MENU
カテゴリー

「長老も目を細める」~2020.12.16 J1 第33節 川崎フロンターレ×浦和レッズ レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
攻めさせたいサイドから

 アウェイ2連戦を共にドローで終わり、ここ数試合は勝利から遠ざかっている川崎。中村憲剛のホームのリーグ戦ラストゲームの相手は18チームの中でトップクラスにそんなことはどうでもいいと思っていそうな浦和である。

 試合は90分間を通じて川崎のボール保持の局面が中心で回ることになる。しかしながら、展開は川崎のボール保持という枠の中で両チームの主導権の綱引きが行われていく形になる。

 この試合の立ち上がりにいい入りをしたのはボールを持たれている浦和の方である。まず、前線の非保持におけるサイドへの誘導が興味深かった。右のマルティノスは逆サイドの武藤と比べて高い位置を取りプレスをかける。したがって、浦和の陣形はやや左右非対称気味に。

画像2

 これにより川崎のボール循環は右サイドに寄ることになる。右サイドに寄せ切りボールを奪い速い攻撃に出た浦和。一度攻め込むとチーム全体がPAまで駆け上がり、岩武がPKをゲット。これを興梠が沈めて先制点を取る。

 川崎のボール保持におけるストロングサイドは序盤は明らかに左サイド。しかし、マルティノスが高い位置からくる中では右利きの谷口⇒登里のラインはややアングル的に厳しい。しかし、マルティノスのプレスは気まぐれ度が高め。外切りを常に意識してプレスをかけるわけではない。川崎は三笘と登里という最もブロック崩しが長けている左サイドの2枚にボールを届けることで狭いブロック攻略に挑む。

 2列目の誘導が顕著だと、川崎は中盤を経由してのスムーズなサイドチェンジができない。片側への圧縮はうまくできているので、スライドまでの時間を稼げるならばサイドチェンジは許容してよい。

 浦和はこのサイドへの誘導がしばらくの間効いていた。25分のシーンのようなサイドチェンジの局面において川崎は後ろを経由せざるを得なくなるとどうしても逆サイドへの浦和のスライドは間に合ってしまう。前半の序盤は浦和が守りたいサイドから川崎が攻める時間が続く。それでも時折こじ開ける三笘⇒登里コンビはさすがだが。

【前半】-(2)
不均質なサイド攻撃

 潮目が変わったのが30分過ぎのこと。マルティノスが寄せてきているところを守田が軽妙なタッチで交わして、逆サイドにまで展開したシーンである。これにより、スライドにおけるマルティノスの誘導の勢いは半減してしまった。そもそもプレスも気まぐれ感があったのに。師匠が前の守備はやるならやる、やらないならやらないほうがいいといっていた。やらないならやらないで後ろが根性で守る腹を決められるかららしい。

画像3

 中央の2トップがラインを越された後の守備においての貢献度が低かったのも浦和にとっては痛い。サイドから逆サイドにスムーズに展開されるならば、あとは押し込まれる時間帯が増えてしまうのは当然である。

 さて、サイドを限定されない!という状況は本来川崎にとっておいしいはず。しかし、この日はどこか様子が違う。左右どちらのサイドが使える状態でもビルドアップが左に偏重するのである。家長は逆サイド出張か、もしくはストライカータスクのようなかたちで前線中央に居残り。ビルドアップにほぼ関与せずに高いところで待ち残るFWタイプの選手がここに使われたらこんな感じだろうか?みたいな役割だった。1トップの小林はフィニッシュ専門タスク。点を取ればいいけど、点を取らなければ評価のしようがないぜ!という感じだった。

 家長と小林がビルドアップに絡まないことで苦しくなったのは右サイドのビルドアップ。やや各駅停車気味のパスワークでどん詰まりになってしまい、入り込んだり抉ったりする頻度はあまり多くはなかった。

 つまり、浦和がサイドチェンジを許すようになってからも攻め手は三笘と登里に限られる川崎。彼らに用意される状況はサイドでの誘導が消える状態であり、サイドをだいぶ替えやすくなったものの、三笘と登里にひたすらいいボールを渡し、ガンガンブロックを引き裂いていた。なのでルートは変わらないけど、譲位されている状況は良好!みたいな。

 先制点以降の浦和の攻撃はなかなか難しいことになっていた。まず、CBからダイレクトにCFへの楔を狙うケースが多い。さすがにいきなりは厳しいパスコースなだけあり、簡単にはここのパスは通らない。そうなると当然ここからカウンター。CBの無謀な楔はカウンターの温床になっていた。まぁ確かに他のルートがあるかというと怪しいのは確かなのだけど。

 さらにCFにボールが入ったとしても、その後の流れも特に整理されていないため、川崎の最終ラインはたとえ一度ラインを越されたとしても、プレスバックしてブロックを組むのが間に合ってしまうことが多い。

 攻撃でなかなかリズムをつかめない浦和。押し込む川崎はゴールを陥れる寸前まで迫るのだが、ゴールライン付近で体を張ったDFでなんとかしのぐ展開に。川崎はゴールラインを割れないまま前半終了を迎えることになる。

【後半】
流れるようになった右からリベンジの左へ

 後半も同様の展開が続く。前半の終盤と同じく、浦和が徐々に望まない苦しい状況で守る状況が増えてくる。浦和にとって厄介だったのは中央で守田が前を向くシチュエーションが出てきていたこと。浦和のプレス隊2人に対してCB+アンカーが3枚であり、SHも高い位置を取れなくなっているので不利な状況を覆せなくなっている。

 川崎は守田がMFラインの手前で前を向くことで自在に展開が可能になる。左右のより深いところに侵入するための下準備といえるだろう。最終ラインが徐々に下げられていく浦和。ラインが下がっていくことで怖いのは、判断やプレーのミスが失点に直接つながりやすいことである。

 同点の場面は浦和が後ろのスペースを気にしすぎるあまり守田にミドルシュートを許してしまうことになる。この場面では柴戸が守田へのチェックよりも後ろのスペースを埋めることを優先したように見える。深い位置に構造的に侵入されたこと、そしてその段階での判断ミス。もっと言ってしまえば、その判断ミスも川崎に自陣への侵攻を許すようなプレー選択という結構何重にもなった感じの同点ゴールだった。

画像4

 川崎が前半より改善したのは右サイドの攻撃。前半は中央に鎮座していた家長がワイドに開いたこと、そして山根と脇坂が彼に合わせて旋回しながら浦和のマークをずらしにかかっていること、その後方から守田がサポートに入ること。これによって川崎の右サイドの攻撃は質が向上。

画像5

 逆に左サイドは密集気味だった前半に比べて、三笘と登里のシンプルな攻撃が目立つように。そして2点目は鳥栖戦で不発だった形のリベンジ。長谷川が序盤戦で武器にしていた逆サイドのWGのエリア内侵入でのフィニッシュを三笘がついに会得。本人がインタビューで振り返っていたように、前節ミスりまくった形なのでこのパターンから点が取れたのは大きい。修正早いね。有能かよ。

 さらにその直後の得点も右サイドから。こちらはシステムよりも阿吽の呼吸という方が正しいだろう。「中を見ないで蹴った」と振り返る中村憲剛のクロスはこの日一番難しいであろうシュートを小林悠が決める。中を見ないクロスとその一番難しいシュートという歴代キャプテンの共演で浦和を突き放す。

 浦和は武藤の抜け出しを除けば、なかなかチャンス自体がつかめない状況。自陣深い位置からの脱出の方法が見つからずに苦しむ。ボールを持つ時間を与えられてもどこから崩したいか?という部分が見えてこずにシュート機会は増えてこない。

 試合はそのまま終了。川崎がホームの最終戦を勝利で飾った。

あとがき

■少しだけ長く続けるしか道はなかった

 入りは良かった浦和。序盤は前線からのプレスで川崎の攻撃をサイドに誘導して圧縮していく守備の仕方ができていたと思うが、徐々にその動きも失速。やりたいことは見えたが、それを継続する力がまだなかったということだろう。この形をできるだけ長く続けていくことが出来なければこの試合は少々苦しかった。逆転されてしまえば、勝ち点を得るのは難しかっただろう。

 来季はどうやらスタイルの異なるサッカーに取り組むよう。確か今季契約が切れる選手が多かった記憶。どこまで陣容を入れ替えるのか。コロナ禍における厳しい経済状況において、どこまで陣容の入れ替えがそもそも可能なのかというところがまずは第一歩。おそらく一度の市場ではチームは出来上がらないはずで、新監督はお金と時間、そしてファンの信頼を勝ち取ることができるかどうかが序盤戦のポイントになるだろう。

■尻上がりを牽引した2人

 立ち上がりはどこか苦しくて狭いかつての川崎のような時間帯が続いたが、守田が空くようになると徐々に今季のあるべき姿を取り戻した印象だ。正直、この形の相手の4-4-2は攻略しておきたかったところなので、ちゃんと勝ち切れてほっとしている。後半の攻め筋は理想的で引き分けが続くチームにリズムをようやくもたらすことができた。

 前半から崩しの貴重なカードとなり、後半は前節の課題を克服した三笘、そして試合の展開を左右することになった守田のゲームメイクなど次世代の選手たちが一皮むけたことで浦和相手に逆転できたのは大きい。ホームのリーグ戦ラストゲームで仕上げをしたレジェンドもおそらく彼らの成長に目を細めているはずだ。

試合結果
2020.12.16
明治安田生命 J1リーグ 第33節
川崎フロンターレ 3-1 浦和レッズ
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:53′ 守田英正, 59′ 三笘薫, 61′ 小林悠
浦和:11′(PK) 興梠慎三
主審:今村義朗

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次