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レビュー
■それぞれの大一番
リバプールにとっては掛け値なしの大一番。アンフィールドで連敗と無得点が続いている現状、そして少しずつ落ちている順位などを踏まえると、優勝争いに踏みとどまるためには勝利が至上命題となる。一方のシティも近年はリバプール戦が鬼門。彼らにとっても今季が一味違うことを示さなくてはいけない一戦になるだろう。
激しい試合になるとは予想していたが、リバプールとシティのどちらのチームにとっても、今季これまでのどの試合よりも激しいプレスの掛け合いだったのではないだろうか。今季この後にこれより強度の高いリーグ戦はもしかするとないかもしれない。
■変形でプレスをあきらめさせる
まずはシティのボール保持の局面から。リバプールのプレスの激しさは立ち上がりから顕著。リバプールの開始早々のプレスにおいてフィルミーノとマネの位置が入れ替わったのは、外切りのままマネが逆サイドまでプレスをかけに行ったから。両チームのプレスに共にいえることだが、同サイドを徹底的に封じるように重心を傾けるシーンが多かった。
ただ、5分のシティのプレス回避のシーンはさすが。同サイドを窒息させにかかるリバプールのプレスの中で見事に呼吸をしてみせた。ちょっと図にすると細々しそうだから割愛する。試合映像を確認してみてください。
シティのビルドアップはいわゆる『カンセロロール』という言葉で表されることが多い。ただ、彼らのビルドアップのミソは相手に寄って立ち位置を変えられる引き出しの多さ。カンセロが内側に入るというのはその一環に過ぎない。これについてはわかりやすくまとめられているinamoさんのツイートを見てほしい。
この試合で特に重要な並びについて下の図にまとめる。基本の4-3-3以外の3つ。
①3-2-5
いわゆるカンセロロールって言われるのはこの形だろう。ライトバックのカンセロが内側に入る形。あとでもう少し説明するけど、カンセロがもともといた位置にはベルナルドやらマフレズやら、時にはフォーデンやらが降りてくる。
②4-1-2-3
カンセロが内側に入ってからのロドリが最終ラインに落ちる動き。
③2-3-5
カンセロとジンチェンコはインサイドハーフのように振舞う。
シティはまず①を基本線でスタート。後ろのブロックを3-2にする。リバプールはフィルミーノが中盤を消すように動き、マネとサラーは外から内に切るようないつも通りの動き。パスコースのなさに苦しんでいたシティだったが、②に変形してロドリが最終ラインに落ちるとリバプールはプレスをあきらめてミドルゾーンで構えるようにシフトチェンジする。これによりシティはリバプールのプレスを鎮静化した。
ただ、3-2のままでも前進の準備ができているのがシティ。肝になるのが前線が降りてくる動きである。先ほど軽く触れたベルナルドなどの皆さんがカンセロが空けた位置に入り込む形である。ベルナルドは降りたまま前を向けないことの方が多いんだけど、彼ならばそれでも半身の体勢からロストせずにパスコースを作れるので問題なし。ボールを失わないどころかそこから一気に局面を進めることもある。ベルナルド、降りてきても全然マイナス収支にならないのが本当にすごい。
ではこの動きの何がいいか?と言うとベルナルドの対面のインサイドハーフを連れてこれることである。引き連れたまま周りの前向きの選手にボールを預けることで、より縦パスが入りやすい状況ができる。
③の2-3-5の形はWGで勝負をかける状況を作りやすい。インサイドハーフの位置にいるSBが大外のWGへのパスコースを作れるからである。最終ラインで数的にリスクのあるこの形はリバプールの前線がボールロストしてプレスに参加できない状況で採用されることが多かった。
この試合で1on1を挑む機会が多かったのはスターリング。リバプールの守備は右サイドがちょっともろく、スターリングへのパスコースを空けやすいからだろう。前半のPKの場面でもチアゴとサラーのプレッシャーをかける方向がバラバラでギュンドアンの縦パスのコースを空けてしまった。まぁ、これは失敗して事なきを得たんだけども。
■チアゴが中盤にとどまるべき理由
シティのプレスもリバプールと同じく3トップの外切りで挑む。激しいプレスに対してはファビーニョ、ヘンダーソン、アリソンのトライアングルを中心に空きを作りながら対応。蹴るのと回すバランスは前半のうちは機能していたように思う。
IHに入ったチアゴにはほぼ落ちて受ける動きはなかった。これはおそらく呼吸できない中盤から脱出できる選手がチアゴしかいないからではないか。こういうスペースも時間もない試合ではノーステップでサイドに展開できるMFの存在が貴重になってくる。ロドリとかチアゴとかトーマスとか。そういう選手がいないとなかなかプレスに真正面に組んだ状態で薄いスペースに展開することができない。この試合は相手にプレスをかけられたときの対角へのパスがほとんどない試合だったんじゃないかなぁ。
話はそれた。チアゴを中盤に残しておきたいのはそういう理由があったのではないかなと推察する。ということでファビーニョをはじめとして最終ラインがボールを動かしながらアングルを作り前進していく。25分経過するとシティはプレスラインを下げて、リバプールの保持の局面が多くなっていく。
シティが賢かったのは撤退後に内側を徹底的に締めたこと。リバプールの直近の快勝であるトッテナム戦は中央への楔のコースをトッテナムが空けてしまったことでリバプールが3トップの連携を有意義に使うことができた。逆に得点が取れなかった試合はロバートソンとアレクサンダー=アーノルドのクロスに終始することが多かった。
この試合のリバプールも攻撃をその方向に誘導されていたように思う。リバプールの両SBのクロスはそれだけでなんとかなりそうな精度ではある。ただ、中の動きが少ないことが多く、この試合ではそこまで有効な手とは言えなかった。虚をつけたのはジンチェンコの逆を突いたアレクサンダー=アーノルドがクロスを上げたシーンくらいだった。
シティはこの押し込まれる状況はシンプルにカウンター重視。スターリング、マフレズ、フォーデンと快足揃いの前線に決定機創出をゆだねる場面が多かった。
両チームともプレスを外してビルドアップで前進することはできていたが、シュートは少ない。そんな前半だった。
■使えなかったギャップ
後半はシティが4-4-2にプレス時のフォーメーションを変更。撤退と割り切った25分以降の前半を除いて、この日のシティの優先順位はなるべく高い位置でボールを奪うこと。そしてそれは裏を空けてでもOK。リバプールの3トップに前を向かせて走られるくらいならば、タイトに体を当ててそもそも走らせないやり方である。
4-4-2への変更はそれをさらに強めるもの。相手の4枚の最終ラインに合わせるようにプレス隊を準備し、前線からプレッシャーをかける。リバプールの4-3-3は4-4-2に対してアンカーが浮く配置になっている。ただし、アンカーのワイナルドゥムは狭いスペースでボールをコントロールできるタイプではない。プレス隊が距離感を調節しながらパスコースを消すだけでシティは十分対応が可能。本来ならば浮くはずのワイナルドゥムは完全にゲームから締め出された。ここでアンカーにファビーニョがいてくれたら感はとてもわかる。
結局リバプールが苦し紛れに蹴った長いボールを回収したシティは前半に指摘したリバプールの右サイドを狙う。前に出ていったチアゴが空けたスペースに構えたギュンドアンに縦パスが通ると、そこからスターリングがアレクサンダー=アーノルドをあっさり交わしてシュートコースを創出。リバプールの守備陣も何度か跳ね返すが、最後は先ほどPKを失敗したギュンドアンが決めた。
シティは先制点を境に保持で時間を使うようになる。取り返したいリバプールはボールを追い回して縦に間延びするように。そうなると神出鬼没のベルナルドが顔をだしやすいスペースが徐々に出てきやすくなる。
リバプールは押し込む状態からの決定機創出はできなかったが、シンプルな長いボールでの競争からチャンスを使う。アレクサンダー=アーノルドの縦パスで裏に抜けたサラーがルベン・ディアスを出し抜いてPKをゲット。ただ、縦のパスが効いたシーンはこの場面と後半頭のマネの抜け出しくらい。ストーンズ、ディアス、ジンチェンコは体の寄せが厳しく、リバプールのアタッカーは前を向くことができない。勝機が見いだせたのは唯一マネにカンセロがマッチアップした時くらいだろうか。
リバプールは中盤を2枚交代。チアゴ、ジョーンズの両IHをミルナーとシャキリに変更する。シャキリの投入は単に前を向くための物だろうが、おそらくミルナーの投入は穴をあけやすかった右サイドの手当てだろう。迎え撃つ際に2センターで受けることで機動力のあるワイナルドゥムが右サイドに出ていける機会は増えた。
一方でチアゴとジョーンズが下がってしまったことで、彼らが頑張っていたボールを引き出すという役目を果たす人がいなくなってしまう。そこをついたのがシティのプレス。マフレズからジェズスに代えて前線をリフレッシュすると、じわじわリバプールのバックスのボール保持の選択肢と時間を絞る。
前に蹴ってもろくにチャンスがならないのでつなぎたいアリソンの気持ちはわかる。2失点目は確かにロバートソンにつなげればチャンスになったことだろう。しかし、手前でカットされたボールからカウンターでシティは勝ち越しを決める。続く3失点目はさらにアリソンには近場の選択肢がない厳しい状況。想像なのだが、直前でミスをしているからこそアリソンはいつもできるはずのつなぎのパスを選択したのではないだろうか。いつも通りやれるんだよ!的な。
しかし、シティはアリソンの思惑をあざ笑うかのように再度このパスを引っかける。リバプールには強靭なフィジカルでDF陣を吹き飛ばすフォーデンが悪魔に見えただろう。
結局試合はこの2失点で決着。シティが首位固めに成功した一戦となった。
あとがき
■リバプールのスカッド事情が出発点
勝ったシティは言うまでもなし、個人的には負けたリバプールも相当強いなと思った。強くなかったらこのテンションのシティ相手に73分まで組み合うことはできないと思う。
この試合のスカッドで言えばリバプールはある程度ボールを握りに来るしかないと思うのだけど、そこが選手交代で崩れた印象はあった。ただ、縦への速さに舵を切ってもこの日のシティのクオリティだとどこまで機会を増やせていたかは怪しいところである。
最終的に選手が代わったリバプールのビルドアップをシティがプレスで捕まえたことで流れが決まったけど、まぁそれは他の局面が両チームともちゃんとしているからかなとか。両チームともある行動をやるにしてもやめるにしても判断が早い。
ただ、シティの方がボールを保持してなるべく早く奪い返してという大枠のコンセプトを変えずにアレコレ改良しているので、その土俵にリバプールが上がってきてくれたことはやりやすかったかなと。シティがリバプールの速い攻撃を封じたからこそだけども。ショートカウンターも含めて早さでも速さでもシティがリバプールを上回った試合だった。
あと、個人のスキルで言えばノーステップでサイドへの展開ができるMFは今後必須になるかもなと思った。時間もスペースもない試合では欠かせない。あと「コントロールオリエンタードなんてしているスペースなんてどんどんなくなっていくから、結局トメルケールが大事になる未来になる」的な昔見かけた意見について、初めて「あぁ、もしかするとそういう未来になるかもしれないな」と思わされる試合でもあった。もっともっとスペースに出たり入ったりの未来の方が先かもしれないけど。
試合結果
2021.2.7
プレミアリーグ
第23節
リバプール 1-4 マンチェスター・シティ
アンフィールド
【得点者】
LIV:63′(PK) サラー
Man City:49′ 73′ ギュンドアン, 76′ スターリング, 83′ フォーデン
主審: マイケル・オリバー