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「『命綱』に救われるベスト4」~2024.9.8 Jリーグ YBCルヴァンカップ Quarter-final 2nd leg ヴァンフォーレ甲府×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

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レビュー

橘田をSBで使う意義

 1st legは1-0で川崎が勝利。2nd legをホームで迎える甲府にとってはまずはこのリードを打ち消すためのプランを生み出さなければいけない。

 大塚監督が準備してきたのは前からの守備だろう。この試合の甲府の守備はとてもよく練られていた。基本は5-4-1で構える形になるのだが、プレスのスイッチを入れる時はシャドーがCHをケアして中盤へのパスを寸断する。アダイウトン、鳥海はどちらも絞りながらの守備のタスクが多かった。

 理想としてはまずは絞ってCHを消す、そこからスイッチを入れるために内側へのパスコースを消しながら前に出て行く。インサイドを消しつつ、高い位置で奪いに行くイメージだ。

 その分、甲府のシャドー周辺のスペースには空くことになる。だが、例えばSBを逃がしてしまえばWBが出て行く。あるいはトップの三平が下がってカバーする。戻る役割が重いので、ウタカではなく後方のケアにも参加できる三平がスターターを務めることになったということだろう。

 あるいはシャドーが中央にスライドより前に中盤にボールが差し込まれそうになったら、間に合わなければCHが出て行くこともある。

 特に前に出て行くことが多いアダイウトンのサイドでは上記のメカニズムがよく見られた。本来であればシャドー周辺のスペースのズレは怖い。先に示したように周囲も連動する必要があるが、家長や脇坂がうろうろしているとなるといつでもWBの荒木やCHの中山が前に出て行けるわけではない。三平の戻りも間に合わない場合もある。

 序盤戦の主導権を分けたのはこの甲府の守備のメカニズムが機能するかだろう。アダイウトン周辺の選手がそれぞれの事情でカバーしきれない状況を作りだせれば川崎は優位になる。すなわち、川崎の初手はアダイウトン周辺でフリーの選手を作り、そこに届けられるかどうかである。そうでなければ甲府が主導権を握るということになるだろう。

 結論から言えば、アダイウトンの後方にフリーの選手を作ることはそれなりに出来ていた。河原、大島、家長、脇坂といった面々はそれなりにアダイウトン-荒木-中山の周辺のスペースに立ってボールを受けられていた。

 だが、そこから先に機能的な前進ができていたかといえばそれはまた別の話である。あくまでアダイウトン周辺でフリーの選手を作るのは効果的に攻撃を進めるための手段に過ぎない。

 もっともうまくいったのは12分手前のシーンだろう。アダイウトンの背後を取った橘田と大島でパスワーク。三平はカバーに入っているが、インサイド側の大島を逃がしてしまい(個人的には橘田より大島のケアの方が重要度が高いと思う。)、中山と荒木はそれぞれ脇坂と家長を監視して出るのが遅れている。

 こういう場面を作れれば甲府のDFには判断の必要がある。大島を止めるには中山が出て行けなければいけない状況だし、そうなれば瞬間的に脇坂は空く。このような甲府のプレスが連動しなかった状況において、機能的な前進ができれば橘田をSBで起用する意義は十分にある。

 しかしながら、川崎はそうした場面を多く作ることができなかった。アダイウトンの背後のポイントは取れているけども、その先を描けないことが多かった。

 例えば15:30のシーン。家長はアダイウトン、荒木、中山の間を取ることができている。しかしながら、ここから先にいい展望は描けそうにない。

 家長への対応は中山で落ち着きそうだし、横にずれそうな分、逆サイドから木村のカバーも間に合っている。大外の橘田は荒木がきっちりマークをしている。

 実際のプレーとしては中がズレないので家長は大外の橘田を選択して裏にボールを蹴る。しかしながら、スプリント勝負で分が悪い橘田は負けてしまうという流れとなった。

 この配置だと甲府の守り方に迷いは出ない。仮にこの場面での解決策を出すのであれば、家長が中山と荒木の両方の視線を集めるように降りてボールを受けたい。そして、橘田は中山の手前でポジションを取り、家長からの落としを受けたい。

 これであれば、中山は守備の基準に悩むことになるだろうし、選択肢は広がるだろう。家長の落としを受けるのが大島や河原でも問題はない。MF役の誰かがサポートに入れるのが重要だ。このシーンのようにサポートがおらず、中盤の押し上げができないということは、ビルドアップでボールだけが前に進んでしまい、全体の重心が上がっていないということでもある。

 もちろん、実際のシーン通りに家長→橘田の裏へのパスが通り、ここからクロスが上がるのであれば問題はない。しかしながら、ビルドアップに関与せず裏に抜けるタイミングとスピードで勝負するのであれば、ファン・ウェルメスケルケンを使わない縛りがあったとしても橘田よりは瀬川の方が適任といえるだろう。

 言い換えれば、橘田をSBで起用するのであれば、MFとしての務めを果たさないとバリューが出ない。15:30の場面で大島や河原を押し上げる、もしくは自らがMFとして振る舞うことが出来なければ、橘田をわざわざSBで起用する意義は薄いといえるだろう。

左サイドとCH周辺に前進のポイントを作る甲府

 右サイドはポイントを作れているがスライドが間に合っている状態で機能的な前進ができない。もっとも、これだけであれば大きな問題にはならない。なぜならば、甲府の守備は後方へのカバーの負荷が多く、この前進を繰り返すことだけに特化してゴールに迎えなくても少しずつ相手の体力は削れているから。リードをしているという状況を踏まえれば、シュートを積み重ねられなくても川崎にとってどうにもならない展開が続いているということにはならない。

 だが、この試合におけるほかの要素も踏まえると、総じて前半の川崎は苦しかった。川崎の左サイドの攻撃は右サイドほど丁寧ではなく前線にとっとと蹴りだしていた。アイダルだけではなく、三浦もかなりその傾向が強かったため、チームとしてはアバウトにボールを蹴ってしまおうという算段なのだろう。

 マルシーニョに対してはアウグストがかなり粘りながらついていくことができていた。ここを抑えることができていたことは甲府の前からのチェイシングの大きな後押しにもなる。長いボールが機能しない川崎は左サイドからのポゼッションから甲府にボールを渡してしまうことが多くなる。

 さらには迎撃の部分でも問題が起きるように。川崎も3トップがある程度前からのプレスに行く意欲を見せる形であった。河原がサイドにスライドし、脇坂がその背後を埋める準備をするなど、特に右サイドは家長を前からのプレスにプッシュアップするような動きを見せていた。

 しかし、甲府の狙いはその奥。アダイウトンへのロングボールである。橘田とはパワーとスピード両面でミスマッチを作ることができるアダイウトンから甲府は前進の起点を作る。徐々に三平もロングボールは左サイドに流れるようになっていたし、中継では27分くらいに「左につければボール獲れない」という旨の声がおそらく甲府側のベンチから聞こえる。アダイウトンと橘田のマッチアップから甲府は前進のパターンを見つけられる手ごたえがあったのだろう。

 アダイウトンへのボールは収まるし、同サイドのWBの荒木は攻めあがりがとても早い。家長を置いていくオーバーラップを見せることができた左サイドから甲府は攻め手を見つける。

 さらには川崎の全体の重心がアダイウトンサイドに傾くと、甲府は狙いを中央にシフトさせる器用さもあった。河原の意識が家長の背後に行くのであれば、中央のケアは甘くなる。そうなればCH間に降りてくる三平や、大島の左半身後方で待ち受ける鳥海が長いボールを受けることができる。14分の孫の鳥海への対角パスが決まると、川崎は一気に背走を余儀なくされる。

 というわけで思うようにプレスでひっかけることができなかった川崎。それでもボックス周辺の攻撃のバリエーションがなかったことで決定的なピンチを迎えることは少なかった。だが、セットプレーで三浦が孫を離してしまったところから川崎は先制点を許すこととなった。

右サイドの整理で主導権を握り返す

 トータルスコアでタイとなった試合で先に動いたのは川崎。中盤で河原をアンカー気味に置くことで保持のフォーメーションを4-3-3に変化させる。

 もちろん、これは前半を受けての修正となるだろう。4-3-3であれば先に指摘した15:30の家長のサポートを比較的ナチュラルにこなせるMFが出てくることとなる。

 さらには右サイドにはファン・ウェルメスケルケンが登場。アダイウトンとマッチアップで張れる選手が出てくることで甲府は前半に比べるとロングボール一発で深さを取るのは難しくなった。

 ハーフタイムを挟み、少しずつペースは川崎に移行する。ファン・ウェルメスケルケンの登場により、右サイドの役回りを相当に整理することができた。幅を家長が取り、手前をファン・ウェルメスケルケンが使い、奥を取るのは脇坂というサイド攻撃の基本セットを定めるのがまずは初手。そこから家長のタメを利用して役割を入れ替える、あるいは大島や河原が登場することで異なる選手が同じ役割をつなぐという形が増えていく。

 アダイウトンへのロングボールはファン・ウェルメスケルケンの迎撃以外にも佐々木やアイダルが対応することで封殺。甲府は鳥海や三平の運動量が徐々に低下したこともあり、中央からのパスルートを作り出して前進する頻度は明らかに前半よりは低下する。

 中3日の3連戦をかなり同じメンバーで戦っている甲府は60分を過ぎるとかなり運動量が落ちるように。特に川崎が徐々に整理することができていた右サイドの攻撃に対してはクロスを上げる前に跳ね返すのが難しくなっていく。

 川崎もクロスの入り方が整理されたわけではなかった。誰かの引力を利用して、スペースに入っていく動きは乏しかったし、結局のところマークされていても対面のマークを吹っ飛ばすことができるエリソンに1st legの2点目の再現をしてもらおう!という色のクロスが多かった。

 そうした中で生まれた決勝点の形は興味深かった。試合を決めた劇的なゴールは右サイドからクロスを上げたファン・ウェルメスケルケンに遠野が合わせる形だった。

 リプレイを見てみると、インサイドでのマークが乱れているわけではなく、遠野は林田がきっちりと監視できる位置に立っている。ファーにボールが飛んだわけでもなく、遠野も林田の前でプレーしているので、視野のリセットもかからないし、ボールとマーカーを比較的同一視野で収めやすい状況だった。林田からすれば悔いが残るだろう。ラインを揃えてオフサイドを取りに行くか、あるいは離さずにシュートコースを制限するかのどちらかは欲しかった。

 川崎からすればマーカー単位の瞬間的な駆け引きに上質なクロスが掛け合わさるという形でのゴール。前半の川崎の唯一の決定機となった河原のクロス→マルシーニョという形と酷似する形であった。この試合で唯一見せた有効打から川崎は後半ATの勝ち上がりを決めたといっていいだろう。

あとがき

 甲府の守備のプランはとてもよく練られていた。が、中3日の3戦目ということで子の守備が機能している間に少なくともリードまでは持っていきたかったはず。前進の手段は確保できていたものの、セットプレーでの一撃以外に説得力のある攻撃ができていたかは怪しいし、タイスコアでのスタートならばよりスペースを消すことにフォーカスするような消耗を抑えるプランも視野に入る。そう考えるとやはり1st legでの1点はかなり重くのしかかったということになるのかもしれない。

 川崎に関して言えば、中断前の柏戦から流れがほんのり変わったのはやはり両サイドにクロスの優れたSBがいることが大きい。川崎のインサイドにはクロスに入るのがうまい長身のFWはいないので、ただ入れるだけではなく駆け引きをベースにしなければいけないけども、2人の関係性で点を取る形は少しずつ確立できるようになっている。ゴミスの序列低下以降、ボックス内での崩しの解決策がぼやけた今の川崎において両SBからの質の高いクロスは命綱と言ってもいいだろう。

 ただ、そこ以外では得点につながる機会をろくに作れなかったということは今の川崎の状況をきっちり示しているともいえる。特にSBの人選に関しては、MF色の強い選手を使うのであれば、クロスを上げる状況はよりボックス内の選手を揺さぶるものではなくてはいけないし、手前での組み立てでの貢献度はもっと欲しい。この試合のようにデュエルで明確に狙い目にされるのであればなおさら。そういう点でSBの橘田はこの試合では機能しなかったといえるだろう。

 決勝点を決めた遠野はカップ戦での得点が好調。ラッキーボーイ的な存在になっている。札幌戦→甲府戦の1st legと守備での戻りの遅れがかなり目立ち、流れの中で存在感を発揮することはできなかったが、この試合では73分にプレスバックから素晴らしい守備を披露。遠野はこれができてこそだ。劇的な得点によって、守備をしつつ得点に絡めるという本来の強みとなるパフォーマンスを取り戻すきっかけにしてほしい。

 河原、山口、アイダルの出来ることを見極めつつ、大島を抱えちゃうと河原でもハイプレス維持は難しそうなど総じて、勝ち上がりを前提にできることとできないことを整理しながら方向性を見定めるというルヴァンカップ2試合の目的は果たせたと思う。1ヵ月後にはルヴァンカップに再びフォーカスできるようにリーグ戦とACLでの戦いをきっちり進めていきたい。

試合結果

2024.9.8
Jリーグ YBCルヴァンカップ 
Quarter-final 2nd leg
ヴァンフォーレ甲府 1-1(AGG:1-2) 川崎フロンターレ
JITリサイクルインクスタジアム
【得点者】
甲府:31‘ 孫大河
川崎:90+4‘ 遠野大弥
主審:池内明彦

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