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「今は我慢できる」~2024.10.5 プレミアリーグ 第7節 アーセナル×サウサンプトン レビュー

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レビュー

外で作った深さを還元する

 ノース・ロンドン・ダービーから始まった激闘の1ヵ月も残すは1試合。ここまで公式戦無敗で駆け抜けているアーセナルのホームに乗り込むのは、ここまでリーグ戦で勝利を挙げることが出来ていないサウサンプトンである。

 試合の流れはすぐに決まった感があった。ボールを持つのはホームのアーセナル。LSBのカラフィオーリがインサイドに絞るアクションを見せることで3-2-5に変形するスタートとなった。

 サウサンプトンはミドルブロックの4-4-2とローブロックの5-4-1を行き来していた感があったが、徐々に5-4-1に収束。アーセナルにボールを持たれることを許容する形となっていった。

 序盤に目立ったのはサカだろう。まずは彼に預けて突破できるかどうかの味見というのはここ数試合のアーセナルのお決まりのパターン。この日のアーセナルは左サイドにスターリングを先発起用しており、未知数の要素が普段より多め。そういう中で右サイドがいつも通りやれるかどうかは非常に重要なファクターではあった。

 サカはやはり1on1であれば別格。対面のウォーカー=ピータースに対して縦横に揺さぶりながら勝負を仕掛けることができていた。だが、先に述べた通りサウサンプトンは徐々に撤退してサイドの守備に枚数をかける方向性にシフトチェンジした感があり、サカは徐々に1人ではなく2人からタイトなマークに遭うようになる。

 右のSBはトーマス、そしてウーデゴールがいないという状況は連携での打開が必要な状況ではなかなか難しいところがあったのは確かだろう。それでもアーセナルは徐々に状況に対応した感がある。右のサカに預けるところを使いながら中央に顔を出す中盤のフォローを受けて、ハーフスペースをハヴァーツが受ける流れというのが完成する。

 リバプールの試合だと、インサイドにパスをつけることをフリにしながら外を打開するというパスの回し方をしていたのだけども、同じボールを大事にするチームでもアーセナルの方向性は真逆。大外に預けて深さを取ることをフリとして中央のスペースを享受。イメージとしてはサカにボールを預けることにより、上の図のジョルジーニョがボールを受けるスペースを創出しているという感覚である。

 ジョルジーニョがボールを受けると右サイドの裏を狙うのはハヴァーツ。こうして、この日もこの日なりに右サイドの連携は成り立った感がある。ジョルジーニョのパスの起点やトーマスのミドルのシュートスペースの創出など、サカはこの日攻撃を仕掛けるためのスペースメイクに徹してチャンスを作り出していた。

 少し気になるのはジェズスだろうか。サイドに流れながらWGに絡む動きは彼の得意分野。序盤は少しそのアクションも見えたが、徐々に頻度は低下。存在感がなくなってしまった。

 本人としてはゴールが欲しいのかもしれないが、彼はゴールが多少目減りしても充分に貢献ができる選手。あせらずにきっちりとサイドに顔を出すことをやってほしいところ。ボックス内にハヴァーツがいるなら、トロサールのようにサイドに流れても顔を出せた時のプレーはそこまで悪くないと思うので、まずは頻度を上げていくところからだろう。

押し込んでのトライを継続できる前半

 右サイド以外のアーセナルの狙い目は逆サイド。こちらはスターリングにとっとと預けるのではなく、左サイドの切れ目を使いながらボールを動かしていくイメージだ。

 使うプレーはここ数試合ではおなじみの形。カラフィオーリとIH役のライスでシャドーの狙いを絞らせない守備を強いることである。ガブリエウのキャリー等でシャドーを手前に引き付けつつ、その背後を内と外の両面で狙う形が非常に効果的。

 おそらく、こちらのサイドは高い位置でWGにボールをいい状況で渡すことが先決。マルティネッリにしてもスターリングにしてもこちらは低い位置が土台を作る。そういう意味ではWGに引っ張り上げてもらう感のある右サイドとは少し攻撃のロジックが異なっている感はあった。途中から入ったメリーノも左の大外に流れるアクションを見せていただけに、もしかするとこの動きはある程度普遍的な狙い目として組み込まれている可能性がある。

 右サイドからのサカの押し上げ、左サイドからの低い位置の前進のポイント作成、これにセットプレーと高い位置からのプレッシングがアーセナルの武器。オープンでもセットプレーでもチャンスを作りながらサウサンプトンを追い詰めていく前半だった。

 サウサンプトンは前進するメカニズムを作り出すのに苦労した感がある。基本的なチームの方針としてはショートパスでCHに前を向かせるという形を作り出したいのだが、アーセナルのハイプレスを前にするとやはりボール奪取でしっぺ返しを食らう危険性があるということだろう。いつもよりも長いレンジでのパスを使いながら現実的な解決策を探しに行く。

 狙いとなったのはスターリングの背後。スペースに向かって走りこむ菅原にベドナレクがフィードを飛ばす。カラフィオーリの素早い対応で潰すことに成功したが、瞬間的にはカラフィオーリはディブリングと菅原の2枚に対応しなければいけない状況となる。立ち上がりのこのプレーは普段と違う形を少し入れ込もうというサウサンプトン側の意思なのだろう。

 右サイドのハーフスペースでDF-MF間に浮くアリボへの縦パスである。左のCBのベドナレクからの斜めのパスがアリボに入ればアーセナルはいったんハイプレスの退却を余儀なくされる。

 菅原にしてもアリボにしても右サイドに長いレンジのパスを入れる意義は、サウサンプトンの勝負手であるディブリングにボールを渡すことが出来るというところにもある。ただし、フリーランする菅原に関しては試行回数が少なかったし、アリボも対面のガブリエウが目を離してくれないとボールを収めることはできない。

 基本的にはサウサンプトンがボールを収めてアーセナルを出し抜くことは稀。全体の陣形が下がって受ける時間が長く、瞬間的なギャップを単発で狙うことに終始していた感がある前半だった。

悪癖を逆転の足掛かりに

 試合を早く動かしたいアーセナルは後半立ち上がりも速いテンポで仕掛けていく。前半と少し景色が違ったのはサウサンプトン側の対応だろう。機を見たハイプレスを発動する頻度は前半よりも明らかに増える流れとなった。

 ボールを奪った後も広げながらのポゼッションでアーセナルの1列目のプレス隊を空転させることもしばしば。アーセナルは前半のように波状攻撃が効かなくなっていた立ち上がりとなった。

 それでも少しずつ保持から押し込むことに注力することで敵陣に侵入していくアーセナル。徐々に前半のような押し込むトライを始められそうな状況になりつつあった時に、サウサンプトンの先制点が決まる。プレスバックでスターリングのドリブルを咎めたところからカウンターを発動すると、広いスペースをふんだんに使いながらサリバと駆け引きしたアーチャーが先制ゴールをゲット。少ないチャンスを得点に結びつけることに成功する。

 ここからリードをどのように守るか思案する必要があるサウサンプトン。どうしようかの方向性を探っているうちに悪癖が発動してしまう。ダウンズのあまりに無警戒な横パスをカットしたサカからのカウンターをハヴァーツが豪快に沈め、アーセナルはあっという間に同点に追いつく。ここに来て軽率さが出てしまうのがいかにも今季ここまでのサウサンプトンという感じだ。

 終盤の勝負所にアーセナルはメリーノ、マルティネッリ、トロサールと攻撃のアクセントになる選手を一気に投入。ボール奪取からスムーズにフィニッシュまで進めるような動線をこの交代で敷いた感がある。

 大きな変化となったのは左サイドだろう。マルティネッリとメリーノの登場で攻めのバリエーションが増加。前半はスターリングの単騎勝負が軸だった左サイドにもユニット攻撃の脅威ができたことで、サウサンプトンは難しい守備のバランスを強いられることに。

 アーセナルの逆転ゴールもこの左サイドのキャラクター変化がベースに。右サイドから上がったクロスを大外で合わせたのはマルティネッリ。WG→WGのパターンはこの試合これまでも狙っていた部分だったが、異なっていたのはマルティネッリのニア側にメリーノが新たにクロスのターゲットとしてボックス内に入り込んでいたことだろう。内側に入り込むことによって空いた外側を活かしたWG→WGのクロスだった。

 リードを奪われたサウサンプトン。だが、まったく攻め手がなかったわけではない。右サイドのディブリングはカラフィオーリを出し抜ける気配もあったし、ここにボールが入れば菅原もオーバーラップから攻撃に参加することが出来る。セットプレーでもラヤの動きを制限するような疑似アーセナル的な仕掛けからチャンスを作り出していた。最後には飛び道具であるオヌアチュを担ぎ出すなど、できることはすべてやった感がある。

 だが、最後は再び相手の隙を見つけたサカがスコアを重ねて試合は決着。不意を突かれた先制点にも屈せず、流れるような逆転劇を演じたアーセナルが公式戦の連勝を4に伸ばした。

あとがき

 図られていたかのような60分からのギアアップが見事だったアーセナル。守備でのボール奪取を攻撃の完結につなげることが出来るという点ではやはりこの試合の後半における攻撃のユニットが一番出力を出せるのだろう。

 もちろん、ジェズスやスターリング、あとは前ではないが冨安にもここから逆襲のチャンスは十分に残されている。長いシーズンであれば、当然今好調な選手にもトラブルは起きうるものだろう。その時にチームの助けになれれば十分今の評価のリカバリーは効く。1年前に今は称賛されているハヴァーツがどのような声をファンから浴びていたかを考えれば、時間によって物事への評判は変わることはよくわかるはずだ。

 幸いチーム状況的には長い目で見ることが許されるフェーズ。すべての選手にとって幸せだったといえる24-25シーズンを過ごせるシーズンになれば、目標も自然に近づいてくることになるだろう。

試合結果

2024.10.5
プレミアリーグ 第7節
アーセナル 3-1 サウサンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:58′ ハヴァーツ, 68‘ マルティネッリ, 88‘ サカ
SOU:55’ アーチャー
主審:トニー・ハリントン

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