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「できるところ基準で整える」~2021.3.21 J1 第6節 浦和レッズ×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

小泉トップ下のデメリットが出ない理由

 リアルタイムで見た第一印象としては川崎はうまくいっていなかったように見えた。その理由を考える前にまずは浦和のビルドアップについて復習をする。

 基本的にはCH,CBの4人がビルドアップの主役になる。CHは縦関係になることが多く、片方がCBの脇や中央に下がり、極力DFラインに近い位置でプレーし、もう1人は相手の1stプレスラインの後方に位置する。

 SBは左右対称で、左サイドの山中には低い位置のビルドアップ関与はあまり求められていない分、右サイドに入る宇賀神や阿部はバランスを取りながらビルドアップを手伝うことが多い。プレビューの図を転用。

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 もう1つ、ポイントとなるのは小泉佳穂の起用法である。間受けから球出しまでの一連のセンスはおそらくチームでトップ。エクストラプレイヤーである彼がどのポジションで使われるかがポイントとなる。この試合ではトップ下。彼は起用されたポジションを問わずに、落ちながらビルドアップに関与することが求められているので、質が高い彼が数的に+1になるということに。したがって、川崎戦は札幌戦のようにボールを蹴りまくるのではなく、つなぐことを意識した人選となっていることがうかがえる。

 一方で小泉がトップ下に起用されることで顕著になる問題点もある。それはチームの重心が後ろになりやすいこと。要はビルドアップに人数をかけすぎて、肝心のゴール前のところに人がおらずにゴールエリアでチャンスを迎えることができなくなりやすい。詳しくはプレビューで。

 大まかに言うと、この試合の浦和はメンバー構成から読み取れる内容にはなっていたと思う。だが、この試合の前半は小泉がトップ下で起用される際の浦和のデメリットが表出しにくい展開だった。それこそが川崎が序盤にペースを握れなかった一因である。

 気になったのは川崎のプレッシングにおける関係性である。ダミアンがCBへのプレッシャーをかけずにMF前をプロテクトすることを優先する一方、IHの田中とWGの長谷川が前に出てきてCBを捕まえるケースが多かった。イメージとしてはダミアンを追い越してプレスに行く形。

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 彼らの運動量は特筆すべきだが、ややプレスとしては単騎気味。後方が連動せずにつながれる場面もあったし、単純な移動距離が長い分、ホルダーへのプレッシャーは低め。浦和が蹴ってしまえば川崎にとっては自陣からやり直す羽目になるという、ハイプレスをする労力と収支あっている?といいたくなる場面だった。

 一番厄介だったのは飛び出した長谷川のサイドのSBにボールをつながれること。こうなるとSBには脇坂が出ていかざるを得ない。状況を整理すると田中は前線へのプレス、脇坂はサイドへのヘルプ。シミッチの周りには人がいない状況になる。小泉、伊藤、金子がこの広大なスペースに顔をだして前を向くことが可能になる。関根、汰木のSHも絞りながら中央へのパスコースを創出するイメージが強かった。

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 ここから浦和は左サイドに展開する。このように相手を外しながら中盤を経由したサイドチェンジを噛ませることで全体を押し上げる時間を作る浦和。川崎の中盤の広大なスペースが浦和の保持を安定させ、全体を押し上げる時間を与え、重心が低くなりやすいという浦和の欠点を補ったことになる。

 浦和の難点はサイドへの展開のスピードと精度の低さ。エリア内へのクロスという仕上げは山中が担うことで狙いがまとまってはいたが、山中へのパスがずれたり弱かったりで川崎のプレスバックやインターセプトが間に合ってしまうこともしばしばあった。杉本がボレーを放ったシーンを除けば、スピードと精度を伴った攻撃の展開は少なかったように見えた。

 前進のレパートリーがこれしかなかったのも問題ではあるが、ここを増やしていくのはこれから先の話だろう。

■足りない人数を埋めるには

 川崎は保持においてもうまくいっていなかった。2CBが主体でこちらも組み立てたいところだが、まず困ったのは左サイド。SBに入った旗手とSHに入った長谷川は共に大外レーンに位置することが多かった。この関係だと、狭い位置でのコントロールや背負っても時間を作ることができる三笘が前ならば問題ないが、前が長谷川になると背負えない分やや苦しい。

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 さらに気になるポイントはもう1つ。CBのビルドアップにおける不安定感である。神戸戦から保持において精度が怪しく、この試合でも詰まりがちなサイドのフォローに行くのは難しかった。2CBでボールを運びながら浦和を押し込む展開に持っていくことはできず、川崎は前進に苦労することになる。

 そこで20分過ぎから始めたのは田中碧が最終ラインの中央に降りること。いわゆるサリーである。これにより最終ラインは3対2の数的優位を確保。加えて左CBの谷口がややワイド目にポジションを取ることで、SBの旗手がワイドの低い位置から解放。持ち味である自由なポジションを取れるようになった。だが、脇坂と長谷川との連携は不十分で各々との相乗効果は見られなかったけど。

 逆に問題が出てきたのは右サイド。内に絞る小林をこの日WG起用した鬼木監督。しかし、このやり方では右の大外を取れる選手が山根しかいない。本来は田中と山根でこのサイドをフォローしたかったのだが、田中は最終ラインにいるため、物理的に両立は不可能である。

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 確かにクロスにもたけている小林にクロスを上げてもらうために張るのはアリだろう。しかし、小林をRWGとして使うならば、ワイドに張るタイミングがあったとしても最終的にはエリア内に入り込む設計にしなければ意味がない。左サイドからのクロスに飛び込むパターンも期待できるが、この日はその左サイドからのクロスが不発でなかなか飛んでこない。

 左は連携が足りない、右は人が足りない、でも後ろには人数をかけないと組み立ては怖いという状況になった川崎の保持。これを解決したのは非保持におけるバランス解消である。

 この試合の浦和の組み立ては中盤から左(山中サイド)に流すことで時間を作りながらゴールに迫るというものである。したがってビルドアップの過程で中盤中央を経由する必要が必ず出てくる。浦和が立ち上がりにボールを運べたのは田中と脇坂が持ち場を離れた守備のタスクを負い、中盤のスペースが空いていたからである。

 したがって川崎は中盤中央を締める。4-5-1の陣形を維持し、ミドルゾーンで浦和のパスに網をかける。縦パスの出し手を追い回すのではなく、縦パスの出所を挟むイメージに転換する。これで成立するのは浦和が中央からつながなければ、前に進めないという前提があるからである。

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 中盤でインターセプトし攻撃に転じることができれば、最終ラインからのビルドアップはスキップすることができる。したがって、ビルドアップ時に最終ラインに落ちることが多い田中が脇坂と共にIHとしてスタンダードな位置に立つことが可能になるということだ。

 中盤で網を張ってから攻撃に転じることにより、サイドの崩しの人数を確保する川崎。この手法の初手がハマったといえるのが小林の先制点である。右サイドに足りなかった人数が確保できたことで、ようやく小林のWG起用のメリットが初めて出たシーンといえる。

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 中盤でのボール奪取を決めた川崎は斜めにエリアに走りこむ小林によって空いたスペースに山根が走りこむ。田中からのパスを受けた山根がエリアに走りこんだ小林にラストパスとなるクロスを送るという形。張っていても最後はエリアで仕事をするという小林のWG起用の真骨頂のようなゴールだった。

 一方のこの場面の浦和はクロスを上げることは許容し、抜かれないようにしていた山中と抜かれた後のカバーに意識が向きニアで跳ね返す準備ができていなかった槙野の息が合わず。エリア内にたった1枚だった小林へのクロスに通してしまう連携のズレは手痛いものになった。

■誘導型ハイプレスで一気に主導権

 後半は川崎はより高い位置からのプレッシングをかける。前半とは異なり、後半はFWが最前線のプレス隊に。彼らがボールをだせる位置を制限し、縦へのパスを誘導。CBやCHに縦へのパスを誘発したところで川崎はCBとMFで取り切るという形を取った。

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 前半はビルドアップの部分で足を引っ張り気味だった両CBだが、後半は彼らの高い位置からのボール奪取能力の高さを活かして、川崎のハーフコートゲームに大きく貢献を果たしていた。

 重心が下がりやすくなっている浦和は縦パスが仮に通ったとしても、全体を押し上げるキープ力を有している個は前線におらず、状況は厳しい。細かいパス交換から広くピッチを使いつつ全体を押し上げるしか手段がない。それを川崎のプレスは封じた格好である。

 全体を押し上げられないこともあり、徐々に浦和のプレスラインも交代。田中碧を最終ラインに下げる必要がなくなった川崎はサイドの攻撃の精度が徐々に高まる。特に改善が見られたのは左サイド。三笘ー旗手コンビの時は自由度高めにすることで相手にも狙いを絞らせないようにしていたが、長谷川ー旗手コンビにおいては大外を長谷川、ハーフスペースの裏抜けを旗手、それを後方から脇坂が支える形で整理することで機能性を高めた印象だった。

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 3得点目の旗手の得点も、シミッチの美しいパスに目が行くが、大外に長谷川が開いており、旗手と異なるパスコースを創出していたのは個人的には助演男優賞である。

 4得点目は田中と小林で右サイド低い位置で時間を作りつつサイドチェンジ。左サイドまで持っていきながら左の長谷川のクロスで仕上げ。サイドチェンジを伴い、低い位置にいた選手(小林)がエリアに走りこむ時間を創出する。この形はおそらく前半の浦和が点を取りたかった形に似ているように思う。4点目は大事。

 最後は脇坂のミドルで5得点目を決めた川崎。知念、車屋、塚川の投入で守備の部分の規律を最後まで保ちながら試合を締めることに成功。昨年10月以来のアウェイでのクリーンシート、埼スタで初めての5得点、対浦和戦史上初めての4連勝などあらゆる部分で記録づくめとなった大勝になった。

あとがき

■必要なのは時間

 内容の割にはダメージが大きい敗戦になってしまった感のある浦和。現状の浦和は仕組みとしてのビルドアップは習熟度が高まっている(この試合の前半を見ればそう感じる)一方で、それに付随するスキルの足りなさが顕著になっていると思う。例えば縦に刺すパスの速度、精度。前半のサイドチェンジもそうだが狙いは正しくても、それを実現するスキルが足りない印象だ。逆に言えば必要なスキルが明確になってきたともいえそう。時間が必要と一般的に言うのはこの足りないスキルを習得したり選手獲得で補ったりする必要があるからだ。

 とはいえ、ネガトラの脆さはなかなかにしんどい。横浜FM戦しかり、この試合しかり、高い位置からのプレスに屈した場合の守備ブロックの切り替えの弱さがあると勝ち点を落としたり、予想外の大量失点になってしまう可能性は否定できない。だが、ロングキックに終始することでネガトラの局面ごと抜いてしまったような札幌戦のようになれば、ただでさえ整えるのが難しい得点の匂いがさらに遠くなる。負傷者の復帰やスキルの習得でリカロドなりの正攻法で練度を上げていくしか方法はないだろう。頑張ってほしい。俺は日本のアーセナルを応援する。今年の二推しにする。

■収穫のある『交代なし』

 今年見た中で一番1回目と2回目の視聴の印象が変わった試合だったかもしれない。確かに前半は良くなかったけど、割と前半から修正のための試行錯誤していたのはわかったし、こうして振り返ると後半の巻き返しも理にかなった形で説明できるものだった気がする。結果のバイアスもあるかもしれないけど。

 浦和も川崎も初手でやりたいやり方がうまくいかない展開だったと思うけど、そこからの修正策の引きだしの多さとその策に見合うスキルの高さの部分で浦和よりも川崎に分があったという試合だったか。この試合は守備で相手のできることを破壊したことで流れを持ってくることができた。この試合は非保持で勝ったと思う。ビルドアップはしんどいけど、非保持を整えれば攻撃もうまく回る。川崎ができることを基準に浦和の狙いを挫いた印象だ。

 鬼木監督の修正の質の高さはさすが。浦和のビルドアップの弱みを的確についた修正だっただけではなく、前半うまくいかなかったメンバーで完勝まで持っていくことで長いスパンで見てもチームにとってプラスになる勝ち方だったように思う。神戸戦まで続いた嫌な流れはひとまずストップ。休息が取れる安堵と次に何を繰り出してくるかの楽しみを胸に、川崎ファンは次の試合を待ち遠しく思う2週間の中断になりそうだ。

今日のオススメ

 4得点目の脇坂。左でボールを受けた後、最速で運ぶのではなく、徐行しつつエリア内の人数がそろうのを待つ。加えて、対面の宇賀神の足を止めるタイミングで長谷川に出すことでクロスの難易度を下げる。インタビューにおける得点シーンの写実性の高さからうかがえる彼の視野の広さをうかがうことができる場面だった。

試合結果
2021.3.21
明治安田生命 J1リーグ
第6節
浦和レッズ 0-5 川崎フロンターレ
埼玉スタジアム2002
【得点者】
川崎:42′ 53′ 小林悠, 49′ レアンドロ・ダミアン, 51′ 旗手怜央, 67′ 脇坂泰斗
主審:飯田淳平

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