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「絞った可能性がもたらす先制点」~2021.4.11 J1 第9節 FC東京×川崎フロンターレ レビュー

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目次

レビュー

■4-4-2採用の意味合いは?

 真っ先に目についたのはFC東京のスターティングメンバーである。今季は先発においては4-3-3で一貫しているFC東京だが、この試合では4-4-2でスタートする。

 FC東京が普段やっている4-3-3を棚に上げて4-4-2にシフトする意味合いとして思いつくのは2つ。1つは4枚の前線で川崎の最終ラインに高い位置からプレッシャーをかけること。もう1つはローラインで構えて、永井とオリベイラの2トップでロングカウンター主体で戦うということ。

 ただ、この日の長谷川監督の試合後コメントを見るとどうやら狙いは違う所にあったようである。

--[4-4-2]でスタートした意図は?
守備の狙いもありましたけど、どちらかというと攻撃でイニシアチブを握りたい狙いがありました。がっぷり四つでまだ戦えるほどの力はないと思っていたので[4-4-2]に変えてスタートさせました。
https://www.jleague.jp/match/j1/2021/041104/live#coach

 どこまで本当かはわからないけども、FC東京の4-4-2の狙いは自分が冒頭に提示した2つのどちらでもないのは確か。ブロックはミドルゾーンで構えるような形であり、ローラインでスペースを埋めるような戦い方はしなかったし、高い位置からプレッシャーをかけて相手をハメきることもしなかった。そういう意味では長谷川監督のコメントはある程度信用できる部分なのかもしれない。

 だが、攻撃面においてFC東京の立ち上がりはあまりいいところが見られなかった。CBには川崎のWGが外切り、CHには川崎のIHがぴったりついて出しどころを消す。

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 川崎的にはFW陣の前プレで取り切らなくても、FC東京の保持における選択肢さえ限定してしまえば、何も問題がないという様子だった。最終的には左はオリベイラ、右は永井という両FWが裏抜けするような形が狙いだったのかもしれないが、FC東京の保持は裏以外の選択肢を見せることができなかったため、肝心の裏抜けも十分余裕を持って対応できた。

 裏ではない選択肢を作るという意味では普段使っている4-3-3の方がベターな形はあると思う。それでも左右に2トップという裏への抜け道を用意しておくことが重要だったのかもしれない。長谷川監督もコメントしているが、その割には裏への抜け出に固執することはなかった。後方はゆったりとボールを回しながら、最終的には裏に回すという形。ただ、これも川崎としては同サイドに限定したうえで裏に蹴るので、同サイドに圧縮して裏へのパスに対応することはそこまで難しくなかった。

 裏以外の選択肢は確立できないが、ボール回しはするというFC東京の姿勢が失点を招いてしまう。最終ラインの岡崎から東へのボールを中央でカットしたシミッチからショートカウンター。保持の際にラインを上げるのが遅れたFC東京の守備網の中でダミアンがポストから家長のシュートをお膳立て。プレーだけを見れば岡崎のフィードが悪いと思うのだが、そもそもゆったりとボールを回す割には裏以外の前進の選択肢を作れなかったFC東京の保持の方針にも疑問が残る。2失点目の青木のパスミスはそれを差し引いてもげんなりする類のものだけども。

■トライアングルの精度は万全ではないが・・・

 非保持におけるFC東京もあまりうまくいっていたとはいいがたかった。ローラインにせよ、ハイラインにせよ、ミドルブロックにせよ今の川崎に対して4-4-2で立ち向かう時に真っ先に考えなければいけないのはアンカーであるシミッチをどのように消すかである。オーソドックスなのは2トップが受け渡しながら守ったり、中盤からCHがスライドして出ていくなど。

 ただ、この日はそもそもFC東京はシミッチを消そうする意識がかなり希薄だったように思う。2トップにはあまり守備でのハードタスクが課されていなかったのだろうか。いずれにしても4-4ブロックの手前で受けるシミッチは自由に配球できる時間とスペースが与えられていた。シミッチだけでなく、降りてくる家長や田中にも同様に時間は与えられる。

 こうなると川崎の保持における選択肢は広がる一方。シミッチ⇒三笘のパスで一気に中村拓海を外すことに成功したシーンのようにダイレクトに進む場面もあればハーフスペースで間受けする選手や大外への選手にも問題なく展開ができている。

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 次の選択肢が読めない影響は後方の守備にも普及。パスを受けた選手へのプレッシャーが遅れ、次のボールホルダーにも時間とスペースがある状況が頻発。結局はずるずるラインを下げることになってしまう場面が非常に多かった。

 川崎の左サイドは大外の三笘と後方や内側でサポートする欄を入れる車屋の連携は良かったものの、遠野はまだ連携面では成熟していないといえそう。プレッシングはもちろん、ボールを受けた時の精度はいいものの、サイド攻撃における多角形形成時のオフザボールの動きなどはまだまだ遠野は改善の余地があるように見えた。

 したがって、FC東京に昨季のルヴァンカップの準々決勝くらい非保持における圧縮がかかれば、川崎の左サイドは難しいプレーを強いられるはずだったが、この日はFC東京のプレッシャーが遅く、車屋の動き直しにもついていけていなかったので、三笘ー車屋という2人の好連携があれば問題はなかった。

■大外のギャップに活路

 後半も試合の大きな展開は変わらない。川崎が試合を支配し、FC東京がもがくような形である。ただ、少し雰囲気が変わったなと思ったのはFC東京のボールの保持の方である。

 この試合の後半の最も大きな見どころは高萩、田川、内田を投入し、システムを3-4-1-2に代えた時だろうが、立ち上がりから少し趣が異なるシーンが散見されるようになった。50分のシーン、三田から中村拓海へのサイドチェンジを伴うロングボールがその1つである。このシーンは惜しくもボールが通らなかったが、この広い逆サイドを活用するような展開は前半はあまり見られないものだった。

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 この場面においては後半頭から入ったアダイウトンが山根を背負いながらキープできたのが大きい。これは前半に足りなかった表側の選択肢。逆サイドへの展開もそうだけど、川崎の最終ラインを歪ませるDFラインを引き付けて裏を空けるプレーがようやくアダイウトンによってもたらされた感があった。

 FC東京の反撃弾もこの表側における動きが重要なポイント。中央を噛ませることで三笘のプレスを外した中村拓海がボールを運び車屋の動きを止める。谷口とジェジエウの間に抜けた永井から内側への折り返しが決まると、オリベイラが山根と共に潰れた先にはフリーのアダイウトンが。

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 これもまず三笘のプレスを外し、車屋の動きを止めることで最終ラインに対するギャップを作れたことが大きい。先に述べた3枚替えで採用された3-4-1-2は、4バックの外側に人を配置することで川崎の最終ラインを釣りだして、先に挙げたような表側における歪みをデフォルトの立ち位置で作り出そうというものだった。

 内田の得点もその大外にギャップを作る理念からだろう。大外から大外につなぐことによって、川崎の最終ラインだけでは対応できないスペースから得点を決めることができた。プレッシングにおいても2トップ+トップ下で川崎の2CB+アンカーをマークできる配置になるので、攻守においてメリットがある配置といえる。

 もちろん、終盤のようにWBの裏を川崎に攻め立てられるというリスクも取らなくてはいけない。だが、そもそも前半のFC東京の守り方がリスクを低減できていなかった上に、攻撃の芽が出てくるとなれば後半のやり方は修正策としては良好といっていいだろう。

 それだけに三笘に取られた3点目はもったいなかった。実質試合の大勢はこの3点目で決したように思う。確かに中村拓海のコントロールは軽率だったが、そもそも山根と家長の2人に青木、アダイウトン、小川が簡単に突破を許してしまう所もエラーだろう。そもそも90分間でこのサイド圧縮がうまくいっていれば前半もうまく戦えたように思ってしまう。

あとがき

■ゲームコントロール、精度、勢い、申し分なし

 割とFC東京目線で書いてしまったので、あとがきは川崎目線で。当たり前のように書いているが、FC東京が与えた時間とスペースをうまく前に送ることができたのは大きい。特に左サイドにおける連携には伸びしろがあるが、ダミアンのポストを使った攻撃は精度、バリエーション等の成熟が日に日に感じられる。

 本人の好調さもそうだが、三笘とのホットライン以外にも攻略パターンが増えてきたのが好材料だ。もはや点が取れない試合のたびに上がっていた「ダミアンは川崎にあっているかわからない」という意見もほとんど見られなくなってきている。

 プレビューでは相手のポゼッションにおける精度を問うような守り方をしたいと述べたが、川崎は見事にそれを実践できたように思う。先制点の場面のようにFC東京の保持の可能性を狭めて、特色である裏抜けに対応できたのは良かった。

 前半はFC東京の守備が川崎の保持への可能性を絞れなかったのとは対照的に、選択肢をFC東京から絞ることでこの試合で大事な先制点を得ることができたのは試合運びとしては満点。後半は構造的に殴られる部分もあったものの、こちらの攻撃も成り立ってはいたので、試合としては一進一退感があったはずだ。

 大外→大外への対応という課題も出つつ、上昇気流を維持しながら連戦を続けられている川崎。今年の味スタの多摩川クラシコは今季の川崎の勢い、緻密さ、そして試合運びの巧さを味わうことができた一戦だった。

今日のオススメ
 30分のディエゴ・オリベイラに対する谷口彰悟の抜け出し対応。裏抜けの可能性を潰すことで前半の主導権を確実なものにした。

試合結果
2021.4.11
明治安田生命 J1リーグ
第9節
FC東京 2-4 川崎フロンターレ
味の素スタジアム
【得点者】
FC東京:59′ アダイウトン, 84′ 内田宅哉
川崎:8′ 17′ 家長昭博, 61′ 三笘薫, 75′ レアンドロ・ダミアン
主審:福島孝一郎

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