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「ゼロヒャク」~2024.9.13 J1 第30節 川崎フロンターレ×サガン鳥栖 レビュー

プレビュー記事

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レビュー

オールコート対策が見られた右サイド

 「5-4-1をベースにオールコートマンツー気味に変形するか、あるいは前の5枚で同サイドに制限する形を行いながら後ろで捕まえるのどちらか」とプレビューでは鳥栖の守備の方向性をこのように述べた。この試合の立ち上がりの鳥栖は前者寄り。よりハイテンポに引き込むオールコートマンツーで勝負に出る形であった。

 マンツー気味に出てくる相手に対して、解決策を見つけられずに沈むという形はすでに中断前の札幌戦で経験済み。ハイテンポに引き込まれた時に何も考えずに前に蹴ってはロストするという無限ループで相手のペースに持っていかれる展開は今年の川崎の悪癖と言っていいだろう。

 この試合の川崎はその点で言えば具体的な解決策を持っていた。右サイドのユニット、佐々木とファン・ウェルメスケルケンの2人は鳥栖のプレスを自陣に引き込みながら家長への裏パスを勝負手として持っていた。

 単純に家長がマッチアップ相手に負けていないというのもあるし、裏に流れながらのボールになるので、相手からすると処理しにくい。札幌戦に比べると蹴るボールがやや山なりで足が短かったため、GKの裏のケアにも引っかからない。さらには川崎の右サイドは全力で自陣側に引くことで相手のプレスを縦に間延びするので家長を挟む選手もいない。

 佐々木とファン・ウェルメスケルケンの2人はビルドアップへの貢献が素晴らしかった。佐々木は裏の家長だけでなく、対角に深さをとるエリソンへのフィードも効いていた。8分の脇坂の決定機などは佐々木とエリソンで作った深さを活用したもの。軌道としては逃げる方向になるので、イルギュにとってはこちらもカバーしにくいボールになる。

 ファン・ウェルメスケルケンは仮に蹴る余裕がないくらい囲まれたとしても、2人くらいであればボールを逃しながらターンで相手を交わす動きはできていた。彼のプレス耐性の高さは相手のプレスを引き込むというこの日のプランの保険になっていたと言っていいだろう。

 この2人から家長というルートは川崎の前進の脱出口に。右サイドから前進する川崎は家長のタメを生かして、河原やファン・ウェルメスケルケンが上げるクロスを放つ。ファーのエリソンをターゲットとしたこのクロスは鳥栖の脅威になっていた。

橘田をきっかけとしたズレから攻め込む

 前進に関しては左サイドも機能していた。批判されがちな橘田のSBではある(自分も中盤で起用する優先度はもう少し引き上げてもいいと思うが)が、この試合では甲府戦よりも明確に意義を提示したと言えるだろう。5-3-2で構える鳥栖のプレスは久保と2トップの間のスペースが泣きどころ。橘田はここに顔を出すことで鳥栖のプレスの悩みの種になっていた。

 久保は大外の遠野とどちらをケアすべきか迷っていたのだろう。遠野は大外適性ではないが、大外に人がいるということ自体が意味を生み出すこともある。橘田への久保のチェックが遅れた場面などはまさしくそれに当てはまる。同サイドのIHの中原が守備で広い範囲をカバーするわけでもなかったので、橘田を起点に遅れてチェックに出てくる久保の背後をつきつつ、その間にインサイドが列上げでフォローし、パスコースを作る。もしくはエリソンが左に流れながらパスの選択肢になろうとしていた。

 鳥栖の右サイドの守備の連携には難があった。6:30の遠野のミドルは橘田が大外裏抜けでエスコートすることで遠野にカットインのタイミングを与えている。橘田が本人の適性の相対的に低いポジションでも優先度が上がるのは、こういうランをサボらないからなのかなと思う。

もちろん、裏抜けでボール受けても左足でのクロスは得意じゃない。でも、裏抜けをサボったら遠野の対面の選手の足は埋まらない。なので、何も始まらない。できないとか苦手なプレーに関する取り組み方がポリバレントな選手は頭抜けていると思うし、最終的にはそういうところでも存在感を発揮できるのではないかなと思った。代表戦で2点取った守田を見た今週は特に。

 話が脱線しました。戻ります。橘田のミドルに関しても久保と2トップの間のスペースの切れ目から。鳥栖のラインが下がっていたので、ずっと空いていたこのスペースからミドルを狙うことができる距離だったという流れである。

 鳥栖が自陣に押し下げられた時に一気にブロックを下げるアクションになるのは事前に見た試合でもかなりよく見る光景だったので、ミドルをまずは見せておいて、ここからもう一回抜け出しを使った崩しをできるのが理想!と思っていたのだが、橘田がミドルで一発回答を見せてくれた。もちろん素晴らしいプレーだ。

連鎖的に事態が悪化する左サイドの守備

 先制ゴールが決まる11分までは川崎の流れではあったが、鳥栖もこれ以降に十分に盛り返しに成功する。鳥栖の狙いは徹底して右サイドだった。序盤のようにロングボールで久保と橘田のミスマッチを狙うこともあったし、自陣からのポゼッションで崩す流れもあった。

 川崎は4-4-2でプレスを構えていたのだけども、鳥栖の3バックに対してエリソンと脇坂がどちらに追うのかの意識付けが見えてこなかった。追いかけてはいないのだけども、方向もタイミングも気まぐれなのでこれだと後ろは相当守りにくいと思う。

 それに輪をかけて事態を悪くしたのが遠野。14:20のシーンが典型であるが、ホルダーにプレスがかかっていない状態で3バックに対して外切りのプレスをかければ、背後の久保にボールを通されるのは当たり前だろう。外切りはできればボールを受けるタイミングで、最低でもホルダーがクローズされている状態でというのは鉄則。この守備は自分から進んで鳥栖にルートを渡しているだけ。前に向かって走れることと守備ができることは別にイコールではない。

 遠野が置いていかれることで問題になるのは川崎の守備が彼が抜かれる前提が存在していないからだ。右サイドの家長も戻りきれない場面はあるが、こちらは河原のスライドと脇坂のプレスバックで抜かれた時の動きはかなりシステマティック。家長の運動量の少なさは前提で動いている。

 しかしながら、左サイドは後方をケアするのは大島。遠野が置いていかれれば、橘田と大島の2枚で同サイドを封鎖しなければいけない。その点に関して、この試合の大島は非常に厳しかった。日野の降りるアクションや原田の列上げで鳥栖がこのサイドの崩しに枚数をかけていたのは確かではある。だが、マークできているように見えている中原に簡単においていかれる15分手前の場面のように、大島は機動力の面で相手の動き直しに対応できていなかった。

 同サイドのCHがこうした対応しかできない(が、保持面でのバリューは発揮しており十分に起用に値する理由がある)場合、むしろSHは守備面での負荷を肩代わりしてサポートに回って欲しいくらいだ。それなのに、遠野と橘田の間のスペースは延々と空き続け、大島の周辺を攻略するための足がかりになっていた。これが川崎が前半に守備で苦しんだ理由である。

 遠野は守備ができるSHというパブリックイメージはあるだろうが、ここ数週間の彼の守備面でのパフォーマンスは期待される水準を大きく下回り続けている。少なくともマルシーニョに対して起用時の明確なアドバンテージは打ち出したい。

 大島の周辺のケアが間に合わないので、右のCHである河原が左サイドのハーフスペースの裏を埋めている。もっともこれは今に始まった事ではない。快勝したFC東京戦ではすでに同じ仕事をする右CHの橘田が目撃をされている。大島システムのスタンダードな対応とも言えるだろう。

 河原が逆サイドのケアに忙殺されると、バイタルエリアが開く。対処法は2択。CBが出ていって潰すか、逆サイドのSHの家長が戻って埋めるかである。この試合では後者のソリューションが多め。15分、17分のシーンなど家長がバイタルに顔を出して守備をしている。

 この押し下げられ方の厄介なところはこのように家長が低い位置に降りてしまうことである。こうなると、ボールを奪った時にお手軽に陣地回復できる場所が敵陣にはない。この試合で言えばエリソンが頑張るしかない。マルシーニョや家長のように高い位置に残った遠野が長いボールをなんとかできるなら、前からの守備を空振りしての前残りは意味がないとも言えない。だが、遠野はマルシーニョや家長ではないので、やはり背中を使われないような守備を身につけることが遠野は急務ということになる。

 鳥栖の話をすると降りるアクションをこなし続けた日野のタスクや、フリーで受けて同サイドの穴を正確に突き続けた西矢のパフォーマンスは見事。ファーサイドの楢原がかなり浮きそうな状況でクロスを上げることはできており、あとはクロスの精度が伴えばというところまで持っていくことができていた。

 総じて、川崎の左サイドと鳥栖の右サイドは受けに回った時の守備の後手の踏み方が共通しており、どちらのチームにとってもボールを容易く運べるセクションであった。

SHの守備における優先順位

 後半、川崎は山田を投入。ACLを控えていたり、20分付近に足を気にするアクションを見せていたエリソンの交代の意図を探るのは難しいが、タクティカルな側面を踏まえれば、守備においても手綱を締め直してよりコンパクトに守りつつ、前線の起点として機能してほしいということだろう。守備だけを考えれば、小林の方が向いているかもしれないが、長いボールを収めて起点になるのは彼には無理である。

 山田の立ち上がりはインタビューで述べた通り「ゴールを取ることだけを考えていた」プレーだった。同数でのカウンターにおいても、リリースしないことはもちろん、複数枚のマークが付く方向にボールを運んで利き足を振ってブロックに引っかかる。後半の川崎は前線のホルダーにこうした独善的なプレーが目立ち、カウンターがいつも以上に効果的なものではなかった。チャンスに繋がる速攻の場面で引き付けてリリースの意識が一番高かったのはマルシーニョである。

 押し上げの機会を失った川崎は後半の立ち上がりに失点。右サイドからの攻撃に対して3回クリアした佐々木、そして直後にフォローしたアイダルの4回のクリア全てが敵にクリーンに拾われる。CB2人が総出で対応した結果、プレーを切ることができず、ぽっかり空いた逆サイドで久保のゴールをあっさりと許す。

 3回チャンスがありながらプレーを切れなかった佐々木も自分の持ち場を離れてのクリアとなったアイダルもどちらもまずいプレーだった。アイダルはプレスを受けて苦しくなると、味方がいたらいいなという場所にフィードを落としてあっさり奪われるシーンが結構あるので、プレッシャーを受けた時にリスクを考慮したプレーの優先度を上げていきたい。

 追いつかれた川崎は右サイドを軸に巻き返しを図る。中でも遅れて大外を駆け上がるファン・ウェルメスケルケンのクロスは前半と同じように効き目があった。ラインを上げての佐々木の守備の好プレーが続いたこともあり、川崎は押し込む流れを作り直した。

 押し込む流れから得点を決めたのは左サイド。以下の大島のコメント通り、狙い通りのクイックリスタートから脇坂→家長と繋ぎながら川崎はあっさりとゴールを決める。

『2点目はリスタートを狙うというのは分析でチームが提示してくれていたので、それをうまく出すことができた。あそこにヤスト(脇坂泰斗)が入ってくれたらと思っていたし、おそらくヤストもあの隙間が見えていたと思う。』

https://www.frontale.co.jp/goto_game/2024/j_league1/30.html

 再びリードを奪い、試合をクローズしたい川崎。しかしながら、SHが前に出ていくことでチェーンが切れてしまい、川崎は守備で後手。鳥栖は敵陣にボールを運ぶシーンを終盤にも作ることができるように。堀米と清武が登場する右サイドは大島が交代で下がっても攻略することができていたし、川崎は右のSHを遠野→瀬川でリレーしても封鎖することができなかった。

 三浦のハンドに繋がったシーン、瀬川は大外の福田に対してまず横を切るべき。マイナスを切ることを優先して間を通されて西矢をフリーにするのはなしだろう。河原のケアが間に合うならばそれでもいいのかもしれないが、この場面では背中を通される形で福田に運ばれているので、河原のケアや家長のプレスバックは間に合わないと考えるのが自然である。ならば、バックパスを許容してでも横はまず切りたい。直接原因になったとは思わないが、途中交代の瀬川に求めることを考えれば切ないプレー選択だった。

 ならば、バックパスを許容してでも横はまず切りたい。直接原因になったとは思わないが、途中交代の瀬川に求めることを考えれば切ないプレー選択だった。

 2失点目の詳しい見解については質問箱に示したので見たい方はこちらからどうぞ。

 後半ATに追いつかれた川崎だったが、終盤に左サイドのラインブレイクを繰り返すことで反撃。最後の最後で抜け出したマルシーニョからのクロスを処理しきれなかったテヒョンのボールを山田が押し込み、100分に決勝ゴールを決めた川崎が土壇場で勝者となった。

あとがき

 かなり強引なプレーが目立った山田や、終盤のリードをしている場面でゴールを狙った小林。川崎のサポーターはこうしたストライカーの強引にゴールに向かう姿勢をとても好むことが昨年の宮代に対する低い評価などからも見えてくるし、彼らがサポーターに求められるストライカー像を体現していると言えばその通りだし、その姿勢がゴールへのストイックさにつながって決勝点を決めたといえばそうなのかもしれない。

 なので、後半頭の山田のプレーはダメなどとは一概に言うことはできない。けども、今日のプレーは0か100かだ。得点を取れば正義だし、そうでなければ正義を貫けなかったということになる。

 ファンの土壌がそれを後押ししている感のある川崎という枠の中で考えればそれでもいいのかもしれない。けども、たとえば細谷がスコアリング以外での貢献度を上げることで五輪でコンスタントな活躍を見せていたり、あるいはA代表に呼ばれているのを見ると「得点を取れればOK、そうでなければ何もない」みたいなこの試合の山田のパフォーマンスを伸ばしていった先に日本代表の道が見えるかと言ったら、個人的には全く見えてこない。現代のストライカーはゴール以外での貢献の価値が高まっている。100を引き続ければ文句を言われることはないのかもしれないけども。

 遠野や瀬川も同じ。前から奪いたい意識が強いのかはよくわからないけども、彼らのポジションや投入される時間帯、そしてスコアを考えれば、もっと大事なことはあるはずなので、その優先順位がグチャグチャなのは気になる。

 4-4-2でのミドルプレスが安定しなければ、過密日程の中で結果を出し続けるのは不可能なので、今日はたまたま勝てたとしても続かない。まぁ、今のチーム状況を考えれば、精度の高いプレーを見せた負けよりも何でもいいから勝ったほうがいいというのは確かなのだろうけども。でも、それで進んだら近い位置に更なる行き止まりにぶつかる可能性もそれなりにあるということは心に留めておきたい。

試合結果

2024.9.13
J1 第30節
川崎フロンターレ 3-2 サガン鳥栖
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:11′ 橘田健人, 61′ 家長昭博, 90+10′ 山田新
鳥栖:50′ 久保藤次郎, 90+1′(PK) 清武弘嗣
主審:長峯滉希

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