①ウェールズ×デンマーク
■手打ちの早さで主導権を渡さず
序盤から互いに攻め手が見つからない展開の中で、どちらかと言えば優勢に試合を進めていたのはウェールズ。5-4-1に構えるデンマークに対して、同サイドの攻略として大外とハーフスペースの出し入れで勝負。特に狙いをつけていたのは右サイド。中盤とDFラインの間が開いたところにベイルが入り込んで放ったミドルがもっとも惜しいシーンだった。
デンマークはこのベイルを軸とした横移動への対応にやや手を焼いていた。ややリズムをつかめないデンマークは早々にシステム変更。クリステンセンをアンカーに置き、ベイルとのペアリングでもっとも脅威になるラムジーを封じる。そうなるとベイルは孤立。相手を多少動かせてもチャンスメイカーとして彼を活かすことができなかったウェールズだった。
一方のデンマークはウェールズよりも横幅を使った攻撃が軸。デンマークが布陣変更した4-3-3は、ウェールズの守備と噛み合ってしまう。というわけで保持側のデンマークは工夫を施さなくてはいけなかった。その中で違いを見せたのはダムスゴー。固まっている中盤への降りる動きから攻撃を一気に加速。中盤とDFラインのつなぎ目に上手く付け入った形でデンマークに先制点をもたらす。ベイルの仕掛けに対する連動したオフザボールが機能しなかったウェールズとは対照的なスムーズな加速となった。
ビハインドで迎えた後半、ウェールズはベイルとジェームズの位置を入れ替える。攻撃参加に積極的なメーレに対して戻れるジェームズを配置することで手当てをする。加えて、ラムジーが低い位置まで降りてくることでクリステンセンとの駆け引きをはじめようとする。
が、その矢先のデンマークの追加点である。ネコ・ウィリアムスの痛恨のクリアミスがドルベリの目の前に転がってしまい、ウェールズをさらに突き放す。ボールを引き出す動きと持ち運びができるブライスワイトの良さが垣間見えた2点目でもあった。
この2点目でウェールズは硬直したように見えた。ラムジーとウィルソンを並べることでクリステンセン周りにフリーの選手を作ろうという意志は見えた。だが、デンマークは2点目をきっかけに5-3-2かつトップにも中盤の守備参加やサイドチェンジ阻害を課すベタ引きでロングカウンターに注力するスタイルに。このデンマークに対してウェールズは突き動かすことができなかった。
ここからはデンマークのいいところ博覧会。今大会で絶好調の香車系WBの1人であるメーレが3点目を奪うと、フィニッシュだけが決まらなかったブライスワイトがさらに追加点。ウィルソンの退場や、ベイルの抗議など終盤は心身ともにボロボロだった感のあるウェールズ。対照的に状況への手打ちの早さが際立ったデンマークがベスト8一番乗りを決めた。
試合結果
ウェールズ 0-4 デンマーク
ヨハン・クライフ・アレナ
【得点者】
DEN:27′ 48′ ドルベリ, 88′ メーレ, 90+4′ ブライスワイト
主審:ダニエル・シーベルト
②イタリア×オーストリア
■持たざる者のイタリア対策で水際に追い詰める
第1節に不在だったヴェラッティが先発復帰した以外はいつものメンバーに戻したイタリア。おそらくこちらはグループステージと似たスタイル。
それに対してオーストリアはシステムと人員配置で比較的スタイルが変わりやすいチーム。オーストリアのポイントはまずはバックスの枚数、そしてアラバをどこに置くかの2点となる。オーストリアの選択は4-3-3、そしてアラバは左サイドバックに置くという形である。
アラバをサイドバックに置くというのはオーストリアにとっては『ガンガン攻めよう!』のサイン。左サイドに起点を作り、彼のクロスからチャンスを作りたいという意志である。
オーストリアはこの試合で非常によくイタリア対策を練っていたと思う。グループステージで見せたイタリアの強みは中盤のプレッシングである。このプレッシングを地道に外すことをオーストリアは選んだ。オーストリアはSBをWG裏に配置する。そしてIHのザビッツァーとシュラーガーの2人を左右に動かしながらヴェラッティとバレッラの2人を横に揺さぶる。イタリアのWGを越えた位置に立つSB、内外に大きく動くIHをイタリアのIHにすべて押し付けることによって、イタリアのプレッシングを回避することに成功した。
もっともイタリアの守備視点で本来気になるのは、高い位置を取るSBのところとCBのスピード不足である。だが、オーストリアサイドの立ち位置で見れば、SBの裏を取れるアタッカーもイタリアのCBをぶっちぎれるCFもいない。オーストリアが取ったやり方は、イタリアの弱みを突くのではなく強みを歪ませること。イタリアの弱みを突くアタッカーを持たざる者の対策といえるだろう。
それでもCBを2枚に設定したこと、そして配球役からアラバを外し、より敵陣深い位置でプレーさせる選択をしたのは勇敢といえるだろう。その分、グリーリッチュがアンカーとして最終ラインの枚数調整に入ることでなんとかアラバを押し上げた。
対するイタリアはカウンタージャンキー。3トップに加えて、両SBが後ろから素早く攻撃のフォローに入ることで厚みを持たせていた。オーストリアの4バックというやり方が悪い方に出たのはこのイタリアの大外攻撃に対抗する部分。スピナッツォーラが大外アタックを仕掛けてくることで、ラインを下げられるうえに全体の重心を右側に引っ張られる状況が発生する。
その結果、スピナッツォーラと逆サイドのバレッラが攻めあがる位置のバイタルでミドルを打つ隙ができるようになる。アラバがここをケアするようになり、徐々に対応できるようになったけど。
後半、イタリアはWGのプレスバックを課すこと、そしてIHがより待ち構えて守備をする変更を加える。これにより徐々にイタリアにペースが流れるように。ただ、60分を過ぎると試合はどちらの手からも離れた展開の中で偶発的に互いにチャンスを迎えるようになった。その中でオーストリアが先制点に手をかけた。惜しくもオフサイド判定となったが、これはアラバを高い位置を置くという選択が呼んだものといえそうである。
スコアレスのまま延長に入った試合で得点を手にしたのはイタリア。先制点の形は先に示した左の大外でオーストリアを引っ張っておきながらの逆サイドの動き。絞るアラバに対して、さらに大外で構えたキエーザがもう1枚構えていたのが重要。ライマーの戻りが間に合わなかったオーストリアを破り、貴重な先制点を奪った。内側でアラバを釣るように走ったペッシーナが黒子として優秀だった。
追い上げるオーストリアは終盤に盛り返すも、決定的な2点目を得たイタリアに追いつくことはできず。水際まで追い込まれたイタリアだったがなんとか苦戦の末にオーストリアを撃破。敗れはしたが、グループステージから上積みを見せたオーストリアの健闘が光った。
試合結果
イタリア 2-1(EX) オーストリア
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
ITA:95′ キエーザ, 105′ ペッシーナ
AUT:114′ カライジッチ
主審:アンソニー・テイラー
③オランダ×チェコ
■誘発されたミスマッチで沈んだオランダ
ここまでアグレッシブなスタイルを貫くことでグループステージを彩ってきたオランダ。この試合でもそのスタイルは健在。立ち上がりから積極的な動きでチェコに挑む。特長的だったのは前線の人選。長身で基準点型のベグホルストではなく、より機動力に長けているマレンをチョイスした。
狙いとしては裏抜けの動きでチェコのDFラインを縦方向に揺さぶることだろう。特に集中的に動き出していたのは左サイドの裏の周辺のあたり。マレンやデパイだけでなく、右のWBであるダンフリースもこのサイドまでわざわざ流れてから裏抜けをしていたので、チームとしてここを狙っていこうという意志があったのかもしれない。
チェコも立ち上がりはその戦いに付き合った。チェコ、結構不思議なんだけど、序盤はとりあえず相手に肌を合わせるような戦い方をする。例えば、スコットランド戦ではやたらキックアンドラッシュなスタイルに全乗っかり。この試合ではボールサイドにやたら人をかけてショートパスをつなぐスタイルだった。10分くらいでやめたけども。
守備の部分ではチェコはオランダの中盤をマンマーク的に捕まえる。チェコが上手かったのは、浮いているオランダの最終ラインがボールを持った時に、周辺の選手がマーカーを捨てて圧縮をかける選択ができたこと。そのため、オランダは常に窮屈な状態から脱することができなかった。デパイやマレンを前線に使ったにもかかわらず、彼らがDFを背負いながらプレーする機会ばかり。オランダの前線の人選と展開はミスマッチになってしまった。
結果的にオランダの攻め手はダンフリースの猪突猛進の突撃ドリブルか、タイミングが全く合わないファン・アーン・ホルトの抜け出しくらい。チェコの非保持によって乏しい前半になってしまった。
後半はやや落ち着かないオープンな展開になった両チーム。後半早々に両チームに訪れた決定機の成否が試合を大きく分けることになった。先に決定機を得たのはオランダ。スルスルと抜け出したマレンが迎えたGKとの1対1はシュートを撃てないまま終了。
一方、チェコが迎えた決定機はシュートには至らなかったものの、デ・リフトのハンドを誘発。これが決定的な得点機会の阻止により一発退場になってしまう。10人になってもオランダが攻める余力はまだあったが、先制点を得たのはチェコ。ファーに流したFKからニアに折り返すシンプルな形でチェコは簡単にフリーな選手を作ることができた。オランダ、数的不利関係ないじゃん!という失点シーンだった。
その後のオランダはいいところなし。80分にはシックにとどめの2点目を決められる。ダンフリース、5バックの感覚でカバーをサボってしまったように見えた失点シーンだった。2失点をするとオランダは完全に意気消沈。奇跡を起こすための下地となるエネルギー自体がもう残っていないように見えた。
戦況と人選のミスマッチを解消できなかったオランダ。相手を苦しめるやり方に注力したチェコに屈し、伝統的な勝負弱さをまたしても露呈してしまった。
試合結果
オランダ 0-2 チェコ
プスカシュ・アレナ
【得点者】
CZE:68′ ホレシュ, 80′ シック
主審:セルゲイ・カラセフ
④ベルギー×ポルトガル
■展開にマッチする先制点
立ち上がりにボールを保持したのはポルトガル。ショートパスを軸にボールを動かす。ベルギーは並び的には3-4-3気味なのだが、トップに入ったデ・ブライネはアンカーのパリーニャを監視する役割。攻撃においても中盤でボールを引き出しながらビルドアップに参加するので、実質的な役割は中盤だろう。中盤の枚数が合わせるマンマーク気味の対応である。
ポルトガルの保持に対してベルギーは同サイドに圧縮気味に対応する。特にエデン・アザールがいる左サイドにおいては、DFラインのスライドも大きめ。ただし、ポルトガルのボールホルダーに対してチェックが甘くなることがあり、逆サイドへの展開をすることで大きく脱出することができている。担い手となっているのはレナト・サンチェス。ボールを引き出し、強いフィジカルでベルギーの中盤に体をぶち当てながら逆サイドにボールを流す。大会中に上り詰めた中盤の核は、この日も好調だった。
ただ、彼以外のポルトガルの選手はそこまで横への展開が得意ではない様子。強引に縦につける場面も散見され、左に流した方がいいタイミングでも急ぐ時もあった。この辺りの展開の折り合いは割と個人によってばらけていた印象である。
一方のベルギーにはデ・ブライネが縦横無尽に動くことで、中盤のマークを引きはがし、フリーになり局面を一気に進めるパスがある。デ・ブライネは相変わらずの射程距離の長さ。縦方向の精度は抜群で、ルカクを軸にポルトガルのDF陣と直接対決する状況を作り出せていた。
均衡した展開の中で、1つスイッチが入ると『待ってました!!』といわんばかりにカウンター合戦が発動するのが面白い。ベルギーが縦に急げばロナウドを前に残すポルトガルがそこを狙って反撃など、少しのきっかけでダイナミックな展開のスイッチが入るのはなかなかである。先制点となったトルガン・アザールの豪快なミドルシュートはまさしくこの試合のオープニングゴールとしてふさわしいものだった。
前半終了間際にリードしたベルギーだが、悲劇が起きたのはその直後。おそらく足首周辺を負傷してしまったデ・ブライネが途中交代をしてしまう。後半も一度は出場してみたものの、すぐにプレーを中断。この後のトーナメントやプレミアリーグ開幕に危ぶまれるところである。
縦に相手を揺さぶれるデ・ブライネの不在と先制点を得たことで後半のベルギーはロングカウンターに専念する。デ・ブライネ不在のチームをアザールが牽引。全盛期のようなスピード豊かな突破こそ鳴りを潜めたものの、ボールを落ち着かせてファウルを得て進撃を食い止める一連はさすが。Jリーグファンに向けていえば川崎の家長のような働きであった。
そんなベルギーを見て、ポルトガルは勝負の交代に出る。ジョアン・フェリックスとブルーノ・フェルナンデスの2人を一気に投入し、攻撃への圧力を一気に高める。
ポルトガルはエリア内での放り込みか、大外へのロングボールでサイドからラインを下げた状態でのエリア内での折り返しが攻撃の主なパターン。ラファエル・ゲレーロがポストを叩くなど、惜しい場面もなくもなかった。だが、ポルトガルは最後までゴールを割れず。フェリックスもブルーノ・フェルナンデスも決定的な働きができなかった。
人員もフォーメーションも変化をつけながら死の組を突破したポルトガルだったがここでストップ。前回王者はベスト16で大会を去ることとなった。
試合結果
ベルギー 1-0 ポルトガル
エスタディオ・ラ・カルトゥーハ
【得点者】
BEL:42′ T・アザール
主審:フェリックス・ブリヒ
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