プレビュー記事
レビュー
蓋をされた新潟の2つの優位
劇的な決勝弾を決めた鳥栖戦、強固な4-4-2で守り切った蔚山戦と続けていたいい流れを日曜の名古屋戦で手放してしまった川崎。タイトルの可能性を残したカップ戦にフォーカスするためにも、早いところ残留確定ラインまで到達しておきたいところ。今節の相手はおそらく川崎と似たことを目論んで等々力に乗り込んでくるであろう新潟である。
まず触れておきたいのは川崎の守備時の陣形。4-4-2を組むという形は普段と同じだが、2トップの一角に入る脇坂は右のSH、2トップには山田とエリソンを並べるという形だった。
4-4-2での守備を意識したプランと言ってもミドルゾーンで我慢を続けた蔚山戦とは異なり、高い位置から追いかけ回す形。左サイドのSHのマルシーニョが中央に出ていくなど、狭いサイドに追い込むために前線から追いかけ回し、運動量で新潟を押さえ込もうという立ち上がりだった。
新潟のプランとしては片側に寄せてくる川崎に対して、逆サイドに展開することでプレスを空転させることだろう。新潟の左サイドにボールを集め、相手を引き寄せてからマルシーニョの背後を使う形である。オーバーラップする橋本からクロスを上げたように左サイドを縦に進む形と右サイドへの脱出を使い分けることができるのが理想となるだろう。
本来であればボールは人よりも速く動くことができるため、この日の川崎のような運動量を重視したプレスは少ないタッチでボールを動かすことが得意な新潟にとっては格好の相手である。ただし、この日の等々力は試合前の雨の影響で芝が重くなっていた。そのため、新潟の優位の前提となる「ボールは人よりも速く動く」という格言が成立しにくい状況だった。
エリソンの二度追い、マルシーニョの絞りなど運動量重視のプレスを効かせる川崎。いつもよりも速いテンポで動かすことができない新潟にとって、欲しいのは前線の預けどころだろう。有力候補になるのはトップ下の長倉。縦横無尽に動く長倉のターンは直近の新潟の生命線。攻撃における重要な起点だった。
しかしながら、この起点は河原によって潰される。いつもよりもタッチ数が多く、反転に時間のかかった長倉側がピッチへの適応に苦労していた説もあるが、河原の読みも見事。バックスからの長いレンジのショートパスが減速し、読みを効かせやすかったという側面はあるだろうが、先制点につながった潰しは大きい。新潟の攻撃の起点を殺し、自分たちの得点に繋げるビッグプレーだった。PK接触自体は結構軽く見えたのでOFRで覆らないか心配していたが。
人よりも速く動かないボール、ライン間の長倉の機能不全。2つの要素が序盤の新潟の計算外だった。非常にシンプルにエリソンにボールを預け、時間を作ってもらうというやり方を徹底していた川崎はピッチに適応した前進の手段があったということになる。追加点は先制点から4分後。エリソンのポストからマルシーニョ、脇坂が絡んでの抜け出しによるものだった。
アンカー管理の甘さと長倉の復活
川崎の立ち上がりは順調だった。序盤はエリソンにボールを預けるプランを徹底しつつ、徐々に新潟のプレスが弱まったと見るや、バックラインがドリブルで動かしながらボールを刺すところを探す余裕を作ることができていた。
キャリーで相手のマークを外すことができていた高井はともかく、ボールの持ち方的に縦パスのコースを予測しやすかったアイダルからの縦パスに寄せきれないのは新潟の4-4-2の弱み。前線の誘導と中盤の読みが甘く、ライン間を簡単に使われてしまうのが新潟の弱点である。逆に言えばアイダルの縦パスは他の対戦相手であればひっくり返される危険性を孕んでいるということである。
バックスのキャリー、そして高い位置からの即時奪回が機能していた川崎。だが、徐々に優位は失われていく。きっかけは2トップをはじめとした守備の機能不全だろう。新潟側も徐々にピッチに適応。特にGKの小島を絡めたパスワークにおいて、川崎のプレスをいなす場面が出てくる。
川崎が最もまずかったのはアンカーを受け渡す連携が機能していなかったこと。アンカー役の秋山に対しては2トップと河原が受け渡すことで対応するのが4-4-2のセオリーだが、FW-MF間が間延びしてしまい、秋山がボールを受けて自ら反転するだけの余裕があった。背中から来たボールを受けて反転するスペースをライン感に生み出してしまうのはかなりリスク管理が杜撰である。
アンカーが空くのが誰が悪いのか?というのはチームの約束事と照らし合わなければわからないと思うが、どちらにしてもこの日の2トップの守備に問題点があったのは確かだろう。トップの守備は蔚山戦の小林のように後方の守備を楽にするために狙いを絞らせるのが基本。ボールをFWで奪い切るというシーンは1試合でそう何度も作り出せるわけではない。
しかし、エリソンの二度追い起動の基準は自らがボールを奪えるかになっていたし、山田の寄せる速さは自分でボールを奪えるかどうかの博打だった。そして戻りも遅い。特に山田は自分を越えられてから戻る意識が皆無だった。これもチームにおける約束事次第だが、2-0における前線の前残りの優先度の高さには違和感があった。
逆に味方が追い込みをかけられている状況ではもっと寄せていきたいところも。9分に河原が秋山を捕まえたシーンではマルシーニョがもっと素早く舞行龍に寄せる必要がある。河原のルート限定を無駄にしてはいけない。ここはエンジンをかけるべき場面だ。
前線と中盤の連動しない守備により、新潟にキャリーを許す川崎。普段と比べれば、ボールは人より速くはないかもしれないが、ボールは汗をかかないという格言はこの状況においても生きている。
さらには序盤は河原に潰されていた長倉が、河原から離れるように右のハーフスペースに登場。食いつき癖があるアイダルを脅かす位置に立つことで、川崎の最終ラインに穴を開けて、アタッキングサードの攻めのきっかけを作ることができていた。
押し込み、ボックス内を狙うきっかけを作ることができていた新潟。ただし、少ないタッチでの仕上げに関してはまたしてもピッチの影響を感じさせられるような精度となっていた。狭く中央をひたすら狙うアクションも川崎の守備にとってはやりやすかったはずである。
数が多かったセットプレーを一つでも決めていれば話は違ったかもしれない。川崎のニアのストーン役は山本という珍しい人選だったので、ニアに飛び込む選手に合わせるボールをつけていれば、もしかすると道は開けたかもしれない。
優先事項にフォーカスした前線
後半、川崎は右サイドの高い位置にボールの預けどころを作り、佐々木の攻め上がりからボックス内にクロスを上げていくスタート。押し込む流れからハイプレスで再び前半と同じ主導権を握るステップを踏みたいという考え方だろう。
しかし、新潟もプレス回避からボールを動かすことで前進に成功。左サイドに人を多く集めることで抜け出す選手を作り、クロスからファーを目掛ける形で川崎のゴールに迫る。三浦のクロス対応をはじめ、ボックス内の川崎の守備が怪しかったこともあり、新潟にとっては手応えのある攻め筋。川崎は押し込まれてしまい、前線3枚に預けるロングカウンターがメインストリームとなる。
だが、60分に近づくと新潟の守備の強度が低下。4-4-2の前線と中盤がフリーズしてしまい、前半以上にあっさりとライン間にパスを通されるようになる。川崎にとってはボールを持っているだけで、簡単に擬似カウンターのようなひっくり返し方ができる状況だった。
手軽な攻撃ルートが見えるようになったことで攻め筋が再び濃くなった川崎はライン間に差し込む形から追加点。山田の降りるアクションと入れ替わるようにライン間に侵入した山本から右のエリソンに展開すると、角度のあるところからスーパーシュート。再び試合を動かす。
さらにはエリソンは直後に単騎の二度追いからデンのキャリーをストップ。ショートカウンターで山田のゴールをお膳立てした。
新潟のCBは少しキャリーを活用するのが苦手であり、縦パスを差し込む優先度が高い。キャリーを使う優先度と精度の低さは縦パスへの狙いの絞りやすさもある。新潟ほどのポゼッション傾倒のチームであれば、もう少しCBはキャリーを効果的に使いたい。この日はCBからのキャリーもパスも潰されたところから失点につながっている。
前半のようなFWの勢いで川崎は試合をほぼ決定づけることに成功。奪える時だけ奪い、得点にフォーカスするという川崎の2トップの優先事項は得点という形で結実したことになる。エリソン→山田のルートでのゴールは5点目でも。エリソンは2得点、2アシスト。スタッツ的には数字に残らない2点目でもポストで起点になるなど、全得点に影響を与えるスタッツだった。収めるところとリリースのタイミングが合ってきており、崩しの面でも機能する場面は少しずつ増えている。
川崎はプレータイム管理をしつつ、前線をきっちり戻るソルジャータイプに交代することで試合を制御する。そうした交代をした直後に新潟にゴールを許すのは少し勿体無い感もある。
新潟のゴールは後半に継続して狙っていた左サイドのポイントの多さを活かしたものだった。まずは中盤に降りた島田を逃した家長のミスが一つ、ラインの駆け引きに負けた田邉のミスが一つ、そして他にタスクがないのにファーで簡単にクロスに出し抜かれた三浦のミスが一つ。ゴールを奪われることは仕方ないこともあるかもしれないが、緩い対応が3つ重なっての失点は勿体無いものだった。
それでも川崎は5得点での快勝。2週間前に続き、ACL前の金曜のナイターを制して勝ち点を40に乗せた。
あとがき
この試合のポイントは序盤の新潟と川崎のプランの優劣に雨が大きな影響を与えていたこと。川崎のハイプレスが機能したのは蔚山戦のような環境起因への影響が無視できないことは頭に入れておきたい。もちろん、環境に対応したプランを組んだという適応力は十分に見るべき部分ではある。以前であれば川崎がショートパスにこだわって環境に飲まれるという形も十分に想定できた。
ただ、新潟との再戦を踏まえると、同じプランがルヴァンカップで通用するかは怪しい。直近の川崎の4-4-2は重たいピッチに助けられるケースが多く、正確で早いパス回しが可能なピッチにおける、プレスの再現性は不明であることは頭に入れておくべきだ。環境への適応力において、2トップを軸とした勢いが転がったことと、再現性に不安があることは両立する。この日のプランがハマったことを喜びつつ、同じくボールを動かすことが得意な光州戦への準備を進めたい。
試合結果
2024.9.27
J1 第32節
川崎フロンターレ 5-1 アルビレックス新潟
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:13′(PK) 63′ エリソン, 18′ 脇坂泰斗, 65′ 73′ 山田新
新潟:86′ 太田修介
主審:中村太