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「華麗なエスコート」~2021.6.2 J1 第21節 横浜FC×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■悪くはないが足りない一味

 基本的にはこの試合の前半は川崎の保持の局面が主体で進む。川崎がマイナス目にパスを出し、苦しい状況になった時を除けば、横浜FC側が強くプレッシャーをかけてくる場面はほとんどなく、川崎は緩い圧力の中でボールを回すことが出来た。

 立ち上がりの川崎のボール回しは左サイド主体だった。家長のこちらサイドへの出張は頭から見られ、狭いスペースにて多角形を作りながらボールを回しつつ、家長のタメを主体に飛び出しを誘発してクロスで仕上げる形。CFの小林はほぼ組み立てでボールに絡むことなくクロスを待ち受ける役割としてボールサイドの逆側で虎視眈々とチャンスを待っている様子だった。

 横浜FCはベースのポジションは3-4-3気味だが、非保持においては右のシャドーを務めるジャーメインがSHタスクを担う4-4-2のような形になる。CHのフラットの位置までジャーメインが引いてくる動きが多かった。そのため、こちらのサイドは川崎の選手も横浜FCの選手も多かった。

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 人が多い中で貫録を見せたのは出場時間が多い主力選手たちである。登里はビルドアップにおいて1つ前で受ける役割をこなして、ラインを越える動きを誘発していたし、最終的な攻撃の仕上げで抜け出す動きも担うことが出来ていた。

 家長もややフリーダム感はありつつもダミアン、三笘不在の中で前でタメを作る役割を引き受けていた。脇坂も相手のMFラインの奥で受ける動きや、鋭いターンで時間を作り出したりなど川崎の主力たる所以を示したといっていいだろう。

 だが、この日最も際立っていたのはシミッチ。横浜FCがここを積極的に抑えにかからなかったことも大きく起因していると思うが、非常に自由にボール回しに関与。左右への展開はもちろん、ボールサイド後方のビルドアップヘルプに加えて、被カウンター時はボールサイドにおける防波堤としても機能した。

 主力が安定感を持たらす働きをしたこともあり、プレータイムがここまで少ない選手たちはのびのびとプレーすることが出来た。特に橘田は攻守に堅実なプレーを披露。特に光ったのはプレスに出ていくタイミング。特に44分のボールカットは絶品なので、ぜひもう一度確認してみてほしい。

 この日の川崎は家長が中2日で共に長時間プレーした影響か、右のIHの脇坂がかなり守備でそちらに引っ張られる状況が前半から多かった。したがって、橘田はその分シミッチとフラット目の位置からのスタートになり攻撃参加のハードルは高め。トップの小林もポストプレーよりはラインの駆け引きをしながらフィニッシャーになる意識が強かった分、IHは落としを拾う機会も少ない。攻撃参加の難易度は低くはなかった。それでも惜しいボレーを放ったシーンのような攻撃参加は評価すべきだろう。

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 多くの選手が持ち味を生かしながらいいプレーを見せていたとは思うが、一方で物足りない部分もあった。最も気になったのは選手のオフザボールの活かし方である。選手たちはオフザボールの動きを積極的に行い、パスコース創出のための努力は惜しんでいなかった。だが、結果的に受け手が止まった状態のパスになることが多く、家長のタメを除けばスペースに出したり走るように促したりするプレーは少なかった。そうなるとボールを動かす過程で相手の逆を取るプレーの頻度が下がり、コンビネーションで抜け出す頻度は高まらない。

 また、特に前半は右のイサカ・ゼインが攻撃参加のタイミングを把握しきれていない様子で、最終局面で厚みが足りなかった感も否めない。どの選手もうまくプレーしていたが、アタッキングサードにおける一味足りなさというのは確かにあった前半である。

 横浜FC的にはゆっくりやりたい。横浜FC戦あるあるである。川崎としてはどこで急ぐか、どう急ぐか、どう厚みを出すか。勝負に出るタイミングと勝負に出た際の質の部分は物足りなかった。

■ぼやける設計図

 横浜FCの攻撃はどうやって前の選手に時間を渡すか?という部分がキーになってくる。1つ狙い目にしていたのは川崎の右サイドの裏だろう。この日に初先発を飾ったイサカ・ゼインのところである。おそらく、右のシャドーであるジャーメインを低い位置にしたのは代わりに前に左のシャドーの小川を残すため。下がって受けるならばジャーメインじゃなくてもいい気がしてしまうけど、この日の横浜FCのスカッドはどこまで自由が利くかが怪しいので、そこはまぁ掘り下げなくてもいい部分かもしれない。

 その逆サイドに届ける設計図は持っていたように思う。例えば逆サイドのからのロングボール。伊野波などのフィードなど、川崎の攻撃が終わったサイドからの長い展開でスペースのある小川が受けるという状況はある程度作れていた。ただ、その小川にボールが渡ってからの攻撃が微妙。確かに小川はスピードがある選手ではあるが、一人で攻撃を完結させるほどの破壊力があるわけではない。

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 そして、サポートも速くない。WBの高木のサポートが間に合う場合はここが使えるのだが、その場面をそもそも作ることができない。トップの渡邉は唯一彼の前にいるのだが、動き出しも含めてどうも息が合わなくなってしまっていた。そうなると小川が1人で結局つぶれてしまう場面が増えていく。

 もう少しやりようがあったのではないかなと思う。例えば、18分の横浜FCのビルドアップ場面。WBが高い位置を取ることに成功している。ならば前線でだれか1人が脇坂の背後を取るように立てなかったかなと思う。家長が守り切れない分、川崎の非保持に隙はあったと思う。だが、それを活かすのは少し難しかったか。

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 もう1つ、横浜FCが対応しきれなかったのは高い位置からのプレッシングで早いプレーを強いられたとき。そしてそういう時に楽をしようととりあえず縦に付けた時である。こういうプレーに流されてしまったときはかなり高い確率で川崎にボールハントを決められてしまう。速さを強いられてもダメ、遠くに届けるのも難しい。横浜FCの設計図はややピンボケしやすかった。

 両チームとも一押しが足りない中で先制したのは川崎である。ポイントとなったのはジェジエウの持ち運びである。横浜FCの左サイドが高い位置を取っているのを見逃さずにドリブルで高い位置までボールを運び、家長に預ける。ジェジエウがよかったのはそのまま止まらずにニアサイドに抜けていく動きが続いたこと。このおかげで家長にマイナス方向にプレーする余裕ができる。

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 最後の場面はラッキーさも否めなかったが、きっかけを作る厚みをもたらしたのはジェジエウ。川崎が先行して前半を折り返す。

■エンジンをかけたのは…

 後半はやや横浜FCが保持の時間を増やす展開となった。キーとなったのは左サイドからの攻撃の部分。特に高橋秀人が高い位置を取ったのが大きかった。前半の項で指摘した1つ前のスペースで受ける選手を横浜FCがちゃんと用意したのである。

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 これによって家長の後方をカバーする脇坂のタスクが徐々にヘビーに。横浜FCは前半は降りるほうに意識が向いていた高橋が高い位置を取ったことと、高木がワイドで積極的に攻めあがったことで左サイドから機会を掴んでいる。

 川崎で気になるのはワイドで振られた時のWGの対応である。家長だけでなく長谷川も目につく。60分の対応とかは結構まずい。確かに攻め残りが効いている節もあるのだが、ここまで橘田やシミッチがつり出されてしまうならば、時間があっただけにカバーに回ってほしいところ。先制点未遂だったオフサイドもそうだけど、長谷川は細かい動き直しの意識の部分での改善が欲しいところである。

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 後半は進める機会を得ることはできていたが、その機会を十分に好機につなげることはできなかった横浜FC。逆に川崎はうまく機会を生かして追加点を得る。スイッチを押したのは脇坂。長谷川に次のプレーを教えてあげるかのようなパスでアシストを誘発。最後に仕上げたのは試合を通してファーに待ち構える小林悠だった。

 3点目は取れなかったのはご愛敬。5人離脱した川崎が要所をしっかりと締めて無敗で中断期間を迎えることになった。

あとがき

■足りない部分はエスコートでカバー

 どう見ても川崎のこの試合の課題は5人不在の戦力の中で、川崎がどうやりくりするかであった。そういう意味では横浜FCがコロナウイルス感染等でこれまでと似たメンバーを組めなかったのは痛かった。中2日という日程面も含めてスカッド面でのアドバンテージを横浜FCは作れなかった。特に等々力での対戦でも存在感を見せた松浦の不在は大きかった。

 勝利を収めた川崎サイドは難しい試合であったが、落ち着いた試合運びを見せた。選手個人にスポットを当ててみると、各人のパフォーマンスは悪くなかったが、いない選手の穴を感じる部分も正直あった。昨年はベンチ外のメンバーの層の厚さも含めての強みだったが、現状では今年の川崎はその領域まで行っているとはいいがたいだろう。

 一方で頼もしく映ったのは出場時間が多いメンバー。彼らがプレータイムが少ないメンバーを気持ちよくプレーできるようにエスコートしていたのが印象的だった。中村憲剛がいないシーズンは『川崎とはかくあるべき』という部分でどうやって在籍選手たちが引っ張っていくのだろう?という懸念が個人的にはあったが、そこの頼もしさは感じた。

 特に個人的な贔屓の選手なのでやたらプッシュして申し訳ないが、登里の存在感は別格。守備におけるコーチング、そしてプレーが途切れた時の声掛けも含めて、川崎の選手としてプレーすることの在り方を体現してくれた。同じく副キャプテンの脇坂と共にリードしている状況でも小塚や神谷のためにダッシュでタッチラインまでかけていく姿は印象的だった。

 去年までのベンチ外メンバーは山村や齋藤など、選手としての実績も川崎でのキャリアも長い選手たちだった。今季なかなかスカッドに食い込めない選手たちはまだプロ経験が浅かったり、川崎に来て間もない選手だったりする。まだまだ時間がかかるのは仕方がない。そういう状況で登里のキャプテンシーや脇坂の2点目の長いパスなど華麗なエスコートを見せたことは今季の川崎の強みの1つとして胸を張っていい部分だと思う。

今日のオススメ

 先制点のシーンのジェジエウの持ちあがり。やり続けが結果を呼ぶのは好き。

見返しメモ

試合結果
2021.6.2
明治安田生命 J1リーグ
第21節
横浜FC 0-2 川崎フロンターレ
ニッパツ三ツ沢球技場
【得点者】
川崎:39′ 67′ 小林悠
主審:笠原寛貴

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