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「EURO 2024 チーム別まとめ」~スイス代表編~

目次

代表メンバー

▽GK
ヤン・ゾマー(インテル)
12 イボン・ムボゴ(ロリアン)
21 グレゴール・コベル(ドルトムント)

▽DF
レオニダス・ステルギウ(シュツットガルト)
シルバン・ビドマー(マインツ)
ニコ・エルベディ(ボルシアMG)
マヌエル・アカンジ(マンチェスター・C)
13 リカルド・ロドリゲス(トリノ)
15 セドリク・ツェジガー(ボルフスブルク)
22 ファビアン・シェア(ニューカッスル)

▽MF
デニス・ザカリア(モナコ)
レモ・フロイラー(ボローニャ)
ノア・オカフォー(ミラン)
10 グラニト・ジャカ(レバークーゼン)
11 レナト・シュテフェン(ルガーノ)
14 シュテファン・ツバー(AEKアテネ)
16 バンサン・シエロ(トゥールーズ)
20 ミシェル・アエビシェール(ボローニャ)
23 ジェルダン・シャキリ(シカゴ・ファイアー)
24 アルドン・ヤシャリ(ルツェルン)
26 ファビアン・リーダー(レンヌ)

▽FW
ブレール・エンボロ(モナコ)
17 ルベン・バルガス(アウクスブルク)
18 クワドウォ・ドゥアー(ルドゴレツ)
19 ダン・エンドイェ(ボローニャ)
25 ゼキ・アムドゥニ(バーンリー)

■監督
ムラト・ヤキン

GS 第1節 ハンガリー戦

ドイツの追手のポールポジションはスイスに

 本命のドイツを追う2つのチームによる直接対決。2位以上を確保するためにもここでライバルを叩いておきたい一戦である。

 互いにフォーメーションは3-4-2-1。ミラーでぶつかる両チームでの激突でまず求められるのは保持側のチームの対応となる。余裕があったのはスイス。ハンガリーがマンツーで前から当たってくることをしなかったため、バックスからボールを動かすことができていた。

 前進のためのズレを作ろうとしていたのは左サイド。高い位置に動くリカルド・ロドリゲスに合わせてジャカが低い位置を取るなどでマンツーの噛み合わせを破壊していく。

 特徴的だったのは多くの人が話題にあげていた20番のアエビシェールだろう。特に国際大会ではSBやWBは大外専用機になることが多いのだけども、このアエビシェールはかなり自由なポジショニングをとる。大外をバルガスに任せ、自らはインサイドに絞りながら攻撃に参加する。

 そして、アエビシェールは中央で2つのゴールに関与。先制点はライン間で縦パスのレシーバーになり、ドゥアーへの裏抜けでのラストパスを送ってアシストを記録。2つ目は豪快なミドルで追加点を奪う。

 左右から自在に押し込むスイスに対して、ハンガリーはなかなか前進をやり返すことができず。非保持ではボールの取りどころがわからず、保持ではロングボールでは逃げられない!という感じ。広く繋ぎながらスイスのマークのズレを剥がす方がまだ有力という状態だった。左サイドではスイスと同じようにマンツーをずらす旋回が散発的に見られたはしたが、決定的にゴールに向かうことができるほど大きなズレではないという感じ。2点のリードの分、明確にスイスが優勢だった前半と言っていいだろう。

 後半、ハンガリーはより前よりのプレスを仕掛けるように。前からハメに行くアクションを増やし、同サイドにスイスのボール保持を誘導しようと試みる。しかしながら、スイスのポゼッションの質の高さには苦戦。プレッシャーを逃しながら広く幅を使うスイスの組み立てに対して、なかなか狭いところに囲うことができなかった印象だ。

 保持に回った時のハンガリーはCHが左サイド落ちながら押し上げてつつ左サイドにオーバーロード気味に人を集めてはいたが、こちらも決め手にはならず。スイスがプレスを緩めたため、ボールを持つ機会自体はフラットになったが、その分ハンガリーが明確にチャンスを増やしたわけではなかった。

 ハンガリーは川崎ファンにはお馴染みの蔚山のアダムを投入し2トップに変化。しかしながら、スイスのボックス内の跳ね返し強度には屈してしまい引き続き空中戦でも優位を取ることができない。

 終盤は攻め疲れたハンガリーは徐々にスイスの反撃を受けるように。するとスイスはトドメの一撃をお見舞い。相手のCBのクロスの処理が甘くなったところをエンボロが掻っ攫いそのままゴールを沈める。

 前半は保持での変化を見せながら、後半は堅く逃げ切りを見せたスイス。GS突破に向けて好発進と言える勝利を飾った。

ひとこと

 左サイドの旋回とジャカの司令塔としての役割は見事。堅さもあるしスイスは悪くない内容だったのではないか。

試合結果

2024.6.15
EURO 2024
グループA 第1節
ハンガリー 1-3 スイス
ケルン・スタジアム
【得点者】
HUN:66′ ヴァルガ
SWI:12′ ドゥアー, 45′ アエビシェール, 90+3′ エンボロ
主審:スラヴコ・ビンチッチ

GS 第2節 スコットランド戦

プレスとセットプレーで得点の機会を探るが・・・

 スイスは勝てばドイツに並びノックアウトステージ進出が決定。スコットランドとの得失点差を考えれば、引き分けでも突破はかなり濃厚になると言えるだろう。

 立ち上がりはスコットランドがサイドからジリジリと前進。地道な前進からのクロスでゴールを狙っていく。自陣に押し込まれたスイスは縦に早くロングカウンターで応戦。序盤は落ち着かない立ち上がりとなった。

 時間が経過するとボールを持つのはスイス。中央を固める陣形となっているスコットランドの守備に対して、右のSBの位置に降りてくるフロイラーが降りてフリーでボールを動かしていく。ここから縦に進み、右サイドから押し込んでいく。この辺り、左偏重となっていた第1節と攻め筋は少し異なっていた。大外に上がるのはヴィトマーでシャキリとエンドイェがインサイドで近い距離でプレーする。

 押し込むとスイスは高い位置からプレス。ハイテンポではないが敵陣から人基準で追い回す。スコットランドのプレスの耐性は怪しく、プレスに対してかなり危うい感じになっていたのは気がかりであった。

 しかし、先制したのはスコットランド。自陣でCKを跳ね返したマクトミネイが敵陣に侵入して放ったシュートが跳ね返ってゴール。押し込まれながらも先にスコアを動かす。

 だが、スイスも早い段階で反撃。ハイプレスに成功したスイスはシャキリが1on1で勝負できる局面を迎えてこのチャンスをモノにする。

 この得点以降、ペースを引き寄せたスイス。左サイドのコンビネーションを確立し、一気に押し込む。CKからネットを揺らす場面もあったが、これはオフサイドで認められなかった。

 スコットランドは40分以降にWBで相手のワイドをピン留めし、3バックが安定したポゼッションを見せたが、そこから先には進めず。やはり大外のロバートソンに突破力まで求めてしまうのはなかなか苦しいものがある。

 後半も前半と陸続き。互いにマークが空きやすいサイドからゴリゴリと進むジリジリとした展開となる。スイスがポゼッションを握る立ち上がりにはなったが、スコットランドのサイド圧縮に苦戦。狭いスペースに追い込まれ前半よりも低い位置で攻撃を止められる機会が増える。

 一方のスコットランドも前半の終盤のリズムを踏襲し、ワイドから押し込む。だが、突破力がないという課題は変わらず。セットプレーをいかに生かすかとプレッシングでどこまでリスクを負うかの勝負になっていく。

 決定機があったのはスイスの方だろう。エンドイェの抜け出しやセットプレーからの決定機でスコットランドを追い込むが得点には至らず。スイスは一方的に攻め立てるというよりはどちらかといえば優勢くらいのテイストであり、引き分けでも突破が見えてくるという勝ち点勘定も関係しているのかもしれない。突破に向けて苦しくなったのは得失点で大きなマイナスを抱えているスコットランドの方だろう。

ひとこと

 スイスは前節見せた万能性が薄れて少し器用貧乏感が出てきたのが気がかり。もう少し左サイドの可変性が前節のように前面に押し出せればいい流れができるのではないかなと思ったが。

試合結果

2024.6.19
EURO 2024
グループA 第2節
スコットランド 1-1 スイス
ケルン・スタジアム
【得点者】
SCO:13′ マクトミネイ
SWI:26′ シャキリ
主審:イヴァン・クルチニャク

GS 第3節 ドイツ戦

なりふり構わぬナーゲルスマンを救った最強のスーパーサブ

 すでに突破を決めているドイツだが、この試合もフルスカッド。2位濃厚とはいえ勝ち点を重ねて突破を確実にしたいスイスにとっては迷惑な話だろう。

 立ち上がりはフラットなスタートだったが、徐々にドイツがボールをもつ展開にシフト。いつも通りのレーン移動が自在な2列目とハヴァーツで左右に動き、クロースはバックスに落ちる位置を変えながらスイスのバックスと駆け引きを行う。

 スイスは5-4-1の陣形を守りつつクロースに対してはリーダーが深追いするパターンを時折見せる。ただし、マンツーで絶対に捕まえる!というわけではなく、遠い場合には陣形をキープすることを優先する柔軟さを見せる。

 リーダーが出て行く行かないに関わらず、中央をきっちり閉めるアクションはスイスはできていた。ムシアラの落としをギュンドアンが狙ったシーン以外は中央をこじ開けるような形をドイツが作ることができなくなっていた。

 そうした中でアクセントになっていたのは左の大外のミッテルシュテット。背後をとっての左サイドからの押し下げでボックス内にスペースを作る。ファウルにより得点は無効になったが、インサイドに起点を作ることができないドイツにとっては大外からの押し下げは非常に助かるものだった。

 しかし、ドイツはこのゴール取り消し以降、少しずつボールをロストする位置が低くなっていく。スイスは自陣からの長いカウンターを効かせられる状況ではなかったし、保持での変形を見せるほど時間が稼げるわけでもなかったが、高い位置から捕まえられるとなれば話は別。中盤のプッシュアップから少しずつドイツに圧力をかけていき、敵陣での時間を作る。

 すると、先制点を決めたのはスイス。左サイドのシンプルな攻略でドイツの背後をとるとエンドイェが抜け出しからゴールを決めて先制する。

 テンポを取り戻したいドイツだが、中央でのコンビネーションが機能不全な状況を改善できず。特にムシアラの球離れの悪さがこの試合ではマイナスに作用しているように思えた。持ち味と紙一重なので難しいところではあるが、ライン間に2列目を集約している連携がうまく機能しなかったのは確かだろう。

 逆にいえばスイスのコンパクトさがムシアラを狭いスペースから締め出してタッチ数を増やすことを誘発したとも言える。それくらい中盤のスイスの守備の連携は見事。中盤で出ていって3枚になっている時のカバーリングも含めて枚数が微妙に変わっても埋める守備ができていることはドイツを苦しめて前半をリードで折り返す要因となった。

 後半の頭もペースとしてはスイスが優位。高い位置からの追い込みが機能し、ドイツのビルドアップを阻害する。ブロックの中でボールを受けることができないドイツは苦戦。ヴィルツからのタッチダウンパスのようなアクロバティックなチャンスメイクからでなくてはゴールに辿り着けない。ラウムとシュロッターベックを投入する後方の左サイドのユニットチェンジも効果は限定的だった。

 ここからは両チームとも選手交代によるシフトチェンジを図る。3枚替えで前線を総とっかえしたスイスはプレッシングのためのエネルギーを再チャージ。連携面ではやはり未成熟なところもあるし、エンボロのように独力で体を張って時間を作ることができる選手もいなかったが、それでも高い位置から追いかけて行く形で勝負をかけていく。

 持続可能のための交代を図ったスイスに比べて、ドイツは抜本的なモデルチェンジに着手。バイアー投入による2トップ移行を皮切りに、フュルクルクなどタワー系の選手を投入。サイドにはサネを入れてワイドから起点を作る。大外からのシンプルクロスという前半とは全く異なるアプローチでひたすらスイスを殴る。ハヴァーツと交代で入った2人のFWをひたすら狙っていく。

 かなりテイストの変わったドイツの攻撃が奏功したのは後半追加タイム。決めたのはフュルクルク。最強のスーパーサブであるストライカーがスイスから首位の座を奪還。フランクフルトで相見えた両チームは共にノックアウトラウンド進出を決めたが、首位での突破は開催国のドイツという結果となった。

ひとこと

 フルメンバーでのスタメン+なりふり構わない首位奪還というナーゲルスマンのスタンスはグループBとの対戦となる2位だけは絶対回避!ということでいいのだろうか。あと、ジャカのミドルとノイアーのセービングは大会名勝負数歌。

試合結果

2024.6.23
EURO 2024
グループA 第3節
スイス 1-1 ドイツ
フランクフルト・アレナ
【得点者】
SWI:28′ エンドイェ
GER:90+2′ フュルクルク
主審:ダニエレ・オルサト

Round 16 イタリア戦

前回王者を沈黙させたスイスが2大会連続のベスト8へ

 EUROはいよいよノックアウトラウンドがスタート。口火を切るのはグループAでドイツと鎬を削ったスイスと死の組をなんとか突破したイタリアである。

 大幅にメンバーを変えたのはイタリア。カラフィオーリの出場停止がどこまでプラン全体に影響を与えたかは読みにくいところではあるが、かなり多くのメンバーを変えてのノックアウトラウンドとなった。

 立ち上がりにスイスに持たせることを許容したことを踏まえると、イタリアはある程度ボールを持たせることを前提としたプランだったのかもしれない。スイスはハンガリー戦で見せた左サイドのポジションチェンジから攻めに出ていく。大外にバルガスorロドリゲスを置くことで解放されるアエビシェールはスイスの名物。

 序盤はこの左サイドの枚数をかけたスイスの攻撃に、イタリアがラインブレイクを許さないように体を張る攻防に。左サイドのラインブレイクにインサイドにエンボロに加えてフロイラーが飛び込むことでボックスに厚みを持たせていく。

 この形はスイスに軍配が上がったように見えた。ホルダーに対して複数の選択肢を提示し続けることで単一のルートをイタリアに絞らせないスイスは大外のラインブレイクもしくはバイタル付近でフリーマンを作ることに成功。イタリアの非保持は後手に回ることとなる。

 押し込んでからの崩しの工夫が見えたのもスイスとしてはかなりいい感じ。序盤はあまり崩しに使う感がなかった右サイドも同じように抜ける動きからのラインブレイクは見せていたし、トップのエンボロは表に裏に起点として大活躍。特に左サイドの可変との親和性が高く、イタリアの機を見たハイプレス破りにも一役買っていた。

 押し込むフェーズが続くスイスは33分に先制。左サイドの崩しで深さを作ると3列目から突っ込んできたフロイラーが先制ゴールを掴む。優位な時間をきっちりゴールに結びつけることに成功した。

 一方のイタリアはスイスの高い位置からのマンツーに苦戦。前線3枚で同数で受ける判断をするスイスを咎めたいところではあるが、実際のところワイドを使った攻略には至らず。スイスを一旦押し込んでから崩しのトライをする形の方がまだ有望であった。

 しかしながら、押し込むフェーズになってもなかなか解決策を見つけることができないイタリア。そもそも自陣から押し返すフェーズを安定せず、スイスの保持のトライに対してさらに手前で苦しんでいるように見えた。

 後半、イタリアはシステムを変えないまま左サイドにテコ入れ。GS通過の立役者のザッカーニを投入する。しかしながら、イタリアは後半早々に失点。デザインキックオフに失敗したファジョーリがボールを取り返そうとして躍起になり、サイドまでボールを追い回していた影響で、インサイドに穴がぽっかり。ここに侵入したのはバルガス。ひとまずアンカーを埋めていたクリスタンテがサイドにカバーに入ろうとするも間に合わず、見事なミドルを放ってみせた。

 このゴールでかなり意気消沈してしまったイタリア。非保持ではWGの無理筋なプレスからアンカー脇が空くなど構造がスカスカに。スイスが攻撃を終えても、トランジッションに向けたポジションの取り直しが遅い。速く攻撃しろとは言わないが、攻撃に向けて早く意識を切り替えることはせめてして欲しかったところである。

 2点をとってなお、スイスは意欲的なプレスから進撃。イタリアに対してなおも次の得点の可能性が高い状況をキープする。

 攻撃的な選手交代したイタリアは、非保持で撤退ベースにシフトしていったスイスに対しても手も足も出ない。高い位置から追いかけ回されようが、ブロック崩しに誘導されようが何もできないのは悲しいところ。ザッカーニとキエーザが根性でクロスをあげようと、ゴールネットを揺らすことはできなかった。

 イタリアの後半へのエネルギーは立ち上がりのワンプレーで鎮火。恐ろしいくらい何も起こさせなかったスイスが文句なしでベスト8進出を決めた。

ひとこと

 スイスがイタリアに負けるということは普通にあり得るかなと思っていたが、90分間ほぼ何もできないくらい一方的というのは正直驚いた。大幅に入れ替えたスターターが機能しなかったのは確かだけども、他の策があったではないか!と胸を張って言えるほどの代替案もあまり見当たらないのが辛いところでもある。

試合結果

2024.6.29
EURO 2024
Round 16
スイス 2-0 イタリア
オリンピア・シュタディオン
【得点者】
SWI:37′ フロイラー, 46′ バルガス
主審:シモン・マルチニャク

QF イングランド戦

対策を打ったイングランドがスイスに立ちはだかる

 劇的なベリンガムのゴールでベスト16は地獄から蘇ってきたイングランド。準々決勝ではイタリアを一蹴したスイスとの一戦に臨む。

 フォーメーション変更が報じられたイングランドだったが、確かにスイスに合わせてチューニングをしてきたと感じる配置になっていた。非保持はミラー気味の3-4-2-1。スイスの布陣に噛み合わせて敵陣ではマンツー気味に追い回す。ただし、微妙に受け渡しは発生しているので、完全なマンツーではない感じであった。

 キーになるのはスイスの左サイドだろう。大外にバルガスを置き、アエビシェールはフリーマン気味、エンボロも初期配置左に流れてズレを享受しようとした。

 スイスの保持はこの左サイドの可変を使えるかがポイント。ここをすっ飛ばしてとりあえず最終ラインに蹴ってもまず回収されてしまう。蹴らせるためにイングランドはフォーデンが二度追いを仕掛けてアカンジやゾマーの時間を奪いにプレスに行く。

 スイスからすると、フォーデンの二度追いはロドリゲスのところが開くので、スイスとしてはここに届けられれば可変を使える公算は強まる。この可変を使うための保持の引き出しはさすがであった。根性でロドリゲスにボールを届けるまでショートパスを交換していたし、右サイドからアカンジがキャリーしたりなど、味を変えながら勝負することができていた。

 こうなると、スイスは敵陣に侵入できるので、イングランドは自陣側のリトリートの守備にシフトチェンジ。5-4-1で自陣での守りに専念する。立ち上がりは大外からラインを下げられてしまう形を作られると少し脆そうだったが、ここは時間の経過とともに慣れた感じがある。

 イングランドは保持でも少し整理された感がある。後方は4バックになるケースと3バックになるケースが共存。ウォーカーがCBとして振る舞うか、SBとして振る舞うかで決まる形であった。

 前進のキモになるのは前線の降りるアクション。ケインやフォーデンの降りるアクションから対角へのパスで大外から勝負を仕掛ける。1on1の行き着く先になっていたのは右のサカ。1on1であればアエビシェールには間違いなどアドバンテージは取れる。折り返しの精度はもう一つだが、明らかに武器になっていた。スイスはバルガスがリトリートしてダブルチームを取れるかが抑えるための要素になる。4になればイングランド側はウォーカーのサポートもできるので、ここは枚数調整によって厚みの変化が見られた。

 悪くはないイングランドは攻め手の多様さという点では疑問を残したと言えるだろう。右のサカ以外では攻撃のレパートリーは中央でボールを引っ掛けてのライスとメイヌーを使ったカウンターくらい。前半にスイスが水際で踏ん張れる要因の1つになったと言えるだろう。

 後半も流れとしては同じ。スイスの保持に対して高い位置からイングランドが阻害をかけるという構図。スイスが少し早い段階で前線に蹴るという点が変化といえば変化。ここはウォーカーやコンサといったバックスの迎撃性能が目立つ展開となる。

 スイスは少しずつ保持から解決策を探りに行く。ジャカが縦パスのコース探しにフォーカスしたり、トランジッションから右サイドを縦に進んでみたり、あるいはゆったりと左右で幅をとってみたりなどの工夫でイングランドを徐々に押し込んでいく。

 そして、前半はあまり使わなかった右サイドから先制したスイス。右サイドからの鋭いクロスのこぼれ球をクリアしきれずにエンボロがゴールを仕留める。処理が難しいボールだったことは確かだが、スイスのバックスがサカの鋭いクロスを延々と弾き返したことを考えれば、ストーンズにはなんとかしてほしかった感もある。

 追い込まれたイングランドは3枚替えを敢行。ベリンガムが残るのか、残らないのか問題に見ている側も混乱しているうちにサカがスーパーゴールを決めて試合を振り出しに戻す。これで試合は延長戦に突入する。

 終盤までオープンな90分だったが、それでも延長戦は慎重。5-4-1のブロックに対して、ゴール前で攻める局面をターン制で迎える形となった。決定機が全くないわけではなかったが、散発的にやってきたチャンスを仕留められればいいな!という程度であり、基本はPK戦に向けて陣容を整えながら30分を過ごしていた。

 PK戦を制したのはイングランド。各チームの名キッカーを揃えての堂々たるキックを披露し、名手ゾマー相手にパーフェクトを達成。ベスト4に駒を進めた。

ひとこと

 スイス対策色が濃かったながらもこれまでの試合に比べればイングランドのやりたいことの解像度が爆上がりしたのは良かったように思う。特に高い位置からの制限は他の強豪国との差別化になる部分だと思うので、スイス以外の相手にもここを実装できるかが残り2試合のポイントになるだろう。

 引き出しが多いスイス、とても好きなチームだった。2年後も楽しみである。

試合結果

2024.7.6
EURO 2024
Quarter final
イングランド 1-1(PK:5-3) スイス
デュッセルドルフ・アレナ
【得点者】
ENG:80′ サカ
SWI:75′ エンボロ
主審:ダニエレ・オルサト

総括

大会随一の完成度と対応力を併せ持つ好チーム

 代表チームがクラブチームのように成熟した戦い方を見せられなくなって久しいが、「まるでクラブチームのように戦う」という点で今大会個人的にナンバーワンだったのはスイス。完成度の高さを武器にベスト8入りは当然!という形で勝ち上がってきた。

 もっとも、興味を引くのはやはり左サイドの可変だろう。WBのアエビシェールはインサイドに絞って働くことができるだけでなく、10番としてライン間に君臨。ハンガリー戦ではアタッキングサードで決定的な仕事を果たして、見事に勝利に貢献して見せた。

 スイスの完成度の高さはこの左サイドのアエビシェールの動きをアナーキーな個人の動きにとどめないことだろう。同シャドーのバルガス、CBのロドリゲスは大外に代わりに張ることで幅を担保。アエビシェールにインサイドに入っていくことを促す。

 CFのエンボロもサイドに流れつつ奥へのランで手前にスペースを作る動きを見せている。フィニッシャーとしてだけでなく、チャンスメーカーとしても大きな貢献を果たしているといえるだろう。

 こうしたサイド攻撃をアカンジやジャカが操るとなれば、安定感は折り紙付き。ジョーカーの飛び出しを起点とした攻めをバランスよくユニットで支える仕組みができており、この大会の中でも随一の完成度を見せていた。

 保持一辺倒ではないのもチームとしての魅力。リトリート、ハイプレス、カウンターなどほかの局面においても完成度の高さを見せているのもこのチームのいいところ。イングランドはスイスの保持に対してきっちり対策を組んできたが、スイスはストロングの左サイドを使わずに揺さぶるなど対策をされた時の対応力も良好。敗れはしたがこの大会でもっとも好感を持って応援したくなるチームとなった。

 主力の年齢的にも2年後も期待できるチームといっていいだろう。コンスタントな成績と裏腹に突き抜けるビッグトーナメントでの成績がないチームとしての印象が強いスイスだが、ワールドカップではそのガラスの天井を突き破る大きなチャンスを迎えることになるだろう。

Pick up player:ブレール・エンボロ
 パワーとスピードで押していくタイプなのかなという先入観とは裏腹に、細かい芸当やオフザボールの動きのきめ細やかさも際立った。いい意味で裏切られた選手。

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