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【前半】
アグレッシブな方に転がった先制点
ノリに乗っているエバートン。4連勝で今年こそ王者に上り詰めた隣人を叩きたいと意気込んでいるだろう。対するリバプールはインターナショナルブレイク前にまさかの大敗。余裕綽々の全勝対決にするつもりが、このダービーは再起の一戦になってしまった。
試合序盤で姿勢のすべてを読み取る気はないが、序盤によりアグレッシブにゲームに入ったのはリバプールの方だった。4-3-3同士で比較的噛み合わせがいいフォーメーション同士の戦いになったので、余るアンカーにどうチェックに行くか?はアグレッシブさを図る1つの目安になる。
フィルミーノはアンカーを背中で消す守り方でお馴染みだが、この試合の立ち上がりはもっとアグレッシブ。プレス隊の先頭であるフィルミーノがGKまでプレッシャーに行き、エバートンに長いボールでの回避を誘発。キャルバート=ルーウィンへのボールをガツン!とファン・ダイクが刈り取ったシーンはダービーの開幕を感じさせるシーンであった。
一方でエバートンはトップのキャルバート=ルーウィンがアンカー番を行う。リバプールのプレスからするとおとなしい立ち上がりである。この試合のリバプールの仕上げは左サイドで行われていた。ハーフスペースに絞って位置をとるマネに合わせるように、大外からロバートソンがオーバーラップ。エバートンの同サイドのハメスは撤退守備はほぼ免除されている(のかサボっているのかどっちかはわからないけど)ので、ここはコールマンや同サイドのIHのドゥクレがその分の頑張りをみせなければいけないところである。
左サイドの仕上げのためにはまずは右サイドから作るのがこの日のリバプール。大外に上がってくるアレクサンダー=アーノルドを起点として内側を経由して逆サイドに展開する。ハーフスペースのサラー、中央のフィルミーノが中で受けて大外にという流れである。
この右から左へという流れでリバプールは開始早々に先制点をゲットする。大外で1対1となったロバートソンがコールマンを交わし、同サイドのハーフスペースから内側に入っていったマネに合わせて先制する。この右から左の流れで決定機に迫るシーンは得点後も頻繁に見られた。中央で起点となったプレイヤーが揃いも揃ってエリア内に突撃するのが迫力満点で、サイドの突破力とかクロスの精度を信頼しているんだなぁと思わされた。
【前半】-(2)
得点に冷や水
ハイプレスでカウンターを止め、攻撃の流れを作り、先制点を取る。試合としては完璧な入りといえそうなリバプールだったが、思わぬ誤算が入ることに。ファン・ダイクの負傷である。手術による長期離脱が決まって手痛いことに。
リバプールの前に出てくる姿勢に触発されたのか、面を食らった先制点に刺激を受けたのか、それともファン・ダイクがいないならいろいろやってみよう!と思ったのかはわからないが、この時間から変化が出てきたのはエバートンである。まずはリバプールのバックラインに対するプレッシングが積極的になった。アリソン、ファン・ダイクの2枚がいない上にゴメスはいつもと異なる左のCBに入っているので、十分に狙い目になるという判断だろう。
そしてもう1つはキャルバート=ルーウィンへのロングボールである。ここまでの展開ではグラウンダーの速い楔をつけることが多かったが、15分を過ぎたあたりからハイボールを使ったやり方が増えてくる。単純な滞空時間や跳躍力だけでなく、体の入れ方やクロスへの入り方で非凡な部分を見せるのがキャルバート=ルーウィンのすごいところ。この試合ではこの時間帯からリバプールのバックライン相手に主導権を完全に掌握。ショートパスでは高い位置からのリバプールのプレスの餌食になることもあったエバートンだったが、キャルバート=ルーウィンの精度のロングボールの収めで前線の起点を確立することができた。
前線に起点ができたことで押し込む時間が増えてきたエバートンはセットプレーから同点に追いつく。CKからマイケル・キーンが空中戦で競り勝ち強烈なヘッドをゴールマウスに叩き込んだ。
しかし、得点が入っても波に乗れないのがこの日のマージ―サイドダービーである。得点で盛り上がる勢いに負傷者という冷や水をかけられたのは今度はエバートンの方だった。コールマンの負傷でゴドフレイがデビュー。しかも『transfer markt』によると数年前に少しだけやった右サイドバックとしてである。
コールマンが負傷したタイミングでリシャルリソンも足を気にしてる様子を見せているとなると、得点の勢いに乗じて一気にプレスという流れにするのは少しリスキーと考えてもおかしくはない。徐々に互いに最終ラインへの強烈なプレスは見られなくなり、落ち着いた展開になってくる。
キャルバート=ルーウィンへのロングボールとハメスを起点としたエバートンよりも、ハメスのプレスバックが物足りないことを利用したリバプールの『右から左』の崩しの方が機会は多かった。サラーも守備時には前に残ることが多かったが、サラーが空けたスペースを利用したディーニュのクロスは散発的で、リバプールがハメスのスペースを利用するほどは効果的とは言えなかったように思う。むしろ、カウンターで前残りをするサラーをフィニッシュ役としたマネの運びは効いていた。このあたりはさすがの攻め手の多さを見せたリバプールであった。
試合は1-1でハーフタイムを迎える。
【後半】
豊富な出し手VS一点突破主義
試合後に爆速でアップされたらいかーさんのレビューには「全く戻らないより、気まぐれで戻ったり戻らなかったりする方が悪」と書いてあった。その心は前者が初めから戻らない行動に基づいた設計にシフトすることが出来るのに対し、後者は気まぐれな前線の行動を計算に入れて守備になるからである。
この試合のエバートンの中盤は3センターのような守り方をすることが多かった。確かに気まぐれなハメスの戻りをドゥクレが運動量でカバーするシーンが多かったが、スタートポジションとしては4-5-1。したがってハメスの戻りは前半は計算に入れていたことになる。
アンチェロッティは後半にそのハメスの戻りを計算から外すことにしたようだ。エバートンは守備時はドゥクレをサイドハーフに置く4-4-2のような形にシフトした。
さらにこの4-4-2への移行にによりアランがやられがちだったエバートンの右サイドに加勢しやすくなった。彼のカバーリングによってドゥクレが助けられることも徐々に増えていく。ゴドフレイも問題なくSBで対人を頑張っていた。
攻撃時は自由に動くハメスを周りがフォローするという関係性は変わらないので、ほぼ変更はなかったといっていいだろう。気持ち内側による機会が多くなったかな?くらい。形よりタスク割りのボール保持時のエバートンの右サイドである。
サイドのケアはできるようになったエバートン。しかしながら中盤での数的不利は受け入れなくてはならなくなってしまう。この状況で支配力を一段と強めたのがチアゴ・アルカンタラ。余りやすくなった中盤から左右の配球が自由にできるようになる。リバプールは中盤が自在に幅を使えるようになったことでエバートンを振り回すようになる。横幅が4枚でチアゴに振られまくるとさすがにしんどい。
チアゴの影響力は絶大でビルドアップにおいての貢献度はピカイチ。ばっちりフィットで以前からいたような顔でブンブンタクトを振るっていた。バイエルンでも経験したハイプレスへの参加も大きな問題はなし。継続性の部分は未知数だが、少なくとも大一番にはコンディションを合わせて強度の高いプレッシングに出ていけるはずである。
リバプールがチアゴなら、エバートンにはハメスがいる。守備のサボり?免除?というマイナスはあるものの、ボールをひとたび持てばスペシャル。降りて良し、張って良しでエリア内へのキャルバート=ルーウィンへのクロスや、逆サイドのディーニュのオーバーラップに合わせたサイドチェンジなどほぼエバートンのすべてのチャンスを彼が作り出していた感。守備面でのマイナスはあったとはいえ納得のフリーマン化である。
両チームともゴールに迫る手段はあったものの、出しどころの数という意味ではリバプールが一歩リード。豊富な手段でエリア内に迫っていく。2得点目でクロスを上げたのはヘンダーソン。受け手としても出し手としても優秀である。そしてエバートンのラインが下がる方向に出たクロスに対して、飛び込まずに待ち構えるサラーがニクい。そういう所にボールが転がってくるのね!というお手本のような待ち構え方だった。
これで終わらないのが今年のマージーサイドダービー。リバプールの多彩な出し手に対抗するはエバートンの一転突破である。この試合で何度となくあったハメスから左奥のディーニュにパスが出ると仕上げはもちろんキャルバート=ルーウィン。点の取り方のポテンシャルがえぐいので、覚醒待ったなし感がやばい。
幻のリバプールの3点目のシーンはマネのハーフスペースが起点に。外を使うと見せかけてのダイレクトに中を使うチアゴのセンス光るパスワーク。というわけでリバプールもエバートンも序盤から狙っていた形で終盤までゴールに迫れていた。
試合は2-2。負傷、退場、オフサイドと話題に事欠かない結果になったまージーサイドダービーは痛み分けのドローとなった。いい試合でございました。
あとがき
■DFラインの質アップ+層強化が両立できれば
「強い相手と戦ってこなかったやんけ!」というのが文句の付け所の1つだったエバートンだが、ひとまずはそのクオリティを示すことが出来たといっていいだろう。ここ数年のリバプールがエバートンを一方的にやっつけるマージ―サイドダービーとは異なる展開を見せつけた。
特に中盤より前のクオリティはピカイチ。この6人が万全のコンディションを維持出来ればどんな相手でも手を焼くはずである。キャルバート=ルーウィンがファン・ダイクとバチバチやるところはもっと見たかった。
懸念なのは選手層。ボールを運べるリシャルリソンがしばらく不在となる。代役濃厚なイウォビが推進力をもたらせなければ、ハメスへの依存度はより高いものになってしまう。コールマンも離脱が懸念されるところであり、ここの用兵や戦術のマイナーチェンジは要注目。
そして最終ラインの強度も気になる。受ける局面が苦手分野なのは仕方がないが、この日は物議をかもしつつもスーパーセーブ連発だったピックフォードの復調と、本職のCBでゴドフレイが期待に応えるプレーを見せればCL出場権争いを盛り上げる存在になりえるだろう。
■喜びを悲しみと怒りが飲み込んで
「エバートンの良さを受けつつも結局は跳ね返し、あわや逆転というところまでたどり着いた」と表現すれば地力を見せつけたポジティブな内容といえるはずだ。しかし、ファン・ダイクの大怪我が暗い影を落としてしまうのは仕方ないところである。今季のリバプールのバックスは彼がいてもやや調子を落とし気味という印象が強い。そういう苦しいやりくりの中で加入以来ほぼフル稼働の大黒柱が不在になればさらにしんどいのは当たり前である。
ポジティブなのはチアゴのフィットの早さだろう。すでに中盤で我が家のように長短のパスを使ってリズムを刻む様はさすがの貫禄。ビルドアップにおいては若干ファビーニョが気を遣っていたように見えるので、棲み分けをどうするかは今後気になるところ。ファン・ダイク負傷の影響で広いスペースを使った攻撃を受けた際の失点のリスクは高まるはずなので、もっとチアゴを軸とした相手の攻撃機会を減らすようなボール保持にシフトする可能性もあるかもしれない。
最終ラインに空いた大きな穴と中盤の新たなスター。クロップにとって怒りと悲しみとうれしい発見が入り混じるマージーサイドダービーになってしまった。
試合結果
2020.10.17
プレミアリーグ
第5節
エバートン 2-2 リバプール
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:19′ キーン, 81′ キャルバート=ルーウィン
LIV:3′ 72′ サラー
主審:マイケル・オリバー