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「両立する話」~2024.10.27 プレミアリーグ 第9節 アーセナル×リバプール レビュー

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レビュー

機会の差で優位に立つアーセナル

 サカとティンバーがメンバーに復帰し、それなりに競争力のあるスタメンを組むことが出来たアーセナル。対するリバプールもロバートソン、ディアス、ジョーンズをスターターに組み込み、ツィミカス、ガクポ、ショボスライをベンチ待機にした。

 序盤はそれぞれが普段着の状態で相手のビルドアップに立ち向かったといえるだろう。ノースロンドンダービーのように戦力が大幅にショートしている時のアーセナルはプレッシングにはいかずに控えることも多いのだが、前からのプレッシングをある程度まとまった時間行うことができたということはアルテタはスターターにそれなりの手ごたえを感じていたのだろう。

 アーセナルのプレスはCBに激しくプレスをかけつつ蹴らせる形。特に対角パスを蹴ることが出来るファン・ダイクに対しては、右足側からプレスに行くことで苦しい形で蹴らせることを意識していた。

 リバプールからすればサラーがいる右と対面がトーマスの左はどちらもボールを預けて仕掛けてもらいたいセクション。だが、アーセナルのリバプールは山なりのボールを蹴らされていたため、トーマスとティンバーはそれぞれディアスとサラーにボールが入る前に体を寄せてアプローチすることで攻撃の機会を防いでいた。中央のヌニェスに対しては1人がチャレンジし、1人がカバーするという分業制であった。

 一方、リバプールのプレスはより構える形。ボールをむやみに捕まえに行くのではなく、1人がチェイスしたところにスイッチを入れることで勝負を仕掛けていく。ヌニェスとジョーンズの2人は中盤のケアをベースに時折前に出て行くアクションを見せる。

 となると、アーセナルのCBはリバプールのCBよりも自由にボールを持つことが出来た。自由を許されたホワイトからアーセナルは先制ゴールをゲット。右サイドから抜けるサカがロバートソンを駆け引きで完全に上回り、ケレハーとの1on1を制して早々に試合を動かす。まずはという感じだったお互いのWGとSBのマッチアップから先にアーセナルが結果を出す。

 サカとロバートソンの純粋なマッチアップの優劣も重要だろうが、アーセナルとリバプールの前半のWG活用の最も大きな違いはWGが受ける前のアプローチだろう。相手に収めることを許したリバプールに対して、アーセナルはリバプールのDF相手のパスのレシーバーが受ける前に寄せたことによって、ボールを収めて正対する機会を取り上げに行った。

 サカ、マルティネッリに比べてディアス、サラーにはそもそもアーセナルのDFと対峙する場面が訪れなかった。同じ回数、同じ体勢で仕掛ければサカがロバートソンに完勝したように、ディアスがトーマス相手に優位を取り巻く現象が起きていたかもしれない。

 逆にだからこそアーセナルは高い位置からの阻害で敵陣からプレスをきっちりとやったのだろう。蹴らせても滞空時間があれば、リバプールのWGを受ける前に潰すという形も描きやすくなる。

 リバプールは前進に苦戦。後方にはつなぐ余裕はなさそうだし、前線は長いボールを収めるのに苦労している。それでも乗っているチームは違う。ディアスがなんとかボールをキープして奪ったCKからリバプールは同点。ディアスのニアフリックを中央でダイクが押し込み、見事デザインされたセットプレーを完結させた。

トロサールの暗躍でWG突破の下準備が整う

 リバプールの同点弾以降はペースを握ったのはアーセナル。特に保持からリバプールのプレスをいなすことが出来たのが大きかった。サカへのロングボールだけでなく、この日はショートパスからの前進も機能していた。

 まずはリバプールのプレスに対してもう少し。4-4-2ベースだが、2トップは無理にプレスにはいかずに中盤に構える形。行けると思ったら2トップに加えて、WGが連動して奪いに行く。要は4-2-4の形になることが多い。

 で、こういうプレスを仕掛けてくるチームに対して今季のアーセナルには十分な攻略法がある。IHとSBで相手のWGを挟み打ちする形である。WGの後ろと前に選手を置くことで、相手のマークを混乱させる。特に左サイドはこうした動きが多い。

 ポイントはマルティネッリが相手のSBをピン留めしていること。通常、WGが背中を取られた場合、もっとも一般的なスライドはSBが縦に進むことだが、マルティネッリを捨ててという重みが乗っかればその選択をするのは難しくなる。

 というわけで、スライドをするのはCH(グラフェンベルフ)になる。アーセナルはこの日は横に広がるCB(ガブリエウ)で相手のWG(サラー)のプレスを引き付けることもしばしば。

 そうなると、WGの背後を取る役はティンバーになる。ティンバーが外に立ち、メリーノは高い位置に向かって走り出す。そうなると、完全にリバプールの守備のチェーンは切れてしまい中盤のスペースが空くことになる。ラヤは両SBに山なりのフィードを供給し、CHのチェーンを切りに行っていた。

 リバプールのCHのチェーン切断の恩恵を受けていたのがアーセナルの前線の選手。特にトロサールである。グラフェンベルフが外に出て行ったスペースに登場(逆サイドではハヴァーツも同じことをしている)し、反転から自在にサイドチェンジ。ワンテンポ遅れて捕まえに来るリバプールの守備陣をいなすようにタクトを振るっていた。シャフタール戦、ボーンマス戦と苦戦が続いていたトロサールだったが、この日は相手の間合いを完全に見切りつつ、守備で奔走しまくるという理想的な立ち回りを見せた。

 トロサールが浮くと、アーセナルはサイドに安定してボールを供給できる。こうなるとWGからの仕掛けの段取りが完全に整うことに。サカとロバートソンのマッチアップを活かした攻撃の下ごしらえである。

 欲を言えば左サイドからの強襲も完成させたかったアーセナル。だが、こちらのサイドはマルティネッリに対して今季守備面での向上が著しいアレクサンダー=アーノルドが粘り強くついていっており、なかなか簡単にはがすことはできなかった。アーセナル側からすれば「ミスマッチを使う」くらいのイメージだったのかもしれないが、雑に預けておけばOKというほどこちらのサイドの攻略は簡単ではなかった。

 前半のキーポイントは完全にWGにボールを預けるルートの構築ができるかどうかだった。左サイドを壊し切れなかった部分を考慮しても、その点ではアーセナルが優位。ロングボールとショートパスの両面で結果を出して、苦し紛れのリバプールに差をつけていた。前半終了間際にはセットプレーからメリーノが移籍後初得点を決めて、優勢をスコアに反映することを忘れないこの日のアーセナルであった。

攻め筋が仇となる

 後半も高い位置に出て行くアーセナル。前半と変わらぬ戦いぶりで攻勢に出る。特に素晴らしかったのは右サイドのトーマス。ボールを奪った直後のダイレクトプレーでチャンスを作るなど、プレーの精度と判断の両面でとても冴えていた。

 風向きが変わったのはガブリエウの負傷だろう。多少陣形が崩れてもなんとかすることが出来るCBを欠くことはアーセナルにとっては非常に大きなダメージであることは言うまでもない。

 さらには同じ時間帯にリバプールは対角フィードとジョーンズの中盤でのドリブルからディアスとサラーに対して、きっちり対面の相手と正対する機会を作ることに成功している。先に述べた通り、アーセナルはリバプールのアタッカーと正対デュエルをして優位に立ったのではなく、デュエルが発生すること自体を避けて優位に立ってきた。

 よって、両サイドに正対して配球できる場面が増えたということはアーセナルが優位に立つ前提が崩れた状況となる。さらには何かがあった時にカバーすることができるガブリエウが不在となれば、両チームの前半のパワーバランスとは全く異なる後半になること請け合いである。

 アーセナルは迷いなく後退を選択。自陣に重くポジションを取り、SHも自陣に深く守備をする。マルティネッリはやや苦しいコンディションになりつつあったが、守備ができるアタッカーというのはこの試合においては重要。時にはサラーのマークを引き取るなど、その献身性を存分に発揮した。リバプールが単調なクロスやミドルに終始したこともあり、アーセナルがブロック守備を組めばそこまで展開は揺るがない感もあった。

 攻撃においては右サイドにボールを集めつつ、斜めのパスでポストプレーを入れて中盤を解放。逆サイドのマルティネッリまでボールを運び敵陣に迫るきっかけを作る。後方支援役に回ったルイス=スケリーも保持においては十分。左サイドのアイソレーションのエスコートを行い、引き続き左サイドの攻撃を担保する。

 誤算だったのはオープンな状況を作ることで逆にリバプールにチャンスを与えてしまったこと。同点ゴールはまさにアーセナルが攻め気を見せたところをひっくり返したところから。ルイス=スケリーの背後を取ったヌニェスとサラーでアーセナルの左サイドの守備を破壊に成功。アーセナルはキヴィオルが簡単に入れ替わられてしまったのが誤算。ホワイトにとってはミスを祈ることが先に立ってしまうくらいどうしようもなかった。

 アーセナルは終盤までゴールを目指して戦うが、この日3回目の勝ち越しゴールは生まれず。ツィミカス、ショボスライ、ガクポの登場で中盤でのデュエルとサイド攻撃の両面を強化したリバプールも3点目を奪うことができないままタイムアップ。試合はドローのまま幕を閉じることとなった。

あとがき

 このメンバーでよくやったし、これ以上はやりようがなかったとは思う。特に保持面ではリバプールの守備ブロックを今季彼らが戦ったどのチームよりも丁寧に実践したことは誇りに思っていい。アーセナルは今季唯一リバプールに対しての複数得点を達成したチームだ。

 それと同時に昨年と同じく序盤戦で本来の守備力を出せないまま失点を重ねての勝ち点を落とす試合を繰り返していることは素直に残念。難しいやりくりなのは間違いないが、DFラインに欠場者がたくさん出た試合の勝ち点が倍になるわけではない。コンペティションは故障者を考慮してくれない。

 よくやっている。だけども、昨年と同じ数字に終始している。この2つの感想は個人的には両立するものなのかなと思う。

試合結果

2024.10.27
プレミアリーグ 第9節
アーセナル 2-2 リバプール
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:9‘ サカ, 43‘ メリーノ
LIV:18’ ファン・ダイク, 81‘ サラー
主審:アンソニー・テイラー

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