タフなアメリカが延長戦を制し、なでしこの五輪に幕を引く
試合はアメリカの保持からスタート。左SBのダンを上げてアンカーのアルバートをホランとラベルのIHがサポートする形であった。3-1-6をベースにファジーな立ち位置で2人のIHが動き回るというのがアメリカの基本設計だった。
日本はバックスにプレスをかけたいものの、アンカーのアルバートを前線と中盤で受け渡しながらプレスに出ていく形。長谷川、長野にとっては背後を不意に開けてしまうと、ラベルが受けるスペースを開けてしまうことになるので、非常にシビアな立ち回りが要求されることとなる。
基本的には日本は後ろに重たく布陣を敷く形。自陣まで運ばれた時は藤野と清家、田中といった前線の選手も降りてきてスペースを埋める。そのため、反撃態勢に出るときはかなり重心が後ろになってしまっている。その上、日本のスピードで出し抜きたいカウンターはプレスバックの早いアメリカにはあまりアドバンテージを生み出せない相性の悪さを感じるものだった。
その結果、日本のカウンターは時間を作りきれないままロストし、カウンターからアメリカの左サイドの進撃を喰らうこともしばしば。アタッキングサードに侵入後のアメリカの雑さにはやや助けられた感があった。
保持に回っても日本は苦戦が続く。4-4-2で構えるアメリカに対して、日本は3バックからサイドにボールをつけて前進を狙うが、早めのチェックでボールを止められてしまうと、そこからマイナスのパスに合わせるようにプレスの圧力を強めるアメリカに苦戦。敵陣に入ることもままならない状況でボールを失ってしまう。
それでも背後に人を揃える対応のおかげで日本のピンチは限定的なものに抑えられていた。その上、シャドーの清家のドリブルによる陣地回復や藤野のスイッチを起点とするプレスの連動など、少しずつ全体の重心を上げながら勝負を仕掛けることができるように。時間の経過とともに我慢をベースとした戦い方から攻め手の開拓に手が広がったところでハーフタイムを迎える。
ただ、開拓がうまく行った程度が池田監督が描いていた理想像から怪しいところ。おそらくであるが、出来が悪くなかった清家を早々で下げる判断をしたあたり、シャドーに託されたタスクはかなり過負荷だった感がある。そういった策を使うからには前半でリードが欲しかったのかな?と個人的には思ったりする。
後半の立ち上がりは前半と陸続きのように見えた。しかしながら、これを捻じ曲げようとしたのは日本。セットプレーからの工夫で風穴を開けると、少しずつペースを握っていく。前半と異なりサイド攻撃ではWBが大外に進出。深く抉るようなアクションが見られる。日本の攻め筋としては一撃で抜けきれない時は前の3枚は囮となりWBや長谷川がラインブレイクするのが主流なのだろう。
厚めの攻め筋を作る日本。だが、アメリカも60分が過ぎたところで少しずつボールを持つ時間を増やしていき、再び前半の再現となる状態を作り出していく。日本は藤野が後半は存在感を出せないこともあり、押し返すフェーズで再び手を焼くようになる。
さらにはアメリカは大外で高い位置をとっていたダンを自陣の低い位置に止めてサイドの封鎖に参加させる。これにより、日本の攻撃に厚みをもたらしていたWBを食い止める手立てを講じたこととなった。逆サイドではWGのロッドマンが自陣に戻って守備をすることをサボらないため、日本の得意なWB→WBの浮きが作れない状態となってしまった。
交代選手のフレッシュさを持ってしてもこの状況を打ち破れない日本。延長に入ってもアメリカに苦しめられることになる。そうした中でも日本のバックスの出来は秀逸。特に南の潰すアクションは試合を通して相当効いていた。後半に前がかりになった状態でカウンターを受けてもなんとかなっていたのは彼女と古賀の活躍が大きい。
だが、アメリカの120分組のタフさは想像を絶するものだった。サイド封鎖を続けるダンとフォックス、上下動を無限に行うロッドマン、スピード勝負をいつまでもやめないスミスあたりは特に頑丈。アメリカはメンバー固定気味でここまでの大会を戦ってきたと中継で言っていたけど、そりゃこれだけ使い減りしないのならば固定するだろうなと思った。
そして、そのロッドマンが右サイドで北川を翻弄し、延長前半ATに試合を動かす。大外からのラインブレイクと対面剥がし、そしてファインセーブで乗っている山下の届かないところへのシュートと全てを1人でやってのけた。
終盤は攻める時間を作ることもできた日本だが、アタッキングサードの攻略に余力を残すことができないままアメリカに跳ね返され続けることに。最後まで有効打を放てないまま試合は終了。なでしこの旅路はベスト8で止まることとなってしまった。
ひとこと
イングランド代表の勝ちパターンみたいだったアメリカ。やはりタフさとフィジカル優位の掛け合わせは強い。その上で微妙にバックスの枚数調整とかかけてくるのもニクい。日本にとっては相性面でかなりしんどさを感じたのと、明らかに本調子じゃなさそうな藤野や離脱してしまった清水の不在などを大きく感じる内容になってしまった。
試合結果
2024.8.3
パリオリンピック
Quarter-final
日本 0-1 アメリカ
パルク・デ・フランス
【得点者】
USA: ロッドマン
主審:テス・オロフソン