングが遅れればオフサイドのシーン。即時に裏に出すというケインの判断とそれを信じて裏に加速したサカの連携が点でピタッとあった瞬間だった。この裏抜けでオウンゴールを誘発し、同点に追いつく。

 ここからのイングランドはサウスゲートの底意地の悪さの詰め合わせである。彼の優先事項はとにかく負けないことである。したがって、初手はしっかりと相手を押し込むことを始める。これにより、デンマークのカウンターは深い位置からスタートすることに。デンマークには数本のパスを正確につなぐ精度も、1人の選手が一気に相手陣までボールを運ぶこともできない。したがって、まずは相手のゴールへの道筋を絶つことを最優先とするイングランドだった。

 延長に入る段階でサウスゲートが切った交代カードはサカ⇒グリーリッシュのわずかに1枚だけ。5枚の交代カードが手元に残している。同点後のイングランドは兵糧攻めといった様相だった。まずはライス⇒ヘンダーソンという夢のかけらもない交代でボール回収を強化する。さらには同時にフォーデンを投入し、押し込まれても得点が取れる状況を整備する。

スターリングが獲得した『ソフト』なPKをケインが沈めた後はより現実的な路線に舵を切るイングランド。なんとトリッピアーと代わったのは先程交代で入ったグリーリッシュ。中継ぎという概念をサウスゲートはサッカーで実践して見せた。

これで1点取ってから一気に守りを固める体制に舵を切ることに。5バックの前にフィリップスとヘンダーソンを置くなんて、こじ開けられないだろうそんなの。しかもまだ交代カードを2つ残していていざとなれば攻撃的に転換できるのはちょっともう意味がよくわからない。

 とはいえ、それが出来る選手層も武器。そして、PK判定は怪しくとも延長戦の段階で仕掛けて突破が出来るスターリングの力は本物。最前線で体を張り続けたケインと、最後尾で無限にボールを跳ね返し続けたマグワイアも素晴らしいパフォーマンスだった。120分のパフォーマンスで言えばイングランドが次のラウンドに進むのは妥当だろう。

 大人げなかろうとダイブと揶揄されようと勝利したのはイングランド。外野の雑音など我関せずとチームと盛り上がるサポーターを見ると、これはこれで強さだと強く感じさせられる。

試合結果
イングランド 2-1(EX) デンマーク
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
ENG:39’ ケアー(OG), 104‘(PK) ケイン
DEN:30‘ ダムスゴー
主審:ダニー・マッケリー

大会総括

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■ヒーローたちの逆境物語

 仮にデンマークがこの大会を優勝していたとしても、この1か月間に起きた彼らにとっての最も大きなニュースはフィンランド戦で倒れこんでしまったクリスティアン・エリクセンが危険な状態を経て、何とか一命をとりとめたことだろう。本当に良かった。いつの日かまたピッチでエリクセンの躍動する姿が見れることを切に願いたい。

 開幕戦で大きなショックに包まれてしまい、この大会でのデンマークでの戦いは困難を極めるものになった。単純に戦力としてエリクセンを失ったことは非常に痛手になるし、それ以上にショッキングな離脱の仕方が選手の精神に影響を及ぼしても仕方がない。初戦でフィンランドの歴史的なEURO初ゴールを果たしたポーヤンパロがノーセレブレーションなのだから、デンマークの選手たちがいかに非常事態下において戦っていたかがよくわかる。

 続くベルギー戦でも立ち上がりこそ神がかった勢いを見せたものの、デ・ブライネという異なる神様を降臨させてきたベルギー相手に逆転負け。2連敗で窮地に立たされる。だが、ロシア戦でデンマークは再び神を降臨させる。チーム全体の推進力で後半はロシアを圧倒。特にクリステンセンのミドルまでの一連のゴールは背景も含めると大会ベストクラスといえるゴールだった。

 この得点で一気に勢いに乗ったデンマークはオーストリアとチェコに快勝。自分たちの強みがある時間帯に一気に突き放し、リードを守り切った。戦力的なエリクセンの穴を埋めたのはサンプドリアの新星ダムスゴー。ライン間での受けてからのゴールに向かう推進力を併せ持った今大会有数のワンダーボーイはイングランドの先制ゴールを叩きこみ、ピックフォードに『今大会全試合出場で無失点』という看板を下ろさせた。

 最終ラインにおいてはケアーが精神的な支柱となりチームを支え、クリステンセンは先に挙げたミドルシュートや、アンカー起用での戦術的な幅などこの大会においては普段のリーグとは異なる意外性を見せていた。

 大会中にしなやかさを見せてレギュラーCFの座を掴んだドルベリから、どんな展開においてもハードワークを欠かさずに攻守に貢献ができるポウルセンへのリレーは盤石。チェコに競り勝つことができたのはCFのリレーの質が彼らより高かったことが一因だろう。

 さすがに戦力で圧倒的な物量を誇っているイングランドには兵糧攻めに遭ったことで苦しんだが、延長までもちこむ粘り強さを見せた。120分を戦う体力面では劣っていたのは否めないが、スターリングのPKを取らない審判が主審だったらという思いが頭をよぎった人は多いはずである。

 それでも彼らは英雄だ。自身のために、国民のために、そしてエリクセンのためにデンマーク代表が駆け抜けた1か月の物語は多くの人の心を揺さぶった。サッカーが全てではないが、サッカーでなにかができることを示してくれたのが今大会のデンマーク。そんな彼らに大きな拍手を送り、この項を締めたい。

頑張った選手⇒全員

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