MENU
カテゴリー

「待ち人は等々力に降り立つ」~2020.8.29 J1 第13節 川崎フロンターレ×清水エスパルス レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
制限されない選択肢

 シュート36本、枠内シュート24本。これだけの決定機が作ることができれば大量得点の結果も必然だろう。このスタッツに違わず、試合の展開も川崎のワンサイドゲーム。ほとんどの時間を川崎が支配する状態だった。

 というわけで試合の多くは川崎のボール保持の局面で進むことになる。清水のブロックは4-4-1-1。前線のプレス隊は2枚ということで、数を合わせて川崎のビルドアップ隊を捕まえてやろう!という気はなかったように思う。

 それ自体はもちろんアリなのだが、そういうチームは得てして何かしら目的を持っているもの。例えば、アンカーだけは常に受け渡しながら守るとか、ボールホルダーにプレスで相手のパスの方向を誘導して後方の守備のベクトルを定めるとか。

 しかしながら、清水のプレス隊からはそういった意思を読み取ることができなかった。したがって、川崎は自由にプレーを選択することができる。清水の守備が見た目の上では最終ラインからプレス隊まで距離感が短くコンパクトな陣形を敷けているにも関わらず、川崎がボール保持で苦しまなかったのは、ボールホルダーが数多くの選択肢を持てていたからである。

 この日のオフザボールで優れていたのは左サイド。とりわけ齋藤の優秀さは目立った。特によかったのはCB-SBの間に立ちながら裏に抜ける動き。大外に幅を取る登里がセットで出てくるのがポイントで、守備陣は間のスペースばかりをケアすることができなかった。齋藤は大外から斜めに走りこんでくる動きも含めて、最終ラインからボールを引き出す動きが豊富だった。

画像2

 齋藤以外の前線の選手もボールを受ける位置は整理されており、4バックの間に立つようにして、それぞれが間に裏にボールを引き出していた。川崎が持つ選択肢の豊富さが示されたのは5分のシーン。大外の齋藤、間の下田、裏を狙うダミアンの3つの選択肢を登里が持っている。結局ボールは間の下田を経由し、裏に流れるダミアンに出される。

画像3

 ダミアンはボールに絡まずにゴール前にいたほうが!みたいな意見もあるのはおいておいて、清水がこれだけ川崎の選択肢を制御していないという象徴的なシーンであった。ちなみにダミアンはポストがとても得意な選手というわけではないが、札幌戦の後半やこの日の清水のDF陣相手のアドバンテージがあれば、積極的にポストプレーは活用すべきだろう。

 もう1つ、川崎の攻撃を手助けしていたのはボールを取り上げた後の清水の振舞い。ボールを握りたいという根底の意識があるのだろう。簡単にクリアすることはなかった。その代わり、アバウトにピッチ中央にボールを送り込むシーンが目立つ。このとりあえずクリアせずに前にボールを送るという行為はだいぶ川崎を助けていたように思う。

 ボール保持には陣形を整える意味があるというのはこの日の清水を見ればよくわかる。陣形が整う前にボールを前に送ることで川崎にカットされる。そして、その川崎が攻め込んでくる時には迎え撃つ陣形が整っていないという悪循環だった。

 先制点のシーンは大久保の飛び出しでてんやわんやした状況をリカバリーした後のビルドアップミスから。確かにこのシーンでは川崎がプレッシャーをかけていたが、ヘナトの判断が決定的なミス。攻撃が終わってリカバリーする前に再び川崎に付け込まれてしまった。

【前半】-(2)
穴はあるのにつけない

 清水のボール保持の局面は少なかったものの、川崎陣内に攻め込んだときは一定の怖さを見せることはできてはいた。川崎の守備は4-3-3と4-4-2の混合。最近はインサイドハーフの脇坂がトップに上がる頻度が高く、4-4-2のような形になることが多い。

 4-4-2の陣形は4-3-3ベースからインサイドハーフ1枚が出ていくパターンと4-2-3-1のようなパターンで微妙に2列目の配置が異なる。問題となりやすいのは4-3-3からの変形。中盤の選手が前に出てくるときの穴がカバーできていない。

画像5

画像4

 この試合では基本配置が4-3-3。なおかつダミアンに加わって前にプレスに出ていく役割はインサイドハーフではなく、WGが担うことが多かった。したがってWG-SBの間、3センターの脇が空くことが多い。ここに降りていく西澤を捕まえることができない。西澤が降りていく動き+奥井がオーバーラップする動きがセットで行われることで、迷いが出るのはマテウスだ。

画像6

 クロスに対する人数はそろえることができていたので、サイドからクロスを上げることができれば清水は川崎を脅かすことができた。しかし、そのサイドにもっていくところまでに清水は苦労している。

 11分20秒付近のシーン、右サイドの大外でフリーになっている金井。ボールホルダーに十分時間はあったはずだが、立田と竹内がそちらに蹴ることができずにボールを下げてしまう。まだ、ピッチを広く使ってボールを動かすのに必要なスキルがまだ備わっていない段階なのかなと感じた。

画像7

 川崎の守備に穴はあったが、清水はそれを突くことができず。川崎の一方的な攻撃を受け続けることになった。

 試合は1-0。川崎のリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
スカッド拡大は可能か?

 たまに行われる川崎の後半からのハイプレス強化。最近で言えばC大阪戦とか。この日も試合を仕留めるために後半頭からのハイプレスを敢行する。陣形は4-3-3のまま、WGが強気でプレスをかけてくる。

 先述の通り、WG-SBの距離感が空いてしまうという問題は川崎のプレスにはあったものの、清水のバックスにはそこを突くスキルは現状備わっていない。この日の川崎のWGはやや外から囲むようにする動きは甘く、外側のコースをあけながらプレスを行う場面が多かったが、清水はサイドにボールをうまく逃がすことができず。足元の技術がどうしてもボトルネックになってしまっている清水だった。

 前半は何とか粘っていた清水だったが。51分に川崎に追加点。竹内が守田につかまったところからカウンターが発動。登里の持ち上がりから齋藤が裏をとる。シュートの跳ね返りを再度拾った登里がダミアンにラストパス。追加点を得る。

 2点差で厳しくなった清水。交代選手で巻き返しを図る。ドゥトラが裏をとった63分のシーンは、出し手と受け手の息があった場面であったが、こういった状況は非常に少なかった。むしろ、ダミアンの得点後に見られたようなビルドアップにおけるミスや、前半に述べた「とりあえず中央」のパスを川崎にカットされてピンチになる部分が続く。

 試合としては73分に決まった旗手の得点で決まってしまった感じ。というわけで、ここからは久しぶりの出場になった川崎の選手にスポットを当てた振り返りをしていきたい。プレビューでも気にしていましたし。

 まずは齋藤学。オフザボールの動きは特筆すべきものがあった。間でも裏でも斜めでのランでもボールを引き出す動きは秀逸。後方に気を遣える登里がいたこともあり、この日の左サイドは連携が好調だった。一方で受けた後のボールタッチとプレー選択の部分は引き続き課題になってくるだろう。いいパフォーマンスだったとは思うが、三笘や長谷川を押しのけてメンバー入りするほどのクオリティだったかといわれると微妙なところ。特にタッチ数が多い時のプレーのクオリティでは遅れをとっている。守備面でのアドバンテージがあれば変わってくるかもしれないが、現状ではそこも難しい。本人の次のチャンスでは数字で結果を出したいところだろう。

 山村和也はスピード面に不安はあるものの、PA内の守備やビルドアップなど攻守に安定したプレーぶりを見せていた。ただし、現状バックスに1つのポジションしかできない選手を置くことは鬼木監督はしない。山村自身は多くのポジションができる選手ではあるが、今季はCB以外のポジションでの出場はない。DFラインに負傷者が出ればもちろん頼りになる存在ではあるが、今後の定期的なメンバー入りには中盤としての適応力が問われることになるのではないだろうか。

 ジオゴ・マテウスもクロスの精度の高さやプレースキッカーとしての存在価値は非常に高い。この試合で指摘した守備面での課題は山根が出場しているときでも据え置きのもの。マテウス個人の問題ではない。しかし、メンバー入りに向けた課題は山村と同じ。RSB専任なので現状では山根とレギュラーSBの座を争うしかないだろう。

 そして、なんといってもこの試合は中村憲剛。まずは彼がこの日にピッチに立ったということが非常に大事なこと。4-3-3のインサイドハーフの一角としてプレーした中村は試合後の「ゴールは狙っていなかった」という発言とは裏腹に積極的にシュートを試みるシーンが目立つ。そして岡崎のパスミスをかっさらった4得点目は彼の復帰を祝うものとしてはこの上ない。中断明け後に最もスタンドが一つになった場面といっても差し支えないだろう。

 上下動が多いトップ下兼インサイドハーフとしての役割の場合、強度の高い試合においては運動量には不安がある。ましてや長期離脱明け。年齢に加えて試合勘の不安もあり、まずはベンチ入りの座を争うことになるだろう。インサイドハーフとしての一角を狙い、定期的に出場機会を得ている下田との競争になりそうだ。

 試合は、最後に三笘が仕上げの5得点目をあげて終了。川崎が今季2回目の5得点目で清水を下した。

あとがき

■怖さをなくしたい

 清水は苦しかった。おそらく下地を整える段階のシーズンという位置づけなのだろう。ボールを持ち、相手を動かしながらのサッカーを志向していきたいのだろうが、この試合ではそれは実現しなかった。

 立田が試合後に話していた通り、ボールを動かす際の出し手と受け手のクオリティには両チームの差を感じた。



【清水】大敗に立田悠悟が考える川崎Fとの差「フリーの概念が違う」 – サッカーマガジンWEB


8月29日に等々力陸上競技場で行なわれたJ1リーグ第13節で、清水エスパルスは川崎フロンターレに0-5と完敗。試合途中から


soccermagazine.jp

 『フリーの概念』というと風間さんっぽい香りが漂ってくる。川崎も今季新しいやり方を行っているが、新しいことをやる上でボールを持つことを怖がらないメンタリティを持っていることで助かっているなと感じる。スキルもそうだけど、この距離なら大丈夫とか、これなら受けられるという判断がだいぶミリミリのところでやっていたことは、ボール保持において新しい取り組みをやるタイミングで役に立っている部分も大きいのではないか。

 清水はまずその壁に直面していると思う。この試合ではボールを奪った後、低い位置のビルドアップにおいてとにかくボールを離したい。でもクリアはしたくないというジレンマがミスを呼んでいたように見えた。バックスになんでも止めてやるほどの強度がない以上、この路線をやるならボール保持の意識を変えないと難しいのかなと思う。

 クラモフスキーにどこまで時間が与えられているかはわからないが、どこから手を付けて改善していくのかが気になるところである。

■『18人』の壁は崩せるか

 連勝が止まった名古屋戦や、攻守にプレスに苦しんだ神戸戦と比べてこの日の川崎が目覚ましい改善が見られたか?というと判断はしかねる。というよりは、課題は据え置きだったもののこの日は通用する相手だったととらえるほうが妥当な気がする。

 とはいえ、中村憲剛の復活はチームの原動力になるはず。戦力として組み込む難しさはあるが、見ている方も実際にプレーする選手たちもおそらく楽しみなのではないだろうか。多くの人が待ち望んでいた復活を最高の形で等々力で迎えられたことで、チームとしての雰囲気がさらに良くなるだろう。

 今季感心するのは試合終盤の大量得点である。鬼木監督はリードした試合の終盤にも試合の意味を持たせるのが上手い。この日は中村憲剛の投入で最後まで攻め手を緩めることはなかったし。今季、複数点リードで試合を殺すような場面はあまり見ない。むしろ最後まで攻め立てる。交代選手も出番があると信じて準備できている証拠だと思うし、この試合では普段ベンチ外の選手も高パフォーマンスを披露した。多くの選手が試合に向けていい準備ができているのは間違いなさそうだ。続く連戦に向けて、固定された『18人』の序列の逆転を狙っていきたいところだろう。

今週のおすすめ

 中村憲剛のファーストシュート。味方にぶち当てた中村も、ぶち当てられた小林もらしかったから。

試合結果
2020.8.29
明治安田生命 J1リーグ 第13節
川崎フロンターレ 5-0 清水エスパルス
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:21′ 74′ 旗手怜央, 51′ レアンドロ・ダミアン, 85′ 中村憲剛, 87′ 三笘薫
主審:清水勇人

 

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次