このプレビューは対戦カードの過去の因縁やジンクスを掘り起こして、試合をより一層楽しむための物です。
Fixture
明治安田生命 J1リーグ 第22節
2021.4.29
名古屋グランパス(2位/9勝2分1敗/勝ち点29/得点16/失点3)
×
川崎フロンターレ(1位/10勝2分0敗/勝ち点32/得点30/失点8)
@豊田スタジアム
戦績
近年の対戦成績
直近10回の対戦で名古屋の2勝、川崎の6勝、引き分けが3つ。
名古屋ホームでの戦績
直近10試合で名古屋の3勝、川崎の5勝、引き分けが2つ。
Head-to-head
<Head-to-head>
・直近8試合での対戦においてアウェイチームは勝てていない(D3,L5)
・過去にスコアレスドローがないカード。
・名古屋ホームでの対戦で川崎は4戦勝ちなし。
・名古屋ホームでのリーグ戦は直近5年間は勝利チームがクリーンシートを達成している。
当該対戦カードにおけるもっとも大きい特徴はアウェイチームが勝利から見放されていることである。最後のアウェイ側の勝利は2018年に名古屋で大久保嘉人が決勝点を挙げた試合だ。
近年は失点数が少ない両チームであるが、当該カードがロースコアに終わるケースは少ない。スコアレスドローは過去41回の対戦で一度たりともない。
名古屋ホームでの対戦を見てみると、近年の川崎は4戦勝ちなし。それ以前の6戦は5勝負けなしだったかつての得意な地は苦手な地に変貌している。ちなみに勝利チームが名古屋にせよ、川崎にせよ無失点での勝利を挙げているのは特徴の1つである。
スカッド情報
【名古屋グランパス】
・金崎夢生は右ひざ前十字靭帯損傷及び外側半月板損傷で離脱中。
【川崎フロンターレ】
・旗手怜央、ジョアン・シミッチは復帰見込み。
・小林悠は前節負傷の模様。
・山村和也は左大腿二頭筋肉離れで3か月の離脱。
・大島僚太も長期離脱中。
予想スタメン
Match facts
【名古屋グランパス】
<名古屋のMatch facts>
・今季クリーンシートは10でリーグ最多。
・直近11試合で2失点。
・直近6試合のリーグ戦で3勝のみ
・複数得点は今季12試合で4回のみ。
・柿谷曜一朗と相馬勇紀が出場している時間では未だ無失点。
・吉田豊にとって川崎はキャリアで唯一2得点以上取っている対戦相手。
無失点記録が話題になっていたので周知の事実かと思うが、今季の名古屋の特徴はとにかくロースコア。最多の10のクリーンシート、そしてここまで3失点である。
一方で得点がやや湿りがち。12試合で16得点というのは7位と悪くはないが良くもない。勝ち点を逃した3試合は合わせて1得点。複数得点も少なく1-0での勝利が5つである。
失点した試合が鳥栖戦と福岡戦だけとサンプルは少ないが、柿谷曜一朗と相馬勇紀が出場した試合では失点はここまでなし。キャラクター的にあんまり守備のイメージはないけども、今季の名古屋において彼らが守備に奔走しているのは間違いない。
一方、川崎にとって厄介なイメージがあるのは吉田豊。守備面においてはもちろん、吉田がキャリア唯一2得点を挙げている対戦相手が川崎である。ただし、個人での川崎に対しての勝率は21.1%と横浜FMに次いで低い。ちなみに横浜FM、川崎の次に勝率が悪いのは湘南。神奈川が苦手?
【川崎フロンターレ】
<川崎のMatch facts>
・直近3試合のリーグ戦でクリーンシートがない。
・20試合連続公式戦は連続得点中。
・今季先制された試合は一度だけ。
・ホームで引き分けた次にアウェイゲームを迎える状況では2連敗中。
・レアンドロ・ダミアンはアウェイゲーム3戦連続得点中。
・谷口彰悟は名古屋戦でキャリア唯一のリーグ戦退場を経験。
失点自体がかさんでいるわけではないが直近3試合はクリーンシートがない。3試合連続失点は今季初。昨シーズンのラスト4節の連続失点以来である。ちなみに昨季のリーグ戦ラスト10試合は優勝を決めたG大阪戦以外は失点を喫している。
ただ、こちらは連続得点を継続中。昨年敗れた大分戦以降、20試合は連続得点中。無敗記録も連続得点と同じく20試合である。
先制点が大きなキモとなりそうな試合だが、今季先制された唯一の試合であるC大阪戦は逆転勝利を決めている。逆に引き分けた2試合はいずれも追いつかれて勝ち点を落としている。
ホーム引き分けで迎えた次の試合は2連敗中。2019年に名古屋で敗れた試合もホームで松本とスコアレスドローになった直後の開催だった。
アウェイゲームにおいてはダミアンの連続得点記録が3に。彼自身は名古屋での勝利はないが、キャリア唯一の退場を経験している谷口と共にこの地に新しいいい思い出を描きたいところだ。
展望
■攻守に人を揃える原則
名古屋のボール保持はCBとCHの計4枚が形を変えながら動く。CBが大きく幅を取り、CHは1枚が相手の1stプレス隊の間、もう1枚が1stプレス隊の裏に入る。川崎のように1トップの場合はプレス隊に間が存在しないので、1トップの周りを衛星的に周遊する。
名古屋の保持の目的は無事に相手の1stプレスラインを超すことである。したがって、全体の重心が後ろに傾くことは気にしない。SBは基本的には高い位置を取るが、相手がプレッシングを強くかけてきた場合は彼らが自陣の方に戻ってくることも許容されている。プレスを引っかけずに安全第一。それが彼らのビルドアップのモットーである。
1stプレスラインを越えた後は基本的には長いボールを蹴る。後方に浮いているプレイヤーを作り、山崎に向けて長いボールを蹴るか、相馬やマテウスに向けて裏に蹴るかのどちらかが多い。
前線はダイナミズム勝負。相馬やマテウスが相手DFラインの裏を突いたり、ロングカウンターの時のように1,2枚剥がせればゴールに!という状況が理想だろう。ただし、早くボールを運びながらもサイドに誘導されてしまうと、どうしても中にクロスを受ける人が足りないという状況になってしまう。
そういう状況においてはいかに上がる時間を稼ぎながらいいボールを中に入れられるかがサイドアタッカーに課された課題となる。
G大阪戦の相馬はこの役割をばっちりこなしたといっていいだろう。山崎へのアシストのシーンは、タメを作って中央に人を揃える時間を作ることでクロスの受け手にボールを送ることに成功。同試合の9分のシーンでは味方の上がる時間を作れずに自身のやや強引なシュートで終わったが、その場面でできなかったことを見事にやり遂げてアシストを決めた。
ただし、名古屋は相手に完全に戻られてブロックを作られるとサイドから違いを作るのは難しい。相馬とマテウスは共にスペースがある方が活きるタイプな上、撤退守備に対しては両者が近づくことがとても多い。そうなると打開は厳しくなる。チームとしてやや得点力に伸び悩んでいる理由はこの辺りにあるのだろう。
守備は言わずと知れた4-4-2ブロック。2トップ(1トップ+トップ下)に入る前線の選手たちにも厳しい守備の規律が求められる。その理由は彼らの守備の原則にある。基本的には数で後方を埋める。そして、4-4ブロックに人を揃え続ける。4-4ブロックなら普通にそれぞれの持ち場に立てば人は足りるのではないか?と思ってしまうだろう。しかし、CHの2人、特に米本にはボールをハントするために自由にピッチを動き回る裁量が与えられる。トップ下と1トップにはこのCHの動きを埋めるタスクが与えられている。
撤退する際には徹底的にラインを下げる。4-4-2で比較すると例えば福岡の守備は陣地回復を意識し、相手陣にボールを押し返すように守り、ある程度ラインの高さを守る。だが、名古屋は撤退でラインを下げる分にはOK。むしろ、CBの行動範囲をなるべく狭くしたいので、彼らに合わせて前線の選手が自陣の深い位置まで戻る。ロングカウンターができる脚力は前線にはあるし。
■骨格を殴るビルドアップ
先制点は大事というのはサッカーの定説ではあるが、この試合はその中でも特に先制点は超大事な試合といえるだろう。仮に先制点を取って自陣に引きこもられてしまったら、得点の難易度は跳ね上がる。
なので、前提としては名古屋に得点が欲しい状況で試合展開を維持すること。これが川崎が試合を優位に運ぶ条件である。そういう意味では勝ち点でリードしている試合前の展開はおいしい。
名古屋に得点が欲しい状況、すなわちプレスのベクトルが前に向いている状況においては川崎には得点のチャンスは十分にある。狙いたいのは彼らの守備の強みでもある米本と稲垣。理想としては彼らのところから崩して、骨格を殴ることである。
復習になるが、名古屋の守備のコンセプトは4-4のブロックを揃えることである。例えば、米本が前に出ていくならばそのスペースを誰かが埋める必要がある。その役割が前線に求められる。
川崎時代には『守備の人』というイメージが強い阿部浩之が、今季の守備色が強い名古屋において出場時間を減らしている理由はおそらくこの空いたスペースを埋めるスピードだろう。意識の部分というよりも純粋なアスリート能力の部分ではないかというのが推測である。
したがって、元来のスピードに掛け合わせて守備の意識を仕込まれた選手(ex:マテウス)、あるいはその部分が評価され獲得した選手(ex:齋藤学)がプレータイムを優先的に得ている。
しかし、いくら走れる選手をそろえたとて米本や稲垣の広い行動範囲をカバーしきるのは難しい。なので、川崎としてはこの名古屋の守備を逆手に取り、名古屋の『カバーして4-4ブロックを維持する』という前提を壊す必要がある。なのでまずは自陣深くのボール回しで米本を自陣までおびき出す必要がある。そして、その出てきたスペースを埋められる前に使う。4-4ブロックを4-3ブロックにすることが初手である。
米本が空けたスペースをどう使うかは何パターンか考えられるが、その先の手を意識するならば、ここにはCFが降りてくるかもしくはIHが前に入り込む形が理想。WGは絞らずに張ったほうがいいと考える。
理由は4-3ブロックからさらに名古屋のCBを前後に揺さぶりたいから。川崎のWGが絞ってしまうと名古屋のSBがそのままついていけばOKなので、対応がしやすいはず。川崎のSBが上がれれば名古屋のSBが空けた大外は使えるが、基本的には米本を引き出して縦に素早く入れる状況を想定しているので、SBが上がる時間を得られるかは怪しい。
したがって、CFやIHが名古屋のCBをつり出し、そのスペースをWGが使うのが理想。ダミアンのポストや脇坂の間に入る動きから斜め方向に裏を取る動きを求めていきたい。なので、個人的には左のWGの先発には長谷川竜也を推奨したい。やらなそうーー。
この動きならば長谷川の持ち味は活きやすいし、仮に終盤に名古屋のローラインを攻略しなければいけなくなった場合には三笘に頼る場面が出てくるはず。90分で戦うことを想定した場合にはこの名古屋戦では三笘はベンチスタートが好ましいように思う。
名古屋のCBは強固だが、無理が効くタイプではない。したがって手前に引き出して網羅する範囲を広くしたり、ダミアンが背負う場面を増やすのは効果がある。4-3ブロックとしたズレを彼らに背負わせる形でボールを前進させる方針を取ることが理想のように思う。
■交代選手の使い方を想定する
非保持においては無理に追うよりは間をコンパクトにしつつ、閉じるイメージ。中央、サイドともに名古屋はスモールスペースの攻略は得意ではないのでサイドアタッカーの動けるスペースを奪うこと。そして、中央で素早いサイドチェンジを防ぐこと。ちょうど昨年の豊田での先制点のような場面を防ぐことがブロック守備における大きな指針となる。
稲垣は質が高いサイドチェンジを蹴ることはできるが、プレスが間に合えば怖さは半減する。全体の陣形を狭くすることで相手に空きが出ることを防ぎたい。もちろん、ローラインにおいては彼がミドルを打つスペースを空けないことも重要である。
名古屋側としては先制されたら終わりという意識が今季ここまでの戦い方からあるかもしれないが、おそらく先制したとて終盤までは名古屋にボールを持たせる選択肢を取らない川崎は名古屋にとってはやりやすいのではないだろうか。
川崎は前線のプレッシングを敢行する時間帯も必ず出てくるはず。その場合、必要なのはバランスではなく思い切り。数の論理を潰してしまうくらいハメきる圧力をかけて、長いボールを蹴らせて回収し、波状攻撃をかけるのが理想である。
川崎が引く選択肢を終盤まで放棄するのだとしたら、交代策においてプレッシングを強化する手段は持っておきたいところ。遠野、旗手、橘田などこの部分に持ち味のある選手たちを並べて、後半途中でハイプレスの山場を作っていきたい。
逆に先制を許してしまったならば、三笘に頼る展開にはなるはずである。彼がドリブルで打開できればそれが一番楽なのだが、リードしている状況かにおいてはおそらく名古屋は複数人で彼を囲い込むやり方に出るはずである。したがって、三笘で相手を引き付けつつ、周囲のマークが甘くなった選手から突撃を図りたい。特に相手のDFラインを下げる動きを伴うエンドラインから抉るようなドリブルへのCBの対応は名古屋はやや怪しさがあるので、この状況をなるべく多く使いたい。
クロスを強化するためのパワープレーもあり。塚川、ジェジエウ、そして知念などターゲットになる選手を逐次投入し、高さで相手の最終ラインを殴りたい。
雨で全部無駄やんけ!となる可能性はあるけど、結構いろんなパターンは想定出来た気がする。大事なのは彼らの骨格を叩く保持を見せること、そして叩ける状況を生み出すスコア(=タイスコア以上)を維持すること。この部分で名古屋を揺さぶることができれば、中4日で迎える等々力でのリマッチにおいても川崎が有利な状況で迎えられるはずである。
【参考】
transfermarkt(https://www.transfermarkt.co.uk/)
soccer D.B.(https://soccer-db.net/)
Football LAB(http://www.football-lab.jp/)
Jリーグ データサイト(https://data.j-league.or.jp/SFTP01/)
FBref.com(https://fbref.com/en/)
日刊スポーツ(https://www.nikkansports.com/soccer/)