笑顔と涙を消し去ったディオゴ・コスタ
直前の時間の勝者であるフランスとの挑戦権を賭けた一戦である。立ち上がりにペースを掴んだのはグループFの首位通過を果たしたポルトガル。メンデスを最終ラインに残し、カンセロを解放する左右非対称の形からスロベニアの4-4-2ブロックを揺さぶっていく。
スロベニアの4-4-2は人基準が強め。低い位置にとどまるメンデスに対してはストヤノビッチが出ていくなどプレスへの意識はそれなりにあった。
ポルトガルの攻撃の主なルートは右サイド。ブルーノ、カンセロ、ベルナルド、ヴィチーニャといったフリーダム系の選手たちが集合。人の基準を失ったスロベニアは押し込まれるフェーズに入る。
右サイド、特にケアの甘くなる大外からクロスを入れるポルトガル。ベルナルドのインスイングのクロスや、ブルーノのマイナスからのアーリーめのクロスをなどからボックス内に迫る。だが、ファーに待ち構えるロナウドはなかなかドルクシッチ相手に壊すことはできず。単純な競り合いではなかなかアドバンテージが取れないのは切ない。ちなみに左サイドはシンプルにレオンとメンデスの突撃からクロスを上げる形である。
仕上げがあまりなポルトガルだが、非保持ではきっちりと即時奪回で押し込むことを継続。スロベニアは逃げ出すことができず、一方的なポルトガルペースと言える立ち上がりだっただろう。
前線への長いレンジのパスが攻撃の起点にならないスロベニア。ロングボールが収まらず、苦戦するスロベニアの2トップ。CB相手だと分が悪いということで、左右に流れてボールを受けるという工夫はいかにもスロベニアらしい。メンデス周辺を狙い撃ちにして行ったスロベニアは少しずつ押し返すチャンスも出てくるように。
ロナウドがちっとも仕上がらないポルトガルは徐々にサイドでのロストに雑さが見えてくる。こうなるとポルトガルのDFラインの押し上げが遅れる分、トランジッションからシェシュコが中央で収まるように。どうにもならなかった前半の最後にスロベニアの希望の光が灯ったところで試合はハーフタイムを迎える。
迎えた後半、互いに敵陣に入り込む積極的な立ち上がりとなった。ポルトガルで存在感を発揮したのは右の大外からボックスに入り込んでいくカンセロ。エンドライン側から切り込むような侵入で、スロベニア陣内に攻め込んでいく。
しかしながら、終点となるべきロナウドは相変わらずボックス内に競り勝つことができず。仕上げのクオリティが上がらないポルトガルはゴールに手をかけることができない。
一方のスロベニアもカウンターに出ていく頻度を上げることはできずに苦戦。右サイドのサポートに出てくるディアスの背後を取ることができても、最後の砦として君臨するぺぺの牙城を崩せない展開が続く。
前線の選手を入れ替える余裕があったのはポルトガルだったが、ジョッタはロナウドの引力を利用することができず、コンセイソンはサイドで風穴を開けられないまま停滞。ジョーカーが本来の力を発揮できず、試合は延長戦に突入する。
延長でも展開は重たいままだった。ポルトガルは4-3-3にシフトするが、左偏重の構造が効果的だったかは怪しかったし、ロナウドにまつわる「終点」問題も未解決。スロベニアはカンセロのミスに漬け込んでボックスに入り込むが、これを止められてしまいこちらもゴールを掴むことはできなかった。
そうした中で絶好のチャンスを迎えたのはポルトガル。ジョッタのボックス内の突撃に対してドルクシッチがたまらずPKを献上。先制のまたとない機会を得るが、ロナウドのPKはオブラクがストップ。ロナウドが見せた涙も相まって試合は完全にスロベニアの空気感に。延長後半のシェシュコの決定機こそコスタに止められるが、スロベニアのサポーターはPK戦での勝利を確信するかのような表情で延長戦終了のホイッスルを聴いていた。
しかし、そのスロベニアサポーターの笑顔はコスタによって一瞬で消し去られることとなる。イリチッチの一本目のPKを完璧にシャットアウトし、ロナウドに素晴らしいリベンジの舞台を用意。オブラクにロナウドがリベンジを果たした時点でこのPK戦の結末は見えてしまったといっていいだろう。
さらに2つのPKをストップしたコスタ。ロナウドの涙とスロベニアのサポーターの笑顔を消し去ったコスタの大活躍により、ポルトガルは3-0のPK戦でのストレート勝利を達成。劇的な結末でベスト8の切符を手にした。
ひとこと
1つのセーブで流れを引き寄せるGKの恐ろしさを痛感した試合だった。
試合結果
2024.7.1
EURO 2024
Round 16
ポルトガル 0-0(PK:3-0) スロベニア
シュツットガルト・アレナ
主審:ダニエレ・オルサト