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【前半】
今季のスパーズの詰め合わせ
確かに守備こそ撤退の要素が強かったスパーズだが、ボールを前進の姿勢は割りかし強気だったように思う。スパーズは大きく開いたCBから中央のMFにグラウンダーのパスを入れるのが基本的な指針。シティは今季のこれまでに比べれば積極的に高い位置からの奪回を試みていたので、このプレスに対して内側にパスを刺すというのは、そこまで足元が優れているわけではないスパーズのバックスには勇気が必要だったように思う。なお、シティのプレスの強度はあくまで今季比なので、昨季のマドリー戦とかを思い浮かべている人は頭から今すぐ捨ててほしい。
実際に中央でのロストからショートカウンターを食らいつつも、徐々に形になってきたのは中盤で相手を背負って剥がせるようになってきたから。とりわけ、存在感が増しているのがエンドンベレ。シティの中盤は彼がキープするボールを取り上げることができなかった。というわけでエンドンベレのポストでホイビュアやシソコが徐々に前を向いてボールを持てるようになる。
シティの中盤の強度不足は今季を通しての悩み。そして、この試合ではそれがダイレクトに決勝点に結び付いてしまう。4分のシーン、例のエンドンベレが背負って受けるところから先制点が生まれる。ターンの方向を決め打ちで見誤ったベルナルド、リアクションが遅れたロドリを尻目にターンを決めると、簡単に前を向くことに成功。ケインの降りる動きとソンが裏に抜ける動きのセットで一撃の裏抜けを演出する。
間受けのエンドンベレ、ケインの降りる動き、それに合わせたソンの裏抜けというのは今季のスパーズの攻撃の主なパーツの組み合わせ。レギロンのオーバーラップがここに入ればほぼ全部である。
レギロンのオーバーラップがこの試合目立たなかったのは単純にシティ相手に押し込むシーンが少なかったからだろう。スパーズの守備は深い位置からスタートしていたし、なかなか全体の陣形を押し上げることができなかったし。ただカウンターに転じてもボールを置いてけぼりにしない感があるのは確か。13分のオフサイドになったカウンターとか。サイドチェンジを挟んで、最後にCFが間に合う設計になっている。これが確信犯ならとてもいい。なんかオーリエが起点だと確信犯ぽく見えないのだけども。
でもこういうことができるからこそ、降りていてもケインは点を取れるのかもしれない。そう思い立ってももうフルマッチで検証できないんだけどね。ラカゼットと比較してチーム全体の動きがどうかとか見てみたかったのだけど。
【前半】-(2)
六角形をめぐる戦い
シティのビルドアップはカンセロが内側に入る3-2型での配置。定常的な偽SBというのはなかなか今どき珍しい。目的はシンプルに大外のルートの開通だろう。フェラン・トーレスとマフレスの大外勝負。左はベルナルドとのレーン入れ替えも可能ということで外に起点を作ることはできていたシティ。
左のフェラン・トーレスはどことなくドリブルの進路がカンセロと似ているので、高い位置で絡ませるようなポジションに置かない気持ちはなんとなくわかる。
スパーズは2列目と前線も撤退し、最終ラインもPA前後という比較的低い位置まで下げて守ることが多かった。MFより前はなるべくナローに六角形を作るようにして、内側のカンセロやロドリに前を向かせないことを優先する。
シティの大外定点攻撃は悪くはなかったが、ガッツリ突破はできなかった。それよりも、サイドから押し下げるとスパーズのSHがヘルプに来ざるを得ないので、それにより中央の六角形が破壊され、シティの選手がバイタルで前を向ける機会を得ることができるのが大きかった。ジェズスのハンドで得点が取り消しになったシーンなどは典型例。ロドリに前向きに自由にプレーする隙を与えるとこうなるというシーンだった。スパーズ、ローラインだとやはりバタつき感が否めない。
ただ、ダイレクトに攻め落とすなら、六角形の中央に起点が欲しい。そのためにはここにあらゆる選手が出たり入ったりすると面白いのだけど、シティはあまりそこの駆け引きで勝負してこなかった感。ちなみにデブライネが六角形の中に入ると、スパーズの中盤が彼に引っ張られてポジションバランスを崩すのはなかなか興味深かった。37分のシーンだけど。リバプール戦でも彼を見るのに陣形がゆがむ時があったので、1人でそういう引っ張り方ができちゃう人はなかなかすごいなと思う。
話をもとに戻すと、中に起点を作るシーンは限られた回数のみ。むしろ大外サイドからの多角形の破壊の方がメインだった感のあるシティ。ただ、頻度の割には内側に無理にでも起点を作ったほうが直線的にゴールに迫れていたような気もする。
試合は1-0。ホームのスパーズリードでハーフタイムを迎える。
【後半】
形はいつも通りなのだけど
前半のスパーズをまとめるとシティにやらせたくないことは「六角形の中心に起点を作らせないこと」と「サイド奥深くまで押し込まれて2列目が最終ラインに吸収された状態でバイタルを使われること」の2つである。
後半の立ち上がりのシティには後者のムーブを許してしまったと思う。要因の1つは前線にやや疲れが見えたこと。とりわけ、エンドンベレはまだ攻守に負荷の高い動きを90分間繰り返せる状態ではないのだろうなと思った。徐々にトッテナムはCBの負荷が高くなっていく。
というわけで押し込める状態は定常的に作れるようになったシティ。しかし、崩しの局面は慣れ親しんだ4-3-3に戻したはずなのにどうも内容が戻ってこない。個人個人の打開によってなんとかしよう!が主で、ユニットとして効いているところがあまり見えてこないというのは4-2-3-1の時と一緒。システムというよりはタレントを代えても一緒というべきだろうか。多くの人が指摘しているダビド・シルバの不在の影響はぬぐいきれないのだろう。個人でもっとも可能性のあるデ・ブライネさえどこかやけっぱち感がある攻撃なのは少し気になった。
徐々にリズムに乗ってくるスパーズはCBが跳ね返しに慣れるようになっている。そしてこの日のスパーズは前線にケインというポイントがあったことが大きかった。余談だけど、シティに勝つにはこの日のエンドンベレのような中盤で大暴れできるような選手か、最前線の起点で陣地回復できるかしないと厳しい。逆に言えば、それさえできればどんなチームもシティに勝つチャンスはあると思う。当たり前か。
この日のスパーズは本当に今季の攻撃の形から得点を取った日だった。2点目も降りるケインを2列目が追い越す動きから。この日のシュート周りのスタッツ的には、シティが圧倒しているのでスパーズがロングカウンターでなんとかしただけやんけ!となりそうだけど、押し込まれた後の押し返しとか、得点の取り方が今季の形になっているので、スパーズファンがこれまでの勝ち方よりもチームに自信を持つのはなんかわかる気がする。
シティは左WGにスターリング、右IHにフォーデンを入れてよりレーンの入れ替えが可能な配置になった。ただ、この日はあと一本が合わないし、これだ!というユニットも最後まで見つからなかった。こういうのってなんなんだろうね。いい時はどこからでも点とれそうなものだけど、今季のシティはデ・ブライネ以外は悪い意味でフラット。どこか今季の悪い流れから逃れられないシティだった。
あとがき
■自分たちの形も相手への対策も苦しい
この試合のインサイドハーフはベルナルドとデ・ブライネ。今季ここまで主に使ってきたギュンドアンにロドリのお守りをさせる4-2-3-1とは少し違った人選だった。カンセロの偽SBもWGに大外で勝負させてナンボ!という、今季の中ではこれまでのグアルディオラのオーソドックスなスタイルで勝負した試合だった。
フェラン・トーレスを使った崩しというのは当然これから向上の余地はあると思うが、少なくともこの試合の中で今季これまでのシティの「個人個人がなんとかしがち」という課題を解決する軸となるユニットはどうしても見つからなかった。本来は脱シルバの時間稼ぎをしたいところだが、DFラインの踏ん張りでなんとか我慢するようなタイプのチームではないのが難しいところ。
今季のモウリーニョ・スパーズのオーソドックスな形にあっさりやられたという点も気になる。グアルディオラとの契約延長としたということは本人にもフロントにも何か策はあると思うのだけども。
■ケインの負荷を肩代わり
スパーズは快勝だった。前半は特に最終ラインのバタバタ感が目についたが、後半は波に乗れたように見えた。スパーズは優勝争いするにおいて、この最終ラインの強度が課題になりそうと思っているので、こういう試合をクリーンシートで終えることができたことはチームにとって非常に大きいと思う。
攻撃においても自分たちの形でシティのような相手に一刺し、二刺しできるのは自信になると思う。いい意味でいつも通りにやれた。ケイン、ソンへの負荷がべらぼーに高く、特に前者はほぼ代替不可で負傷したらゲームオーバーという感想は変わらない。けど、負傷しなければこの日くらいの戦いを安定してできるようになっているのも確か。それを下支えしているのが中盤のエンドンベレ。中央での起点をケイン以外に作ることで、低い位置でのケインの役割をこの試合では肩代わりできていた。
このエンドンベレの質の分と、本文で触れた13分のオフサイドのシーンにおけるケインがPAで勝負できる時間を稼ぐメカニズムをもしかしたらちゃんと仕込んでいる?っていう所が今節のスパーズの上積みのように思う。
強豪相手の連戦が続くが、まずは上々の滑り出しといっていいだろう。
試合結果
2020.11.21
プレミアリーグ
第9節
トッテナム 2-0 マンチェスター・シティ
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT: 5′ ソン,
主審:アンソニー・テイラー