二度目を許さない欧州の盟主
早々に姿を消したイングランド勢を尻目に、ウェンブリーへの切符を手にしたのはCLの盟主といっていいだろうレアル・マドリーと上位進出常連組を薙ぎ倒してきたドルトムントの2チームであった。
両チームとも入りは慎重だったといっていいだろう。互いにバックラインに無理にプレスを行く姿勢は見せず、CBはボールを持つ意識は高かった。さらにはCHも明確に最終ラインのサポートに入る。
マドリーはクロースが降りる形の3-2-5。ヴィニシウスとカルバハルが外のレーンに入る形でボールを動かしていく。ヴィニシウスの左サイドからの突撃とカルバハルのフリーランからギャップを作るシーンはあるが、中央にパスを刺す形が決まらず。ここはドルトムントの3センターのスライドが見事。中央を閉じながらプレスに出ていくことを見事に両立。真ん中からの進撃は許さなかった。
対するドルトムントはマドリーの守備の基準をうまく利用して前進していた。マドリーの守備は左サイドに怪しさがある。保持では左サイドに開くヴィニシウスだが、非保持では2トップの一角に入ることもしばしば。その場合はベリンガムがサイドに流れるが、守備のカバーの機能性という点では難が残る。ここからドルトムントは前進。ザビッツアーが流れて入り込んだり、サンチョが開いているスペースに降りてきたりなどから縦パスのレシーバーになる。
出ていくと背後を使われるマドリー。かといって前にプレスに行かないとなると、ドルトムントの最終ラインから裏へのパスが飛んでくる。フュルクルクの抜け出しなどセミファイナルの焼き直しのようなシーンからのチャンスメイクで一気に決定機を作り出す。ドルトムントの決定機は最終ラインをクリーンに裏抜けしたシーンのみ。アデイェミも相当綺麗に抜け出す場面があったが、マドリーの最終ラインが追いついて踏ん張る。
ライン感への縦パスから攻撃を加速されるシーンはあったマドリーだが、ここで凄みを見せたのはカマヴィンガ。強烈な戻りのアクションからドルトムントの速攻を跳ね返す。
明確な前進のルートを掴んだドルトムントだったが、マドリーの土壇場の粘りと自らのシュート精度で得点にはならず。試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。
後半、保持スタートのマドリーと縦に刺していくことでカウンターを狙うドルトムント。基本的な構図は変化がないのかなと思ったが、マドリーは非保持の仕組みに違いが。前半はヴィニシウスを前残しの様相が強かったが、後半はきっちり自陣に戻る守備タスクを背負わせる。そのため、リエルソンに合わせて自陣まで戻っての守備が増えるなど4-5-1気味に守る頻度が上がった。
一見重心が下がるプランに思えるが、ヴィニシウスの推進力であれば自陣からでも問題なく陣地回復ができるということだろう。ひっくり返せる馬力があるから戻るという判断は理に適っているし、こちらのサイドはドルトムントの攻めの起点になっていたので前半の対策にもなっている。
ドルトムントは右サイドから穴をつけなくなったため、逆サイドからの攻めが増えるように。右サイドから攻めていくと割とすぐにロスト後にヴィニシウスに繋がれていたのだけども、ドルトムントが左サイドからの攻め筋を増やした理由とどの程度リンクするのかは不明である。
ヴィニシウスの独力カウンターの機会も減ったため、試合は互いに押し込みながらの解決策を探る勝負に。そうした中で決め手になったのはセットプレー。ニアのカルバハルが合わせてマドリーが先行。ドルトムントとしては後半頭に一度枠外ながらもフリーでシュートを撃たれた形だったため、なんとか二度目は対応したかったところである。
マドリーはこのゴールを機にハイプレスに移行。チームとして出ていくのであれば潰し屋として躍動し、運んではファウルを奪い、ミドルシュートを平気で枠に飛ばすカマヴィンガは異常であった。圧力を増したマドリーはベリンガムが一度は決定機を逃すが、83分に試合を決める追加点をゲット。ハイプレスの圧力でドルトムントに息をつかせないまま試合を手繰り寄せる。セットプレーもそうだが、マドリーは「二度目」を許してくれない。
その後はクロースの交代やミリトンがクリアで水際守備を見せるなどマドリーファンのための終盤に。ドルトムントは交代出場のマレンのクロスからネットを揺らしたが、オフサイドでゴールは認められなかった。
試合はそのまま終了。ウェンブリーで歓喜の声をあげたのは2年ぶり15回目のビッグイヤー獲得となったレアル・マドリーだった。
ひとこと
前半を0-0に凌いだ時点で誰もが頭に思い浮かんだシナリオをきっちり実行したマドリー。先制点以降のハイプレスには彼らが欧州の盟主である理由が詰まっていた。
試合結果
2024.6.1
UEFAチャンピオンズリーグ
final
ドルトムント 0-2 レアル・マドリー
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
RMA:74′ カルバハル, 83′ ヴィニシウス
主審:スラヴコ・ビンチッチ