代表メンバー
▽GK
1 ハインツ・リンドナー(サン・ジロワーズ)
12 パトリック・ペンツ(ブレンビー)
13 ニクラス・ヘドル(ラピッド・ウィーン)
▽DF
2 マキシミリアン・ベーバー(ボルシアMG)
3 ゲルノト・トラウナー(フェイエノールト)
4 ケビン・ダンソ(RCランス)
5 シュテファン・ポッシュ(ボローニャ)
14 レオポルト・ケルフェルト(ラピッド・ウィーン)
15 フィリップ・ラインハート
16 フィリップ・エムウェネ(マインツ)
21 フラビウス・ダニリウク(ザルツブルク)
▽MF
6 ニコラス・ザイボルト(ライプツィヒ)
8 アレクサンダー・プラス(ラピッド・ウィーン)
9 マルセル・ザビッツァー(ドルトムント)
10 フロリアン・グリリッチュ(ホッフェンハイム)
17 フロリアン・カインツ(ケルン)
18 ロマーノ・シュミット(ブレーメン)
19 クリストフ・バウムガルトナー(ライプツィヒ)
20 コンラッド・ライマー(バイエルン)
22 マティアス・ザイドル(ラピッド・ウィーン)
23 パトリック・ビマー(ボルフスブルク)
26 マルコ・グリュル(ラピッド・ウィーン)
▽FW
7 マルコ・アルナウトビッチ(インテル)
11 ミヒャエル・グレゴリッチュ(フライブルク)
24 アンドレアス・バイマン(WBA)
25 マクシミリアン・エントルップ(ハルトベルク)
GS 第1節 フランス戦
八面六臂のカンテが圧巻のパフォーマンス
前日にオランダが初戦勝利を挙げて順当にスタートしたグループD。本命候補のフランスがいよいよ登場する。
ポゼッションを握るかと思われたフランスだが、立ち上がりにボールを持つ機会が多かったのはオーストリアの方。ビルドアップは2CBと2CHの4人でボールを動かしていく。CHには動きの自由が与えられており、中央にとどまる形と相手の2トップ脇に立つ形とCBの間に降りる形の3つを使い分けていく。サイバルトが後方に降りる役割を担うことが多かった。
大外を託すのはSBであり、2列目は中央に絞る形となる。降りるアクションが多いところもショートパスでの繋ぐ意識の強さを感じる。オーストリアはこの中央のコンビネーションで勝負したさがあったけども、さすがにそこはフランス側の中央の強固さが目立つ。カンテ、ラビオ、ウパメカノ、サリバの中央のセクションは強力でパスをことごとくカットしていた。
オーストリアの積極策は非保持でも。高い位置からボールを追いかけていきフランスのボール保持を阻害する。そこまで収支的には悪くないなと思ったが、なんせフランスの前線にはムバッペがいる。一つのミスが一大事になるだけに冷や汗をかかされたシーンもあった。
フランスは強気のプレスに対して前線の選手のポストで対抗。楔とセットで必ずオフザボールで追い越すアクションを見せる。レシーバーが突き進むか、あるいはフリーのサイドに展開するかの二択で突き進んでいく。レシーバーとして優秀だったのはテオとラビオの2人であった。
蹴って回収というメカニズムは相当機能していたように見えたオーストリアだったが、30分を過ぎたあたりから少しずつフランスがボールを動かしていく。サリバとカンテの落ち着きがオーストリアのプレス隊に少しずつ撤退を強いるようになっていく。
すると、押し込むフェーズからフランスが先制。サイドに流れることが常態化していたムバッペの折り返しがオウンゴールを誘発。これで試合を動かす。オーストリアとしてはバウムガルトナーの決定機という前半最大のチャンスを逃した直後だっただけにダメージは大きかったことだろう。
後半、オーストリアはハイプレスを再起動。高い位置から出ていってハイプレスを行うことでフランス相手に主導権を握る。しかしながら、フランスは前半よりもゆったりとプレスを回避することに成功。この辺りの耐性はさすがである。
前半に比べてもさらにパフォーマンスを上げたなと感じたのはカンテ。出足鋭いインターセプトからカウンターの起点になったり、自陣の深い位置でのボール奪取から局面を進めるミドルパスを刺したり、プレスを自陣で回避したりなどかなり豊富な活躍。インターセプトはともかく、プレス耐性やミドルパスセンスが相当優れているのは凄まじいなという感じ。
しかしながら、フランスはカウンターからのフィニッシュ局面が安定せず。抜け出したムバッペが決めきれずなかなかフランスは試合を仕留めることができない。
オーストリアは70分以降から少しずつ足が止まってくるように。徐々にオーストリアはプレスの精度が落ちてくる。フランスも前線のプレスが強気というわけではなかったため、オーストリアは敵陣に運ぶことができていたが、カウンターでもブロック守備でもカンテの存在感は凄まじく、あらゆる攻撃をシャットアウトしてみせた。
終盤はムバッペの負傷があり次節以降に不安要素があるが、まずはオーストリア相手に手堅く1勝。オランダとの直接対決に向けて弾みをつけた。
ひとこと
ラビオ、カンテの先発からカマヴィンガとチュアメニが控えるフランスの中盤はえぐいね。
試合結果
2024.6.17
EURO 2024
グループD 第1節
オーストリア 0-1 フランス
デュッセルドルフ・アレナ
【得点者】
FRA:38‘ ウーバー(OG)
主審:ヘスス・ヒル・マンサーノ
GS 第2節 ポーランド戦
ポーランドが大会初めての敗退チームに
ともに開幕節は敗れている両チーム。直接対決が順位決定に関わることを踏まえれば、ここは絶対に負けられない一戦である。
立ち上がりから主導権を握ったのはオーストリア。バックスからのボール保持はビルドアップを人数をかけていく。RSBを片方上げる3-2型をベースにして、そこから降りる選手を作ることでFPが6人くらいは自陣でボールを受けることも珍しくない。
後ろが重たいビルドアップが効いていたのはポーランドが高い位置から追いかけ回していたから。特にポーランドのWBがオーストリア陣内に入り込むことでオーストリアの前線がサイドに流れつつ、長いボールを引き出して前進の起点となっていた。
押し込むフェーズになると左サイドからムウェネのロングスローからボックスを狙う。先制点はまさしくこの形。ムウェネのロングスローを沈めたのはトラウナーだった。以降も主導権はオーストリア。サイドの起点だけでなく、中央に絞るバウムガルトナーが縦パスを受けることもあり、インサイドでも前進のきっかけを作ることができていた。
ポーランドは20分が過ぎたあたりから少しずつ保持で巻き返し。キヴィオルがSBに入る4バックへの変化で前進を狙っていく。きっかけはサイドへの対角パス。サイドの裏を狙うことでジリジリと前進する。
するとポーランドは同点ゴールをゲット。右サイドからファーへのクロスの折り返しからのこぼれをピョンテクが沈めてゴールを奪う。
以降は展開はフラット。オーストリアはマンツー気味に前にプレスにくるポーランドをひっくり返しながらファストブレイクでチャンスを作っていたし、ポーランドはジエリンスキのFKからペンツが守るゴールマウスを脅かしてみせた。
後半もポーランドは積極的なプレスから敵陣でのプレータイム増加を狙っていく。しかしながら、オーストリアはゆったりとひっくり返しながら互角に組み合い、少しずつポーランドを自陣側に押し込めていく。
停滞しているポーランドは2トップを入れ替え。真打のレヴァンドフスキ登場である。しかし、この2トップ投入は起爆剤にならず。さらには守備での迷いも出てしまい、なかなか流れを変えることができない。
オーストリアはバックラインからの組み立てがスムーズになり横断しながらボールを動かすことに成功。左サイドからインサイドに差し込むパスにバウムガルトナーがリアクションし、勝ち越しゴールを決める。
さらにはGKからのフィードを起点とした攻撃でザビッツァーがベドナレクをおいて行き、独走するとシュチェスニーとの交錯でPKを獲得。これを仕留めて試合を決定づける。
切り札にならなかった2トップの入れ替えとなったポーランドとは対照的にオーストラリアは試合終盤までガンガン攻め込んでいく。ポーランドは終盤まで流れを変えることができないまま試合終了。敗れたポーランドは今大会初めての敗退決定となった。
ひとこと
ポーランドはレヴァンドフスキなしの攻撃プランの構築も間に合わなかったし、レヴァンドフスキも間に合わなかったなという感じである。
試合結果
2024.6.21
EURO 2024
グループD 第2節
ポーランド 1-3 オーストリア
オリンピア・シュタディオン
【得点者】
POL:30‘ ピョンテク
AUS:9‘ トラウナー, 66′ バウムガルトナー,78′(PK) アルナウトビッチ
主審:ウムト・メレル
GS 第3節 オランダ戦
持ち味存分のオーストリアが追い縋るオランダを振り切って首位通過
前節終了時の段階では突破が決まっていなかったものの、グループAとBの結果を受けてオランダは試合前の時点で突破が確定。オーストリアに関してもボーダーとなるハンガリーを下回るには5点差以上の負けが必要。こちらも突破の可能性がかなり高い状況の一戦となった。
立ち上がりからいいプレーを見せていたのはオーストリア。オランダは中盤を嚙み合わせることを優先する形で守っていたが、その奥に登場するアルナウトビッチを捕まえきれず、ここに縦パスを差し込まれて起点を作られサイドの奥へ侵入を許す。
左サイドに展開したボールからの折り返しをきっちり決めたオーストリア。開始早々に先制する。この中央の高い位置の起点への縦パスをいかした攻撃は前節と同じ。オーストリアは鋭い縦へのパスからチャンスを作るスタートとなった。
なかなか攻撃のスイッチが入らないオランダ。こちらも結果的には縦にパスを入れるところからチャンスを作っていくことに。サイドに逃げずに中央にパスを差し込むことで攻撃のきっかけをどこまで作ることができるか?という対決になっていた。
オーストリアも片側のCHが前にスライドすることで中央のスペースを犠牲にしていたので、オランダはこのギャップに縦パスを入れることで前進。しかしながら、加速した状況で迎えた決定機をつかむことができず。そうこうしている間にオランダが鋭く縦に攻め入ることができる時間は終了。オーストリアがオランダを再びひっくり返す時間帯を迎えて、最後はオーストリアペースでハーフタイムを迎えることとなった。
後半もオーストリアは強気のスタンス。CHの列上げのプレスに加えて、ザビッツァーが絞りながら同サイドへの圧縮をかけていく。ヘールトロイダがインサイドに絞るなど配置の工夫を見せたオランダだったが、そうしたところと無関係なトランジッションからゴールをゲット。やや偶発的に転がってきたカウンターの機会をガクポが一番得意な形で完結。後半早々に同点においつく。
しかしながら、オーストリアもすぐに反撃。押し込むところからグリリッチュが左のハーフスペースの奥を取るところからの折り返しをシュミットが仕留めてすぐに再びリードを奪う。
交代選手をガンガン入れる時間帯を経ても両チームのゴールラッシュは止まらず。互いの速い攻撃に対して守備側の中盤がついていけずに攻撃側の優位で試合は進んでいった印象である。
先に点を取ったのはオランダ。ベグホルストを隠れ蓑に使った形でデパイが技ありのシュートを決めて追いつく。だが直後にオーストリアは再び左サイドの攻略から勝ち越し。2点目とかなり似た形でサイドの奥を取ったザビッツァーが角度のないところから3点目を決める。とったらすぐにやり返すのがこの日のオーストリアであった。
互いにトランジッションを緩めなかったことにより、常に攻撃側に有利な状況が続いた90分。撃ち合いを制したオーストリアは他会場の結果にも助けられ首位での死の組通過を果たすこととなった。
ひとこと
早い展開の中でオーストリアの良さが出た一戦だった。アラバありで見たかったなぁ。
試合結果
2024.6.25
EURO 2024
グループD 第3節
オランダ 2-3 オーストリア
オリンピア・シュタディオン
【得点者】
NLD:47′ ガクポ, 75′ デパイ
AUS:6′ マレン(OG), 59′ シュミット, 80′ ザビッツァー
主審:イヴァン・クルチニャク
Round 16 トルコ戦
セットプレーでの殴り合いはオーストリアに軍配
ベスト8、最後の椅子をかけた一戦は伏兵対決。死の組を逆転での首位通過を果たしたオーストリアとグループFでポルトガル以外の2チームに勝利して悠々と突破を決めたトルコの一戦である。
試合は開始1分でスコアが動く展開。セットプレーからデミラルが豪快にネットを揺らすことでトルコが試合を動かす。以降は直線的な攻防が進む試合。追いかけるオーストリアもリードを得たトルコも前に前に進むことでオープンな展開となる。
オーストリアは中央にどっしりと構えるアルナウトビッチがボールを受けることで中央に起点を作ってシュートまで持っていく。一方のトルコはコクチュとギュレルという偽9番がライン間にひたすら降りることでポイントを作っていくという対照的な動きとなった。
時間が経過すると押し込むのはオーストリア。サイドからボールをあっさり運ばれてマイナスに折り返されるシーンなどは往年の脆い守備のトルコを思い出したが、後ろに重くシフトして手当を行う。SHが素直に下がる6バックに加えて、CHのアイハンがバックラインに入ることで5バックに変化することも。SHのユルマズが前に出ていくと、連動してそのスペースを埋めるようにスライドするなど柔軟性とオートマティズムを兼ね備えた仕組みはあまりトルコらしいものではない新鮮なものだった。
後ろに重たい布陣を敷くトルコに対して、ゴール前での仕上げができないオーストリア。トルコはアイハンのサリーによる3バック化で徐々に保持の時間を取り戻し、前半をリードで軟着陸させる。
後半のオーストリアは4-4-2にシフト。トップにグレゴリッチュを入れたツインタワーの構成でより前の圧力を強めていく。左右に流れる2トップを起点に押し下げていくオーストリアは後半を優勢に進める。しかしながら、左のハーフスペースに降りるアクションからカウンターの始点となったギュレルからトルコは反撃。そして、またしてもセットプレーからのデミラルが追加点を奪う。
ツインタワーを生かしてこちらもCKから1点差にするオーストリア。ニアフリックからファーに抜け出すグレゴリッチュというハメ技チックな動きから1点差に追い上げる。
以降はオープンな展開で殴り合いとなった試合。細かいことはいいからボックス内に枚数を揃えてクロス!という方針となったオーストリアが優勢となったが、終了間際のバウムガルトナーの決定機をギュノクがスーパーセーブするなど、シュートがゴールに結び付かず。終盤は苦しい戦いになったトルコだが、セットプレーでのスコア合戦を制してオランダの待っている準々決勝に駒を進めた。
ひとこと
セットプレーでの圧力はオーストリアの方が高そうだったので、トルコがオープンプレーも含めて圧力に耐え切ったのは意外だった。
試合結果
2024.7.2
EURO 2024
Round 16
オーストリア 1-2 トルコ
ライプツィヒ・アレナ
【得点者】
AUS:66′ グレゴリッチュ
TUR:1‘ 59′ デミラル
主審:アルトゥール・ディアス
総括
解釈一致のスタイルで大会の盛り上げ役に
「なんでそんなところに!」感満載だったマンチェスター・ユナイテッドでの仕事を終えて、解釈一致といえるオーストリア代表監督というポストに就いたラングニック。この大会ではラングニックのチームらしいアグレッシブなスタイルが終始見られたといえるだろう。
最近の代表戦のトレンドといえるのかもしれないけども、とにかくハイプレスから流れを引き寄せられるチームが少ない。フランスとかポルトガルのように前に大駒がいるチームは仕方ない気もするけども、イングランドとかクラブでバリバリやっているやんけ!というような前線のメンツでもなかなか前からのプレスを基調とした流れの持ってき方はしない。おそらく短期決戦では体力面で懸念があるということなのだろうけども。
その点、オーストリアはそのリスクを負った稀有なチーム。2トップの制限に呼応するようにCHとSHがスライドして高い位置からプレスを仕掛けていく。エムバぺとデンベレがいるフランスにこれができるのだから、非常に勇気を感じる。サリバとカンテの保持での落ち着きがなければあるいはプレスで押し切ることができたかもしれないという展開だった。
こうした行ってこい!の精神は突破のかかったオランダ戦でも存分に発揮されることになる。2列目のスライドでオランダを同サイドで咎めつつ、素早く縦に攻撃。オランダを乱戦に巻き込んで打ち合いを制してみせた。
ただただアップテンポなだけでなく、このオランダ戦の前半に見られるように中盤のマンツーの先にいるアルナウトビッチへの縦パスから一気に前に進むなど、噛み合わせの妙を使った前進もちらほら。そうした静的な局面の幅の広さはバックスにアラバがいればさらに際立つ形になった可能性もあるだろう。
トルコとのRound16はアルナウトビッチにグレゴリッチュを入れるツインタワーで最後までゴールに迫っていたが、セットプレーの2失点を跳ね返すことができなかった。内容的には十分圧力をかけられていたし、同点までは持っていけてもおかしくはなかっただけに悔やまれる敗戦となった。それでも、今大会屈指の盛り上げ役としてオーストリアはEUROに花を添えたといっていいだろう。
Pick up player:ダビド・アラバ
この大会にこの選手がいたらランキングいまのところ1位。いやー、みたかったよねーー。