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レビュー
■いつもと異なる雰囲気
札幌は1週間前の徳島戦と全く同じスターディングメンバー。川崎は中3日の仙台戦から5枚を入れ替えてのホーム連戦を迎えることになった。メンバーの変更の有無があった両チームだが、共に直近数試合と比較すると結構大きな変化はあった。
まずは札幌の攻撃の局面から。プレビューでも触れた通り、今季の札幌のここまでの試合は縦に速く進み、攻撃の機会も守備の機会も多く生み出すことがコンセプトとして掲げられてきた。しかしながらこの日は前に進む機会を非常に大事にしていたように思えた。
いつもだったら、福森が長いボールをバンバン蹴って、金子がバンバンクロスを上げるのが鉄板だったのだが、この日はどちらの選択肢もそこまで多くとることがなかった。
前進の手段となっていた福森の長いフィードの代わりに使ったのは川崎のDFラインの前に縦へのパスをつける形。アンデルソン・ロペスが相手のDFを背負ったり、あるいは駒井がライン間に入ってくることで縦パスを受けることで前進する。縦パスの出し手となっていたのは高嶺。特に駒井がフリーの状態でアンカー脇で受けるパスは効果が高かった。アンデルソン・ロペスはジェジエウを背負ってしまう機会が多く、潰されることも少なくなかった。スペース勝負に出た駒井や小柏の方がより確実にボールを前に運ぶことができた。
外の攻撃の手段である金子のクロスも全くなかったわけではないが、例えば26分や30分のシーンでは、ボールを受けた直後にクロスを上げるタイミングがあったものの、対面の登里の様子を見て交わす隙がないか伺ったり、あるいは中央を経由してやり直したりなど、これまでと比べると駆け引きや工夫があった。
この試合の前半の攻撃の機会は両チーム間で大きな違いがなかったのだが、それは両チームのプランによるところが大きい。川崎は前からのプレスにはそこまで積極的ではなく、外で受けようとする田中駿汰や菅や福森などまでにはプレスには行かないことが多かった。
したがって、札幌のまったりとした保持を阻害する要素が少なかった。だが、結局札幌が作るチャンスは押し込んだ状況がダイレクトな方向に流れた際の長いボールだったりする。川崎がグラウンダーのパスをつなぐ状況で手を焼いたのは22分少し手前の小塚が反転を許したシーンくらい。あとは数本の駒井への縦パスくらいで。そのほかは彼らの静かにボールを進めるコンセプトの中で作れたチャンスはあまり多くはなかった。
■苦しんだ小塚
川崎としてはセットした守備から引っかけた状況からのカウンターは狙っていた。ただし、川崎は非保持ではそういう場面を引き起こす誘導をするために、展開を早くする要素(例えばハイプレスとか)は控えめだった。
特に序盤10分くらいまでは札幌の左サイドの裏を執拗につく場面が目立った。福森相手にスピード勝負。家長が挑むスプリント勝負は人選としては最適ではないだろうが、まぁ彼の仕事はこれだけではないので。旗手が飛び出す場面もあったが、高嶺がカバーすることで事なきを得ていた札幌。川崎としては狙い目になっていたが、札幌の致命傷には至らなかった。
川崎は右サイドを閉じられてしまったら中盤の選手を使って逆サイドに展開。いつも通り左サイドを使っての崩しのトライになった。しかし、前節の仙台戦に続き、この崩しは難易度が高かったようだった。
理由は大きく分けて2つ。1つは札幌側の事情である。札幌の守備は基本的にはマンマーク主体。この日も1トップ2シャドーは川崎の2CB+アンカーに合わせるように変形する。
しかし、川崎が札幌陣内に攻め込むと駒井は自陣の守備ブロックに入り込む。いつもはミドルゾーンにおいてまではマンマークで、そこから後ろのPA内では人を増やしての対応が多かった札幌だったが、この日はそのPAでの人多め対応がミドルゾーンにスライドされたかのようだった。
後ろに重心をかける札幌の対応に加えて、ゆったりとした要素を作り出したのは川崎の保持の方針。前半途中まではボール奪取から福森の裏を中心に攻め込むのだが、およそ15分過ぎの『時間使え。ワンタッチツータッチ』という鬼木監督の声掛けあたりから、縦に急ぐよりも横パスを駆使しながら確実にボール保持を進める様子が増えていた。
川崎は今季のスタイルと異なる崩し方でスイッチの入れ方にいまいちしっくりきてないようだった。ワンタッチ、ツータッチという声かけとインサイドハーフの同サイドに集結させるという部分を掛け合わせると、おそらく同サイドの高い位置に人を集結させて、狭いスペースをフリーマンを使って崩したかったという狙いだろう。
特にこのメカニズムの中で苦しんでいたように見えたのは小塚。鬼木監督が頻繁にポジションの修正をしていた。パスの方向が横向きなのはこの日のスタンスに拠るところなのかもしれないけども、1列前で受けてくれないと人を余らせて抜けだす選手を作り崩しきるという部分が成立しない。
全体的に小塚にはもう少し高い位置を取ってほしかったというのが鬼木監督の思う所だろう。非保持におけるプレスを全体で減らしたこの日のプランは小塚にもなじみやすいものではあったが、この日は保持でも苦しむ様子が見られた。
■川崎に引っ張られる形でオープンに
後半、田中碧が入ってきてから試合の様子は一変する。というよりはむしろ展開を一変させるための田中碧だったかもしれない。プレッシングにおいても、ボールを奪い取ってからのパスも田中碧の投入後に一気に縦方向に向かう成分が増加。ボールを奪い、そこから縦に一発でつけるという前半の終盤とは異なる趣の後半の川崎。
その田中碧のトランジッションから一気に川崎は先制点までたどり着く。先制点のシーンは田中碧のボール奪取から前線に一気に縦パス。家長が上げたクロスを旗手はファーに流す選択をしたが、ニアに落としても田中碧が走りこんでおり、どちらに落としても正解!という場面。ボール奪取、縦につける、そしてPA内への走り込みと田中碧の良さが出た得点シーンだった。
川崎が仕掛けた打ち合いに札幌は乗っかる様子を見せた。試合の乱数を増やす荒野の投入はオープンな状況に逆らわない選手交代だし、ジェイの投入は前線への長いボールへの効果を高めるもの。札幌は受けて立つための交代だ。
川崎の車屋投入はジェイに対抗する高さの担保の部分はあったのだろう。車屋の積極的な攻守の高い位置へのプレーは良し悪し、ストップに貢献する場面もあれば安易な飛び込みで自陣に穴をあけてしまう部分もあった。抜群だったのはそのカバーに入るシミッチ。読み、そして高い位置に出てきての守備、さらには奪った後の素早い縦へのパス、極めつけには高さと後半はシミッチのいいところ博覧会だった。
川崎の先制点後の守備は札幌のボール保持に対して、三笘や家長が戻ってスペースを埋める要素を増やしたものであった。おそらく4-3ブロックを晒して壊された仙台戦の反省からくるものだろう。実際に仙台戦ではスペースを空けるプレスをした旗手が、三笘がカバーに入るまでプレスに行くのを待つシーンもあった。
ただ、札幌が一度自陣低い位置にボールを戻すと、三笘や家長はプレスのためにラインを上げ、ボールが自分を越されると前残りをすることもしばしば。したがって、4-5でスペースを埋められず、仙台戦と同じく4-3で受けることもしばしばだった。
最後の交代カードである橘田と小林の投入は、高い位置から陣地回復して札幌のゴールを脅かすためのものでもあるはず。裏を返せばこの試合の札幌相手に受けてばかりではクローズできないと感じたということだろう。
後半追加タイムの2点目は川崎のその姿勢が実ったもの。札幌はオープンに受けて立つ構えを見せた分、前半よりはチャンスはあった。だが、仕掛けどころを先に作られて先制点を取られたことと、オープンな土俵においてとどめを刺された後半は少し差がついてしまった印象だった。
■先を見据えねばならぬ
あとがきの前にもう少し。この試合の90分の展開と意図をまとめたい。前半は両チームとも今季ここまでやってきたのとは違うテンポを落とすスタイルだった。川崎側のサポーターが『ぐぬぬ』となっている一方で、札幌側のサポーターが『普段からこうやったほうがいいのではないか。』となっている対比は印象的だった。
ただ、ダメージを与えるという観点においては速い攻撃や長いボールの方が効くことがおそらく多かった。やりたいことと効くところは違うんだなと思った前半だった。だからこそ川崎はそれを意識した長いボールを立ち上がりに使ったんだろうけど。後半は田中碧の投入と共に先に仕掛けた川崎に札幌がついてきたけど、川崎が打ち勝ったというまとめでいいと思う。
川崎サイドとしては前半のスローテンポはいろいろ考えさせられる部分はありそう。後半のやり方を90分やっていれば!という考え方はあるかもしれないが、それにはそもそも控えの前線のメンバーが長谷川と小林だけでは足りない気がする。遠野、知念はコンディション面でのベンチ外なのか戦術面でのそれなのかはわからないが、いずれにしても前線の交代枠が3人いなければ、90分ハイテンポで押し切るのは無理だ。
考え方の1つとしては90分はハイテンポが無理なスカッドなので後半勝負にフォーカスした。特に家長とダミアンは後半終盤での少ない点差の逃げ切りに必須なので、前半から無理にプレスにはいかせずなるべく長い時間引っ張りたかった。彼らへの依存度に自覚的で、自分たちのゲームクローズへの課題意識が明確だった場合には大いにある話。
もう1つは普段着のハイテンポとは違うやり方を身につけたかった可能性。エネルギーの消費が激しい上に、今のスタンダードな手法において依存度が高い三笘、田中、旗手には東京五輪の招集による終盤戦のコンディション低下や海外挑戦による移籍の可能性もある。
加えて新戦力の小塚や復帰明けの大島にはこのままのタスク分けだと中盤に居場所は作りにくい。ローテンポによる前半はいつもと違う普段着へのチャレンジだったのかもしれない。
あとがき
■前半を今後どう取り扱うか
札幌も川崎もこの試合の前半をどうとらえているのかが気になる。特に札幌サイドはこの日の前半を新スタンダードとするのか、単に川崎相手に前半からギアを上げていたら勝てないという判断だったのかは気になるところ。自分の予想は後者だけど、どっちが正解なのだろう。
川崎はむしろ前半のテンポでのチャンス創出をもっと頑張らないといけない。トランジッションが少ない展開での支配にもっと慣れていかねばならない。大島はフィットネス面で、小塚は連携や慣れの部分でまだ時間はかかるだろうが、ACLを含む過密日程に向き合うには彼らがタクトを振るうこれまでとは違う普段着を身に着ける必要がある。
今日のオススメ
ワンプレーじゃなくてあれだけど、今日は谷口とジェジエウのバンバン跳ね返し。素晴らしかった。
見返しメモ
試合結果
2021.5.16
明治安田生命 J1リーグ
第14節
川崎フロンターレ 2-0 北海道コンサドーレ札幌
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:49′ 三笘薫, 90+4′ 小林悠
主審:高山啓義