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「EURO 2024 チーム別まとめ」~スロベニア代表編~

目次

代表メンバー

▽GK
ヤン・オブラク(A・マドリー)
12 ビド・ベレツ(APOEL)
16 イゴル・ベキッチ(ベイレ)

▽DF
2 ジャン・カルニチニク(ツェリエ)
3 ユレ・バルコベツ(アランヤスポル)
4 ミハ・ブラジッチ(レフ・ポズナニ)
ジャカ・ビヨル(ウディネーゼ)
13 エリク・ヤンジャ(グールニク・ザブジェ)
20 ペタル・ストヤノビッチ(サンプドリア)
21 バニャ・ドルクシッチ(ソチ)
23 ダビド・ブレカロ(オーランド・C)

▽MF
5 ヨン・ゴレンツ・スタンコビッチ(シュトルム・グラーツ)
7 ベンヤミン・ベルビッチ(パナシナイコス)
サンディ・ロブリッチ(ウディネーゼ)
10 ティミ・エルシュニク(オリンピア・リュブリャナ)
14 ジャスミン・クルティッチ(ズュートティロール)
15 トミ・ホルバト(シュトルム・グラーツ)
22 アダム・グネズダ・チェリン(パナシナイコス)
24 ニノ・ジュゲリ(ボデ・グリムト)
25 アドリアン・ゼリコビッチ(スパルタク・トルナバ)
26 ヨシプ・イリチッチ(NKマリボル)

▽FW
9 アンドラジュ・シュポラル(パナシナイコス)
11 ベンヤミン・シェシュコ(ライプツィヒ)
17 ヤン・ムラカル(ピサ)
18 ジャン・ビポトニク(ボルドー)
19 ジャン・ツェラル(ルガーノ)

GS 第1節 デンマーク戦

エリクセンの特別なゴール

 ボールを持つ側になったのはデンマーク。上のフォーメーションの図では5-3-2のような形になっているが、実際にはエリクセンがシャドーの一角のような振る舞い。ヒュルマンドとは明確な前後関係が形成されている状態で保持を行う。

 一方のスロベニアは4-4-2で構える形。デンマークのバックラインはプレスに行かず、2トップは中盤を基準として守備を行っていく。前述のシャドーのエリクセンは前線に飛び出す役割を行っているのだが、その場合はスロベニアのCHは縦関係となり、片方が最終ラインに入る形でケアする。

 デンマークはスロベニアの2トップの脇から進撃。ここから2トップを目掛けてボールを入れて攻撃を構築する。ホイルンドとウィンドの2トップは左右に動きながら起点となり、中盤からの飛び出しを促すようなポイントの作り方を行う。

 この形が実ったのが先制点。サイドに流れてスロベニアを押し下げたホイルンドが作ったスペースに飛び込んだのはエリクセン。ウィンドのラストパスを受けて4年前のEUROの悲劇を塗り替えるようなメモリアルなゴールを決めた。

 以降も主導権を握るのはデンマーク。3バックを基調とした安定したポゼッションから押し込む状況を続けていく。スロベニアもスポラルとシェシュコの2トップにボールを放り込んでいくが、なかなか起点を作ることができず。頼みのセットプレーを稼ぐために、後方を3枚にすることでボールを持つ安定感を増していこうという考えのように見えたが、デンマークほどの保持の基盤は作れなかったという印象だった。

 後半の両チームはとにかくセットプレーからのチャンスメイクが目立つ流れ。互いにボックス付近でファウルを得るとここからハイボールでゴールチャンスを迎えることに。

 トップに収めてチャンスを作るのが上手いのはリードをしているデンマーク。さらにはカウンターからホイビュアがボールを運び、サイドに流れるウィンドからの折り返しから決定機を作る場面もあった。同様にスロベニアもCFのサイドフローからチャンス。セットプレーもオープンプレーも似た形からチャンスを作る両チームであった。

 均衡ムードの流れを変えたのはビハインドのスロベニア。シェシュコのミドルがポストを捉えたことで勇気を得ると、直後のCKからヤンザの豪快なミドルがネットを突き刺す。

 このゴールで試合の流れは一変。試合の主導権はスロベニアに。サイドに流れるスポラルや中央で起点になることができるシェシュコからのチャンスメイクでデンマークのゴールに迫る。

 CFを起点に使った攻撃の機能性が主導権に直結したこの試合。前半はデンマーク、後半はスロベニア優勢というコントラストがくっきりの引き分けとなった。

ひとこと

 エリクセンがこの舞台でゴールを決めたこと、とにかく感慨深い。あの時のデンマークには勇気をもらったことを覚えている。

試合結果

2024.6.16
EURO 2024
グループC 第1節
スロベニア 1-1 デンマーク
シュツットガルト・アレナ
【得点者】
SVN:77‘ ヤンザ
DEN:17’ エリクセン
主審:サンドロ・シェーラー

GS 第2節 セルビア戦

柔と剛、それぞれの2トップ

 ボールを持つのはスロベニア。セルビアのプレス隊の脇でフリーでボールを持つと、ここからボールを進めていく。

 サイドから押し下げるケースもあったが、スロベニアの前進のメインは縦パスを受ける2トップ。シェシュコ、スポラルの2トップは共に動きながらボールを収めることができる機動力のあるコンビ。サイドから斜めのパスをこの2トップにボールを当てて、逆サイドに展開する。もしくは、ポストでコースを変えて攻撃の目先を変えてボックス内に侵入。狭い中央のエリアでもこじ開けることができていたため、細かいパスのベクトルの変化はセルビアの守備陣の負荷になっていたように思う。

 対するセルビアはボールを前に進めることに苦戦。立ち上がりこそ横断しながらボールを動かすことができたが、徐々に手詰まりに。WBを使って前に進みたいところだが、スロベニアの前から止めるアクションによりハーフウェイラインを超えて前に進むことができない。

 ならばボール奪取を!と行きたいところだが、セルビアはボールの奪いどころがない。CFを警戒して中央を閉めると、CBのキャリーからサイドにつけられるなど、常にスロベニアの方がセルビアの嫌なことにアプローチできていた印象である。

 前半の終盤にようやくセルビアは前進できるように。スロベニアの2トップとは異なり、ゴリゴリと体を当てて踏ん張るタイプの2トップで何とかボールを収めながらボックス内に侵入する。ボールを収めて反転したミトロビッチは決定機を迎えたが、これは最後の砦のオブラクに阻まれる。それでも、30分以降は少しずつ反撃をすることができていたセルビアだった。

 後半もミトロビッチのシュートをオブラクが止めるという前半のリプレイのようなシーンでスタート。押し込むセルビアに対して、スロベニアは軽さのあるカウンターから反撃に挑む。2トップの基準点としての機能性に加えて、後半に目立ったのは右サイドのキャリー。カルニッチニック、ストヤノビッチのドリブルからセルビアのMFを超えると、一気に押し下げていく。

 ゴールの起点となったのはカルニッチニックのドリブル。セルビアの守備網の薄いところからボールを前に進めると、逆サイドまでの横断に成功。ここからクロスを上げるとカルニッチニックが自らフィニッシャーとなり先制ゴールを決める。

 追いかけたいセルビアは以降は押し込むフェーズに。スロベニアは自陣での守備をきっちり受け入れる形でボックス内にブロックを組む。

 なかなかこじ開けられないセルビアだったが、ラストプレーで奮闘が身を結ぶことに。CKに競り勝って押し込んだヨビッチが勝ち点1の立役者になった。スロベニアの勝利を奪い取り、1ポイントを手にしたセルビア。最終節に突破の望みをつなぐことに成功した。

ひとこと

 セルビアとスロベニアの2トップのキャラクターの違いを生かした前進は面白かった。

試合結果

2024.6.20
EURO 2024
グループC 第2節
スロベニア 1-1 セルビア
フースバル・アレナ・ミュンヘン
【得点者】
SVN:69′ カルニッチニック
SER:90+5′ ヨヴィッチ
主審:イシュトヴァン・コヴァーチ

GS 第3節 イングランド戦

何もない1ポイントの先の歓喜

 オランダ、フランスと同じく4ポイントで突破を決めたイングランド。重要なのは通過順位。2位だと厳しい山に放り込まれるだけにここはすんなりとスロベニアを下したいところだろう。

 スロベニアのフォーメーションはお馴染みの4-4-2。イングランドのバックスにはプレスに行かず、守備はライスを2トップで管理しながらのスタートとなる。

 確かにこの4-4-2相手にめちゃめちゃ工夫があったわけではないのだが、それにしても個人に帰属するミスが多すぎる。バック4に加えて、ライスとギャラガーは安定感がない。グエイやストーンズ、ライスは普段のクラブでは考えられないレベルのミスを連発し、攻撃を寸断していた。

 良かったところといえばサカとウォーカーの縦関係はそれなりに計算できそうなところと、左のユニットがこの日は彼らなりに幅をとろうという意識が見られたところだろう。サカがネットを揺らしたシーンはフォーデンとトリッピアーが大外からライスとの関係性を使いながら抜け出すところからラストパスが出ている。

 それでも全体を見れば機能性はまだまだ。ケインとベリンガムが沈黙し、フォーデンは力みのあるプレーが多く、前線もまた噛み合わない状況が続いていた。

 ではスロベニアが良かったかと言われるとまた話は別。ミス待ちで前進できる攻撃はともかくとして、守備では2トップの誘導が効かずプレスバックも甘め。後方の4-4-2のブロックの網目も粗く、イングランドの焦りと強引さがなければ簡単に自陣ゴールに迫られてもおかしくない状況だった。アタッキングサードでの迫力も出せず、軽さのある2トップはイングランド相手に存在感を出すことができなかった。

 後半、イングランドはギャラガーに代えてメイヌーを投入。これで中盤に動かしながら押し込む概念がようやく生まれた感じ。保持の局面はかなり整った感があり、スロベニアは前半以上に前進が苦しくなるように。

 遅れて(ようやく)入ってきたパルマーとの連携も良好だったメイヌー。サカ、ウォーカーの直線的な二人称での崩しと比べると旋回とポジションチェンジが多めなまたテイストの異なるサイドの崩しを見せていた。

 左サイドで入ったゴードンもファン待望の幅の取れる選手。本当に僅かな時間ながら降りたところから長いレンジのパスを使って局面を一気に前進させてみせた。

 しかしながら、それ以外のポイントではなかなか言及したくなるシーンがとても少なかった試合。だけども、スロベニアにとっては大事な1ポイント。何も得点が生みだせなかった彼らが終了後に大喜びする姿を見ればわかるように、この1ポイントは決勝トーナメントへのゲートが開く大きな1ポイントだったのである。

ひとこと

  割と何も解決しないままGSを終えてしまった感があるイングランド。メイヌー、パルマー、ゴードンのテストを受けてむしろ序列は不透明になった感もある。ノックアウトラウンドで入れ替えがあるのか、それともマイナーチェンジと言える改良にとどまるのかは注目である。

試合結果

2024.6.25
EURO 2024
グループC 第3節
イングランド 0-0 スロベニア
ケルン・スタジアム
主審:クレマン・トゥルパン

Round 16 ポルトガル戦

笑顔と涙を消し去ったディオゴ・コスタ

 直前の時間の勝者であるフランスとの挑戦権を賭けた一戦である。立ち上がりにペースを掴んだのはグループFの首位通過を果たしたポルトガル。メンデスを最終ラインに残し、カンセロを解放する左右非対称の形からスロベニアの4-4-2ブロックを揺さぶっていく。

 スロベニアの4-4-2は人基準が強め。低い位置にとどまるメンデスに対してはストヤノビッチが出ていくなどプレスへの意識はそれなりにあった。

 ポルトガルの攻撃の主なルートは右サイド。ブルーノ、カンセロ、ベルナルド、ヴィチーニャといったフリーダム系の選手たちが集合。人の基準を失ったスロベニアは押し込まれるフェーズに入る。

 右サイド、特にケアの甘くなる大外からクロスを入れるポルトガル。ベルナルドのインスイングのクロスや、ブルーノのマイナスからのアーリーめのクロスをなどからボックス内に迫る。だが、ファーに待ち構えるロナウドはなかなかドルクシッチ相手に壊すことはできず。単純な競り合いではなかなかアドバンテージが取れないのは切ない。ちなみに左サイドはシンプルにレオンとメンデスの突撃からクロスを上げる形である。

 仕上げがあまりなポルトガルだが、非保持ではきっちりと即時奪回で押し込むことを継続。スロベニアは逃げ出すことができず、一方的なポルトガルペースと言える立ち上がりだっただろう。

 前線への長いレンジのパスが攻撃の起点にならないスロベニア。ロングボールが収まらず、苦戦するスロベニアの2トップ。CB相手だと分が悪いということで、左右に流れてボールを受けるという工夫はいかにもスロベニアらしい。メンデス周辺を狙い撃ちにして行ったスロベニアは少しずつ押し返すチャンスも出てくるように。

 ロナウドがちっとも仕上がらないポルトガルは徐々にサイドでのロストに雑さが見えてくる。こうなるとポルトガルのDFラインの押し上げが遅れる分、トランジッションからシェシュコが中央で収まるように。どうにもならなかった前半の最後にスロベニアの希望の光が灯ったところで試合はハーフタイムを迎える。

 迎えた後半、互いに敵陣に入り込む積極的な立ち上がりとなった。ポルトガルで存在感を発揮したのは右の大外からボックスに入り込んでいくカンセロ。エンドライン側から切り込むような侵入で、スロベニア陣内に攻め込んでいく。

 しかしながら、終点となるべきロナウドは相変わらずボックス内に競り勝つことができず。仕上げのクオリティが上がらないポルトガルはゴールに手をかけることができない。

 一方のスロベニアもカウンターに出ていく頻度を上げることはできずに苦戦。右サイドのサポートに出てくるディアスの背後を取ることができても、最後の砦として君臨するぺぺの牙城を崩せない展開が続く。

 前線の選手を入れ替える余裕があったのはポルトガルだったが、ジョッタはロナウドの引力を利用することができず、コンセイソンはサイドで風穴を開けられないまま停滞。ジョーカーが本来の力を発揮できず、試合は延長戦に突入する。

 延長でも展開は重たいままだった。ポルトガルは4-3-3にシフトするが、左偏重の構造が効果的だったかは怪しかったし、ロナウドにまつわる「終点」問題も未解決。スロベニアはカンセロのミスに漬け込んでボックスに入り込むが、これを止められてしまいこちらもゴールを掴むことはできなかった。

 そうした中で絶好のチャンスを迎えたのはポルトガル。ジョッタのボックス内の突撃に対してドルクシッチがたまらずPKを献上。先制のまたとない機会を得るが、ロナウドのPKはオブラクがストップ。ロナウドが見せた涙も相まって試合は完全にスロベニアの空気感に。延長後半のシェシュコの決定機こそコスタに止められるが、スロベニアのサポーターはPK戦での勝利を確信するかのような表情で延長戦終了のホイッスルを聴いていた。

 しかし、そのスロベニアサポーターの笑顔はコスタによって一瞬で消し去られることとなる。イリチッチの一本目のPKを完璧にシャットアウトし、ロナウドに素晴らしいリベンジの舞台を用意。オブラクにロナウドがリベンジを果たした時点でこのPK戦の結末は見えてしまったといっていいだろう。

 さらに2つのPKをストップしたコスタ。ロナウドの涙とスロベニアのサポーターの笑顔を消し去ったコスタの大活躍により、ポルトガルは3-0のPK戦でのストレート勝利を達成。劇的な結末でベスト8の切符を手にした。

ひとこと

 1つのセーブで流れを引き寄せるGKの恐ろしさを痛感した試合だった。

試合結果

2024.7.1
EURO 2024
Round 16
ポルトガル 0-0(PK:3-0) スロベニア
シュツットガルト・アレナ
主審:ダニエレ・オルサト

総括

ビッグトーナメントでの手強さを見せた16強入り

 デンマークと同じく、こちらもすべて引き分けできっちり揃えることでグループCを突破。ベスト16でもドローゲームに持ち込み、いけるで!と思ったところをGS引き分け突破の大先輩であるポルトガルにのされてしまい、惜しくもこの段階で大会を去ることとなってしまった。

 基本的なフォーメーションは4-4-2。2トップへの長いボールが前進の大きな原動力となっている。スポラル、シェシュコの2トップは軽い動きから縦横無尽に駆け回りつつ、ロングボールを引き出す「動」の2トップ。ボックス付近にどっしりと構えて相手を背負いながら長いボールを待つというセルビアのミトロヴィッチ、ヴラホヴィッチといったFWとは好対照な軽さを見せている。

 行動範囲が広い分完全に捕まえきるのは難しく、落としも綺麗となればスムーズなカウンターは約束されたようなもの。前にボールが収まると、今度は右サイドの縦関係から敵陣に迫っていく。前にスペースがあるときのカルニッチニックとストヤノビッチはスムーズに敵陣にボールを運びつつ、自らがボックス内に入っていくダイナミズムも兼ね備えている。動き回る2トップの相性の良さを感じさせるユニットである。

 ロングボール一辺倒ではなく、後方からの持ち上がりもスムーズ。相手のプレス隊の逆をつく配球を後方から行うなど器用さも見せた。

 セルビア戦では高さに屈してしまった感もあったが、ポルトガル戦ではロナウドへの単調なクロスを跳ね返し続けるなど押し込まれる展開への耐性も感じさせる内容。我慢して我慢してチャンスが来るのを待つことができるスキルは代表戦のビッグトーナメントが勝ち上がるための素養のように思える。ポルトガル相手にあと一歩まで迫ることができたのは大きな経験になるはずだ。シェシュコがゴールを決めていたら、ディオゴ・コスタという悪魔がいなければとたらればをいえる時点で勝ち上がりに肉薄したとrいっていい。

 1勝もできないまま大会を去ることとなったが、裏を返せば1敗もしなかったということでもある。ポテンシャルも多くの局面への対応力も見せた今大会のスロベニア。今後の成長が楽しみなチームだ。

Pick up player: ヤン・オブラク
 ロナウドのPKを止めて涙を流させたシーンは間違いなくベスト16におけるハイライトの1つ。それより大きなハイライトがそのあとのコスタにやってくるのだけども!

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