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「もうプレシーズンマッチ始まってるけどな」〜アーセナル 個人レビュー2023-24 MF&FW編

第2弾!前編はこっち!

前編

目次

MF

トーマス・パーティ

ネガトラの切れ味に不安を残し契約最終年を迎える

 シーズン前半に奮闘し、ラマダンを経てコンディションを落として尻すぼみというのが俺たちが見てきたトーマス・パーティのシーズンのルーティンである。

 しかしながら、今季は前半から堂々の負傷離脱で序盤の元気なトーマスが消失。復帰したかと思えば、AFCONに出て行ってしまうというほぼリハビリのようなシーズンをこなすこととなってしまった。

 AFCON→ラマダンというハメ技のコンボに加え、前半戦でトーマスを見れなかった分、トーマス欲が高まっていたのだろう。アーセナルでの戦列の復帰を祈るあまり、ラマダンに詳しくなり、いつ飯が食えるのかまで調べる輩(下記参照)まで登場することとなった。

 実際のところ、ラマダン明けはそれなりに動けていたし、博打のようなパス成功率も近年の中では安定。持った時の切れ味はさすがといえる代物だった。

 少し気になるのはネガトラの切れ味。我々がライスという化け物を見慣れてしまったというエクスキューズはあるが、前プレへの連動はもう一歩早くしてほしいし、潰し切れずに交わされるシーンは増えた。さすがにジョルジーニョに比べれば明らかに潰せる範囲は広いので、ハヴァーツがCF、ライスがIHに固定された終盤戦ではジョルジーニョと場面によって使い分けられた印象だった。

 託された役割を考えるとやはり物足りなさは残るだろう。アンカーを任せられるかというよりはチームを一段引き上げられるかどうかというスペックの選手だと思うので、そういう意味ではもう少し上乗せが欲しい。

 高額な年俸と怪我がちな近年の戦歴を考えると、クラブの意向はともかくとして残留の可能性は十分にあるだろう。契約最終年、AFCONもない今季に完全体として復帰するトーマスをアーセナルで見ることはできるだろうか。

マルティン・ウーデゴール

ビルドアップ免除で輝きを放った後半戦

 シーズン序盤は主にスコアリングの部分でやや停滞感がなくはなかったが、シーズン終盤にチームと共に尻上がりで状態を上げたままフィニッシュ。上々の状態でシーズンを終えた。 

 機能するかどうかは個人的にはビルドアップの負荷と密接にかかわっているのかなと思う。中盤に降りてくるアクションは効果的ではあるが、前進のためにそれが必須となると話は変わってきてしまう感。特にSBが絞れないんだけどどうしよっか!という時期は仕方なくウーデゴールが低い位置に顔を出す機会が増えたため、前で勝負できる負荷が減った感がある。

 整理が済んだ終盤戦はアタッキングサードにフォーカス。トロサールへのアシストのコースをひねり出したCLのバイエルン戦のように瞬間的なひらめきがあるプレーを見せたかと思えば、ほぼ王様のように盤面を一手に引き受けていたボーンマス戦などチャンスメイクに奔走。あらゆる形で仕上げの局面でのリズムを掌握して見せた。

 プレッシングでの貢献はもちろん据え置き。相手チームの左のCBを敵陣の深い位置まで追い込みつつ、後ろにボールを刈り取らせるハイプレスの形はもはやパターン化しているといえるだろう。

 後半戦に合わせてギアを挙げるコンディショニング含めて欧州とリーグを並行して勝負できるキャプテンとしての風格が備わってきた感じが出てきたシーズンである。別件だけど、リバプール戦のカメラ、最高だったよ。

エミール・スミス・ロウ

ダブルパンチに苦しみコアメンバー入りに失敗

 開幕前にどこかに書いたかしゃべった気がするがスミス・ロウの23-24シーズンは「アーセナルでの将来を決めるシーズンになるのではないか」と予想していたが、この予想は悪い意味で的中することになりそうだ。こんなに時の人感が出てくる前に本当はこの記事を書き上げるつもりだったんだよ。ごめんな。

 長引いた負傷の影響が色濃かった22-23シーズンの挽回として大事な位置づけだった今シーズン。アンダー世代のEUROに参加したとはいえ、シーズン序盤から巻き返しの意気込みは高かったはずである。

 しかしながら、開幕から試合に絡めない時期が続くと、ひざの怪我で秋先には離脱を経験。冬場はゲームフィットネスを取り戻しながら、ベンチから大量リードの試合の終盤に機会を貰ってコアメンバー入りを目指すことが彼(とエンケティアとネルソン)の描いた青写真だっただろうが、コアメンバーが固まるCLのノックアウトラウンド開幕には間に合わず、そのまま終盤戦は扉を閉ざされた格好となった。

 十分な出番を与えられていないとする向きもあるが、個人的にはこの冬から春にかけてのパフォーマンスでは重要な試合での出番や、リーグのスターターを任されないことは仕方がない。あまり多くのタスクを求めずにアタッキングサードにフォーカスした方が効くというマルチロールへの適性の低さ、そしてなかなか上がってこない攻守の強度のダブルパンチはアルテタの判断を十分に正当化するものだと個人的には思う。

 味方と細かいタッチでつながりながらボックスの中に入っていく動きはシーズン終盤に見えてきたので、もう一花咲かせる下地は十分に整ったように思える。その花を咲かせる庭がどうやらエミレーツにならなさそうなのは残念であるが、再び激戦のイングランド代表の中盤に返り咲けるような活躍を来季は期待したい。

ジョルジーニョ

欠点を隠して整えるベテラン

 冬に加入し、あっという間にアーセナルファンの心を掴んだジョルジーニョ。今年も期待されるロールをきっちりとスポットで果たす頼れるベテラン枠として十分な働きを見せたシーズンとなった。

 保持における独特のテンポは相変わらず今季も高いクオリティ。特にサイドからボールを受けて前の選手にダイレクトで落とすパスは世界で一番うまいのではないかと思う。普通、縦に大きく進めるパスは通すことを優先するために、受け手が多少苦しくても速いスピードで出すのだが、ジョルジーニョは相手のバックスの逆を取るタイミングで置くようなパスを出すので、受け手が次のアクションに移行しやすい。ジョルジーニョ絡みのボールが得点やチャンスにつながりやすいのはこうしたスタッツに残りにくいパスのスキルゆえだろう。

 このパスを駆使して、特に右サイドの後方支援役として大車輪の活躍。ひとたび相手に置いていかれてしまったら、追いつかないけども懸命に走るという抵抗しかできない通り、クローズドで試合を進めなければいけないという前提はある。だが、リバプールやシティ相手に大穴にならないくらいには今のアーセナルはチームとして制御が効くので問題はない。ジョルジーニョをうまく活用できるというのはある意味チームがうまく回っているかのバロメーターになると思う。

 カラフィオーリをアルテタに推薦するという報道があったり、ヌワネリを使ったらどうかおじさんになったりなど、ピッチ外でも経験豊富な兄貴としての振る舞いを存分に発揮。チェフ、ダビド・ルイスといったチェルシー産のベテランの系譜を次いで、ジョルジーニョもまたアーセナルで大きな貢献を果たしている。

ファビオ・ヴィエイラ

まずは負傷前のフェーズにたどり着くところから

 突如としてポルトからサイレントでやってきた試運転期間を経て、23-24シーズンは本格稼働と位置付けられたシーズン。序盤戦の手ごたえは悪くないスタート。ジャカがいなくなったIHの定位置争いに名乗りを上げて、正確無比な左足とポケット侵入を武器で有力候補としてハイパフォーマンスを続けていた。

 しかしながら、流れを変えてしまったのは11月のバーンリー戦の一発退場。これにより3試合出場停止を受けてしまう。しかも、これまたサイレントで負傷を負っていることが判明。はじめは「出場停止だからちょうどよかったね。ゆっくり治してね。」くらいで構えていたのだが、あれよあれよという間に離脱が長引いてしまい、結局シーズンの半分以上を棒に振ってしまうこととなった。

 ノースロンドンダービーを見る限り昨季のヴィエイラの到達点は「強度の高いゲームでも輝くことはできるが、30分を過ぎるとついていけなくなってくる場面が出てくる」という感じ。特に守備面では長い時間プレーすると、強度が落ちてしまうのはいい時期でも見られた課題である。

 とはいえ、24-25はこの課題はいったん棚上げで問題ない。ゲーム体力は気にせずにまずは瞬間的なクオリティを上げることを目指したい。限られた時間でまず価値を示せなければ、どちらにしろこのチームで長いプレータイムはもらえない。時間は短くても構わないので左足を得点に結びつけることから逆算したプレーできっちり存在感を出してもらいたい。

 今のアーセナルのWGは外に張る必要が必ずしもないので、IHはもちろんのこと右のWGでも勝負はできるだろう。これだけ声高に補強が求められているサカ不在時の右WGに関しては、ヴィエイラは解決策になる可能性を秘めている一人。冬に誰もこのポジションの補強の話をしていなかったら、勝負の3年目はいいスタートを切れたということになるだろう。

モハメド・エルネニー

ヴェンゲルチルドレンとのさよなら 

 大怪我をした直後の契約延長で信頼を示したが、やはりその間に進化したチームについていくのはさすがにしんどそうではあった。トーマス復帰後はベンチに入ることもままならず、セドリックと共にメンバー外になることもしばしば。リハビリ後も試合に絡むという意味では苦しいシーズンとなった。

 ここ数年のアーセナルではクローザーとして使われることが多かった選手だが、まだまだ老け込むような年齢ではない。ヴェンゲル政権を経験した最後のトップチーム選手となったエルネニーのこれまでの多大な貢献に感謝して、新天地での活躍を祈りたい。

カイ・ハヴァーツ

パフォーマンスで雑音を振り払う「新しいジャカ」

 シーズン序盤戦はゴールに直結するプレーの少なさとチーム自体が昨季からクローズドな戦いを志向していたこともあり、「新しいジャカ」としてやり玉に挙げられることが多かった。

 だが、実際のところはシーズン序盤から貢献度は高かったように思う。特筆すべきは非保持での貢献度だ。アーセナルの左IHは非保持時には4-4-2の中盤CHを務めることが多く、ここがシーズン前から囁かれていたハヴァーツIHチャレンジにおけるネックとなると思っていた。

 しかし、フタを開けてみれば守備の強度は高く、なんの問題にもならなかった。非保持でこれだけ高いクオリティを見せれば、今のチームであればチャンスは与えられるというのはいかにもアルテタらしい。

 IHをやる上でのもう1つの懸念点は前を向いた時の推進力。最前線で相手を背負ったり、左右に流れたりする形は割とチェルシーやレバークーゼンの時代から見られていたが、中盤から前線にキャッチアップするような攻撃参加はあまりイメージができなかった。

 この部分は正直シーズン序盤から物足りないところはあった。特にボールを持った時の推進力の低さはカウンターでのスピードダウンを誘発してしまっていた。

 しかしながら、シーズンが進むにつれてこうした懸念はパフォーマンスで吹き飛ばされるようになる。IHからボックスに侵入する形でファーサイドでのクロスのターゲットとしての価値を示すようになってから、プレーには徐々に余裕が出てくるように。

 シーズン終盤はCFもこなすなど、大車輪の活躍。なくてはならない存在になるのにジャカほどの時間はかからなかった。もっとも、CFとしてはすでにアーセナル加入以前のキャリアで結果を残していくので、これくらいは彼からすれば造作もないことだろう。

 ハイプレスとリトリートの両刀で活躍できるというアーセナルの前線でレギュラーを張るための基本スペックを高い次元で持っており、特にビッグマッチではその強度は折り紙付き。一発で決め切るスコアリングの化け物具合は持っていない選手なので、その辺りに目をつぶって彼を一番前に置く形が増えるのか、あるいはそこを補える選手を連れてくるのか。いずれにしても使い勝手の幅が広いハヴァーツが来季もアーセナルの重要人物になることは間違いないだろう。ふさわしくない悪評をあっという間に振り払ったところからも彼は「新しいジャカ」なのかもしれない。

デクラン・ライス

誉め言葉となった「1億ポンドの男」 

 ひとことで言えば圧巻のシーズンだった。ウェストハムとの長い綱引きの末にかかった移籍金を称して「1億ポンドの男」というフレーズがついた。

 ニコラ・ペペの例を挙げればわかる通り、こうした移籍金を絡めたフレーズは通常は嘲笑のためであることが多い。ライスのすごさは「1億ポンド」という移籍金が彼の価値を正当に(あるいは本来の価値はもっと高い)と評価した誉め言葉として機能していることである。これだけの移籍金をかけた選手がその価値を問われることなく新シーズンを走り切ったというのは非常に稀有な例だろう。ビッグクラブ初挑戦となればなおさらである。

 何よりもまず特筆すべきはピッチに影響を与えられる範囲の広大さである。ハイプレスもDFラインのプロテクトも組み立ても得点に関わるプロセスも同時に高い水準でこなせるのが素晴らしい。

 その分、従来のアンカーよりも大きく動くのが特徴。だが、アーセナルはSBが絞りながら枚数調整が可能なチームなので、むしろ大きく動くライスの特徴を逆手に取り、相手のプレスの狙いを絞りにくくすることでビルドアップの色付けをすることができていた。

 特に終盤の時間帯のキャリーは別格。陣地回復という意味でも得点につながるという意味でも効果的なストライドの大きいドリブルを時間帯に関係なく繰り出すことができる。ミドルシュートも含めて完全にアーセナルの中盤に足りないものをもたらしている。CKのキッカーとしてセットプレーの旗手となるところまでは完全に想定外。文字通り、大車輪の活躍を見せた1年間だった。今季のプレミアのCHは間違いなくライスとロドリの双璧だ。

 ウェストハム時代から鉄人といわれている通り、使い減りもほぼ感じない選手であるが、さすがにフル稼働で最後まで戦ったEUROを挟んだ来季はどうなるだろうか。6番か8番かという起用方法も含めて、1億ポンドの男の来シーズンにも目が離せない。

イーサン・ヌワネリ

コンスタントなベンチ入りが当面の目標

 シニア選手も含め、アカデミー出身の選手には厳しい情勢が続く昨今のアーセナル。そうした中でルイス=スケリーと共にトップチーム入りに最も近い存在なのがヌワネリである。今季はヌワネリ出しましょうよおじさんことジョルジーニョの推薦もあり、リーグ戦でのデビューを飾ることに成功。わずかなプレータイムでもファンにもっとプレーを見たいと思わせるインパクトを残すことができた。 

 当面の目標はトップチームでのコンスタントなベンチ入りと展開次第でプレータイムを重ねることだろう。まずはプレシーズンはいいスタートを切った様子。昨季で言えばシティのボブくらいの稼働ができればまずは上々ではないだろうか。

FW

ブカヨ・サカ

波がありながらも凄みを増したシーズンに

 昨シーズンより不調不調といわれながらも、結局はシーズンをほぼ完走。離脱をスポット的なものに留めつつ、1年を戦いきったシーズンだった。

 指摘の通り、昨季に比べると消える時間がある試合もあったが、その分存在感を発揮している時間の凄みは増した印象。一振りで試合を決めるとまではいかないが、大きな試合でも間違いなく攻撃を託すことができる存在になっている。 

 当然対面のマークはきついが、正対せずとも横のドリブルを生かしながら次の選択肢を模索できるのが大きな強み。あとはダブルチームに来る相手に対する対策をテンプレ化すればさらに強力なWGになる。間を割るのか、マイナスや裏を使うのかをチームメイトと共有しながら、サカにダブルチームが来るという状況をより活用できるようにしたい。

 更なる得点をサカに求める声もある。よりスコアリングにフォーカスするためには、大外でのタスクは減らす必要があるだろう。WGというベースのポジションを変えろというつもりはないが、IHやCFとのレーンの入れ替えやSBの大外レーン活用の頻度アップなど、サカの大外に頼らない右サイドの幅取りのスキーム開発が求められる。先に挙げたダブルチーム活用とは真逆の方向性だが、特に今季ストライカーを補強しないのであれば、こうしたことに手を付ける必要性は高まるだろう。

 こうした攻撃における高い貢献を果たしながらも非保持でも自陣に戻っての守備をこなすことができることが今のサカの強みである。余計なお世話ではあるけども、攻守に強度の高いタスクはサッカー選手としての寿命を縮めていないか心配になることがある。どこかでもう少し守備をサボっても問題のないスタイルに転換する必要があるかもしれない。

 ライスと同じくEUROをフルタイムで戦ってからの合流となる。序盤戦のコンディションには目をつぶりたいところ。だが、ご承知の通り、今季のアーセナルの序盤戦は厳しい相手が続く。大幅なプレータイムの軽減は正直見込めないと思うので、戦いながらどこかで一息入れて、後半戦にギアアップするシーズンにしてほしい。

ガブリエル・ジェズス

 負傷に苦しむもタイトルをとってきた威光は健在

 守備での堅実な貢献、前線の崩しの起点としての働き、そして少しまとまった期間の離脱、試合を決める決定機を逃す悲しげな顔。今季もジェズスはコンスタントにいつものシーズンを過ごしたといっていいだろう。

 同期入団のジンチェンコとは異なり、チームのスタイルに溶け込んで忠実に任務を遂行するソルジャータイプなので、起用時のリスクはとても少ない。特にハイプレスでの貢献は顕著であり、ハヴァーツと彼のどちらも前にいない場合はチームのプレスでの圧力は目に見えて低下する。

 シティ時代の経験値を生かしてなのか、アーセナルとしては久々の復帰となったCLではスコアリングのところでも頼れるところを発揮。ハヴァーツやジョルジーニョもそうだが、こうしたゲームにアワアワすることなく溶け込むことができる選手にはやはりタイトルをとってきた人たちなんだなと敬意を払いたくなる。

 もう1つ今季印象的だったのはシティ戦における右サイド起用。サカ不在時のスクランブルオプションだったが、グバルディオル相手に背負って収めての大立ち回りを見せることでサカとは異なる形で右サイドの起点として君臨した。この右サイドでのパフォーマンスを見ると、ヴィエイラと同じく彼もまたサカ不在時のWGとして解決策になりうるポテンシャルを秘めているように思える。

 やはり気がかりなのは膝だろう。オフは手術に踏み切ると言ったり、一転して踏み切らないと言ったり、結局のところどこに着地したのかはよくわかっていないが、この膝の怪我がキャリアの足を引っ張っていることは確かなので、なんとかいい解決策を見つけて開幕を迎えたいところだ。

ガブリエル・マルティネッリ

裂傷でリズムが一変した後半戦

 序盤戦は悪くはないシーズンだった。馬力のある左サイドでのプレーは手堅く進めがちなシーズン序盤のアーセナルにとっては貴重。逆サイドのサカと共に貴重な攻撃手段として機能。シティ戦では長年の悪夢を打ち破る決勝点を決めるなど、重要な場面で仕事をすることができていた。

 しかしながら、シェフィールド・ユナイテッド戦の裂傷で負傷欠場を余儀なくされる。裂傷であればすぐに戻ってこられるかなと勝手に高を括っていたが、1ヵ月ほど離脱を挟むとそこからコンディションが戻らないままシーズンを終えてしまった。

 負傷後に気になったプレーとしてはなかなか自身のプレーを完結させられなかったところだろうか。マルティネッリのプレーの良さは強引でもそのプレーを終わらせる力強さがあるところである。シュートが決まらないとかパスがズレるとかはあるにせよやり切れるのが彼のプレーの真骨頂だ。負傷後はそうした強引さが消えてしまい、ボールをこねている間にコントロールが乱れてしまったり、相手にカットされたりして割と手前の段階でのロストが増えていた。

 仮説ではあるが、終盤にちらほら見られた右のWGの起用の理由の1つはこの攻撃を完結させる能力のリハビリかもしれない。右サイドから縦に進んでのクロスであれば、対面の相手と遠い方に利き足を置くことができるし、ゴールは狙いにくくなれど、クロスから次の人にミスなくつなぐこともできたりする。

 自身のパフォーマンスやその間にレギュラーポジションを奪取したトロサールの出来を考えれば、レギュラーポジションを落としてしまったのは致し方がない。しかしながら、押し込まれる展開で少ない手数で陣地回復をするためにはサイドでターゲットになることができる彼の存在は貴重。展開的にもアストンビラ戦やCLのバイエルン戦を始めとして、彼を頼りにしたい試合は多かった。

 来季の目標は再びチームにとって重要な役割を果たすことになるだろう。マルティネッリがきっちりと攻撃を完結させる強引さを取り戻すことは来季の覇権獲得に対する大きな後押しになる。

エディ・エンケティア

短い時間で迷いが深まる悪循環にハマる

 飛躍が期待されるシーズンになるはずだった14番だったが、今季は失意のシーズンだったといっていいだろう。開幕戦はスターターとしてゴールを挙げ、10節にはブレイズ相手にハットトリックを達成。この時点でプレミアのキャリアハイの5得点ということで自己新記録は間違いないだろう!と誰もが確信したはず。しかしながら、残りの28試合のリーグ戦では一度もネットを揺らすことなく、2桁ゴールには全く届かなかった。

 やはり、途中交代から起爆剤になれない性質がつらいところ。ベンチから出てくる機会は少なくない選手なのだが、2021年以降の3年半で途中出場からゴールを決めたのは2つだけ。どちらもフラムが相手の試合というのは何の因果だろうか。

 得点に関与せずとも貢献するストライカーもいるが、エンケティアに関しては割とフィニッシュ専門職寄りなので、数字がついてこないと苦しい。オンザボールの動き出しは迷いながらという感じで消えてしまう試合は珍しくない。以前は2トップ的な使われ方をすればサイドに流れながら内側にスペースを作る余裕もあったが、今季はそうした動きもめっきり減少。

 守備もさぼっているわけではないのだが、ジェズスやハヴァーツはもちろんのこと、トロサールと比べてもスイッチを入れるところできっかけを見失っている感がある。そして、慌てて寄せてファウルを犯してしまうなど、クリーンに奪いきれないことも多い。

 序列が下がり、プレータイムが少なくなり、その分混乱が進んでいくという悪循環に完全にハマってしまった感がある今シーズン。去就に関しては比較的噂が多い選手だが、仮に残留するとすれば、まずはどこで勝負するのかの武器を確立したいところ。

 アーセナルはCFが前進に関与せずとも何とかなる試合も結構あるので、やはりボックス内で勝負するのが最適なように思える。フィニッシュから逆算された動き出しで短い時間でも活躍できるところから勝負をしたいところではある。

レアンドロ・トロサール

決定力に隠れた成長ポイント

 貴重な前線のマルチロールとして通年の稼働に成功。途中交代でもスターターでもコンスタントに得点を重ねるヒットマンぶりはチーム内での追随を許さず、アシストマシンと化していた前年とは異なる形で得点に関与し続けた。

 決定力で勝負できる選手は少ないので、トロサールはそれだけで差別化を図れているといえるだろう。ポルト戦のような堅い展開をワンチャンスで動かせるのはそれだけで貴重。できれば、ビラ戦も決めてほしかったというのは求めるハードルがそもそも高いトロサールだからこそできる注文でもある。

 中でも横にドリブルしながらコースを作って、左右の隅に流し込む形は得点のテンプレ化。前が空くまでキャンセルを繰り返してシュートコースを強引に作ってみせてゴールまでの道筋も自ら整えることができる。

 マルチ性能も魅力の1つ。CFとして機能するかは相手を選ぶ感じ。上下動に揺さぶってほころびが出るマンツー気味の相手であれば割と機能はする一方で、スペース圧縮を念頭に置いてくるコンパクトなブロックを組んでくる相手には何もできることがなくなってしまう。個人的にはもう少し右サイド起用は見たい。エンド付近からのマイナスのクロスは精度も含めてかなり効くと思うのだけども。

 得点もさることながら、個人的にはそれ以外のところにも触れておきたい。さすがにジェズスとハヴァーツには及ばないものの、プレスやリトリートにおける守備貢献では悪い意味で気になるケースがぐっと減った。

 シーズン途中、特にIHに起用されている時は相手を背負いながら降りてきた後の強引なターンでロストを誘発し、自陣側で危険なカウンターを食らうこともしばしばだった。だが、これもシーズンを追うごとに改善。マルティネッリとの序列変化はスコアリングだけでなく、こうした目立ちにくい部分のベースアップも大いに関係していると思う。

 少ない時間で違いを出せる前線の貴重なカードとして来年もコンスタントな活躍が期待できるだろう。年齢としては徐々にベテランの域に入りつつあるが、まだまだフレッシュな活躍が見込めるはずだ。

リース・ネルソン

ワイドの1on1で勝負するほかなかったが・・・

 スミス・ロウ、エンケティアと共に苦しみながらシーズンを終えてしまったヘイルエンド3兄弟の一員であった。左右のワイドをこなすことができるという特性は非常に貴重なものではあるが、瞬間的に輝きを放ちながらも長続きしなかったここ数年と比較してもさらに低調なシーズンだったといえるだろう。

 外に張って、拮抗した展開を何とかしましょう!というのは確かにそもそもの注文としてかなりハードルが高いのは確かである。現代において、1枚剥がせるもしくは2枚引き付けられるWGというのは相当貴重な代物であることは間違いない。

 しかしながら、前にプレスに出て行けなかったり、サイズ的に恵まれているわけでもなかったりのネルソンは厳しいワイドでのジョーカー枠で勝負するしかなかった。個人的には一振りで退団やむなしの雰囲気を変えてくれる会心のパフォーマンスを期待はしていたのだけども、最終盤のサカの欠場でプレータイムがめぐってこない立ち位置になってしまったのは切ないところである。

 年齢的にももう若手ではないので、プレータイムを重ねながら自分を高められる環境に身を置くタイミングになるのかもしれない。怪我も少なくない選手なので、来季どこでプレーするにせよ、乗ってきたタイミングで離脱という展開は避けたいところではある。

終わり!

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