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「走れる好循環」~2024.5.4 プレミアリーグ 第36節 アーセナル×ボーンマス レビュー

プレビュー記事

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レビュー

どこからでも攻められる状況を王様が操る

 泣いても笑ってもシーズンは残り3試合。CLも終わり、週末にフォーカスされたリーグ戦を3つ戦えばアーセナルの23-24シーズンは終わりを告げることとなる。今節ホームに迎えるのはボーンマス。シーズン終盤に調子を上げて、ここに来て1桁順位に位置に付ける怖い相手である。

 立ち上がりのアーセナルは少しバタバタ。右サイドを軸にファウルで止める場面があり、少し受けるようなスタートとなった。

 しかしながら、そうした時間はわずか。アーセナルはすぐにテンポを立て直す。週末専業になったため、今までよりはハイプレスを仕掛けられる状態にはなったはずだったけども、ハイプレスから主導権を取りにいくアクションはそこそこ。それよりもハヴァーツのプレスバックからのカウンターや、トーマスがロストした際のトロサールの守備など、前線が少し下がって挟むことでテンポを掴む。

 ボーンマスの前線にボールを当てられた時にまずは後ろがきっちり食い止める。そうした後に前から選手が戻ってきて挟む。同サイドに圧縮するといういつものハイプレス殺法とは違う形ではあるが、守備からリズムを作る形を狙うという意味では同じである。

 ボールを保持したアーセナルはバックラインからショートパスでボールを動かしていく。ボーンマスの守備はバックスに枚数を合わせることはしないが、中盤に枚数をかけてコンパクトな噛み合わせを意識したものとなった。

 中盤でフリーマンを作りたくないボーンマスなのだが、アーセナルの中盤はMFだけのものではない。SBの冨安は絞ってくるし、ハヴァーツも降りるアクションを見せる。さらにはウーデゴールも右のハーフレーンからかなり降りたり、あるいは左に流れたりしていた。

 これにより、ボーンマスの守備は狙いが定められなかった感がある。ボーンマスに対しての王道のプレス回避の方法は16分のように片側サイドに追い込んでくるボーンマスの逆を取るイメージである。

 しかしながら、図的にこんなに大きな変化がなくとも動かすことができていたのがアーセナルの強みだった。8:30のシーンが好例だろう。トーマスのパスを目掛けて動き出すようにした冨安からウーデゴール、ライスと続くアクションから右サイドのサカに入っていく。この場面、非常に細かな動きが美しいのでぜひ動画で見直してほしい。

 この試合の冨安は非常に冴えていた。攻め上がりのタイミングはとても効いている。この場面のような列上げのサポートが澱みなくできるようになったことは素晴らしい。オーバーラップからスコアラー顔負けのシュートを放ったサリバも含めて、後ろからの押し上げの意識はとても優れていた。

 ハヴァーツ、ウーデゴールの降りる動きやDF陣の上がるアクションを駆使して、数人の同数のユニットから時間を作り続けるアーセナル。ビルドアップを抜けた後は左右のサイドに攻撃の出口を設ける。

 左サイドはセメンヨ、スミス、クリスティーの距離が遠く、間のスペースにライスや冨安が入ったり、背後のスペースをトロサールがつくなど、自在に攻撃を仕掛けていく。

 右サイドはサカとワッタラが正対する状況を作ることができれば問題なく仕掛けができる状況。1on1で勝負できるのはもちろん、ホワイト、ウーデゴール、ハヴァーツといった面々が加担して右サイドからハーフスペースの裏抜けもしくはカットインの両睨みでゴールを狙っていく。

 左右に散らすサイドをフリにして、ダイレクトにハヴァーツが背後を狙うパターンも潜めるアーセナル。こうした豊富な攻め手を自在に操っていたのがウーデゴール。中央に降りるアクションからの深い切り返しで相手をいなし、好き放題にボーンマスの守備を切り裂いていく。いつも以上に王様として君臨していたウーデゴールの存在感と切れ味は圧巻であった。

 ということで押し下げることは問題なくできていたアーセナル。ボーンマスからすればなかなか苦しい展開である。ソランケはアーセナルのDF1枚であればなんとか張れるなという感じではあるが、もう片方のCBとラヤもカバーに入るアーセナルの守備をなんとかするのは難しい。

 敵陣に攻め込んだ時間は30分過ぎにようやく訪れたが、セメンヨはダブルチームでのマークに苦しんでいたし、多少オープンでも攻め急ぐアクションを見せてしまい、強引な斜めのパスの差し込みからアーセナルの守備に絡め取られる場面が目についた。左サイドでフリーにポジションをとるワッタラをどう捕まえるかだけは少しアーセナル側がふわふわしている感があったが、アーセナルは致命傷にならなかった。

 優位をとっているアーセナルは前半終了間際に先制点をゲット。ウーデゴールからのスルーパスに反応したハヴァーツがGKに倒されてPKを獲得。接触の強度自体はわずかだが、遅れて足をかけている時点でPKなのは個人的には全く不思議ではない。止まってスミスを足止めしウーデゴールのスルーパスのコースを作り出したトロサールが見事な助演男優賞だった。

 このPKをサカが仕留めてアーセナルはハーフタイム前にリードを掴む。最後にスコアに優位を反映したアーセナルが前半をリードで締め括った。

自在な横断で試合を決める

 後半は互いに長いボールを使いながら互いのプレスをいなすスタート。アーセナルが前線を左右に動き回るハヴァーツをターゲットにするのはもちろんのこと、ボーンマスも左右のWGにボールを当てながら前進を狙う。右サイドのセメンヨへのロングボールはようやく冨安との1on1を作るためのきっかけになっていた。

 ただし、アタッキングサードのクオリティには両チームに差があったように思う。前半よりも明らかに敵陣に迫る機会は増えたボーンマスであったが、左右からのファーへのクロスといういつもの狙い目は冨安とホワイトという空中戦に耐性があるSBにはそこまで効果的ではなかった。途中から交代で入ってきたウナルがSBに競りかける形は前節のブライトン戦のゴールパターンではあるが、冨安を前には通用しなかった。

 セメンヨが前を向けば当然脅威にはなるが、スミスやスコットといった周りの選手との連携はイマイチ。大外で剥がしかけるところまでは行ったとしても、そこから先のフェーズでオープンにシュートまで辿り着くまでの手段がなかった。自陣でのプレス回避は安定していたので、アーセナルの一方的な攻撃を受けることにならなかったのは救いではある。

 もっとも、ボーンマスの攻め手の中で効果的だったのはクロスなしで攻め切ることができる形。ハイプレスを剥がす形でアーセナルの右サイド側の背後にクライファートやセメンヨを走らせることでそのままゴールに向かう道筋は見えていた。もしくはアーセナルのボールを奪うショートカウンターも有効。トーマスのリスキーなパス選択をはじめとして、アーセナルは自陣での攻撃を跳ね返した後に自陣のバイタルにひとまずショートパスをつける癖がある。ここでつっかけてしまうことはトーマスに限らずあったので、ロストの仕方の悪さは懸念となっていた。

 ただ、アーセナルはアタッキングサードのフィーリングは良好。特にライスとウーデゴールらが中盤でのプレッシャーを受ける機会は明らかに減っており、ここから左右に好きに展開をすることができていた。サカにボールを預けてラインを下げた後に中盤のどちらかにボールを渡してさらにいい形を探ることがアーセナルの後半のパターンになっていた。

 前線のプレスバックの献身性も健在。トロサールがこの部分で存在感を発揮しているのは嬉しい限りである。2点目のシーンも自身のプレスバックがきっかけになっている。ボールを奪い取った後に右サイドに展開すると、引っ掛けたボールがややアバウトに転がって中央に落ちる。このボールにいち早く反応したライスがトンデモラストパスからトロサールに絶妙なお膳立てを決めると、得意な形からトロサールがいとも簡単にゴールを奪う。プレスバックの意欲が高い前線、効いていた横断の形とこの試合のいいところが詰まったゴールだったと言えるだろう。

 この2点目で試合は決着。交代直後のマルティネッリが決定機を決められなかったのは本人のプレーセレクションも含めて残念ではあるが、代わりに後半追加タイムにライスがケーキにイチゴを載せることに成功。難しい角度からストライカー顔負けのシュートを叩き込んで見せた。

 ジリジリとした展開ながらもアーセナルは終わってみれば完勝。要所要所で差を見せつけてシティとのタイトルレースに望みを繋いだ。

あとがき

 ボールプレイヤーの凄技もいいんだけど、それを引き出すために汗をかけるのが素敵。走ってくれるからそういうスキルを出す余裕が生まれるし、そういうスキルが出てくるからたとえ無駄走りになったとしても動き続けられる。そういういい循環が今のアーセナルには生まれている。手前味噌だけどほんとアーセナルはいいチームになったと思う。こういうチームはきっとどんどんまだまだ上手くなるのだろうな。

試合結果

2024.5.4
プレミアリーグ 第36節
アーセナル 3-0 ボーンマス
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:45′(PK) サカ, 70′ トロサール, 90+7′ ライス
主審:デビッド・クート

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