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マッチレビュー
■安全に安全に
2017年の元日は現地観戦だったので試合中にTwitterを触ることはあまりなかった。さらにいえば、自分のアカウントには今ほど多岐にわたる分野の人がTLにはいなかった。
あれから4年。自分は家で自らのチームの天皇杯の決勝を見たのが今年の元日である。したがってTwitterをポチポチしながら天皇杯を見守った。
天皇杯は非常に多くの人が見るんだなというのがTLを見た印象である。「あー、この人も今川崎の試合を見ているのかー」とか結構新鮮な感覚だった。
そういうサッカーはよく見るけど、川崎の試合をあまり見ない人にとってまず疑問に感じたようだったのは田中碧が最終ラインに落ちる動きの有用性である。「このライン落ちは無駄じゃないのか?」とか「何の意味があるの?」とか。そういう類のものである。
というわけで一応1年間川崎を見た身として、このやり方についての見識を改めて述べてみる。毎試合欠かさずにレビューを読んでいる人にとっては繰り返しになるかもしれないけどご勘弁を。
まず、最近の川崎のビルドアップは1stプレス隊の脇からボールを運ぶ志向が強い。まさしく田中碧が落ちることが多いのもこのスペース。したがってまずはトップ脇のフリーマンにボールを渡して、プレスラインを1つ突破する。
プレスラインを突破した後は相手のDFラインの前の選手に縦パスを刺すことが次のステップ。主にレアンドロ・ダミアンがこの縦パスを受ける役割を担うことが多い。そして、その縦パスの落としをWGの三笘や家長が受ける。
フィニッシャーになるべきダミアンがサイドに流れることを許容できるのは両WGの家長と三笘が時間を稼げるから。相手の最終ラインを並走する選手が複数用意されていることがこの攻撃の最後の設計の部分になるので、ある程度はオーバーラップをするための時間を稼ぐ必要がある。
この最終ラインと並走する役割を担うのは逆サイドのインサイドハーフ、WGそして山根視来。この役割をインサイドハーフが担いやすいように、川崎のインサイドハーフは左右対称が常態化している。田中碧が最終ライン付近に落ちるならば、大島僚太は最終ラインの前まで上がり、フィニッシュに絡むことを狙う。
攻略法の要点を話すと、1stプレスラインが手薄になりがちなサイドからボールを運び、最終ラインを一気に背走させながら攻略する。最終ラインと並走する人数が確保されていればいいので、もちろんポジションの入れ替わりは可。
実際、この試合のファーストチャンスは抜け出し役が田中碧で、落としを受けて高い位置で前を向く役割を守田英正が担っている。山根視来はスタートポジションが後方で、後から追いかけるようにポジションを上げている。
しかしながら、前線で時間を作れなければこの作戦は失敗するということは柏戦で判明している。時間を作れる三笘と家長への依存度は高い。
では、なんのためにこういうやり方をやっているかという話である。おそらく中央でのボールロストを避けるためだと思う。このやり方は中央をほぼ経由しない。なるべく安全にボールを運ぶことを念頭においており、ラインブレイクも確実に薄いサイドを使って行われる。
中盤が最終ラインに落ちる動きが否定されやすいのは、ただ落ちるだけでは相手を動かすという目的に反するシチュエーションに拠るところが大きい。この状況では過剰に最終ラインに人をかける一方で、縦パスからラインブレイクを素早く行い、相手の最終ラインを背走させることで守備陣にとって不安定な状況を作り出すということが目的になっている。
つまりは後ろから時間を紡いでいくというビルドアップのイメージではなく、WGに時間を作ってもらうことから逆算した楔に基づく攻撃というイメージである。なので、繰り返しになるが時間を作り、ボールを運ぶことができるアタッカー陣への依存度は高くなる。
■G大阪の陣地回復ありきの話
ではそもそも、なぜこのやり方をやっているのかである。おそらく川崎の終盤戦で勝てなかった相手はいずれも中盤をマンマークでつぶされるところからスタートしているので、そこを回避するためではないだろうか。詳しくはこのシーズンレビューを読んでね。
おそらく、2020年になされた中盤対策へのアンサーがこの手法だと思われる。ショートカウンターというリスクを負うことをなるべく避けながら、WGに時間づくりを託す。このやり方が最も確実という算段なのだろう。
では、このやり方はG大阪にとってどうだったかである。ここまでがーっと書いている感じを見ると、冒頭の「なんで田中碧が落ちるの?」と疑問を持った人に対して説明して肯定する言葉を投げかけているように見えるかもしれない。しかし、個人的にはG大阪相手にこのやり方をやったのは微妙だったように思う。
理由はこのやり方を採用するのには中盤に当たり負けしてしまうという前提が必要である。この日のG大阪は5-4-1が主であり、中盤をかみ合わせてぶつかってくる相手ではない。さらに言えば、矢島と山本というG大阪のCHコンビはこの非保持におけるプレス可否の判断に長けているコンビではなく、対人守備に特段強みがあるタイプのプレイヤーではない。加えていうのならばプレス隊が1人しかいないチームに対して、3人が後ろでビルドアップ隊の役割を取るのは少し後ろに重たすぎると思う。
井手口陽介が先発ならば、このやり方を採用するのはわかる気はするが、そうでないのならばわざわざ中央を避けてサイドから迂回してボールを運ぶ重要性は感じない。むしろG大阪の最終ラインは中盤の出ていく場面に合わせることができずにMF-DFラインの間のスペースが空いてしまうことが多い。
なので中央を経由したプレーはむしろ狙い目である。実際に後半はそのやり方を見直したのか、中央に居座る形で楔を通すプレーが増えていく。ライン間で受ける川崎のプレイヤーにはボールを収めるどころか、ポストプレーなしに自身で反転して前を向くことができる余裕があった。
そういう状況の中であえてサイドを迂回するやり方を序盤に採用した意義を考えると、何よりもG大阪相手にいい状況でボール奪取を許す状況が起きる確率をなるべく引き下げるためだろう。
アデミウソンがいないG大阪には陣地を独力で回復できる人材がいない。したがって、なるべく高い位置でのボール奪取は必須。裏を返せば、川崎としては最終ラインを押し下げることができれば失点の確率はかなり下げることができる。
なので、自分たちの良さを引き出すよりも相手の強みを消すことにシフトしたのかなと思っている。この試合の川崎のやり方でもっともミスが多いのは仕上げの部分。その仕上げの部分はG大阪が背走し、ラインを下げている状況が多い。
G大阪はラインを下げられた状況からのカウンター攻撃発動になる上に、最終ラインからの1手目のパスが詰まることがとても多かった。予想通り陣地回復に手間取っている様子で、川崎の狙いはある程度ハマっていたように思う。
川崎が中央での攻略の比率を時間が経過するごとに増やしたのは、十分にG大阪を押し下げる状況での波状攻撃が問題なく循環していると考えたからであろう。
前半のシュートの決まらなさにはやきもきした川崎ファンは多いだろう。確かに川崎は多くのチャンスを外していた。しかし、G大阪のラインを下げてカウンターの危険性の低い状況で攻撃を終わらせるというミッションはできていたので、三笘の先制ゴールが入る以前の展開においても個人的にはあまり心配ではなかった。
中期的に課題を感じる部分はむしろ最終局面での押し込まれた後の状況。三笘が下がり、家長が完全にばててしまってからの川崎はG大阪に押し込まれる機会を作られてしまい、ピンチを引き起こすことになる。この両WGへの依存は押し込まれた後の陣地回復においてもみられる状況であり、来季この試合の戦い方をシーズンを通してやっていくのならば、彼らへの依存をどのように減らしていくのかが課題になっていくように思う。
あとがき
■1年間お疲れ様でした
少なくとも天皇杯のタイトルを取るという短期的な目標に関して言えば、川崎の年末のアプローチは成功だったように思う。現状の戦力を最大化するという意味では登里不在の川崎において、三笘と家長+好調のダミアンに時間を作ってもらうことを託すというやり方は理に適っているように思う。
中村憲剛が出れなかったのは残念だが、押し込まれている時間帯に関しては少しでもカウンターにおける攻撃の強度を上げるためには脇坂泰斗の投入が先になるのは仕方がない部分である。90分でなんとか追いつくことを画策しているG大阪を向こうに回して延長戦となったときに、延長戦でもう一度ブーストをかけるための中村憲剛というのも良くわかるし。
というわけで課題はあるものの、天皇杯のタイトルを取るという部分にフォーカスできていた試合だったと思う。やったぜ!2冠だああああああああ!!!!!!
以上、2020年シーズンのレビューは終わり。天皇杯のレビュー、遅くなってごめんなさい。1年間読んでくれてありがとうございます。書くのも大変だった過密日程だったけど、読むのも大変だったに違いない。俺はたくさん読むのが苦手なのでよくわかる。
各レビュワーもお疲れさまでした。そんなレビュワーの中でも2020年のレビュー締めがこんなに遅くなったことは幸せでございます。来年も正月の試合のレビューがかけますように。
試合結果
2021.1.1
天皇杯 決勝
川崎フロンターレ 1-0 ガンバ大阪
国立競技場
【得点】
川崎:55′ 三笘薫
主審:木村博之