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「もう嫌だけど、またやりたい」~2020.9.9 J1 第15節 川崎フロンターレ×ヴィッセル神戸 レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
プレス空転+ショートカウンター外しが最優先

 展開を握る選手としてプレビューにあげたドウグラスは不在。イニエスタ、ヴェルマーレンを含めて戦術を司ることができる選手を複数欠いた状態の神戸のスカッドであった。

 第2ラウンド、ルヴァンカップの準々決勝は神戸がボール保持でプレスに屈してなし崩し的に失点を重ねていった。というわけで第一段階としてはビルドアップの序盤で詰まって川崎にショートカウンターを食らわないこと。3CBでビルドアップ隊を先週から1人増やしたことも、危なくなったら確実性が低くとも藤本や古橋に向けて長いボールを流して回避する。

 逆に1戦目を受けて入った結果、失点を重ねた川崎が2戦目も同じく前からの守備を重視してくるのは神戸も想像がつくはず。フォーメーションもボールの動かし方から見ても、神戸の狙いはまずは川崎のショートカウンターの回避。本当は1つずつつないで前進したいところだが、プレスに詰まった先週の対戦を受けて折り合いをつけたのだろう。

 高い位置から追うときは下図のようにハメてハイプレス。引くときはゾーンを埋めるように5-3-2で受ける。

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 川崎が縦に速い攻撃を仕掛けるときの運び役はWG。彼らが高い位置を取る神戸のWBの裏で受けて攻撃を加速させる。菊池とダンクレーは被カウンター時にワイドまで出ていって彼らを止める役割。かなり高い位置まで出ていくことを許容されていた。序盤で起点になったのは齋藤学。対面のダンクレーを外しつつPAにラストパスとなるクロスを送り込む。

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 先取点を得たPKの場面も齋藤がダンクレーを制した流れから。全体が押し下げられた中で神戸のバイタルまで進出した守田のミドルで渡部のハンドを誘発。小林が得たPKを沈めて先制する。

【前半】-(2)
支配するも制限がある神戸

 後方の同数を受け入れたところから痛手を食らった神戸だが、試合の流れを先制点以降うまく手中に収めていった印象だった。

   ただし、神戸は押し込むだけでいいわけではない。この日の神戸の前線は藤本と古橋。駆け引きとスピードで勝負したい選手たち。押し込んでもPAに単にクロスを上げるだけでは川崎に跳ね返される。サイドに1on1で無双できる選手もいない。

 なのでなるべく相手陣に入ってからのスピードを上げて一気に仕留めたい。FW陣のスピードはなるべく活かしたいところ。例えば6分手前のシーン。列を超える菊池の縦パスを受けた山口。理想のプレーはそのまま裏に抜ける古橋や藤本に出すことだろう。この場面ではサイドの酒井に流したがこれは次善の策。もちろん悪くはないが、酒井に出すならば彼のマッチアップに出てきた山根の裏は狙いたいところである。ふわりとしたクロスをあげるのではどうしても跳ね返されてしまう。

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 直接CBを出し抜くのが難しいのならば、次の狙いは川崎のSBを引き出すこと。神戸のビルドアップは人が余るのを利用して、後方でじっくりボールを回しつつ、長いボールで一気に加速を狙う。神戸のWBは高い位置を取り、川崎のSBを引き出せればその裏に、引き出せなければそのまま蹴ればいい。そのようにして神戸は長いボールを使うことで川崎のプレスをいなす。

    40分のシーンに代表されるようにスイッチを入れられる飯倉は非常に慎重に長いボールを出すタイミングを見計らっていた。なるべく大きいダメージを与えられるコースが空くのを粘り強く待っていたのだろう。

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 川崎としてもサンペールがいる分、後方を無視してむやみに飛び込むことはできない。川崎は人数が足りない分、プレスを受け渡しながらどのように長いボールを蹴られないようにするかの駆け引きに挑まされていた。出ていくか、ステイするかは難しい選択だったと思うが、川崎のプレス隊も駆け引きに応じてダメージをなるべく少なくしようとしていた印象だ。

 それが実ったのが同点ゴールのシーン。長いボールを受けた西が登里を引き出すと、西からパスを受けた藤本が谷口と入れ替わり反転。谷口の裏に斜めに抜けるように流れた古橋がこれを仕留めて追いつく。まずはSBを乱し、広い範囲をカバーするCBのところでデュエルを制し、致命傷を与える。神戸の狙い通りの流れで追いつくことができた。

 基本的には上で説明した神戸のボール保持が多くの時間を占めながら試合が進んでいく。速く仕留めたいのならば当然ショートカウンターも狙いたい神戸。山口や安井は高い位置まで出ていくことが多かった。

   ただし、その分サンペールの周辺は空く。大島や家長がこの空いたスペースを使うことで川崎は前進。限られた機会ではあるが、中盤のスキルで相手を上回り、神戸を相手陣に押し込む場面もあった。右の旗手は個人で対面を剥がしたり、引き付けて裏に出すプレーも披露。後半に負傷交代になってしまったが、存在感を示した。

 先制点の場面では神戸の負ったリスクを活かした川崎だったが、プレスを空転させた神戸の前に徐々に沈黙。狙い通り崩されてしまい、その後は神戸の方が多くボールを握り、攻撃機会自体を減らされてしまった川崎であった。

 試合は1-1。ハーフタイムを迎える。

【後半】
昨年も苦しんだパターン再び

   苦しい前半を過ごした川崎だったが、攻め込まれて陥落寸前というわけではなかった前半。3トップのメンバーはおそらく守備に置いてはチームの中でもトップクラスの組み合わせ。三笘やダミアンの投入でやり方をガラッと変えてボールが行きかう展開に備えることもできたが、ボール保持で試合を落ち着かせつつある神戸を前に敵のボール保持の局面でのつばぜり合いが続くと踏んだのだろう。

 今の川崎にとってはハーフタイムに選手を代えないことも一つの方針を示すことである。何もしなかったのではなく、鬼木監督は殴り合いの展開に持ち込むことを先送りにする決断をしたとみるべきだろう。

 神戸の変化といえば山口がサイドに出ていく機会が増えてきたこと。フィンク監督はインタビューで試合の中で3-5-2から3-4-3に変えたという旨を述べている。山口も安井も行動範囲が広く、サンペールは変更後も低い位置にいることが多いため明確にここで変わった!というのはよくわからなかったけど、ひとまず後半に山口のサイドでの仕事が増えたのは確かである。

 例えば登里の監視役。差し合いの場面では前半はWBの西が出ていく機会が多かったが、後半頭からは割と高い位置から山口が追っていく場面が増えていく。おそらく、後方の齋藤とダンクレーのマッチアップを避けるため。齋藤と西+後方のダンクレーの二段構えならば川崎のサイドアタックにも対応できると踏んだのだろう。

 攻撃面ではSBの裏を取る役割も山口は任されている。前半の神戸はWBで川崎のSBを引き寄せてからのもう一手先の創出に苦しんでいた。引き出したスペースにシンプルに山口に走ってもらうことでSBの裏の有効活用にトライ。効果が出たのは59分。登里が空けたスペースに走りこむ山口に西が出したスルーパスが起点。まさにこの形から藤本の逆転ゴールが生まれる。

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 川崎としては去年も5-3-2からのWB+山口のハーフスペース抜けという合わせ技に苦しんでおり、同じ課題から失点を喫してしまっている。記憶力が悪いのに覚えているのだから、それほど悔しかったんだろうな自分。

 時間は前後するが、後半10分ほどで川崎は旗手の負傷交代で三笘を投入。チームで最も速い展開で輝く三笘の投入のタイミングは鬼木監督の決断というよりは半ば強制発動という形だった。

 しかし、三笘が投入されても神戸のボール保持における握力は変わらない。先ほどのWBを起点としたSBの裏を使うパターンから谷口やジェジエウがサイドに引っ張り出される場面が増えていく。むしろ決定機を増やしていたのは神戸の方だ。川崎も単純なミスから神戸に簡単にボールを渡すシーンが見られるようになる。

 神戸にとって惜しむらくはこの時間帯に追加点が取れなかったことだろう。プレスの強度がとても高いわけではなく、ショートカウンターからいい形を多く作れなかったのがまずは1つ。加えて小川や小田など代わったストライカーがインパクトを残せなかったのも大きい。ひいてうける選択肢がないチームだけに、とどめはどうしても欲しかったはずだ。

    選手交代と時間経過によって徐々に握力が弱まっていく神戸。後方の同数受け入れがここから効いてくることになる。三笘、ダミアン、宮代というフレッシュな3トップが徐々に押し込む場面を作るように。すると、ダミアンにアフター気味でタックルに行った菊池がPKを献上。ここまで守備ではアグレッシブさを、ビルドアップでは左足が不得手ながらも縦に運んでゲームを作る意識を見せていた菊池だけに悔しいだろう。

   さらに川崎は得点を重ねる。脇坂と宮代のコンビネーションで神戸のバックラインを破壊。脇坂のタメを作っての宮代へのラストパスと豪快なフィニッシュ。貴重な決勝弾にリーグ初ゴールというシチュエーションも相まって川崎ファンとしては非常に美しいシーンで合った。

   菊池はこの場面でも宮代に交わされてしまう。群を抜いた積極性と成長速度は非常に魅力。ここからの成長がとても楽しみな選手。個人的には好きなので応援したいところである。

   最後はパワープレーで川崎を押し込む神戸。菊池がPAに上がったり、ダンクレーがサイドから2,3人交わしたりなどでゴールに迫る場面もあったが、結局届かず。

    試合は3-2。ホームの川崎が逆転勝利を収めて第3ラウンドを制した。

あとがき

■せめてもう1人・・・・

 第3ラウンドらしい好ゲームだったと思う。川崎は「前から行かないとだめ」で、神戸は「つなぎたいけどひっかけてしまっては元も子もない」とそれぞれこれまで2戦の反省を生かしたゲームプランだった。この試合で主導権を握る時間は神戸の方が多かった。少数のスカッドと多くの怪我人を抱えながらもここまで計画を練ったのはさすがの一言。

 フィンクが言うように「もう1枚ストライカーがいたら」結果が逆になっていても不思議ではない。ただ、負傷者はともかく、薄いスカッドの改善の見込みがあるかわからないのは辛いところ。このスカッドでは90分試合を支配し続けるのはハードだ。時折海外の大物の噂はあるものの、ACLを第1目標にするならば日本人選手の補強はもう少し欲しいところな気がするが。

    ただし、所属している選手たち(特にCHより後ろ)は向上が見られるので、進んでいる方向としては個人的には好感が持てる。主力の年齢層が高いので、世代交代までにチームとしてのスケールアップが見られるかのスピード感は短期的に注目点になるだろう。

■突き付けられた課題、そして期待

 劇的な逆転勝利を大物ルーキーの初ゴールで飾る。2年前もそうだったが、等々力での神戸戦の勝利はスリリングなシーソーゲームの末に手にしてばかりな気がする。チームとしてはよくくらいついて結果を出した。

 3戦を通してチームとしての弱点は見えてきた。例えばセットした時のDF。特に斜め方向のパスや裏抜けを駆使しながら、こちらが焦れて飛びつく瞬間を狙う神戸のようなチームと戦うとその弱みは浮き彫りになる。ボール運びでももう少し後方から持ち上がってほしい部分はこの試合でも見られた。結果として得たのは勝利でも、課題は持ち越しという表現が妥当だろう。

 2戦目は大勝したが、神戸は非常にめんどくさい相手であることはよくわかった。ただ、川崎も昨年に比べれば戦い方の幅も広がってきてはいるし、その質も徐々に上がっては来ている。そして何より鬼木監督が戦い方を使い分ける能力が高い。

    苦手分野を浮き彫りにしてくる神戸との対戦はいつだって面倒でやりたくはないが、今の川崎はこの日突き付けられた課題に対して1年後にどういう成果を突き返してくるかが興味深くもある。嫌な相手だが、来年の神戸戦が今から楽しみ。そんな不思議な感情に包まれた3連戦だった。

今日のおすすめ

   29:40。ソンリョンの速いフィード。だからうまくなってるっていってるじゃん!GKにどこまでリスクをかけてビルドアップをやってもらうかは難しいところだけど、できることを少しずつ広げていけるソンリョンは好感が持てる。中澤とかもそうだけど、ベテランがこの年で新しいことにトライして実を結んでいるのすごく好き。

試合結果
2020.9.9
明治安田生命 J1リーグ 第15節
川崎フロンターレ 3-2 ヴィッセル神戸
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:8′ (PK) 小林悠, 83’(PK) レアンドロ・ダミアン, 85′ 宮代大聖
神戸:23′ 古橋享梧, 59′ 藤本憲明
主審:木村博之

 

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