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「育児休暇はEUROと共に」~EURO 2024 全チーム総括 part4~

目次

【ベスト4】フランス

堅実さはモノトーンと隣り合わせ

 優勝候補の一角だったフランスはスペインを前に準決勝敗退。決勝に残ることができないまま大会を去ることとなった。

 端的に言えば堅くて鋭いというのが今大会のフランスの印象である。優勝したスペインも含めて、今大会の列強国はCB陣に盤石感を感じるチームは少なかった。そうした中でフランスのセンターブロックの堅さは別格感があった。 

 カンテ、チュアメニを筆頭にラビオ、カマヴィンガが控える中盤にブロック守備は強固。4-3-3と4-2-3-1を行ったり来たりできるさじ加減も見事だった。その中盤の後ろを固めるのはサリバにウパメカノ。ベンチにコナテを置くという陣容は大会全体を見てもとびぬけているスカッドだったといえるだろう。そして、最後方にはメニャンである。 

 アーセナルファン目線で言えば、クラブと左右が異なる左に置かれたサリバは序盤こそ適応に苦しんでいたが、試合を重ねるたびに安定感が向上。GSで見られた怪しいプレー判断はラウンドが進むごとに減っていった。

 前方の鋭さを担うのはやはり両WGだろう。高いラインを敷く相手にエンバぺとデンベレのワイドアタッカーコンビは相当効いていた。1on1からゴール、もしくはラストパスまで持っていける強引さはさすがであった。特に左サイドは後方から飛んでくるテオの馬力も含めて、守備側には相当な負荷がかかっていたに違いない。

 堅く守って鋭く刺す。他チームの方向転換により個性面でも被るチームは少なめ。後ろを堅くしてジリジリとというテーマにはほんのりかぶりがあったポルトガルを持久戦で下すなどその道の一番前にいるチームだったことは確かである。

 ただ、この道以外のところを求められるとどうだったか。外循環で迂回して、安全なルートからWGにボールを渡すことが好まれる一方で、中央をこじ開ける手法にはあまり膨らみを感じられず。サイドにつけて強引にこじ開けるというWGの突破力頼み感が否めなかった。

 加えて、前線に大駒が多いこともあり、劣勢に陥るとギアアップできなかったのも苦しかった。ハイプレスに出て行くことができず、勝負所で強度をあげられないところはスペインと比べてしまうと、どうしても見劣りしてしまう。

 よく言えば冷静、悪く言えば淡白のモノトーンで戦い続けているのが今大会のフランス。淡々としている試合運びを打ち破る火力アップする術は今後を見据えるとほしいところではある。個人的には中盤より後ろはよくやったチームに分類できるかなと思うのだが、前がそうしたギアアップができない分の理不尽さをなかなか発揮できない大会だったように思えた。

Pick up player:エンゴロ・カンテ
 サウジに移籍はしたものの、勤勉さにボール保持の素養が備わったプレーのクオリティは変わらず。特に開幕節は多くの局面に顔を出し続けるバイタリティを見せて、カンテはここにあり!というのを存分に発揮して見せた

【ベスト4】オランダ

破壊力上等スタイルは時には一本調子感も

 こちらもベスト4。ベスト4の4チームの中では個人的には最も評価が難しいチームな感じがする。

 インテンシティを感じさせながら早い展開についていくという基本コンセプトに関してはかなり良くコミットしていたと思う。まだ来季どこのチームでプレーするかが決まっていないシモンズがライン間でボールを受けると、ここから一気に攻撃はスピードアップ。ガクポ、ダンフリースといった選手たちの強引なプレーからゴールを陥れる形は迫力十分だったのは間違いない。スハウテン、ラインデルスといった中盤もこの速い攻撃についていく中できっちり存在感を出すことができた大会だったように思える。

 しかしながら、その強引なプレーは試合を動かす力もある反面、少し一本調子なところがあった。大会が進むにつれて攻撃はいそがしくなり、序盤戦のようなアケが後方の司令塔となって相手を動かしながら前進するといったアプローチは徐々に減っていった感がある。

 オランダのCHの2人の評価が上がったことは疑いの余地はないと思うが、テンポをコントロールする選手がいる未来は正直見ておきたかったので、個人的にはフレンキー・デ・ヨングがいればなぁという気持ちはぬぐえないところはあった。保持からテンポを整える時間があれば、イングランド戦で劣勢になる時間はもっと少なかったようにも思う。

 ベグホルスト以外のジョーカーを拡充できなかったのも大会を通して考えれば痛かったところだろう。ベルフワインはスタメン抜擢に応えることができず、ザークツィー、ブロビーといった面々は事態が相当切迫したスクランブル状態での起用のみ。特に後者の2人に関してはグループステージでもう少し見ておきたいところだった。今の24チーム制のトーナメントはグループステージで試すことと突破することを並行してナンボという感じもするので、オランダはもう少しその点で冒険してもよかったのかもしれない。

 ただ、今大会では諸々の事情で出られなかったタレントが中盤よりも後ろに結構いたのも確か。層の厚みと質の両面でもっとポテンシャルはあるチームだと思う。さらに強固になった後ろのユニットをガクポ、シモンズなどが立場をさらに強めた前線とかけ合わせれば、2年後のオランダ代表への期待はおのずと高まってくるだろう。

Pick up player:シャビ・シモンズ
 行ってこいをさせたら仕事をきっちりやってくるというのはいかにも直近で在籍したレッドブルっぽい仕上がりだなと思う。やや、振る舞いが感情的でプレーに影響しやすそうなのは気になるが、ボールを持った時にできることは順調に増えている選手なので、今後が楽しみ。あと、クラブシーンでのキャリア形成もちょっと気になるかも。

【準優勝】イングランド

脱皮しきれなかった塹壕戦ありきのスタイル

 俺たちのイングランド代表はまたしても準優勝。優勝トロフィーが相手に渡るのを憮然した表情で眺めるEUROを送ることとなってしまった。

 個人的には悪くない大会だったのかなとは思った。確かにGSとスロバキアとのRound 16までの4試合は超つまんなかったし、往年のイングランドらしい豪華なタレントを微妙な感じに押し込む系譜に入り込んだなという感じではあった。

 しかしながら、メイヌーの序列アップにおける保持局面の整理、3バックをベースとしたスイス対策、ワトキンスやパルマーを始めとしたベンチメンバーのパフォーマンスを鑑みての序列調整などノックアウトラウンドに向けてのギアアップはサウスゲートなりにはできていたのかなと思う。試合勘がない負傷明けのルーク・ショウは明らかに無駄な1枠だとずっと思っていたが、それさえもスペイン戦のパフォーマンスで価値があったことを示されてしまったなという感じである。

 もちろん、課題がないわけではない。左サイドの奥が獲れない問題、ベリンガムとフォーデンのライン間の住人の共存、起点として輝くことができないケインなど噛み合わない部分を残したまま大会を終えたのは事実だ。

 中でも個人的に気になるのはハイプレスへの取り組みである。イングランドの他の列挙国に対する強みはタレント力があるにも関わらず、前からプレスをかける時に重石になる大駒がいないこと。前からだけでなく自陣までもどることを厭わない守備の強度を前線のタレントが有していることである。

 イングランドが覇権を取るならここが直結してくるかなと個人的には思っていたし、スペイン戦での同点までの流れはその片鱗が見えただけに、そのあとはいつもの豪華な塹壕戦モードに戻ってしまったのは少し残念ではある。まぁ、スペイン相手にプレスを続けるのはしんどいし、同点ゴールも肉を切らせて骨を断つのように自分たちもある程度のやばい決定機を何とかしのいでのものだから、サウスゲートの気持ちもわからなくはない。確かにめっちゃ難しい。

 それでも、ハイプレスがキーになるだろうな!と個人的に思っていた大会だったからこそ、追いついてから店じまいを始めた結果、勝ち越しゴールを食らってしまうという結末はなかなかに重みがあるなと思う。いろんな意味でサウスゲートらしい幕切れになってしまったし、そういう大会として多くの人に記憶されるのだろう。

 次の監督が誰になるかはわからないが、国民が豪華な塹壕戦に失格の烙印を押したこの国の代表監督が世界でもっともタフな仕事であることは間違いない。結構、あっさり内紛が起きかねないチームだと思ったりしているので、2年後に「サウスゲートって案外よくやっていたね」っていう言説が溢れかえるような未来だけはなんとしても避けてほしいところだ。

Pick up player:オリー・ワトキンス
  目下の新監督のお仕事はCFの序列問題になるのかなと思った。やや攻撃の起点としてはできることが減ってきたケインとその点ではケインをもしのぐ行動範囲で活躍が見込めるワトキンスの取捨選択は非常に難しい。オランダ戦での劇的なゴールはプレミアファンであれば、だれもが見たことのある角度のあるコースからの力強いシュートによるもの。彼にとっては名刺のようなものだろう。

【優勝】スペイン

ポゼッション型×強力WGで文句なしの完全優勝

 優勝おめでとう!個人的には少しバックスの強度が怪しいかなと思っていたのだけども、ほぼそういった部分を見せないまま貫禄の全勝優勝と相成った。

 優勝の大きな要因はやはり従来のポゼッションを主体としたスタイルに加わった両WGだろう。ニコ・ウィリアムスとヤマルはどちらも2人を引き付けながらも問題なくプレーができるクオリティを持っている。強引に剥がせるウィリアムスと内に入り込んで柔らかいプレーを見せるヤマルの対比もまた面白かった。

 WGの台頭の意義は大きい。ポゼッション重視のスタイルのチームが陥りやすい「押し込めるけども崩せない」というあるあるを回避できたのが1つ。もう1つは従来のスペインがあまり得意ではなかった縦に速い打ち合いでも勝機を見出しやすくなったこと。ベースのスタイルにおけるマンネリの打破と異なるスタイルへの適応の両面の道が一気に開けることとなった。

 また、ボールを持って相手を動かすという根幹のスタイルを継続させたという点でもスペインにとっては意義深い大会となった。このスタイルが定着したのはペップ時代のバルサのクラブチームをベースにして以降と記憶しているが、今回のメンバーのバルサ成分はWGのヤマルと負傷で山場を逃してしまったペドリの2人。こうしたメンバーを欠きながらもバスク成分多めのチームは問題なくボールを持ちながら相手を動かすスタイルをやり遂げた。

 ペドリ、ガビを欠いた中盤はファビアン・ルイスとダニ・オルモが躍動。司令塔ナイズされていない彼らでも保持の素養がきっちりインストールされているのはさすがスペインの土壌と感心するほかない。

 保持での仕事をこなした上で、彼らの強みであるボックス付近での仕事をこなし、クオリティを上乗せするのだから素晴らしい。WGの2人が下がって以降も彼らがアタッキングサードでクオリティを見せることができたのは彼らの奮闘があってこそ。イタリアからフランスに渡り歩いたルイスとレッドブル派閥のオルモというキャリアがつながっているようには見えない彼らがスペイン代表の箱の中で見事な連携を奏でる様には感心した。

 バックスでは抜群のセービングに危機回避のフィードでプレスを逃がすことができるウナイ・シモンが圧巻。カルバハルは越えた死線の数が段違いであることを出るたびに示していたし、ククレジャは苦しんだシーズンを越えて代表で再評価される流れを完全に作り出した。

 このようにMVPとなったロドリを除いても充実のスカッド。フランス、ドイツ、イングランドをまとめて下したという実績を踏まえても優勝には文句のつけようがない。次のワールドカップにおいても彼らは優勝の有力候補になるだろう。

Pick up player:ラミン・ヤマル
 若い選手は強度の高い現代のフットボールにおいてはプレータイムを制限して成長を見守りたいが、この才能を手元に置きながら使わないというのはもはや「我慢」とか「禁欲」の領域だろうなと思う。長いボールを収めるための競り合いをも厭わないプレースタイル的にも身体に負荷がかかるのは避けられないので、とにかく怪我と縁遠いキャリアを過ごすように願うばかりだ。

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