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【前半】
縦に速いシステムと事情
強豪クラブにとってはミッドウィークに試合があるのが世の定め。今年は日程の都合上、CL鬼の3週連続開催ということで例年以上にハードな日程になっている。移動に関してもおそらくデリケートな部分が多く、選手たちの精神的負荷や身体的負荷はかなりのものだろう。おのおの代表ウィークでの試合はあるだろうが、ひとまずチームとしてはこの試合で一段落になる。
一段落前の最後の試合がこのカードというのはモチベーション維持の観点で楽だぜ!なのか、いやいやハードすぎるだろ!なのかは本人たちにしかわからない。
試合は序盤から撃ち合いの様相を呈した。攻撃側はフリになるパスはほぼ使わずに直線的にグラウンダーのパスをつなぎながら前進。守備側もそれなりにプレスに行き奪回を試みる。現状では両チームとも最終ラインに不安を抱えている状態であり、まずはどこまでボールをもてるのかの探り合いになったということだろう。
有効なパス通し合戦になった立ち上がりだったが、効くパスを通す頻度が高かったのはリバプールの方。サラー、フィルミーノのどちらか片方がシティのCHの周辺で縦パスの受け手になる。そして受け手にならなかった方+マネがフィニッシャーとして、前を向いた受け手からのラストパスを引き出すという手順である。
サラーorフィルミーノへのパスの出し手となるのはポジトラの瞬間にフリーになるワイナルドゥムか、そもそもプレッシャ―が小さいことが多いCBのどちらか。とりあえず早めに縦につけるということはリバプールの中で共有されていたように思う。CBのところではあまりボールを持つ時間を増やしたくない感じは見て取れた。ボールさばきも下手こいた時に受ける部分にも不安があるのだろう。デ・ブライネが前に出る4-4-2型のシティのプレスもいい時に比べれば激しいものではなかったため、リバプールの縦に早めにつける展開は効いていた。
先制点は押しているリバプールがPKで得たもの。ワンツーパスで対応を決め打ちしたウォーカーの逆をマネが取った形である。内側に入られて慌ててPKというのはレスター戦でも見たやつである。
【前半】-(2)
逆説的に証明したリバプールの正しさ
シティのボール保持に対してはリバプールはフィルミーノとサラーがロドリを交互に監視しながらマーク。CBにはある程度時間を与えることを許容し、SBはマネとジョタがケアするという形をとった。
リバプールの陣形である4-2-3-1は普段使うことが多い4-5-1と比較すると一般的には高い位置での受け手が増える分、非保持においては4-4という比較的横幅すべてをカバーするのにはしんどい枚数。横幅を使われてしまったたらワイナルドゥムとヘンダーソンが根性でそれに対応するという形であった。
というわけでシティの狙いはまずは中で起点を作ること。中に起点が作れたら少ないタッチ数で外に逃がしサイドで勝負をすることであった。とはいえ、アンカー番はついているしリバプールにとっても中央封鎖は優先度が高い項目。やすやすと中に起点を作らせるわけにはいかない。
ただ、リバプールにとっては中央のほかに優先度が高い気にすべき部分があった。それがデ・ブライネの存在。彼にボールが入り、前を向いてボール運びを許してしまうのはリバプールにとっては何としても避けなければいけない展開。シティとしてはリバプールのその意識をおとりに使ったように見えた。
デ・ブライネはたとえボールを受けられなくても降りずにDF-MF間のハーフスペース付近にステイ。そうなるとリバプールのCHは嫌でもここに意識が行く。そうなれば2列目とFWの中央のスペースが広がることになる。
リバプールのFWがプレスバックをさぼる瞬間があれば、中盤は数的有利。フリーの選手が少ないタッチで外に叩く隙は作れるし、ロドリもギュンドアンもそのスキルはある。外が空かなければ自らが運べばよし。運んで内側に陣形が絞ることがあれば外を使えばいいし、絞らなければそのまま間を通せばいい。ということで中の起点を作ることが出来ていたシティだった。しかし、肝心な外勝負のWGがこの日は不調。とりわけスターリングは今季崩しの役割を任されても、抜ききることが出来ない上に簡単に倒れてしまう頻度が多く、コンディション不良のように見える。この試合でも動きが重く、シティの最後の仕上げになることはなかった。
仕上げの甘さの分、機会が少なく苦しんだシティ。しかし、前半の終盤に反撃の機会を得る。きっかけはマネの前方へのプレス。これが空振りになってしまったせいで、後方のワイナルドゥムがデ・ブライネを捨てて、外のアレクサンダー=アーノルドまで出ていかざるを得なくなった。これにより中央でデ・ブライネが解放。折り返しでラストパスをジェズスに送ると、見事なボールタッチでゴールをもぎ取る。
フィニッシュの美しさに目が行きがちだが、きっかけはマネのプレスが空転したところから。1枚1枚ズレて、結局デ・ブライネをフリーで前を向かせてしまったシーンから失点するということは、逆説的に言えばまずはデ・ブライネを警戒するというリバプールの指針が正しかったことの証明でもある。それを完遂できないズレができてしまったことが失敗というか。
シティにPKを与えたシーンでも、きっかけはフリーのデ・ブライネからのクロス。このシーンでもきっかけはマネがヒールパスをロストしたところから。前線の中でもタスクを忠実にこなすタイプのマネにしてはどちらも割と珍しいシーンのような気がした。まぁ、デ・ブライネはこの絶好機のPKを外してしまうわけなのだけど。
前半は1-1。共にPKが1本ずつ与えられるという非常に珍しい展開になった。
【後半】
期待に届かぬテンション鎮火
1-1のタイスコア。「ライバルを叩いてどうしても勝ち点3が欲しい両チーム。両監督は試合は終盤に向けて積極策を講じ、激しいつばぜり合いが繰り広げられた!」みたいな形になるのかなと期待しながら眠い目をこすり後半を見た日本のファンの中にはがっかりさせられたという感想の人も多いのではないだろうか。レビュー的にも前半で書くべきことはほとんど終わってしまったような試合に思える。やはりCL3週連続開催の終わりのこの一戦にすべてをかけて戦う!みたいな状況を生むのはすごく難しいのだろう。ただでさえ、カレンダー的にイレギュラーなシーズンであり、白熱した展開を後押しする観客の姿もない。致し方ない部分もある。
後半15分過ぎにアレクサンダー=アーノルドが負傷交代で退いた後は両チームがさらにトーンダウン。引き分けはやむなしという落ち着いて空気感で最終盤を過ごすことになった両チームであった。
特に前半に比べてリバプールは後半には撤退し、静的に試合を進めるように心がけていた。そのため、必然的にボールを持つ時間帯が増えてきたシティ。左から内側に切り込んでエリアにラストパスのおぜん立てをするカンセロ、そして中の基準点として機能していたジェズスの2人はシティの後半の攻撃の中でも印象的なパフォーマンスだった。
ただ、後半の見どころというとそれくらいだろうか。両チームとも勝ちたいのだろうが『座して引き分けを待つ』という側面もどこかぬぐえず。選手たちも目の前で怪我したアレクサンダー=アーノルドを見ると、エンジンがかかり切らない部分もあったのかもしれない。試合はそのまま終盤まで推移し1-1のまま終了。
お互いに後半は潜り切らずに浅瀬で仲良くこの試合展開をどこか受け入れていたのが印象的であった。
あとがき
■トーンダウンの要因は?
またしても負傷者を出してしまったリバプール。ファン・ダイク、ファビーニョ、チアゴに続き、戦術的な核といえるアレクサンダー=アーノルドを失ってしまえば、いくらシティ戦とは言えども選手のテンションが下がるのも無理はない。試合展開まで織り込めば、勝ち点1でエティハドを終えるというのは悪くないだろう。負傷者の連鎖はかなり気がかりだが、潜れない理由ははっきりしている。ただ、手の打ちようがない気もするが。
この試合では序盤を除けばシティの方が攻め込む時間が長かった気もするが、こちらも効果的な一手は見せることができず。ただ、シティの今季は何となくでボールを持って時計を進めた時には攻めあぐねるという試合が多い。この試合でもその傾向は見られた。コンディションを考慮しても今季のピークはもっと先にあるのだろうが、輝かしい今季のシティの理想を目撃できた試合というのがここまでまだあまりないので、ちょっとそれは気がかりではある。
試合結果
2020.11.8
プレミアリーグ
第8節
マンチェスター・シティ 1-1 リバプール
エティハド・スタジアム
【得点者】
MCI:31′ ジェズス
LIV:13′(PK) サラー
主審:クレイグ・ポーソン