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「ハンドルは握れなくとも」~2020.10.14 J1 第22節 サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次


【前半】
『キャラ変』は維持できる?

 前回対戦から1か月。間がない割には広島は人選もスタイルも変わったというのはプレビューでも触れた通りである。特にWBより前のポジションはスタイルに合わせた序列の変化が顕著。攻守に駆け回る永井は新しいスタイルの象徴的な選手の1人。そんな彼はこの日負傷で不在である。

 代わってCFで入ったレアンドロ・ペレイラはちょうど前回の川崎戦以来のスタメン入り。ペレイラは川崎戦でもエリア内では怖さを見せていたのだけど、ハイプレスからのスピード勝負!というスタイルなら永井を優先して起用するのはわかる。1つ変わると簡単に序列も変わってしまう。

 というわけでペレイラと共にどこまでここ最近のスタイルを踏襲しますか?というのが広島の気になるポイントである。試合をみてみると、広島はプレスを頑張る選択をしたといえそうである。開く川崎の両CBをシャドーの浅野と森島が捕まえに行くハイプレスを序盤から披露した。

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 それに対する川崎のビルドアップがうまくいっていたか?は難しいところ。捕まって致死性のショートカウンターを食らって冷や汗!とかはないものの、いつもより早い縦へのテンポ、そして少ないタッチでのパスワークは若干広島のプレスによってリズムを合わせる羽目になった感が否めない。

 今季川崎がうまくいっている試合はもう少しテンポがゆっくりなことが多く、相手を引き寄せながら空いたところを使う!というのができていた。この試合ではダイレクトでつなぐことで中盤にミスが出ていたし、最終的には前に送ることが出来ても家長がタメなければ、味方が上がる時間は作れない状況だった。この日の家長からはペナ角付近からのクロスというシーズン序盤を思い出すプレーが多かった。長谷川、早く戻ってこないかな。

 川崎にミスが出るということはボールホルダー周辺に相手からの圧力がかかっていたことの裏返し。広島のプレスは永井抜きでも機能していたということである。川崎にボールを持たれてしまった後の広島は割り切って5-4-1のリトリート。ここのブロックも個人的に想定していたよりは川崎がうまく崩せなかった。齋藤が迎えた決定機は間をつないでオフザボールで崩した一例だけど、こういう場面が山のようにあったわけではない。プレビューではもう少し崩せる想定で話していたので、少しアテが外れた感覚である。

 逆にプレビューでの予想が当たっていたのは広島のロングカウンターの対応。特にレアンドロ・ダミアンのフィジカルには手を焼いていた。背負えるし、入れ替われるし、抜けられるしということで決定機も作られていた。そこから先のプレー選択にまごついてしまうところもあったが、ラインは押し下げられてしまうし、少ない手数で決定機まで行かれるのは広島にとって厄介だった。

 ダミアンはたまに降りてきてしまう時もあるのだが、そういう時は脇坂や守田や田中が高い位置のパス交換で時間を稼いでいて、ダミアンがエリアに入ってからクロスを上げるように工夫をしていた。この日は積年の課題であるダミアンをゴールに近い位置で効果的に使うことが出来るか?という点では筋がよかったと思う。

【前半】-(2)
川崎の守備の優先順位

 広島がキャラ変したのはボール保持においても同様である。守備だけでなく、攻撃も速さをもって。浅野や森島を軸としてボール奪取後はサイドの深い位置を狙う機会が多かった。上がることが多い川崎のSBの裏は経由点として使える!という算段はチームとしてあったよう。青山がカウンターでサイドに流れる場面もあったくらいだ。サイドの裏はぶち抜かれる!という前提をもって立ちはだかるジェジエウの頼もしさよ。

 広島は速い攻めから手早くフィニッシュへ。フィニッシュの局面ではペレイラの高さもアクセントになっていて、パワーとスピードで崩していくイメージである。

 一方で遅攻においては少し質が微妙だった広島。シャドーのキャラクターを考えても、もう少し動き回りながら崩せるほうがいいんだろうなと思いながら見ていた。迎え撃つ川崎のブロックはいつものように4-3-3と4-4-2のミックス。

 形がどうこうというよりはこの試合での川崎の守備の基準は人を見ていく要素が強め。相手のシャドー(森島、浅野)+CH(青山、川辺)の4枚を川崎のCH(脇坂、田中、守田)と齋藤の4枚で捕まえる意識が強かった。

 降りて受けることもある青山に対して脇坂がどう対応するかが肝。脇坂が青山についていけば、齋藤は絞って中盤の守備に加わる。逆に言えば齋藤が前にプレスに行けるのは降りて受ける青山を川崎のCHが放棄するときだけ。

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 齋藤は守備時に常に中を気にしていたことからも、おそらく優先度はこの中央でのパスワークを阻害することにあったと思う。齋藤には正直ここ数試合は攻撃時の物足りなさを感じる部分もあるのだが、この中盤の可変に柔軟に対応していく守備の役割は彼か旗手にしか無理だろう。ただ、中盤が枚数をそろえた時の齋藤の前へのプレスはタイミングが遅く、前に出ていっても簡単に抜けられるシーンも。このあたりは齋藤個人のタイミングが遅かったのか、プレスに行っていい時のルール設定が微妙だったかのどちらかだろう。というわけで突っ込みどころもある川崎のブロック守備であった。

  ただ、広島も狭いブロックやプレスを外してずらした分を効果的に使えているわけではなかったので、ゴールまではまだ距離があった。試合は0-0。スコアレスでハーフタイムを迎える。

【後半】
主導権は揺れに揺れて

 この試合の前半はどちらのチームが優勢だったか?と聞かれると悩む人が多いのではないだろうか。テンポとしては広島がやりたい速いペースに持ち込むことが出来てはいたと思うが、そこから刺さるほどクリティカルな攻撃に流れ着いたというわけではない。ただ、川崎も早い展開の中での素早いリリースが目立ち、単純なミスや受け手が受けることを想定できずにその次のアクションに時間がかかってしまったりなどでうまくいったとはいいがたい。

 後半の立ち上がりもその前半を引き継ぐように落ち着かなかった。ボールはピッチを往復し続けて、両チームとも主導権を手中にはなかなか収められなかった。

 少し天秤が動いたのは52分のことか。相手陣に押し込んだ広島がサイドでのトライアングルでのパス交換から突破。惜しくも合わなかったが、押し込んだ後のコンビネーションでの崩しに光が差すと、その後のハイプレスでも川崎のビルドアップのミスを誘うことに成功。少しリズムに乗れる数分間を作り出すことが出来た。

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 川崎もサイドの崩しに注力。家長の出張が増えた左サイドを軸に人数をかけて試みる。田中や守田など深い位置にいることが多いCHも大外に出ていくことがあったので、人数をかけて崩す方針だったのかもしれない。

 家長が逆サイドまで流れることをどこまで許容しているかはわからないのだが、幅を取ることもあきらめたくないのだろう。選手交代で脇坂に代えて旗手を投入。逆サイドの幅取担当を命じた感じである。

 そして左には三笘を投入し、密集の打開を狙う。効果はとても早く出た。三笘が2人、家長が1人広島の選手を引き付けたことで空いた大外のスペースを登里が活用。大外からクロスはピンポイントでエリアに待ち構えるダミアンの頭にぴったり。ここ一番で精度を見せつけた登里とこの日得点の予感を感じさせたダミアンのコンビで川崎が先手を取ることに成功する。 

 得点を境に試合は川崎ペースへ!といいたいところだが、そういうわけでもない。逆サイドに張った旗手も使いながら幅広く広島を追い立てていく!とかは結構ありそうなパターンなのだが、幅を取った旗手がなかなか有効打となるプレーを打つことが出来ない。 

 右サイドはプレスの息もイマイチ。61分には中央で田中が前に出た分、旗手はプレスを自重したが、後方の山根が押し上げて人を捕まえに出ていったため、後方が空いてしまいサイドから運ばれてしまったというシーンである。

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 この場面は視野が確保できている山根が旗手に合わせてほしかったと思ってしまう場面だが。この日の川崎のハイプレスはこんな感じで微妙に歯車がかみ合わないことが多かった。ブロック守備においても両チームとも徐々にボールホルダーにプレスがかからないようになり、試合はやや間延びした形に。終盤は互いに疲れを感じる展開になった。

 給水タイム後は再度プレスにトライした川崎だったが、逆に広島にボールをつなぐスペースを与えてしまう。引きこもってもロングカウンターという武器が川崎にはあるのだが、この日の三笘と旗手はボールタッチや判断に難があり、ボールを前方に運んだ陣地回復が出来ず。広島に波状攻撃を許してしまう。
 
 一方で広島も波状攻撃における準備が十分だったかは微妙なところ。4-4-2にシフトした!と城福さんは言っていたけども、ペレイラがサイドに流れる場面もあったし、打開役を期待されて投入されたであろう柏はサイドからの突破で魅せることはなかった。シャドーで前半から飛ばしていた浅野や森島は交代で下がってしまい、最後の局面での馬力やオフザボールの動きは落ち込んでしまった印象だった。
 
 この日はなかなか輝くのに苦しんだ川崎のアタッカー陣だが最後の最後で新人コンビが大仕事。旗手がニアでつぶれつつ、マイナス方向に出されたパスを三笘が仕留めて勝負あり。苦しいパフォーマンスになったルーキー2人が最後は結果を出すことに成功。試合は0-2で川崎の勝利で幕を閉じた。

あとがき

■展開は引き寄せられたけど

 どこまでが狙い通りだったかはわかりにくかった広島。アップテンポにしつつ、ペレイラの高さも生かせればいいところどり!という感じなんだろうが、さすがに永井がいなかった分はハイプレス成分が薄まった感はあった。ペレイラの高さは効いていたので永井不在でリソースが限られる中でどこに着地点を置くのかは難しいところである。

 どうなってこのスタイルにいきついたのかはイマイチ読みとれない(城福さんはインタビューであんまりやること変えていない!普段から目指していること!的なこと言っているけど)が、やりたいことを人やシステムを変えながら維持したり改善することが難しかったのかなと思う。終盤には望んでいる展開になっているようにも見えたが、そこで望む絵を描くには少しスタミナが足りなかったかもしれない。プレスの精度は悪くなさそうなので、森島と浅野が元気なうちに先手が取れていればこの試合でも違った展開が見込めたように思う。 

■個人とチームの懸念点

 中3日のリーグ戦を共にクリーンシートでの勝利で逃げ切るという形はもちろんいうことはない。一方で内容を見ると気になる部分もある。まずはWGのパフォーマンス。全くダメダメというわけではないのだが後半戦に入ったくらいから齋藤、旗手、三笘はだらっとコンディションが下がっているようにも見える。齋藤は守備での一定の貢献が見込めるし、三笘や旗手は結果を出したので杞憂だといいのだが。 そして、この試合で最も気になったのは自分たちの意思で時計を進めた時間帯が少なく感じた点である。今までの川崎はリードをする前か、した後のどちらかに主導権を握って支配する時間があった。仙台戦でいえば前半は豊富な攻め手から仙台の反撃を許さなかった。

 この広島戦ではハンドルを握って凄みがある時間帯を作ることが出来なかった部分が大きい。どちらかといえばテンポは広島が作り出したように見える。アクセルを踏んでいた彼らもその作り出したテンポを握れなかった感じはしたけども。
 
 こっちも結果は出ているので気にしすぎなのかもしれない。次節、同じく結果が出ている名古屋戦でのパフォーマンスで否が応でも見えてくるだろうけども。

試合結果
2020.10.14
明治安田生命 J1リーグ 第22節
サンフレッチェ広島 0-2 川崎フロンターレ
エディオンスタジアム広島
【得点】
川崎:56′ レアンドロ・ダミアン, 90+5′ 三笘薫
主審:佐藤隆治

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