MENU
カテゴリー

「本当にお疲れさまでした」~2020.11.14 J1 第27節 鹿島アントラーズ×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
駆け引きで優位に立った左サイド

 緊急対応の中での試合ということで両チームともあわただしい動きになったことであろう。特に陽性判定者が出たことでスカッドにダイレクトに影響があった鹿島はメンバー選考から難しいやりくりを強いられた。陽性判定が出た永戸を中心に、濃厚接触者としてこの試合で起用できないメンバーは7人。特に最終ラインに欠場者が続出しているのは頭が痛かったはずである。

 さて、試合の中身に入っていく。序盤は川崎のペース。プレビューにて川崎が主導権を握れるか否かは鹿島のサイドへの閉じ込めに対抗できるかどうかであると述べた。FC東京のようにCH、SB、SHの3枚で圧縮する形に加えて、鹿島はCBも前やサイドに積極的に出ていくことでPAに迫る前に攻撃の芽を摘む意識が強い。したがって川崎はそれを1枚1枚剥がしてPAに迫れるかどうか?というのがポイントになるところである。

 序盤で川崎が主導権を握ったということは、裏を返せば鹿島がサイドで川崎を閉じ込めることができなかったということである。特に鹿島が手を焼いていたのは川崎の左サイド。鹿島としては登里、中村、三笘をアラーノ、三竿、小泉で監視したかったはずである。

画像2

 川崎はそれをずらして有利な局面に持っていきたい。5分のシーンにおいては三笘&中村のコンビに三竿と小泉が対峙、ここに犬飼が助太刀に来るという形である。犬飼を引っ張り出すというのはまず川崎が鹿島をずらす第一歩。

画像3

 この場面で違いを見せたのが中村憲剛。内側に進路を取るようにボールをコントロールし逆サイドへ展開。家長と脇坂がPAにより近いエリアで山本、奈良と対峙する。中村憲剛のサイドチェンジによってよりいい状況を作ることができているシーン。

画像4

 川崎は左サイドにおいては登里もボールの受けどころが上手かった。彼がが1つ奥で受けることによりアラーノを外した状態でスタートする場面も。犬飼を引っ張り出すという第一フェーズに移ることができていた。鹿島としてはボールサイドに人をかける分、大きなサイドチェンジはあまり許容できるチームではない。川崎の左サイドは個々人で相手を手玉に取れるスキルがあったので、最終ライン経由のサイドチェンジでも鹿島相手には十分効いていた。

画像5

 もう1つサイド攻略のパターンとしてはCBを引っ張り出した状況をそのまま攻略してしまうこと。このパターンのキーになったのは三笘。16分のシーンが代表例である。犬飼をサイドで剥がし、三竿をサイドに引き付けてから中央に展開する。この場面でマイナスへのゴールお膳立てを選択したダミアンと対峙していたのは山本。さらにはファーに家長が余っていることを考えると、ダミアンのプレー選択次第では川崎は大きいチャンスになるところだった。

 潰せる公算で出てくるサイドへのDFをかわすことができていた川崎の左サイド。相手を外すスキルで川崎がストロングサイドを起点に鹿島を押し込む。特に中村憲剛の駆け引きは絶妙。三竿は出ていけば後ろに穴をあけるし、放置しても面倒ということで難しい対応を強いられた。ここのスペースをめぐる駆け引きは前半の大きな見どころの1つといえるだろう。

【前半】-(2)
エヴェラウドで前を向かせる

 一方で鹿島は少々前進に苦しんでいた。この日の川崎は即時奪回のメカニズムが機能しており、まずはカウンターの起点となる中盤で時間が与えられない。後ろ向きで受ける機会が多く、この状況を個人で打開しなさい!は鹿島にとってはなかなか難しい状況。

 サイドにおける閉じ込めも川崎の方が序盤は上手。縦に加えて内側の斜め前方のコースを消すことで鹿島のコースを限定する。先制点のシーンもこの局面から斜め後方にしか選択肢がなかったアラーノのパスミスを、逆サイドの高い位置に残っていた脇坂が奪取。ここ狙っていたのだとしたら大したもの。この後の場面では全体のラインを下げる要因になっていたダミアンの低い位置の守備だったが、この局面ではこのプレスバックは効いていた。

画像6

 奈良は粘り強く対応していたとは思うが、脇坂と三笘はシュートもパスも選択肢を持っておけたままゴール付近まで持ち運べたのが大きかった。沖からすると、三笘を捨てて脇坂に絞るのは危険な状況。俯瞰で見えているのならまだしも、GK目線で見れば三笘へのパスを捨てるわけにはいかず、奈良と同じく難しい対応を強いられたという感想だ。

画像7

 しかし、飲水タイム後は鹿島が徐々にペースを握るように。キーとなったのは内側に絞って受けるエヴェラウドの存在。彼のポストによって中盤で前を向く選手を作ることができた。サイドで起用されたので、山根とのミスマッチを使った空中戦中心かなと思ったけど、地上戦で効いていた。

 これにより土居やアラーノが前を向いて受ける機会が増加。徐々に鹿島が主導権を握るようになる。家長のプレスバックが遅れるので鹿島の左サイド周辺にはフリーの選手ができやすかったし、ダミアンがかなり低い位置まで降りてきてしまうので、ボランチが低い位置でやり直しのかじ取りを行うことができた。

画像8

 ポスト役のエヴェラウドや前を向ける土居やアラーノが内側で起点になれていることで、徐々に鹿島の外が空くようになる。正直に言えば、ここに永戸がいれば外からの攻撃の精度も伴ったように思う。山本も小泉もだが、SBのクロスの精度の分、大外攻撃は割引だったなと。

 ただ終盤のジェジエウを外に引っ張り出した形でのクロスは有効。中の局面を有利にすることでクロスの脅威を増やしていた。

 最後は押し込まれるもなんとかリードでハーフタイムに持ち込んだ川崎。試合は0-1で前半を終える。

【後半】
攻守トレードオフのシステム変更

 後半頭から鹿島は選手交代に合わせてシステム変更。アラーノに代えて名古を起用する。4-3-1-2のような形に変形する。アラーノは正直このトップ下の役割としても効いた気もするので選手交代なしでそのままでもよかった気がするが、ちょっと前半の出来がお気に召さなかっただろうか。川崎側としてはいなくなって助かった部分もあった。

 鹿島の4-3-1-2は両インサイドハーフの2人に負荷がかかりやすいシステムだった。名古とレオ・シルバはボールサイド時のディフェンスはSH、逆サイドにボールがある時はCHの役割をこなさなくてはならず、2人分の活動量が必要。間に合わない時は土居がフォローしてくれる右サイドとは異なって、左サイドは本当に名古に丸投げになっていたので相当大変だったと思う。

画像9

 狙いとしては後半から増えたロングボールを使った攻撃によるところが大きいのかなと。トップ下の位置に選手が入ることで、2トップが流れてボールを受けても中央高い位置に拾うことができる選手が確保できる。川崎のアンカー番を作る意味合いもあるだろうけど、それだけなら4-4-1-1で土居に田中碧とデートさせればいいだけなので、攻撃面での意味合いが主と考えるのが自然。もちろん後ろは手薄になるのだが、ここは前線の空中戦の成功率の高さにかけたということだろう。

 実際この方策は悪くなかったと思う。特に上田綺世は長いボールを収める能力がこんなにも高かったんだなという部分で驚かされた。長いボールを主体にすることによって、前半に直面していた中盤で時間を作れないというデメリットを回避することに成功する。

 その分、守備では脆弱さが増えた鹿島。サイドチェンジに対する手薄さは前半以上。名古とレオ・シルバの1人2役化に伴い、登里と三笘そして家長が自由になる機会が増えたサイドを起点にPAに攻め込む機会が増えていく川崎。特に三笘に対して後手に回る機会が増えた鹿島はここで警告がかさんでくる。引き分けという結果を考えると、川崎は後半開始の15分くらいで追加点が欲しかったところである。

 鹿島は選手交代でRSBに広瀬が登場する。トップ下に遠藤が入ることに伴い、左にいた名古が右にスライドする。鹿島はPA大外の広瀬にボールが入ると、ファーのエヴェラウドにクロスを上げるムーブがお約束になっている模様。広瀬がサイドでボールを持つとファーに構えたエヴェラウドからのこぼれを受けるためにPA内に人が雪崩れ込んでくる。

 決め打ちムーブでのクロスが増えてくる鹿島。登里はなるべく早めにチェックに行くのだが、この決め打ちを完成させるために名古が高い位置を取り登里を引き付ける。中盤での運動量低下によりプレッシャーがかからなくなってきた川崎には鹿島のボール循環を誘導する元気はもう残されていなかった。だからほしかったぜ追加点。

 最後は決壊してしまった川崎。かなーりACLっぽい失点だった。来季の課題になってきそうな失点。ただ、むしろ最終盤に同じ形からファーに合わせた山本のヘッドが枠を外れたことを喜ぶべきかもしれない。

 ダミアン、家長というさすがに守備面でのマイナスに目を潰れなくなってきたコンビに代わって入ったのは山村と齋藤。山村はCFとして十分な適性を示したと思う。高さにポスト、シュートやプレー選択までそつなくこなし、前線を活性化。課題のスピードもこの展開なら周りが攻めあがってくれれば問題ないので目立たなかった。それだけに最後の負傷は気掛かり。ここで離脱されるといよいよ川崎は前線のやりくりが苦しくなってしまう。

 両チーム、決定機があった終盤だったが共に勝ちを決めるゴールは生まれず。試合は1-1のドローで終了した。

あとがき

■優勢の時間における決め手にもうひと味を

 組み合ってしまうと個人スキルの差が出るという前半を経て、後半はストロングポイントを前面に押し出しつつ、両チームに得点が入りやすい展開を仕掛けた鹿島。攻守全てを改善するような類の修正ではなかったが、結果的に展開を活性化し、自分たちだけで点を取ったのでしめしめという所だろう。

 後半の4-3-1-2がザーゴ鹿島の文脈の中でどのような立ち位置かはわからないので、そこは鹿島サイドの解釈にお任せするが、この試合の鹿島が優勢に立てていた時間帯はSBが大外からクロスを上げる機会は作れていたので、やはり永戸の不在は痛かったように見える。あと、上田綺世はとてもいい選手ですな。時間を受け取る選手かと思ってたけど、時間を作れる選手としても優秀だなと。もともと好きだけど、もっと好きな選手になりました。

■代えにくいポジションが出てきた

 来季のACLで直面しそうな課題を突き付けられた試合だった。勝てなかったのはシンプルに2点目を取れなかったからだろう。後半はファウルで止めまくられたので、セットプレーからはもう少しチャンスを作りたかったところ。流れの中からのチャンスもなかったわけではないので、前線と中盤がまだ元気だったうちに追加点は欲しかった。

 今日の控えの選手構成だとアンカーとCF、RWGはどうしても代えにくかったように思う。田中碧はちょっとパスの精度がイマイチだったし、家長とダミアンは疲労してプラスをマイナスが上回るようになってもなかなか交代はできなかった。他のチームに比べれば贅沢な悩みかもしれないけども。

 この試合の出来はそんなに悪くはなかったと思う。あとはリーグ戦終盤から天皇杯にかけてもう一度ピークを作れるかどうか。ちょっとやりくりが苦しくなってきたし、この試合はさらにそこに特殊な状況が乗っかってしまっている。それを差し引けば悪くはなかったかなと思う。勝ちたかったけどね。

 とはいえもうこの日は両チーム無事に試合が終わったことに感謝です。両チームとも本当にお疲れ様でした。

今日のオススメ

 15分のアラーノの決定機の前の三竿の周辺を攻略しようとする川崎の面々と三竿の抵抗。一度三竿が跳ね返しているのが熱い。序盤戦の激しい左サイドの主導権争いを象徴するシーン。

試合結果
2020.11.14
明治安田生命 J1リーグ 第27節
鹿島アントラーズ 1-1 川崎フロンターレ
県立カシマサッカースタジアム
【得点】
鹿島:75′ エヴェラウド
川崎:18′ 脇坂泰斗
主審:佐藤隆治

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次