チーム情報
監督:ルイス・エンリケ
FIFAランキング:6位(2021年4月時点)
EURO2016⇒ベスト16
W杯2018⇒ベスト16
招集メンバー
GK
23 ウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)
1 ダビド・デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)
13 ロベルト・サンチェス(ブライトン/イングランド)
DF
14 ホセ・ルイス・ガヤ(バレンシア)
18 ジョルディ・アルバ(バルセロナ)
3 ディエゴ・ジョレンテ(レアル・ソシエダ)
4 パウ・トーレス(ビジャレアル)
24 アイメリク・ラポルテ(マンチェスター・シティ/イングランド)
12 エリック・ガルシア(マンチェスター・シティ/イングランド)
2 セサル・アスピリクエタ(チェルシー/イングランド)
MF
8 コケ(アトレティコ・マドリー)
6 マルコス・ジョレンテ(アトレティコ・マドリー)
5 セルヒオ・ブスケッツ(バルセロナ)
26 ペドリ(バルセロナ)
16 ロドリ(マンチェスター・シティ/イングランド)
10 チアゴ・アルカンタラ(リヴァプール)
17 ファビアン・ルイス(ナポリ/イタリア)
19 ダニ・オルモ(ライプツィヒ/ドイツ)
FW
9 ジェラール・モレノ(ビジャレアル)
21 ミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)
7 アルバロ・モラタ(ユヴェントス/イタリア)
11 フェラン・トーレス(マンチェスター・シティ/イングランド)
20 アダマ・トラオレ(ウォルヴァーハンプトン/イングランド)
22 パブロ・サラビア(PSG/フランス)
各試合振り返り
GS第1節 スウェーデン戦
■コケとぺドリには実直さを感じたが…
4時に起きて、テレビをつけるとそこに広がっていたのは頭で想像した通りのスペイン×スウェーデンの展開が広がっていた。ボールを握り倒すスペイン、それに4-4-2ブロックで対抗するスウェーデン。90分間この綱引きが延々行われたというのがこの試合のざっくりとした総括である。
スペインはサイドにWG、IH、SBの3枚を固めて崩しに挑む。それに対してスウェーデンは徹底的に中盤を引いて受ける選択肢を取る。特にスペインのIHにはCHがとりついて逃がさない。スペインとしては崩しきれない左右の三角形からエリアに迫るルートをなかなか見つけ出すことが出来なかった。
撤退+後方重心での余らせマンマークが主体のスウェーデン。これを打ち破るにはピンポイントでスペースにあわせるクロスを入れるか、対応できないタイミングでエリアに選手が入ってくるかのどちらかしかない。この部分で輝いたのはコケ。前半20分付近にはダニ・オルモへのピンポイントパスであわや得点の機会を演出。その後には自らがエリア内に飛び込むことでスウェーデンの守備陣の虚を突いた。出し手としても受け手としても高水準のコケの部分はズレをつくるきっかけとなっていた。
撤退したスウェーデンの攻撃の希望になっていたのはイサク。推進力のあるドリブルと複数人に囲まれても体を入れ込みながら網を打ち破ってしまう馬力は唯一無二。イブラヒモビッチとは異なるやり方ではあるが、彼は彼なりのやり方を示し、それが多くの人に認められているのは間違いない。
後半はWGを絞り気味にすることでマンマーク気味のスウェーデンに対して4バックだけで横幅を守ることができなくなるように揺さぶりをかける。それでもまだ得点が決まらないスペインは交代でチアゴを投入。実際彼起点のサイドチェンジで薄いサイドを作ることには成功。投入が効果的だったことは間違いない。ただ、アンカーの替えというのはたまげた。割とネガトラの場面で頑張れて、高さのあるロドリを下げたのはバランスを考慮しても結構意外だった。
とはいえスウェーデンの采配はそれの上を行く難解さ。チアゴの投入を失敗に追い込むためのトランジッションの切り札がイサクだった。だからこそそのイサクを交代で下げてしまうというのは非常に意外だった。イサクが下がったので、チアゴをアンカーに据えました!ならわかる。でも、逆だとどっちの采配もちんぷんかんぷんに思えるから不思議である。
後半に目についたのはペドリとアルバの左サイド。特にパスを引き出すためのポジションを取り続けてチアゴのサイドチェンジの受け取り手になったペドリは秀逸。10代と思えないほど90分のプレーに起伏が少なく、ひたすら汗をかきながらパスワークのリズムが快適になるように努めていた。最終盤のスペインの強みはここ。後は決めるだけの場面もなかったわけではないがモラタやモレノにはこれを活かすことが出来なかった。
列強が勝利でEUROを開幕させる中、沈黙してしまったスペイン。スウェーデンが仕掛けた塹壕戦を制することが出来ず、ドローでのスタートとなってしまった。
試合結果
スペイン 0-0 スウェーデン
エスタディオ・ラ・カルトゥーハ
主審:スラフコ・ビンチッチ
GS第2節 ポーランド戦
■対照的な両ストライカーの仕事
共に初戦を勝利で飾れなかったチーム同士の一戦。特にグループEの本命と目されていたスペインにとってはこの試合は是が非でも勝たなければいけない大一番だ。
スペインは第1節から1枚の入れ替え。右のWGをフェラン・トーレスからよりストライカー的なアルベルト・モレノに変更。逆サイドのダニ・オルモもワイドアタッカーというよりはストライカー気質が強い選手。3トップはナロー気味にエリア内を主な仕事場とする。したがって、大外は別の選手がカバーする2-3-5的な形で攻めに入るスペイン。
ちょっと不思議だったのは大外で張る役割と後方からサポートする役割の棲み分け。IHとSBが入れ替えながらやっていた印象だ。ジョレンテとコケの右サイドが入れ替えながらやっているのはわかるけど、アルバは大外を駆け上がりまくればいいのでは?と思ってしまった。最終盤はさすがに固定していたけども。
それでもサイドにおけるラインの上下動からエリア内への速いクロスまでのパターンは悪くなかったスペイン。特にモラタの抜け出しに合わせるパターンは非常にきれい。前節足りなかった前線のオフザボールの動きは明らかにこの試合で上積みが見られた部分である。ただ、とにかくシュートが決まらない。前後半通してPKも含めてシュートの外し方博覧会みたいになっていたのは切ない。先制点の場面を除けばそもそも枠に飛ばないシーンが多すぎる。サッカーが得点を競うスポーツでなければこのスペインは強いかもしれない。
そういった部分ではポーランドは対照的だった。スペインに対して大きな展開が決まり、薄いサイドを作ることさえできればシュートまで持って行けるポテンシャルは示した。だが、そこに至るまでのメカニズムが整備されていない。ワンチャンスで同点に追いついたレバンドフスキにモラタほどの決定機があればなぁと思ってしまう。
チャンスはあったが、フィニッシュが刺さらなかったスペインと届ければ一刺しするストライカーに届けることができなかったポーランド。後半の荒くて雑なプレーの応酬は、両チームのうまくいかなさが伝わってくるようだった。スペイン代表なのに、プレミアリーグみたいになっていたよ。交代選手が上手く試合に入れなかったスペインを見ると『まぁ、スタメンは妥当っちゃ妥当なのかな・・・』と思ってしまうのが切ない。
そういう意味では引き分けはこの試合の内容を反映したものとしてはしっくりくる。共に最終節に突破の可能性は残したものの、明るく前を向ける出来ではないことは確かである。
試合結果
スペイン 1-1 ポーランド
エスタディオ・ラ・カルトゥーハ
【得点者】
ESP:25′ モラタ
POL:54′ レバンドフスキ
主審:ダニエレ・オルサト
GS第3節 スロバキア戦
■女神が微笑んだゴールラッシュ
未勝利で突破が決まらないまま最終節を迎えてしまったスペイン。立ちはだかる圧倒的な得点力不足というお題。これに対してどのように解決策を見出すか。これが自分たちより上にいるスロバキアを退けるためのキーになるのはだれの目から見ても明らかだ。
無論、得点までの過程はそこまで悪いわけではない。この試合では左の大外を起点としてモラタや右のサラビアが入り込む動きでゴールに迫る。左の大外を取る役割をWGのモレノにやらせるのはちょっと不思議だったけど、相変わらずPA内の動き出しまでは元気であることを証明していた。
中盤に入ったブスケッツもタクト役を十分にこなしていたしコンディションは充分。IHは無駄に下がらず高い位置で取る分攻撃に厚みは出ていた。この部分はややスロバキアのケアは甘かった。自陣に引く割りには間に通されるし、ホルダーを簡単に離す場面も見られた。
ただ、スペインが決定機に頭を抱える状況は変わらず。ややアクシデンタルな形で得られたPKはドゥブラーフカがストップ。モラタはまたしても頭を抱えることになった。ちなみにスペインはこれで5連続PK失敗らしい。
しかし、得点力不足は意外な形で解決することに。シャトカのパスミスで得たシュート機会をサラビアがポストに当てると、この処理をドゥブラーフカが誤りオウンゴールに。痛恨の処理ミスでスペインに先行を許す。
こうなると勢いが出るスペイン。WGの左右を入れ替えたスペインはモレノが右に抜け出すとセットプレーで残っていたラポルトにアシスト。前半のうちに追加点を得る。
後半のスロバキアは中盤のチェイシングを強化し、奪回後、即座にCB間の前線の裏にパスを出すなど狙いはだいぶ整理された印象だった。しかし、点が入ったのはスペイン。左で作って右で決めるというこの日のお決まりの流れから3点目を奪取。これで勝負あり。やや女神がほほ笑んだ感もあったが、今大会最大の得点差で得点力不足のイメージを払拭したスペインがノックアウトラウンド進出を決めていた。
試合結果
スロバキア 0-5 スペイン
エスタディオ・ラ・カルトゥーハ
【得点者】
ESP:30′ ドゥブラーフカ(OG), 45+3′ ラポルト, 56′ サラビア, 67′ フェラン・トーレス, 71′ クツカ(OG)
主審:ビョルン・カイペルス
Round 16 クロアチア戦
■解決できなかった課題からケリをつけたスペイン
共にグループステージでは問題を抱えるチームである。決勝トーナメントに進んだ16チームの中で一番しんどいチームはどこか?と聞かれたら、自分はクロアチアと答える。全体的に動きが非常に重たく、特に前線の動き出しの少なさは根を張ってしまっているかのよう。モドリッチの存在とお国柄強いノックアウトラウンドという舞台装置という上積みでどこまで行けるかである。
一方のスペインは大会随一の保持局面に力を入れているチームといっていいだろう。その精度の部分は悪くはない。おそらく、ラウンド16の段階で一番うまいのは彼らだと思う。ただし、得点を取るというサッカーでもっとも重要な要素でのパンチ力が足りない。課題は絶対的な得点源の不在をどう補うかである。
試合はスペインの保持で時間が進む。クロアチアはそれに対してマンマーク志向が強めで対応。スリーセンター、SH、SBはそれぞれ目の前の相手についていく意識が強く人重視の対応といえるだろう。ボールがサイドにある時はクロアチアは組織全体をボールサイドにスライドする。したがって、ボールサイドと逆側はマンマークを捨ててスライド対応に切り替えることになる。
だが、これがうまく機能しない。具体的に言うと、クロアチアはボールサイドにスライドする割には間受けする選手をフリーにしてしまう。特にペドリのような受けてつなぐのが上手い選手へのプレッシャーが弱く、フリーの選手を作ったところからスペインは簡単に逆サイドに展開。逆サイドまで到達すると、クロアチアのマンマーク体制は崩れてしまっているので、ここから簡単に敵陣に侵入というメカニズムができていた。
つまり、クロアチアは人についていくこととボールサイドに圧縮することの優先順位が中途半端。スペインに嫌がらせをするのなら、ボールサイドにおける間受けを阻害しないといけない。ここを防げないので逆サイドに簡単に展開される。これだけマンマーク要素を強くする前提なら、間延びしてでも人を捨てない方がいい気がする。
というわけで盤石だったスペインだが、思わぬ形で足元をすくわれる。ペドリのバックパスをシモンがまさかのトラップミス。衝撃的な形で無からクロアチアが先制点を奪う。すると、試合は徐々に変化が。クロアチアの同サイド封鎖の機能性の向上と、スペインのオフザボールの運動量が低下したことでクロアチアが跳ね返す機会が出てくるように。
そんな展開の中で前半のうちに同点に追い付けたのはスペインにとってはありがたかっただろう。殊勲者はサラビア。押し込んだ波状攻撃からの最後のやり直しにおいてサイドに展開した後、自らがエリア内に飛び込んで得点で仕上げてみせた。
後半も引き続き主導権はスペイン。SBであるアスピリクエタが決めた2点目は全体が押し上げられている証拠。クロアチアの1点目の後の10数分を除けばスペインがペースを握り返したといえる展開だった。フェラン・トーレスが決めた3点目で試合は決したという見方が大半だったはずだ。
しかし、ここからモドリッチがギアを入れ替えると、クロアチアの面々がそれに呼応。高い位置からのプレッシングでスペインからボールを奪いにかかる。前線に蹴ったとて収めどころのないスペインはこれに苦戦。高い位置から即時奪回が刺さるようになったクロアチアは終盤に一気に盛り返す。モドリッチのタメからオルシッチが押し込んで1点差に追いつくと、そのオルシッチから後半追加タイムにパシャリッチが頭で合わせて同点に。これまで保持の局面を脅かされなかったスペインにプレスとカウンターで牙をむき、試合を振り出しに戻す。
しかし、スペインの敵陣での保持の局面に対してはクロアチアは解決策を見いだせたわけではない。現に盛り返していた時間帯にも危ういシーンはあった。延長戦ではその部分でスペインが再び優位に立つことに。クロアチアが特に手を焼いたのはサイドの守り方。広いスペースで1対1になった時の対人の弱さ。簡単にクロスを上げさせてしまう距離でしか寄せられないことである。
勝ち越し点は100分。右サイドから上がったクロスを叩きこんだのはモラタ。この試合でも湿り気抜群だったCFがようやく仕事を果たして一歩前に。続く103分にはオヤルサバルが同じく右サイドのクロスを叩きこんで追加点。クロスを上げたのはどちらもクロアチアと縁が深いダニ・オルモ。抜き切らないクロスから決定機を演出した。
こうなるとさすがにクロアチアに反撃の余力はなし。スペインとしては延長までもつれはしたが、アタッカー陣が軒並み結果を出したことと、決定的なミスをしたウナイ・シモンが好守でチームを救うリカバリーを見せたことは好材料。プレス耐性の脆さとトランジッションという課題は健在だが、強豪の苦戦が目立つトーナメントで得点力が開花すれば、おのずとチャンスは転がってくるはず。目覚めの一戦になればクロアチアとの死闘のおつりは来るはずだ。
試合結果
クロアチア 3-5(EX) スペイン
パルケン・スタディオン
【得点者】
CRO:20′ ペドリ(OG), 85′ オルシッチ, 90+2′ パシャリッチ
ESP:38′ サラビア, 57′ アスピリクエタ, 76′ フェラン・トーレス, 100′ モラタ, 103′ オヤルサバル
主審:ジュネイト・チャキル
Quarter-final スイス戦
■プレスをめぐる駆け引きの先にはGK劇場
ここまでの試合を見てくるとスタイルがよりはっきりしているのはスペインだろう。彼らのポゼッションを軸としたスタイルに対して、ジャカを出場停止で失ったスイスがどのようなスタイルを取るか?という部分が注目ポイントになる。
スイスはこれまでの5-2-1-2のフォーメーションを放棄し、4-4-1-1にシフトチェンジ。2トップの一角だったエンボロをサイドに流し、中盤に組み込む形である。スイスの非保持のコンセプトとしてはシャキリがアンカーのブスケッツにマンマークを行う。後方のフロイラーとザカリアはインサイドハーフを監視。中盤は人を捕まえる様相が濃かった。
しかし、それだけであれば5-2-1-2のフォーメーションを維持したままでも形的にはできる。4バックに変えたフォーメーション変更の意図としてはサイドの数もあわせたいという所だろう。
もう1つのスイスの特徴はボール奪取後。セフェロヴィッチ、シャキリ、エンボロのアタッカー陣だけではなく、CHの2人も含めた多くの選手がボール奪取と共に前線に駆け上がる。おそらく、瞬間的にはスペインに対して数的優位となる人数に高い位置を取らせているはず。中盤でボールを奪った時は縦に一気に向かう形である。中盤の要だが、機動力に難があるジャカがいないことを逆手に取った中盤の厚みを使った攻撃だった。
人は捕まっている、そして引っかけると早々にカウンターに打って出られることを把握したスペインはすぐに対応。後方からの長いボールでスイスのライン間を開けさせる。そして数的優位の状態のCBから、セフェロヴィッチのマークがついていない方(主にラポルト)がボールを運び、中盤のホールドを解除する。
スイスの一気呵成のカウンターに対しては、スペインは特に対策を講じている様子はなし。『中盤はミスらないでね』というやや前時代的な保持に関するスタイルはいかにもスペインらしい。個人的にはどこか懐かしく好感を覚える。
ボールをロストした場合はスペインは即時奪回に移行。スイスに蹴らせてボールを回収し、無限の攻撃のループに突入。アルバのミドルから誘発したオウンゴールで先制点を手にしたこともあり、序盤はかなり支配的な展開だった。
とはいえ、このスペインのスタイルで90分をまるっと支配するのは至難の業。特に連携面でほころびが出やすいナショナルチームであればさらに難易度が上がるといっていいだろう。
スイスが講じた対策は2つ。1つは自陣からのボール保持でつなぐ意識を高め、1stプレスを外すこと。顕著だったのはCBの動き直し。決してポゼッション傾倒ではないバックスがショートパスでポジションを取り直すことで、スペインの1stプレスをいなすことを強く意識するようになった。
もう1つはプレスを外した先の部分。高い位置を取るスペインのSBの裏を取り、ラインを押し下げる。スペインは即時奪回が決まらなければ、攻撃時の重心が前に傾いている状態からポジションを整え直す時間を作ることができない。スイスはこの部分を露わにするために、危険を冒してショートパスをつなぐ意識を高めたのだと思う。
だが、スイスのこれまでの得点はサイドから合わせる形よりも、直線的にゴールに向かう形であることが多い。したがって、サイドからフィニッシュに向かう部分でどうしても刺さる形を作ることができない。スペインはスペインで撤退守備の強度は明らかな弱点なので、ハマらないハイプレスもノーミス発注のボール保持もやめるわけにはいかない。というわけでスペインの先制点以降は互角な状況が続く。
そんな均衡が崩れたのは68分。サイドからの攻撃に蓋をしようと出ていったラポルトの勝利がパウ・トーレスに当たり、跳ね返りを拾われる。これをシャキリが決めて同点に。跳ね返りを拾ったのはCHのフロイラー。サイドからの押し下げと中盤の手厚いカウンターサポートというスイスの方針がかなった同点ゴールだった。
しかし、直後にスイスはそのフロイラーの退場で数的不利に。そこからはゾマー劇場。10人でしのぐスイスの最後尾で大きな壁となり、スペインにたちはだかる。
ただし、延長戦をしのいだ先に待っていた主役はウナイ・シモン。2,3本目と立て続けにグラウンダーのボールをストップし、4人目のバルガスはふかしやすい上側を狙うプレッシャーをかけられてしまった感。線で見てスイスのキッカー陣に圧をかけ続けたウナイ・シモンが圧倒したPK戦だった。
両GKの目覚ましい活躍が見られた120分だったが勝者はスペイン。スイスはフランス戦に続き、PK戦での強敵撃破には至らなかった。
試合結果
スイス 1-1(PK:1-3) スペイン
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
SWI:68′ シャキリ
ESP:8‘ ザカリア(OG)
主審:マイケル・オリバー
Semi-final イタリア戦
■対策を跳ね返した先のドンナルンマで決勝進出
レビューはこちら。
より確固たるスタイルで今大会を勝ち上がってきたスペインだったが、この試合ではガッツリイタリア対策を行っていた。最も特徴的だったのはここまで重用してきたモラタを外し、CFにダニ・オルモを起用したことである。
これによって今までのボール保持でゆったりした展開ではなく、高い位置からの即時奪回と縦に早い攻撃が主体に。オールコートマンツー気味の守備は、キエッリーニとドンナルンマという捨て所を作る。彼らにもたせつつ、他の箇所を塞ぐことでイタリアに停滞感を持たせるのが狙いだった。
さすがだったのは時間が経つと共にイタリアは慣れ始めたこと。キエッリーニは徐々にボールを持ち運ぶトライをし始めるように。もちろん不得手ではあるタイプの動きだろうが、やってみるのは大事である。これによって同サイドの縦方向にズレができやすくなる。広いスペースでインシーニェが受けることが出来ればカウンターは十分発動することが出来る。
イタリアはスペインの対策に対して細かい修正を入れるのがうまかった。左サイドの脱出のスキームを作るためにキエッリーニが持ち運びをし始めたのも1つ、降りてスイッチを入れるパスを出せるダニ・オルモにボヌッチが厳しくついていくようになったりなど。大枠の中でも細かい調整で、徐々にスペインペースだった試合をイーブンに持ってくる。
後半のイタリアはインモービレが躍動。カウンターの運び屋であるインシーニェの先の手順にいるインモービレが機能することで、後半のイタリアは徐々にカウンターの精度を上げていく。そして先制点を得たのはキエーザ。中央で起点を靴ったインモービレのその先を担当していたキエーザが仕上げを行い、先制点を得る。
すぐさまスペインはモラタを投入。ダニ・オルモとの縦関係を使いDFラインを押し下げる。同点ゴールはこの2人のコンビネーションから。オルモのタメに抜け出したモラタが同点ゴールを決める。
守備的な交代で早めに攻撃的な選手を下げてしまったイタリアはここから苦しくなった。だが、スペインも延長戦では交代選手がアクセントになり切れずもう一押しが効かない展開に。結局PKまでもつれた試合はドンナルンマがウナイ・シモンに力の差を見せつけるセービングで勝利。
終盤までしびれる大会のベストバウトを制し、まずはイタリアは決勝トーナメント進出を決めた。
試合結果
スペイン 1-1(PK:2-4) イタリア
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
ESP:80′ モラタ
ITA:60′ キエーザ
主審:フェリックス・ブリヒ
大会総括
■儚い優雅さと火事場の泥臭さのハイブリッド
もしサッカーが得点を争うスポーツではなく、芸術点を争うフィギュアスケートのようなスポーツだったfとしたら、恐らくこの大会の優勝はスペインである。今大会において中盤は飛ばされるし、ソリッドに守備をする部分。カウンターの方が効率がいいし、点が取れれば引きこもればクローズができる。それがナショナルチームの潮流である。逆に言えば、それだけ多くのチームにとってポゼッションというのはコストだった。
そんなコストを払い続けたのが今大会のスペインだった。開幕から一貫してボール保持を大事にして、自陣からゆっくりとボールを進めていく。その上、ポゼッション型のチームにありがちな押し込んでから手詰まりになるパターンにハマったかといわれれば必ずしもそういうわけでもない。
相手陣に押し込んだ状態でのスモールスペースでのつなぎや動き出しはむしろ見事な部類で、押し込んだ後の崩しの種類も十分。つなぐコストに見合った質の高いものだった。だが、ゴールが決まらない。ゴールが決まらないのだからコストに見合った質の高さを見せたとしても、ペイできたとは言えないのが苦しいところである。
モラタは重要な局面で得点を決めてはいるが、それよりも外した場面の強烈さが印象に残るはず。おそらくEURO2020で刻まれる人々の記憶はイタリア戦で咆哮をあげるモラタではなく、頭を抱えるモラタであるはずだ。数字の面でより貢献できなかったのはジェラール・モレノの方でオープンプレーはおろかPKすら相手に止められてしまう。
それでも徐々に得点力に光が見えたのはWG陣に好調さが出てきたから。サラビア、オヤルサバル、F.トーレス、ダニ・オルモなど途中交代からオープンな展開でWGが点を決める流れで、スロバキアやクロアチア相手には大量得点を決めた。
だが、そのコンディションの上積みがあっても、イタリアには正面からぶつかるのは難しいと判断したのだろう。この試合ではゆったりとしたポゼッション型を捨てて、CFにダニ・オルモを起用。マンマーク型のハイプレスと縦への早いスイッチの併用でトランジッション型に大幅にモデルチェンジを図ったことでイタリアを120分間苦しめた。
最後は3試合連続の延長戦の影響か体力が尽きてしまったが、スタイルと共に沈むタイプかと思ったルイス・エンリケのイタリア戦での対策は個人的には高く評価したいところ。真っ向から戦って散っただけでは、淡白な大会としか記憶に残らなかった存在であろう。だが、イタリア戦で彼が見せた采配によるもがきはスペイン代表が華麗さと儚さに加えて、泥臭さを持つことを合わせて証明したことになるだろう。
頑張った選手⇒ペドリ
ルイス・エンリケが意地でも代えなかったスペインの至宝。華麗なチームの至宝なのに、雑用からなにやらすべてをやらされて本当にかわいそう。晩年でなおモドリッチみたいなスタイルになったら、きっと早死にしてしまうので、各方面は彼のことを大事に扱ってあげてほしいし、年内は少しサボっても怒らないでほしい。
カタールW杯欧州予選のスペインはこちら。