代表メンバー
▽GK
1 ダビド・ラヤ(アーセナル)
13 アレックス・レミロ(ソシエダ)
23 ウナイ・シモン(ビルバオ)
▽DF
2 ダニエル・カルバハル(R・マドリー)
3 ロビン・ル・ノルマン(ソシエダ)
4 ナチョ・フェルナンデス(R・マドリー)
5 ダニエル・ビビアン(ビルバオ)
12 アレックス・グリマルド(レバークーゼン)
14 エメリク・ラポルト(アルナスル)
24 マルク・ククレジャ(チェルシー)
▽MF
6 ミケル・メリノ(ソシエダ)
8 ファビアン・ルイス(パリSG)
15 アレックス・バエナ(ビジャレアル)
16 ロドリ(マンチェスター・C)
17 ニコラス・ウィリアムス(ビルバオ)
18 マルティン・スビメンディ(ソシエダ)
20 ペドリ(バルセロナ)
21 ミケル・オヤルサバル(ソシエダ)
▽FW
7 アルバロ・モラタ(A・マドリー)
9 ホセル(R・マドリー)
10 ダニ・オルモ(ライプツィヒ)
11 フェラン・トーレス(バルセロナ)
19 ラミネ・ヤマル(バルセロナ)
22 ヘスス・ナバス(セビージャ)
25 フェルミン・ロペス(バルセロナ)
26 アジョセ・ペレス(ベティス)
■監督
ルイス・デ・ラ・フエンテ
GS 第1節 クロアチア戦
突き詰めた結果、トランジッションが差を生み出す
互いに保持には腕に覚えがあるという両軍。立ち上がりは共にCBには過剰にプレッシャーをかけずに中盤をマンツーで噛み合わせるという似たような守備対応となった。
というわけで保持側がどのように対応するか?というところからスタートしたこの試合。先に手応えを持ってボールを動かすことができたのはスペイン。ファビアン・ルイスのサイドフローから左サイドのプレスの切れ目を繋ぐことで敵陣に侵入していく。
クロアチアはモドリッチがプレスのスイッチを入れて4-4-2気味になっていたがファビアン、ロドリ、ペドリの中盤の細かな移動でこれを上回る。逆にスペインがプレスをかける局面になった場合はIHが出ていくことでプレスをかけ切ることができており、スペインは保持でも非保持でも主導権を握る形となった。
クロアチアはそれでもボールを取り戻すことで時間を作りにいく。あくまでポゼッションからというのは彼らなりの矜持なのだろう。より大きく動きながらスペインのプレスの判断を乱していく。コバチッチ、ブロゾビッチの降りる動きからボールを落ち着け、少しずつポゼッションを取り戻すようになる。
ボールを自分のものにすることにフォーカスした結果、この試合ではプレッシングが先鋭化。徐々に互いにオールコートマンツーのような強気な守り方が見えるようになる。そうした中で増えてきたのはトランジッション。この流れにうまく乗ったのはスペイン。先制点の場面ではククレジャの跳ね返しからロドリ→ファビアンと繋ぎながら最後はモラタが仕留める形に。最終的にはボールを自分のものにする手段であるトランジッションから差を分けることになるという現象はなかなかに興味深かった。
2点目は好調のファビアンの切り返しでモドリッチを外すところから。陣地回復の過程を紐解くとククレジャの素早いスローインが前進の起点になっているのは興味深い。1点目も2点目も始点はククレジャである。
ボールを再び落ち着けることに成功したクロアチアだが、スペインは前半追加タイムに容赦なくセットプレーから3点目。前半で試合の行方を決定づける。
後半、クロアチアは強気のプレスで勝負を仕掛けていく。しかしながら、スペインはこれをすぐに平定。試合を落ち着かせることに成功する。
次節を見据えつつ強度を上げていきたいクロアチアはメンバーを変えながら強度をキープしつつ、高い位置から捕まえることをやめない。左に入ったペリシッチが好調なパフォーマンスを見せたのは後半のクロアチアにとっては救いだった。
遅ばせながら鋭さを伴うサイド攻撃のクオリティを見せたクロアチア。押し込む流れからのハイプレスでPKをゲット。しかし、このPKは決められず、その後の押し込むアクションもオフサイドでノーゴール判定。一矢報いることも許されない。
スペインも縦への鋭さには途中交代のオルモでクオリティを維持。早い展開には最後まで食らいついて行ったのが印象的だった。
試合はそのままスコアが動かずに終了。前半で試合を決めたスペインが開幕戦で勝利を飾った。
ひとこと
保持を突き詰めた結果、トランジッションが決め手になるのはなかなか興味深かったし、前線にそうした展開にフィットする鋭さを有するWGを置いているスペイン側がどこまでそうしたことに確信犯だったのかは気になるところである。トランジッションの観点ではヤバイ状況の時からチームを救えるロドリがいるかいないかも大きかった。あと、ストーリー的に書けなかったけど両軍のGKのセービングは素晴らしかった。
試合結果
2024.6.15
EURO 2024
グループB 第1節
スペイン 3-0 クロアチア
オリンピア・シュタディオン
【得点者】
ESP:29′ モラタ, 32′ ファビアン, 45+2′ カルバハル
主審:マイケル・オリバー
GS 第2節 イタリア戦
左サイドでこじ開けた先制点で見事に決めた首位通過
今大会のGS屈指の注目カード。スペインとイタリアがGSの突破をかけて激突する大一番である。
立ち上がりから攻め立てるスタートとなったのはスペイン。左サイドを軸に攻撃を構築していく。率直にニコ・ウィリアムズのキレが素晴らしかった。対面のディ・ロレンツォを手玉に取り、ボックス内に確実にチャンスを供給する。チャンスはやってくるので中盤がシュートに向けたポジションを取ることができる。マイナスでミドルを待ってもいいし、モラタの背後に忍び込んで立ち上がりに決定機を迎えたペドリのようにボックス内に入り込むのもいい。左サイドは明確な起点となった。
前がかりなスペインに対してイタリアはボールを奪った後は中盤にボールをつける。バレッラが浮く形があり、ディ・ロレンツォなどプレッシャーをかけられても届けられる選手が後ろにいるのがイタリアの強みなので、ここまではつなぐことができていた。ただ、その先の出口の火力はスペインには劣る形。ボールをきっちり収められるモラタや押し切れるヤマルやニコ・ウィリアムズはいないので、その点で攻撃の機能性が異なったイメージである。
スペインはイタリアの仕掛ける早い展開に対して、こちらも早い展開で応酬。クロアチア戦でもあったような撃ち合いの流れが前節よりも早めに来たという感じである。そうした中で少し気になったのは少し激しい接触が多かったこと。接触起因での怪我人が出なかったのは良かったけども、ちょっと審判のマネジメントが大変そうな試合ではあった。
前半の中盤が過ぎると試合は再びスペインの押し込む局面がベースとなっていく。決め手となるWGの仕掛けからMFに得点のチャンスが出てくるスペイン。ドンナルンマのセービングによって踏ん張るイタリアの構図が続く。イタリアにとってはなんとかスコアレスで折り返したという感じの前半だろう。
後半、2枚の交代で中盤を入れ替えるイタリア。カンビアーゾは右サイドの守備のヘルプに行くことが多かったので、この辺りは非保持における手当てなのかもしれない。
後半も引き続き押し込んでいく流れとなったスペイン。ロドリが倒れ込んだシーンはかなりヒヤッとしたが、プレーは続行。シティファンとスペインファンは胸を撫で下ろしたはずである。
押し込む流れは前半と同じだが、後半の変化は左サイドのウィリアムズの突破にククレジャがフリーランで見事なサポートをしていたこと。内側のレーンを上下動することで揺さぶり、ウィリアムズのマーカーを1枚に限定していた。前半のウィリアムズのプレーは圧巻であったが複数枚を剥がそうとする強引さも垣間見えたので、ククレジャのサポートは上質さを感じるものだった。
この左サイドのユニットからスペインは先制点はゲット。ウィリアムズの突破からインサイドで軌道が変わったボールはカラフィオーリに当たってオウンゴール。不運な形ではあったが、こうなってもおかしくないようなボールを入れられるくらいにはやられていたのは確かだろう。
イタリアは保持で巻き直せないのも痛かった。ジョルジーニョを引っ込めてしまった影響がどこまであるかはわからないが、即時奪回に動いてくるスペインに対してプレスを逃しきれない場面が前半以上に目立ってしまい、陣地回復はさらに難しくなっていった印象である。
終盤はスペインがプレスを控えたこともあり根性でのキャリーで押し返すが、サイドの決め手は不足。押し込む相手を攻略する一手が90分上下動したディマルコに1on1を託すというのは苦しいところであった。
後半追加タイムはボックス内の守備を強いられた場面もあったが、それ以外はほぼ冷や汗をかくことなく過ごすことができたスペイン。首位を確定させた状態で2チーム目のGS突破を決めた。
ひとこと
イタリアの火力不足はこのメンバーだと如何ともし難いところがあるなという感じ。だからこそ、後方の動的成分で補っているのは設計的にはうなづけるけども、スペインのように高い位置から引っ掛けられる相手だとバタバタした形で受けなければいけない状況が増えてしまうので、それはそれで頭が痛い感じもする。
試合結果
2024.6.20
EURO 2024
グループB 第2節
スペイン 1-0 イタリア
アレナ・アウフシャルケ
【得点者】
ESP:55′ カラフィオーリ(OG)
主審:スラヴコ・ビンチッチ
GS 第3節 アルバニア戦
3位突破を狙うアルバニアに総入れ替えのスペインが立ちはだかる
すでにグループステージ首位通過を決めているスペイン。継続起用はCBのラポルテのみ。それ以外の10人は総入れ替え。なんとか3位を確保したいアルバニアにとってはまたとないチャンスのはずである。
高い位置からプレスをかけるスタートとなったアルバニア。しかしながら、CB+スビメンディ、メリーノのどちらかの降りるアクションからボールを動かしていく。メンバーは入れ替わっても問題なくボールを回すことができるというスペインのDNAは健在であり、アルバニアのプレスへの野心は早々に打ち砕かれることとなる。
ミドルブロックを敷くこととしたアルバニアだが、スペインにコンパクトなライン間をあっという間にこじ開けられてしまう。降りるアクションでアルバニアの2列目を引き出すとライン間はどうしても空いてしまう。フェラン・トーレスの先制点は間延びした中央のスペースにダニ・オルモが入り込み、縦パスを繋ぐ工程の中継点を果たすことで成立したゴールであった。
以降も一方的に押し込む展開を続けるスペイン。先制点を縦にポゼッションを続けていく。アルバニアはスペインの即時奪回の餌食には合わなかったものの、外循環のポゼッションではゴールに近づくことすらできず。ボールの奪いところも前に進め方もわからないまま、ただただスペインに絡め取られていく。試合は一方的なスペインペースでハーフタイムを迎えることとなった。
追いかけるアルバニアはハイプレスでスタート。スペインはこのハイプレスに対して落ち着いて対応。ホセルを初めて降りるアクションから左右に揺さぶることで浮いているスペースから前進していく。
アルバニアにとっての救いは自分自身がハイプレス回避に対応できたこと。CHのアスラニとラマダニが浮くことでここから左右に動かすことができていた。FKで裏をとるブロヤなど相手を出し抜くアクションを出していくことができていた。
サイドには交代カードでクロアチア戦で躍動したホッジャを投入。終盤にも攻撃のポイントを作ることで保持に回れば勝負することができていた。
しかしながらサイドにポイントを作りながらポゼッションの機会をきっちり確保するスペインに対しては苦戦。攻撃に打って出るシーンでも威力不足であり、最後まで牙城を崩すことができなかった。
終わってみれば総入れ替えのスペインがアルバニアに道を譲らず。3連勝でグループステージを突破した。
ひとこと
ダニ・オルモ、やっぱり好きだ。
試合結果
2024.6.24
EURO 2024
グループB 第3節
アルバニア 0-1 スペイン
デュッセルドルフ・アレナ
【得点者】
ESP:13‘ トーレス
主審:グレン・ニーベリ
Round 16 ジョージア戦
ヤマル・ブーストでスペインが順当な逆転勝利
開催国・ドイツへの挑戦権を賭けて戦う一戦。優勝候補のスペインが対峙するのはGS最終節でポルトガルを下して、滑り込みでのGS突破を果たしたジョージアである。
ジョージアのフォーメーションは5-3-2。後方からのスライドには積極的ではないということでスペインがSBを安全地帯として、ボールを動かしながら勝負を仕掛けていく。サイドからボールを運び、立ち上がりからジョージア陣内でブロック崩しにトライする。
いつもの大会とスペインが異なるのはワイドのアタッカーが存在すること。預けて仕掛けられる大外の解決策があるのは大きい。それに甘えないのもスペインの良さ。きっちりインサイドを覗きながら縦パスを入れての進撃も視野に入れる。MFはライン間で縦パスを引き出しつつ、WGの仕掛けから放たれるクロスに飛び込む役割を両立しなければいけなかった。
押し込みながらゴールを脅かすスペインに対し、ジョージアは自陣からのカウンターで跳ね返しにかかる。ドリブラーが時間を作り、横断を駆使して敵陣に押し込んでいくというのがジョージアの鉄板パターン。得点シーンが最も分かりやすい形。左サイドでクヴァラツヘリアとキティシュヴィリがポイントを作り、右の大外のカカバーゼまで展開すると、ファーのクヴァラツヘリアを狙ったピンポイントのクロスがル・ノルマンのオウンゴールを誘発。ワンチャンスを活かしたジョージアが先行する。
以降もジョージアはこのパターン。ドリブラーが根性で時間を作り、横断から押し下げる状況を作るのがスペインの保持に対する対抗策となっていた。
スペインは失点以降は少しバタバタしたが、すぐに立て直し。ただ、長い距離からのミドルがかなり増えており、ラポルトのミドルなどはシュートを打つ前にもう少し手数を加えたい感もあった。
ただ、ミドルシュートそのものが悪いわけではない。きっちりと整えることができればいうまでもなくミドルは大きな武器だ。それを証明したのはロドリ。サイドに散らし、WGでできた深さを自らミドルで使うという流れはまさしく名人芸。深さを使って自分で使うというワールドクラスの地産地消でスペインはタイスコアに引き戻す。
ジョージアはこの一連のプレーでアンカーのキティシュヴィリが負傷。アンカーからの配球が難しくなり、少ない時間とはいえ前半の残り時間に攻撃が組み立てられないままハーフタイムを迎えたのが気がかりとなった。
後半頭、前半と同じく押し込む展開で大活躍したのはヤマル。外で起点になり、中で突っ込みFKを獲得するなど大暴れ。最終的にはそのFKの流れからゴールも演出。右サイドからのクロスは間合いを外したタイミングで完璧にフリーの選手にピタリ。この上ない質のクロスで一気に逆転まで持っていく。
ジョージアはカウンターからのキレは十分にあるものの、やや攻撃としては直線的。押し上げが効かず、ホルダーが自分で抜け切らないといけない状況となる。横断から厚みのある攻撃を行いたいが、なかなか実装することができない。
スペインはリード後は非常に落ち着いた試合運び。ポゼッションでの時間の消費はお手のもの。さらにはジョージアのカウンターを跳ね返したところからの速攻からも手応えがある展開に。
光を放ったのはWG。右サイドのヤマルの誘発したオウンゴールはわずかにオフサイドだったが、速攻からのニコ・ウィリアムズの豪快なゴールで試合はほぼ決着となった。
先制こそ許したものの、以降はほぼ完璧な試合運びを見せたスペイン。後半はヤマルの良きパートナーとして躍動したオルモが仕上げの4点目を決める大勝で順当にベスト8に駒を進めた。
ひとこと
ジョージアも持ち味を見せたが、失点してなお落ち着いていたスペインは見事。押し込むスタイルに凶暴なWGがかけ合わさった怖さを存分に発揮した。
試合結果
2024.6.30
EURO 2024
Round 16
スペイン 4-1 ジョージア
ケルン・スタジアム
【得点者】
ESP:39′ ロドリ, 51′ ルイス, 75′ ニコ・ウィリアムズ, 83′ オルモ
GEO:18′ ル・ノルマン(OG)
主審:フランソワ・ルドゥグジェ
QF ドイツ戦
ダニ・オルモの奮闘がWG以後のスペインを支える
準々決勝のスタートであるとともに、最注目カードであるこの試合。だが、その注目とは立ち上がりの展開は違う方向にヒートアップ。速い展開からファウルが目立つ展開となり、特にドイツのファウルが嵩むことに。その結果、ペドリが負傷交代するなどあまり見ていて気持ちのいい序盤戦とはならなかった。
速い展開に関してはスペインの方が得意そうだった。縦に早くという流れに関してはペドリ→オルモの交代は渡りに船という感じ。トランジッションについていけるファビアンも含めて縦に速い攻撃ではドイツの中盤の戻りを上回っており、WGの仕掛けも含めてフィニッシュまでの道筋が明確に描ける展開となった。
一方のドイツはクロースのらしくない強引な縦パスがカットされたり、あるいはキミッヒの早い段階での仕掛けがアバウトだったりなど、攻撃が跳ね返される要素が満載。スペインの速い展開を呼び込むような戦いをしてしまったと言える。
時間の経過とともに試合は保持局面を重視する展開に。バックスに対して強引にプレスに行くことはしない流れだった。より対策色が明確に見えたのはスペイン。ナローに締める4バックは、2列目が絞って勝負するドイツへの対策をきっちりやっていた感がある。
そのため、ドイツのライン間の住人にとっては苦しい展開に。狭いスペースで受ける工夫をしなきゃいけないムシアラにとってはかなりハードになる一方で、降りる動きと裏抜けの両面で勝負ができるハヴァーツや機を見たオーバーラップで抜けるキミッヒが効く展開になっていた。
スペインは保持に回っても優勢。ギュンドアンがロドリ番で安定となったことを利用し、持ち上がる機会が増えたラポルトを起点にドイツ陣内に侵入していく。さらにはルイスの降りるアクションも絡めると、対面のジャンが出ていくか悩ましい駆け引きに。クロースに広大なスペースを管理させてしまうのはまずい!となった結果、右サイドの対応が遅れてしまい攻め込まれるシーンもあった。
スペインは左サイドで攻撃を完結させれば上々ではあったがクロスまで持っていくと逆サイドとのフィーリングが合わなかった感。スペインが優勢ながらも試合はタイスコアでハーフタイムを迎えることとなった。
迎えた後半、どちらも選手を入れ替えての勝負。ポジションは入れ替えず、人だけを入れ替えたのが両軍の交代の特徴であった。
優勢だったのはスペイン。前に出てくるドイツのプレスをシモンのフィードでいなしつつ、ミドルゾーンの加速で敵陣に一気に攻め込んでいく。ドイツは選手を入れ替えたものの、構造的な課題は同じ。中盤の戻りの遅れはずっと気になる展開となった。
そうした中で先制点を決めたのはスペイン。右サイドのヤマルが作った深さを利用したオルモがマイナスで受けて先制点をゲット。アンドリッヒはルイスに引き寄せられて最終ラインに吸収されてしまうという手痛い状況となった。
構造は変わらないドイツは後半も同じ形で勝負。スペインは前半ほどライン間をタイトに管理できていなかったこともあり、ライン間に縦パスを差しつつ、外の滑走路を走って一気に押し下げる。特に右サイドは裏に抜けるところからの押し下げに成功した感がある。
それでもスコアを動かすことができないドイツはハヴァーツに加えてフュルクルクを投入。さらにはここにミュラーを入れるパワープレーに移行。この根性が実を結び、ミッテルシュテットのクロスをキミッヒが根性で折り返すと、ヴィルツがゴールを叩き込む。
ウィリアムスとヤマルというファストブレイクを完結させる両翼を下げてしまったスペインはだらっと早いリスターを繰り返すツケが回ってきた形。延長戦も優位に押し込むのはバランスが取れていたドイツの方だった。
しかしながら、スペインも反撃の手段がなかったわけではない。左のハーフスペースに佇むダニ・オルモにボールを預けて徐々に押し上げの時間を作ると、ドイツの攻撃を縦に速いカウンターに抑えるようになる。
すると、このダニ・オルモからスペインは勝ち越しゴールをゲット。オルモから放たれたクロスは2人目のボックス内のターゲットとなったメリーノの元に。値千金の勝ち越しゴールはソシエダのMFから生まれることとなった。
粘りを見せたドイツだったがここで敗退が決定。スペインの二の矢に屈し、ベスト8で姿を消すこととなった。
ひとこと
WGがいなくなった時点で攻め手が危うくなったと思われたスペイン。二の足を生み出したダニ・オルモの存在は偉大だった。あと、カルバハルとククレジャやばかったぜ。
試合結果
2024.7.5
EURO 2024
Quarter final
スペイン 2-1 ドイツ
シュツットガルト・アレナ
【得点者】
ESP:51′ オルモ, 119′ メリーノ
GER:89′ ヴィルツ
主審:アンソニー・テイラー
SF フランス戦
中盤化したヤマルが仕組みとクオリティの両面で圧倒
1ヶ月の宴もいよいよ佳境。決勝の座をかけてここまで負けなしの2チームが激突する。ボールを持つスタートとなったのはスペイン。無理にプレスに行かないフランスに対して、スペインのバックスが余裕を持ってボールを動かす展開。
中央が堅いフランスに対して、外から勝負をかけたいスペインだが、要注意人物であるヤマルにはラヴィオが助太刀してのダブルチーム。一方のフランスの保持も中央の噛み合わせをがっちり行ったスペインに対して、外からWGがボールを持って勝負する形に。
この両チームの特徴はWGが単騎で勝負を仕掛けられるクオリティを持っていること。というわけでまずは両チームともサイドからWGを起点にきたチャンスメイクが序盤は炸裂。ヤマルの大外からのクロスに対してオルモの背後から飛び込んだスペインが先に決定機を迎える。
だが、このチャンスをスペインが逃すと、次のチャンスが巡ってきたフランスが先制ゴールをゲット。右のデンベレの旋回からのサイドチェンジから、エムバペがクロスを上げてアシスト。ファーに逃げることでフリーになったコロ・ムアニのゴールでフランスが先行。サイドをめぐる決定機の応酬を制したのはフランスだった。
シンプルなサイドアタックではフランスに軍配が上がる立ち上がりになったが、スペインはインサイドにヤマルが登場することでフランスを揺さぶる。サイドでヤマルが受ける時はテオとラヴィオのダブルチームであったが、インサイドに入るヤマルにテオはついていく素振りを見せなかったし、ラヴィオは中央にいる時はスペインの中盤と同数で噛み合っているので、ヤマルを常に監視するわけには行かなかった。
フランスからすればいくら浮いたとはいえあんな簡単に一撃を仕留めてしまうのは聞いていない!というところだろう。ヤマルが自由になればこれくらいやれるという才能を示すミドルを放ち、試合を振り出しに戻す。
勢いが止まらないスペインはヤマルの登場で4人になった中盤で試合を完全に掌握。中央で自由を得たオルモが追加点を奪い、あっという間に逆転する。
リードをするとこのスペインは厄介である。フランスはマンツーでスペインの中盤を抑えているのだけども、スペインの保持はバックラインがきっちり関与するので面倒くさい。ただ回されるだけならば、まぁ放っておいてロングカウンターでもいいのかもしれないが、ミスはなかなか起きないし、ヤマルの中盤化とかナチョの列上げのように放置するとクリティカルなところまであっさり侵入されるのが面倒である。
一方のフランスはデンベレの横断以外にアタッキングサードでの解決策を見つけることができず。チュアメニのサリーはスペイン相手にプレスを落ち着かせることはできていたが、やや攻撃が前後分断気味になることが多かったようにも思う。
迎えた後半、スペインは同じく保持からボールを動かしていく。これに対して、フランスは強気の守備で対抗。バックスがスペインの前線にガンガンついていく姿勢でなるべく高い位置でボールを奪うためのアクションをしていく。
一方のスペインもニコ・ウィリアムズの抜け出しから裏を取りかけるが、メニャンの驚異的な飛び出しでカバー。ゴール方向に向かってくるわけでもないニコ・ウィリアムズにあのタックルを仕掛けられるGKはエデルソンとはまた別方向の狂気を宿しているなという感じであった。
後半もリードしているスペインは強かった。この日はやはりバックスがポゼッションへの関与が際立っている。後方からボールを運ぶことが出来るラポルト、逆サイドからのサイドチェンジを綺麗に受け取るククレジャなどプレミア経験組がきっちりとスペインの風を吹かせていたのが印象的だった。
フランスは4-2-3-1への変更からムバッペのポスト&バルコラ、デンベレの広い攻撃から反撃を狙ったり、ジルーというポゼッション型電柱の先駆けを投入することで中央に起点を作るなど様々な工夫を見せる。しかしながら、最後までゴールを破ることはできず。出場停止多数で苦しい戦いになるかと思われたスペインだが、フランスを下して決勝戦への進出を決めた。
ひとこと
ヤマルの中盤化を上回るアイデアがなかったフランス。まぁ、素のままでも強いんだけど、保持で機会を限定してくるスペインに対してはそれでは十分ではなかったということだろう。
試合結果
2024.7.9
EURO 2024
Semi-final
スペイン 2-1 フランス
フースバル・アレナ・ミュンヘン
【得点者】
ESP:21’ ヤマル, 25‘ オルモ
FRA:9‘ コロ・ムアニ
主審:スラヴコ・ビンチッチ
Final イングランド戦
決勝点は塹壕戦の壁を築く前に切り拓く
ここまで全勝。誰もが納得の強さでファイナルまで進んできたスペイン。史上最多の4回目の優勝を目指す彼らに立ちはだかるのは2大会連続で決勝まで辿り着いたイングランド。やいのやいの言われながら悲願の初優勝に手をかけているサウスゲートのチームが立ちはだかる。
構図はすんなり決まった。スペインがボールを持ち、イングランドが受ける。ほぼ駆け引きなしでこのフェーズに辿り着いた感があった。イングランドの色が出たとすれば、フォーデンをがっちりロドリにつけたというところだろう。そこも含めて最もオーソドックスなスペイン対策でスタートしたと言っていい。
スペインはズレを作るところ探しを始める。初手は左WGのニコ・ウィリアムスを活用。1枚剥がしてインサイドに入り込む場面を作るが、ライスやストーンズの素早いカバーリングが光り、なかなかこじ開け切ることができない。
受ける前の段階でズレを作ることができればウィリアムスは勝負ができるが、ウォーカーと正対すると置き去りにするのは難しい。ここまでスペインの大きな武器になっていたWGの質的優位を消し去ってしまうあたりはさすがである。
さらには逆サイドでも大外ではヤマルにショウが対応。完全にヤマルの大会になりつつある空気なのだが、それと逆行するかのようにストッパーとしての役割を果たした。
スペインは移動を織り交ぜることで少しずつ対応をしていく。ファビアンが引いてできたスペースにヤマルが絞ってきたり、オルモが逆サイドに顔を出したりなど、ここまでの試合で見せた顔を使いながら瞬間的にフリーの選手を作っていく。
イングランドの選手の対応は見事で瞬間的にできたスペインの構造的なギャップを後追いできっちり消し切って見せていた。この辺りの非保持でのトラブル対処はイングランド代表の面々がかなりしなやかに対応しているなという印象だ。
イングランドが保持に回った際にはまずはサカのマッチアップを狙うスタート。こちらもククレジャとのマッチアップはボールを受ける体勢が重要。サカからすれば正対することができればククレジャ相手に十分な駆け引きはできる状態であった。
ウォーカーのオーバーラップなどのサポートもあり、サイドから深さを作ることはできていたイングランド。しかしながら、グラウンダーでボックス内に折り返されるクロスはDF陣に先回りされていたし、マイナスでバイタルから狙う形はロドリが爆速の押し上げですべてシュートブロックに入るという大立ち回りを見せて無効化されていた。
ケインがカードをもらってからは前線でベリンガムがロングボールのターゲットとして暗躍して深さを作る。だが、この形もイングランドの攻撃の軸とはなりきれず散発的な攻撃が続くことに。試合はお互いにチャンスが作れない堅い展開のままハーフタイムを迎える。
迎えた後半、スペインにアクシデントが発生。ロドリの負傷でハーフタイムからスビメンディが投入されることに。これでフォーメーションはファビアンを下ろした4-2-3-1にシフトすることとなる。
ロドリの不在により困ったのはスペインよりもイングランドだった。ベースの陣形は変わってしまったし、キーマンはいなくなってしまったけども、中盤はマンツー気味に捕まえるという前提は4-2-3-1のままでも継続するべきか否か。
イングランドの前線の守備基準が曖昧になっているうちに、つけ込んだのはカルバハル。対面のベリンガムの背後を取ると、絞るヤマルにボールを届けることに成功。前半からヤマルが絞るケースはあったが、ここまで綺麗にライスの背中を取るケースはおそらく初めてだろう。中盤に穴を空けたヤマルはそのまま逆サイドに展開。ガラ空きになった左からニコ・ウィリアムスがゴールを仕留めて先行する。
イングランドはこのゴールを受けて前に出るプレスでいく腹を括ることができたようであった。バックスにプレスをかけてウナイ・シモンが危ういキックを蹴らなければいけない状況を作り出していく。その分、イングランドは中盤の背後が空くので、このスペースをスペインのIHやWGに使われる場面が多く見られていた。
それでも前プレ起動の甲斐があって敵陣に押し込む機会を作ったイングランド。バイタルエリアで金棒を振り回しているロドリはいなくなったので、こうなると前半よりは有望な攻撃が見えてくるイングランドであった。
その流れに乗るようにイングランドは右の大外のサカを起点にした攻撃で追いついて見せる。パルマーのフィニッシュもさることながら、サカにダブルチームに来ていたスペインに対して、間を通すベリンガムルートを開通させた攻略は見事。下のツイートで言うところの①の打開策を見事に実践して見せた。個人的には「あ、これこないだ習ったやつだわ」って思いました。
イングランドは同点になるとサカをWBに下げる5-3-2にシフトする。サカは得点以降もイケイケで仕掛けられそうだったので、流れに乗らないんかい!とも思ったが、スペイン相手にハイプレスは絶対にやらなきゃダメな時以外は使いたくないという気持ちはわからなくはない。現に中盤の背後は使われていたし。
しかしながら、イングランドは保持においてはサカが前に出ていく手筈だったので5-3-2を敷くにはフォーメーションを変えるための時間を稼ぐ必要がある。可変のための時間稼ぎができなかったのがオヤルサバルの決勝ゴールの場面である。スローインからの素早いリスタートでファビアン→オルモと縦パスをテンポよく繋がれてしまえば、サカが戻る時間を稼ぐことはできない。パルマー、ライスはそれぞれ対面の選手を捕まえるのが遅れてしまった印象だ。
オヤルサバルの外へのパスはタイミング的に早く、かつパススピードは遅いかなと思ったが、ククレジャが質とタイミングがドンピシャなダイレクトクロスで帳消しにした。イングランドの陣形を築くスピードを上回る決め手となったクロスだった。
終盤のイングランドは高さを生かした空中戦から決定機を迎えるが、これはシモンとオルモの連続ストップで回避。結果的にこれがイングランドのラストチャンスに。大ピンチを凌いだスペインが終盤は落ち着いて時計の針を進めて逃げ切りに成功。12年ぶり4回目のEURO王者に輝くこととなった。
ひとこと
イングランドもスイス戦以降は悪くなかったように見えたけども、WGの大外優位が効かなかった際のその先の手数をきっちり見せたスペインはやはり強いなと思った。ヤマル、くれぐれも大怪我しないでおくれ。というわけでEUROお疲れ!!
試合結果
2024.7.14
EURO 2024
Final
スペイン 2-1 イングランド
オリンピア・シュタディオン
【得点者】
ESP:47′ ニコ・ウィリアムズ, 86′ オヤルサバル
ENG:73′ パーマー
主審:フランソワ・ルティクシェ
総括
ポゼッション型×強力WGで文句なしの完全優勝
優勝おめでとう!個人的には少しバックスの強度が怪しいかなと思っていたのだけども、ほぼそういった部分を見せないまま貫禄の全勝優勝と相成った。
優勝の大きな要因はやはり従来のポゼッションを主体としたスタイルに加わった両WGだろう。ニコ・ウィリアムスとヤマルはどちらも2人を引き付けながらも問題なくプレーができるクオリティを持っている。強引に剥がせるウィリアムスと内に入り込んで柔らかいプレーを見せるヤマルの対比もまた面白かった。
WGの台頭の意義は大きい。ポゼッション重視のスタイルのチームが陥りやすい「押し込めるけども崩せない」というあるあるを回避できたのが1つ。もう1つは従来のスペインがあまり得意ではなかった縦に速い打ち合いでも勝機を見出しやすくなったこと。ベースのスタイルにおけるマンネリの打破と異なるスタイルへの適応の両面の道が一気に開けることとなった。
また、ボールを持って相手を動かすという根幹のスタイルを継続させたという点でもスペインにとっては意義深い大会となった。このスタイルが定着したのはペップ時代のバルサのクラブチームをベースにして以降と記憶しているが、今回のメンバーのバルサ成分はWGのヤマルと負傷で山場を逃してしまったペドリの2人。こうしたメンバーを欠きながらもバスク成分多めのチームは問題なくボールを持ちながら相手を動かすスタイルをやり遂げた。
ペドリ、ガビを欠いた中盤はファビアン・ルイスとダニ・オルモが躍動。司令塔ナイズされていない彼らでも保持の素養がきっちりインストールされているのはさすがスペインの土壌と感心するほかない。
保持での仕事をこなした上で、彼らの強みであるボックス付近での仕事をこなし、クオリティを上乗せするのだから素晴らしい。WGの2人が下がって以降も彼らがアタッキングサードでクオリティを見せることができたのは彼らの奮闘があってこそ。イタリアからフランスに渡り歩いたルイスとレッドブル派閥のオルモというキャリアがつながっているようには見えない彼らがスペイン代表の箱の中で見事な連携を奏でる様には感心した。
バックスでは抜群のセービングに危機回避のフィードでプレスを逃がすことができるウナイ・シモンが圧巻。カルバハルは越えた死線の数が段違いであることを出るたびに示していたし、ククレジャは苦しんだシーズンを越えて代表で再評価される流れを完全に作り出した。
このようにMVPとなったロドリを除いても充実のスカッド。フランス、ドイツ、イングランドをまとめて下したという実績を踏まえても優勝には文句のつけようがない。次のワールドカップにおいても彼らは優勝の有力候補になるだろう。
Pick up player:ラミン・ヤマル
若い選手は強度の高い現代のフットボールにおいてはプレータイムを制限して成長を見守りたいが、この才能を手元に置きながら使わないというのはもはや「我慢」とか「禁欲」の領域だろうなと思う。長いボールを収めるための競り合いをも厭わないプレースタイル的にも身体に負荷がかかるのは避けられないので、とにかく怪我と縁遠いキャリアを過ごすように願うばかりだ。