①エバートン【4位】×ウェストハム【10位】
■ギアチェンジに成功したのは
シーズン序盤戦は旋風を巻き起こしたエバートン。連勝が止まってからの失速からはうまく回復したが、どちらかと言えば対症療法的なマンマーク主体の粘り強い守り方でなんとかしている印象。やはり開幕時と比べると入れ替わった前線+SBの影響は大きいのだろうか。
一方のウェストハムもアントニオの離脱の影響は否めない。前線で個人の起点になれていた彼の不在で2列目のアタッカーの躍動感はやや失われてしまったように思える。
そんな両チームの懸念がもろに出たような試合の展開だった。全体的にまったりとした流れでどちらもチャンス構築には至れない。エバートンは大きな展開がなく、同サイドでの打開に終始。そこの精度もなかなかついてこない。ウェストハムも前線で起点ができないまま攻める機会を得ることができず。両軍通じて初めての枠内シュートが45分のベルナルドのミドルというのは拙攻続きのこの試合を如実に表してると思う。逆にプレッシングにおいても相手を罠にハメるわけでもなく、そこそこはボールの持ち運びを許す。
後半になると共に主力を投入する両指揮官。ハメス、アントニオという戦術上のキーマンが後半に登場する。より効果があったように見えたのはアントニオ。前線の2列目の攻め上がりを促したり、自身も裏をとることでエバートン相手に攻めの機会を増やしていく。
そのおかげかどうかはわからないが、決勝点はウェストハムに。クレスウェルの速いシュート性のボールの跳ね返りがソーチェクの足元に。めっちゃ点とるな。拙攻の両チームだったが、最後に勝利を掴んだのはウェストハムだった。
試合結果
エバートン 0-1 ウェストハム
グディソン・パーク
【得点者】
WHU:86′ ソーチェク
主審:ケビン・フレンド
②マンチェスター・ユナイテッド【2位】×アストンビラ【5位】
■影の立役者の貧乏くじ
「年末年始で一番好調なチームはどこだったか?」と聞かれたら自分はマンチェスター・ユナイテッドと答えるだろう。個々人のコンディションもいいのは間違いない。ラッシュフォードとかブルーノ・フェルナンデスが目立つのはよくわかるのだが、個人的にユナイテッド向上において違いを感じるのはマルシャル。使われる方ではなく味方を使う方としても徐々にチームの力になっている。
そしてボールを出すタイミングやスペースに走りこむタイミングという意味で存在感を出しているのがSB。ショウ、ワン=ビサカの空いているスペースに入り込むタイミングのいいフリーランはユナイテッドの前進をとても助けている。先制点はワン=ビサカのオーバーラップを起点としたもの。攻撃参加で存在感を見せるワン=ビサカの姿は新鮮だった。
機会こそユナイテッドほど多くはないものの、アストンビラも調子はよさそう。2列目の好調さはこちらのチームも同様。グリーリッシュのワンマンチームではなく、攻撃においては徐々に複数の武器を持つチームに進んでいる印象である。
同点ゴールはクイックリスタートから。先制点の立役者であるワン=ビサカを外したところからサイドを崩し、逆サイドまでの展開からトラオレがゴール。エリア内に走りこんだドウグラス・ルイスがミソ。彼が走りこんだ分、ファーのトラオレが余った形である。
そんなルイスがPKを与えてしまうのだからわからないものである。ワン=ビサカにせよ、ルイスにせよ黒子としていい働きをした選手が貧乏くじを引くという不思議なゲームであった。
試合結果
マンチェスター・ユナイテッド 2-1 アストンビラ
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:40′ マルシャル, 61′(PK) ブルーノ・フェルナンデス
AVL:58′ トラオレ
主審:マイケル・オリバー
③トッテナム【7位】×リーズ【11位】
■胸を貸しつつ得意な土俵へ
リーズのボール保持の局面を主体に試合は進んでいく。リーズ相手には撤退してブロックを敷きボールを持たせて活性を下げることが有用な対策だと思っている。しかしながら、この試合のスパーズはミドルゾーンでのプレスで構える形。リーズとしては十分に自分たちの良さで戦える舞台だった。
しかし、この日のリーズは非常にミスが目立った。動きながらスペースに顔をだしてパスをつなぎ前進するのがリーズの特徴なのだが、この日は「ここに動いているはず」と出し手が考えたパスに対して受け手が反応できないシーンはとても多かった。
逆に言えばトッテナムが上手く守っていた証左でもあるのだろう。ケインに2人のCBを監視させて、エンドンベレにフィリップスを監視させるというやり方は非常に一般的ではあると思う。そうなったときに留意したいのはCBの持ち上がり。最終ラインの余った選手の持ち上がりにどう対応するか?が課題なのだが、ここへの対応が上手かったスパーズ。
エンドンベレがフィリップスを捨てて出ていくタイミングが絶妙で、後方のホイビュアとウィンクスもカバーに備えた守り方を敢行。リーズのミスを誘ったのは彼らの時間を与えない守備かもしれない。
ミスを誘ってしまえば、あとは得意なトランジッションのスタイルで仕留めるだけ。相手の舞台で胸を貸してミスを誘った後は自分たちの土俵でしっかり叩く。格上の貫禄を出したスパーズの完勝といっていい試合だろう。
試合結果
トッテナム 3-0 リーズ
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:29′ ケイン, 43′ ソン, 50′ アルデルワイレルド
主審:デビット・クーテ
④クリスタル・パレス【15位】×シェフィールド・ユナイテッド【20位】
■トンネルは続く
直近3試合で11失点。クリスタル・パレスは年末年始に苦しい時期を迎えていた。しかしながら、年内未勝利というより重たい十字架を背負ったシェフィールド・ユナイテッドに比べれば、その苦しみもまだマシといえそうである。
いまだに不発が続くブレイズの前線にとっては、この試合の得点シーンにおいて独力で守備を破壊して見せたエゼやザハの存在はうらやましいはずである。マクゴールドリックが降りて受ける動きは見せるものの、そこからの打開策が見えないブレイズに比べれば一発がある分だけ十分にうらやましい。
うまくいかない時はビルドアップにも難が出る。最終ラインから内側へのパスがことごとくカットされてショートカウンターの餌食になる。攻め手がなければ、勝ちへの道筋はどうやっても見えてこないのが正直なところだろう。明るい話題は16歳のハックフォードに出場機会を与えたことくらいだろうか。
一方のクリスタル・パレスも久しぶりの勝利だったが、一抹の不安も。シュラップとベンテケの負傷交代はスカッドにとっては大きな気がかりだ。特に前者は当面の離脱が判明。マルチロールとしてチームを支えてきたシュラップの離脱は勝利に一筋の暗い影を落とした。
試合結果
クリスタル・パレス 2-0 シェフィールド・ユナイテッド
セルハースト・パーク
【得点者】
CRY:4’ シュラップ, 45+6′ エゼ
主審:スチュアート・アットウィル
⑤ブライトン【16位】×ウォルバーハンプトン【12位】
■一発あたりも逃げ切りも勝ちには結び付かず
ボール保持に長けているブライトン相手にある程度ボール保持を許す構えを見せたウルブス。ライン間をある程度締めて中盤の交代させるやり方を選択した。トップのシルバとトップ下のヴィチーニャの2人に対してはブライトンがだいぶ優位にボール運びを進めることができる。
ヴィチーニャはサボっていたわけではないのだけども、ここでどちらのサイドに誘導するかという意志を見せられなかったので、ウルブスの守備陣がサイドへの圧縮が後追いになってしまった。そういうわけでブライトンのビルドアップはある程度ウルブス相手に時間を作ることができた。
ウルブスは撤退の意識は強めだったので、ブライトンがどう重心を崩してフィニッシュワークまで持っていけるかがカギになる。彼らにしては珍しく初めてに近い崩しで先制点を取れたのがこの試合だった。ウェブスターの持ちあがり+トロサールの無限切り返しの末にコノリーが先制ゴール。トロサールの最後のクロスは超上質だった。
一発目であたりを引いたブライトンだが、その後立て続けに失点。まずはセットプレーの流れから拙い対応で再度クロスを許してしまうとまずはそこから同点。2失点目はネトを呪うくらいしかブライトンにできることはなかった。
3失点目はずっと前に出ることでスピード不足を隠すようにトラオレに高い位置で食い止めていたバーン。自陣深い位置で正対した途端、振り切られてPKを与えるというのはもはや無常さすら感じる。
後半頭はセットプレーからブライトンがひとまず差し返すところから。保持の時間を増やしていくブライトンに対してウルブスは5-4-1シフトで対抗する。その結果、ビルドアップ隊にさらに余裕で運ぶ機会が増えたブライトン。増えた機会からセットプレーから失点するウルブスであった。
どちらも攻撃に目を向ければいい試合だったように思う。ただ、ブライトンはせっかくの先制点が勝ちに結び付かず、ウルブスは逃げ切り策には失敗した。両チームともに二転三転する動きをうまくつかめなかったように思う。そういう意味では双方悔しかった試合といえるのかもしれない。
試合結果
ブライトン 3-3 ウォルバーハンプトン
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRI:13′ コノリー,46′(PK) モペイ, 70′ ダンク
WOL:19′ サイス, 34′ バーン(OG), 44′(PK) ネベス
主審:クリス・カバナフ
⑥ウェストブロム【19位】×アーセナル【13位】
■組み合いを一蹴、大勝で連戦を締める
連勝中のアーセナルは押し切るしかない一方、出ていったり引きこもったりのウェストブロムはビックサムがどのような戦術をとるかが問われる一戦。選んだのは組み合って戦うことだった。
この組み合うというやり方はアーセナルにとってはやりやすい戦い方だったように思う。アーセナルもプレスをハメきれずに前進を許してしまうことがあったものの、突破した後の対応においては断然ウェストブロムの方が危うい。
1得点目は4バックの大外からのサイドの対人対応の危うさと、近くの選手が抜かれた時のカバーリングの拙さというウェストブロムの怪しいところが一気に出てしまった形。強気のマンマーク故のスペース管理の甘さが顕在化してしまった。2得点目のアーセナルの美しいゴールにおいても人にはいくものの、アーセナルの選手たちは自由にパスワークができる余裕を享受できていた。
後半に前に出てくるようになると試合はさらにアーセナルペースに。一面雪のピッチの中で、雪が取り除かれたPAまでボールを運んだアーセナルが追加点を次々に重ねる。今季初のリーグ戦4得点。アーセナルが大勝で連戦を締めることに成功した。
試合結果
ウェストブロム 0-4 アーセナル
ザ・ホーソンズ
【得点者】
ARS: 23′ ティアニー, 28′ サカ, 61′ 64′ ラカゼット
主審:マーティン・アトキンソン
⑦ニューカッスル【14位】×レスター【3位】
■対応力こそ真骨頂
想像通り、レスター保持の展開で進んだゲームではあった。ただ、それよりも前半はゲーム全体のテンポの悪さがやたら目についた試合だった。とにかく止まる頻度が多い。ある程度は仕方ない部分はあるものの、タックルで痛むシーンが頻発。両チームともうまくブレーキが掛けられないのだろうか?とか思ってしまった。
あとは主審のポジショニング。ボールが主審に当たるシーンも前半だけで2,3回。これではスムーズなゲーム展開に貢献したというのは難しいだろう。
後半になると徐々に内容が先立つ展開になってくる。変化の姿勢を見せたのはニューカッスル。ボール保持の比率を高めつつ、最終ラインからのシェアの大きな展開でレスターの守備陣を揺さぶり始める。
しかし、どういう展開にも対応できるのが今のレスターの強み。前に出てきたニューカッスル相手にこれはチャンスといわんばかりにカウンターを仕掛ける。
1点目はヴァーディが流れることでバイタルを掃除。ここに入り込んだマディソンが仕上げる形で生まれた。2点目はシェルビーが安易に前に出ていってしまったことで、空いたスペースにティーレマンスに入り込まれてしまっている。ニューカッスル相手にブロック守備を組まれたなら、CHを動かして、バイタルをこじ開けられるイメージを持てるかが重要と依然どこかで話したが、この場面ではカウンターからそういう状況をレスターが作り出したといっていいだろう。
ニューカッスルはセットプレーからキャロルが1点ぶち込むので一杯。リズムを変えようとした保持の部分でレスターの対応力が上回り、結果の差になったように思う。
試合結果
ニューカッスル 1-2 レスター
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:82′ キャロル
LEI:55’ マディソン, 72′ ティーレマンス
主審:ロベルト・ジョーンズ
⑧チェルシー【6位】×マンチェスター・シティ【8位】
■間違いなく『今季ベスト』、本来の試合運びで上昇気流に乗れるか
シーズンを半分折り返したところでようやくマンチェスター・シティの今季ベストゲームが出てきたといった印象である。
立ち上がりこそチェルシーの勢いのあるプレスに苦戦。特にGKのステッフェンは慌ててバックパスを手でキャッチしてしまう場面も起きてしまうほど。逆にチェルシーの強気のプレスは経験の浅い相手GKの存在が前提かもしれない。
しかし、15分でチェルシーのプレスに慣れてからは試合はシティの独壇場に。特にロドリの降りる動きに対する対応が悩ましかったチェルシー。これにインサイドハーフが釣られてしまうと、彼に代わって1列前に入るカンセロや縦横無尽に動き回るベルナルドを捕まえることができなくなってしまう。
この仕組みでシティは簡単に前進ができるように。1stプレスをかわしてからはチェルシーの陣形はだいぶ間延びしているので、シティの攻め手は自由自在。カンセロから縦に入り込める時はその選択肢を優先。難しい時は逆サイドまで横断。ジエクの後ろ、アスピリクエタの前のスペースに入った選手(フォーデンかジンチェンコが多い)からのクロスで勝負する。
この局面においてはエリア内にはこの日CFロールだったデ・ブライネだけでなく、ワイドが初期ポジションのフォーデンやスターリング、そしてIHのギュンドアンもクロスに飛び込む役割。一気になだれ込むシティの選手たちにチェルシーのDF陣は完全にフリーズしてしまっていた。
1つのズレをトリガーに完全に相手を手玉に取ったシティ。これこそ今季鳴りを潜めていた彼ららしい試合運びである。チェルシーの反撃を後半追加タイムの1点にとどめた完勝。ここから一気にリズムに乗っていくのだろうか。
試合結果
チェルシー 1-3 マンチェスター・シティ
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:90+2′ ハドソン=オドイ
Man City:18′ ギュンドアン, 21′ フォーデン, 34′ デ・ブライネ
主審:アンソニー・テイラー
⑨サウサンプトン【9位】×リバプール【1位】
■刺さる飛び道具、ひっこめざるを得なかった飛び道具
ボール保持から始まる攻撃に安定感はあるものの、直近では楔+裏抜けの頻度低下でやや決め手に欠けていた嫌いのあるサウサンプトン。彼らにはこういう時のセットプレーというもう一押しがある。ここ数試合は不発だったが、この試合では立ち上がりにいきなり火を噴く。ウォード=プラウズのFKはアレクサンダー=アーノルドの裏に抜けるイングスへ。そこからのループ。
狙っていたのはどこまでなのだろう。それ以降ももう一本同じどころへのキックを蹴っているので、おそらく場所までは設計されているはず。しかしながら、イングスのフィニッシュはエレガント。ヴェスターゴーアに合わせるいつもの剛のセットプレーとは少し異なるタイプの形で2分で先制する。
というわけでここからは4-4-2攻略に挑むリバプールとそれをロングカウンターで裏返すサウサンプトンの構図に。内側をナローに締めるサウサンプトンに対して、リバプールはチアゴを軸に左右に振り回しながらマネの突破や大外からのクロスでPAに迫る。
しかしながら、ここはサウサンプトンの粘りが強靭。SHのアームストロングとウォルコットは低い位置までの守備に戻ることができる。そこをなんとか突破したとしてもニアのボールを跳ね返しまくるCB陣がリバプールのアタッカー陣に立ちはだかる。
そうなってもファーに正確無比なボールを送れるのがリバプールのSBの強み。確かにこの日もファーに正確なクロスを送ることさえできれば好機になるシーンはあった。しかし、この日はそのクロスがピタリと決まらない。高さのないリバプールにとって、この飛び道具はブロック攻略において必須。それでなおアレクサンダー=アーノルドを交代させたということは、攻撃面での貢献がクロップの想像を下回ってしまったからだろう。
愚直な跳ね返しで大物喰いを達成したサウサンプトン。試合終了のホイッスルと同時に涙を流したハーゼンヒュットルの姿は今季のプレミアリーグのハイライトの1つになりそうな画だった。
試合結果
サウサンプトン 1-0 リバプール
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:2′ イングス
主審:アンドレ・マリナー
おしまいじゃ!!