スタメンはこちら。
【前半】
ラインの越え方、越され方
昨年までは嫌な嫌なアンフィールドへの旅路も、今年ばかりは少し前を向いて楽しみに待つことができる。そんな思いだったアーセナルファンは多いだろう。昨年までに比べてアーセナルへのチームとしての期待値は上昇している。選手たちも消化試合の色は強かったとはいえ強豪相手に結果を出しているし、FA杯も獲得した。コミュニティーシールドでも負けていないし、悪くないイメージで臨むことができた試合だったはずだ。まぁダメだったんだけどね。
立ち上がりからボールを握るリバプール。それに対して、アーセナルは逆らうことなくボールを持たれることを許容する序盤戦だった。アーセナルは5-2-3の構え。ラカゼットが主にアンカーのファビーニョを監視するのはお馴染みの光景だ。
対リバプールに寄せているかな?と思ったのはシャドーが内側に絞って中央をケアする比率が高かったこと。そして、ファビーニョを監視する役割はラカゼットに固定するわけではなく、受け渡しながら流動的に変わっていくことだ。
おそらくこれはフィルミーノを警戒してのことだと思う。シャドーが外を警戒してしまうのならば、中央は3対3の同数。ここにフィルミーノが降りてくればリバプールは数の上では有利。このリバプールの前進における王道パターンを消すことをまずはアーセナルは優先したのだろう。
受け渡しによるマンマークの色を濃い目にしたのは、スペースを完全に消すのが困難だからと考える。下がりすぎずに受けるという視点からこのような策を授けたのではないだろうか。アーセナルはミドルゾーンを維持するプレスをかけつつ、フィルミーノの持ち味を消すためにこのようなプレスを行っていたのだと思う。
アーセナルがそう来るのならリバプールがまずはSBにボールを預けて様子を見るのは自然なことだろう。プレスモードの際のアーセナルはこの位置にWBが出てくることが多かった。
プレスモードがあるということは当然リトリートモードもある。最終局面でSBやWGだけでなくインサイドハーフもPA内に飛び込んでくるのがリバプールの特徴だ。SBが高い位置を取ってフィニッシュに絡んでくるのももはや当たり前。その際にはアーセナルのシャドーであるウィリアンとオーバメヤンが低い位置まで降りてSBを監視するようになる。
つまり、アーセナルのシャドーはプレス局面とリトリート局面で中央とサイドの優先度が変わる。リバプールとしてはアーセナルの守備のラインを超すときに、プレスモードからリトリートモードに移行させる前に攻撃を完結させたいはず。
逆にアーセナルとしてはリバプールに縦パスでどうラインを越されるかという点にフォーカスする必要がある。リトリートする準備ができる前に深くまで侵入されて、サイドからサイドに振られるような展開は避けなければいけない。シャドーがサイドの深い位置をケアできる時間を稼ぐ必要があるということだ。
この視点で見ると初めの10分くらいはアーセナルはうまくやっていた。しかしながら、徐々に怪しいラインの越され方が出てくる。きっかけは人を捕まえるアーセナルの守備の方策である。人についてくるということを利用し始めたリバプール。ワイナルドゥムやマネが引いて受けることでアーセナルの守備の陣形を縦に引き伸ばしにかかる。
20分のシーンは降りたマネが空けたスペースにフィルミーノが侵入。こういうラインの越され方をすると一気に怪しくなる。この場面ではファーに正確なボールが届かなかったことが幸いだった。しかし、時計の針が進むにつれてアーセナルはこのようなラインの越され方が増えるように。PAでのギリギリの対応が目立つ展開になってくる。
【前半】-(2)
流れは先制点に逆らうように
それでも先制点を取ったのはアーセナル。起点はボールの保持から。ルイス、ホールディングをCBとする4バック化はすでにおなじみに。リバプールはCBを除くほぼ全員が敵陣でのプレスに参加。特にインサイドハーフ、SBからの中押しはなかなかの迫力。アーセナルが狙いをつけたのはSBの裏。先制点はオーバメヤンが低い位置で受けることで引き寄せたアレクサンダー=アーノルドの裏をメイトランド=ナイルズがつく形から。
直前に全く同じ形でルイス⇒メイトランド=ナイルズのパスがズレたことを起点に相手にシュートを作られていたのだが、それにひよらずにつないだ精神は評価したいところ。1つスイッチが入ってしまえば、リズムを刻むようなパスワークをみせられるようになったのは成長だ。特にジャカ⇒ラカゼット⇒メイトランド=ナイルズの流れは見事。最後は相手のミスに助けられたが、過程を見ると評価したくはなる。
ただし、その「過程」がよかったシーンがわずかというのは寂しいところ。ルイス、ホールディング、レノのバックスは自陣からのビルドアップで相手を引き込みすぎるあまり、窮屈になる場面が多かった。窮屈になってもつなげるリバプールのバックスほどのクオリティはまだない。ホールディング、ストッパーとしては悪くなかったが、保持の面ではまだクオリティの向上が必要だ。
先取点は得たものの、ギリギリの対応は増えていくアーセナル。ボール保持でもプレスの脱出ができないとなると、先制点に逆らうように流れはリバプールのほうへ。失点シーンも先ほどから述べているラインの越され方の話である。ケイタのところから先にプレーさせてはいけない。だからこそルイスが前に出てきたのだろう。しかし、潰しきれずにボールはフィルミーノからサラーへ。最終的には出ていったルイスのスペースを埋めきれずに失点。跳ね返ったボールはファーにいたマネの下に転がっていってしまった。
2失点目はファン・ダイクのフィードでラインを越えたリバプール。ターゲットはサイドに流れるフィルミーノ。ティアニー、ジャカ、メイトランド=ナイルズでサラーを食い止めて時間を作っただけに、ウィリアンが最終ラインまでのプレスバックをやめてしまったのが痛恨。アレクサンダー=アーノルドのクロスは確かにほめるべきだがここは撤退が間に合ってほしいところだった。
先制点を得たものの撤退守備でエラーが出たアーセナル。リバプールが好機を逃さずに逆転に成功する。試合は2-1でハーフタイムに。
【後半】
博打に出ざるを得ない
前半のアーセナルに足りなかったものは機会である。失点は撤退守備のエラーだが、そもそもボールを前に届けて決定機を得る機会が必要なのである。多くの美しいゴールを決めた低い位置からのプレス回避は鳴りを潜めている。見直すべきはまずはボール保持の指針だ。個人的にはエルネニー⇒セバージョスはハーフタイムに突っ込んでくれていいぜ!と思っていたのだが、そこまでは見られなかった。
後半になるとリバプールのプレスは前半ほどではなくなった。プレッシャーが楽になったアーセナルは前半に比べるとボール保持の工夫の跡は見えた。例えば深い位置を取るティアニー。リバプール式の外切りを回避する1つの方法としてはコーナーフラッグ付近に立ってしまえばいいのは確かに1つの方法。パスコースも少なくロスト時のオフサイドラインも低いというリスクはあるが、ここまで普通にやってつなげなかったのだから次善の策としては悪くないだろう。深さを作って相手を縦に引き伸ばすアプローチだ。
狙いは大きい縦への展開である。アレクサンダー=アーノルドの裏に走ったオーバメヤンへの長いボールが見られたのは50分手前のこと。オーソドックスな対応策だと思うので、そもそも全然前半にやってなかったことがちょっと不思議。でもこのやり方は後半もあまり多くは見られなかった。
裏をとる方策はサイド以外にも見られた。決定機を目の前に手繰り寄せたのは中央から裏取りを狙ったラカゼット。58分のシーンは副審にはオフサイドと判定(遅れてフラッグアップしている)されたよう。オフサイドの有無を推しはかれるリプレイもなぜか流れなかったけど。ただ形としてはうまく抜け出したものである。
このアーセナルのラインブレイクのクオリティが高まったのはセバージョスが投入されてからだ。終盤のアーセナルのチャンスはほぼ彼によってつくられたもの。62分に同様にラカゼットが抜け出して決定機をお膳立てしたのも彼だ。こちらのシーンはリプレイで確認すると手前にアレクサンダー=アーノルドが残っておりオンサイド。ここに立ちはだかるのはアリソン。これはかなり完璧な対応だろう。ラカゼットとの駆け引きを制してコースを完全に消すことができていた。
決定機を迎えアーセナルは反撃の機運が高まるようになる。ただし、リバプールもファン・ダイクの大きな展開からサイドの深い位置に速めにボールを届けることで、アーセナルを押し込んでいく。中央を割る決定機も創出されていたし、ボールを持つフェーズではガッツリやられてしまった印象。アーセナルが機会を増やすなら、リバプールはさらに機会を増やす!という印象の流れだった。
時間が進むにつれ、前線のエネルギーがなくなってくるアーセナル。ペペとエンケティアの投入は博打の様相が強いものの勝ち点を得ることを狙うには不可避だったように思う。前線はハードタスクだったし90分の継続起用は難しいだろう。
しかしこの博打はいい方向に転ばなかった。やはり非保持の部分でのラカゼットとウィリアンの影響は大きい。この試合を通してリバプールはファン・ダイクをメインとした長いレンジでのラインを超えるパス(主にサラーに向けたもの)が多かったが、ペペとエンケティアが入ってアーセナルのプレスの役割に混乱が生じてからは短いパスでのプレス突破もレパートリーに。
特にペペが入った右サイドは役割が不明瞭になってしまった。途中から入るのが難しかった試合だったという事情はあるが、攻撃面でもそれを覆すプラスはなかった。ちぐはぐになっていくアーセナルに対して、冷静に時計の針を進めるリバプール。個人的には最後の10分が最も両チームの力の差を感じた。
最後に新加入のジョタが初ゴールでリバプールの勝利を決定づける。この場面では苦しい体勢でのルイスのクリアがまずかった。クロスの処理はレノに任せるべき。プレーを一度切れていればセカンドボールを巡った3得点目は存在しなかったはずである。
試合は3-1。開幕3連勝を決めたリバプールがアンフィールドの無敗記録を伸ばすことになった。
あとがき
■我慢は限界がある
3失点を振り返るといずれも個人レベルでのミスがあった。ただ、90分間リバプールに押し込まれる機会を作られ続けられれば、この大きさのミスは発生してしまう。
個人的には今季のリバプールのバックスは盤石ではないと思う。少ない人数で歪みを何とかするDFには徐々にエラーが見られる機会は増えてきている。実際にこの試合のアーセナルの得点も彼らのエラーとアーセナルのプレス回避の合わせ技。決定的なエラーがなければゴールまではたどり着けなかっただろう。
しかし、そのリバプールの弱みをこの日のアーセナルは十分に引っ張り出すことできなかった。ボール保持においてできることはまだ増やさないといけない。長いボールの精度、裏抜けのチャレンジを増やさなければリバプールがこの日覆い隠した弱点は露わになることはない。リバプールがファン・ダイクの長いパスを主体としてアーセナルがリトリートして陣形を整える隙を与えずにフィニッシュワークまで持っていったように、相手の弱みを晒すアクションがこの日のアーセナルのプレーには足りなかった。
スタメンの起用やラカゼットの決定機に物申したい人もいるのかもしれないが、この日用意したプランについては大枠では問題がないように思う。昨季格上とされるチームを倒した試合は軒並みこの日のような我慢が続く展開をしのいでいた。まだ真っ向から組み合う力はないだろう。
ただ、この日は我慢を強いられた時間が長く、ボール保持で我慢の時間を減らすことができなかった。カメラのアングルの関係で出し手が悪いのか、受け手が悪いのかは何とも言えないが、ボール保持においてまだまだ改善は必要。何せ幸運も手伝った決定機を一発で仕留めてなおこれだけ苦しい展開を強いられたのだ。
確かにまだ我慢の時間帯は必要。ただ、そろそろこの我慢は減らすべきフェーズに入ってきたように思う。もっとクオリティにこだわるべき時期になってきたのではないだろうか。今季、アーセナルがワンランク上のチームを目指すなら「我慢ができなかった」という一言だけでこの試合を済ませてはいけない。
試合結果
2020.9.28
プレミアリーグ
第3節
リバプール 3-1 アーセナル
アンフィールド
【得点者】
LIV:28′ マネ, 34′ ロバートソン, 88′ ジョタ
ARS:25′ ラカゼット
主審:クレイグ・ポーソン