MENU
カテゴリー

「方向性提示と勝利の両立」~2024.8.17 プレミアリーグ 第1節 アーセナル×ウォルバーハンプトン レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

中盤を引き出す豊富なアクションで主導権を握る

 待ちに待った24-25シーズンのプレミアリーグの開幕。アーセナルはホームに昨季14位のウォルバーハンプトンを迎えての一戦である。

 立ち上がりのバタバタとした展開が過ぎるとボールを持つのはアーセナル。ベルガルド、ラーセンをトップとした4-4-2でブロックを組むウルブスに対して、中盤を引き出すためのアクションをいくつか用意していた。

 具体的にパターンをいくつか見てみよう。例えば、12分。トーマスが最終ラインに落ちる動きを見せる。これにベルガルドがついていくアクションを見せると、元いた中盤の位置にジンチェンコが顔を出す。

 もう1つ特徴的だったのはライスとウーデゴールがサイドに流れるアクションを見せていたこと。ライスは32分のようにヒチャンの背後にシンプルに陣取ることで自身がフリーになる。もし、ジョアン・ゴメスを引き付けられるなら、トーマスやジンチェンコの列上げを促せるのでそれはそれでOKという状況である。

 ウーデゴールの場合はよりシンプルで対面のレミナが延々と追い掛け回していく構図だったため、とても利用がしやすかった。15分のビルドアップではトーマスと入れ替わる形で前に進むことを促していたし、18分には手前に降りることでサカがインサイドに入ってくるスペースを創出。今季のサカの得点を増やすためには内側に入るための仕組みを作れるかどうかだと思っているのだけども、この試合のレミナを引き付けている時のウーデゴールの動きはまさしくサカに内側に入ることを促すためのものだった。

 ウルブスのCHを動かすアクションはこのようにアタッキングサードでも効果的。ジョアン・ゴメスとレミナのCHコンビは前にでていく意識も最終ラインをカバーする意識も強く、持ち場のバイタルを離れることが多かった。ホワイト、トーマス、ライスなどサイドからある程度押し下げれば、マイナスに構えた選手がスムーズにシュートを打つことができるというのもこの試合の特徴。ウルブスのCHの特性をよく捉えたアーセナルの攻め筋である。

 もう1つ、この試合のアーセナルの攻めの特徴は早めのクロス。ペナ角付近でボールを持つと、シンプルなクロスに合わせるアクションが多め。例えば、サカを追い越すホワイトが速いクロスを折り返すといった場面はあまり見られず、シンプルにWGが早々にクロスを上げる場面が目立った。

 その分、クロスには積極的な飛び込みが求められることとなる。今季は右サイドのサカも逆サイドからのクロスに飛び込むなど、クロスから主にファー目がけて得点の形を作っていく。

 その甲斐もあってかアーセナルはクロスから先制点はゲット。右サイドのサカからボックス内にインスイングで放り込まれたクロスをハヴァーツが仕留めてゴール。アーセナルとしてはセットプレーの流れで前線にガブリエウが残っていたことで、ターゲットが分散したことがプラスに作用した場面だったといえるだろう。

 保持で相手を撹乱し、意識していた形から先制ゴールを決める。アーセナルは悪くない入りでリードを手にすることができた立ち上がりとなった。

数少ない大ピンチをラヤが救う

 順調なアーセナルとは裏腹にウルブスはなかなかテンポを掴むことができない立ち上がりだった。この日のアーセナルのテーマは人の出入りでライン間を空ける動きであったため、不用意に前からプレスに出て行くとライン間が空いてしまう上にプレス耐性に優れたアーセナルの選手はなかなか捕まらない。

ラーセン、R・ゴメスといった前線の面々はプレスバックからの二度追いで根性を見せていたが、何とか穴を開けないように奮闘するのが手いっぱい。機能的なプレスからアーセナルを苦しめて前進するフェーズにはなかなか到達できなかった。

 自陣に押し込まれる時間においてはSHのヒチャンとR・ゴメスが低い位置まで下がるため、カウンターに出て行くのがハード。一度押し込まれると陣地回復に苦労する。トップのラーセンは立ち上がりこそ、右サイドに流れる動きから押し下げに成功したが、中央でどっしり構えるガブリエウとサリバ相手にはなかなか荷が重く時間を作ることができなかった。

 自陣からのビルドアップではアーセナルの枚数を合わせる勢いのあるプレスに苦戦。とりわけ、トティ・ゴメスに制限をかけて右サイドでボールを奪いきるという得意パターンからのボール奪取が光る。当然まだ開幕節なので、全部が全部取りに行けるわけではないけども、ハヴァーツが後方をきっちり受け渡しながらプレスに出て行っているため、仮に奪いきれなくても変な穴が空くことはまずなかった。

 ウルブスは2CB+2CHを軸にビルドアップを組み、LSBのアイト=ヌーリは遊軍寄りに浮遊。アンカーのジョアン・ゴメスの隣に寄り添って3-2-5にすることもあれば、高い位置に出て行くこともある。アーセナルは先制点以降にプレスを弱めたのでウルブスが保持する時間はそれなりに出来た。

 ただし、トランジッションにおいては自由に動くアイト=ヌーリのスペースは狙い目。ハヴァーツを筆頭にこちらサイドの裏抜けからアーセナルは盤面をひっくり返すこともしばしばあった。

 なかなかチャンスを作ることができないウルブス。そんな彼らの光明はアーセナルサイドのミスである。とりわけサリバとトーマスのミスが多く、ウルブスはこれにより高い位置からひっくり返してのカウンターが可能に。前半の最も大きい決定機であるラーセンのヘッドはラヤがファインセーブで回避。あわやリードが消えてしまう大きな代償を支払うこととなるところであった。

ジリジリとした終盤にサカが風穴を開ける

 前半の終盤にラーセンの決定機やジョアン・ゴメスのドリブルでの突撃など手ごたえのある形を少しずつ生み出すことができていたウルブス。後半もその流れを引き継ぐように、ゆったりとした保持からブロックをきっちり組むアーセナル相手に攻撃を仕掛けていく。

 左サイドに開くR・ゴメスからチャンスメイクをしたいウルブスだが、ボックス内のアーセナルは堅く、単純なクロスではこじ開けるのが難しい。押し下げられたアーセナルは左右のサイドからのカウンターで陣地回復。左サイドでは強引なマルティネッリの懐かしい形が見られたかと思えば、逆サイドではウーデゴールが加減速を繰り返してウルブスの中盤を置き去りにするという技ありの形を披露するなど、多様な形でサイドをこじ開ける。

 縦に急いで進めない時も前半に見せたライスのサイドに流れるアクションからプレスの回避に成功。保持でもゆったりとした時間を作っていく。展開としては明確にアーセナルが優位とまでは言えないが、リードしている状態で互いに決定機がなく時計の針を進めているという状況自体はアーセナルにとって何も問題がないものであろう。前半と同じくトーマスやサリバのミス以外ではアーセナルが崩れる要素はあまりなかったように思える。危ういミスをした後はとにかく前に蹴ることを徹底していたラヤの割り切りもさすがであった。

 終盤にはティンバーが登場したアーセナル。1年前の開幕戦で大怪我を負ったオランダ人CBは問題なくプレー。負傷による出遅れが懸念されていたが、無事に開幕戦でプレーすることができた。71分には右サイドからスルスル抜けるシーンを披露するなど、存在感も発揮。今後に期待が持てるパフォーマンスとなった。

 試合の仕上げとなったのはサカのゴール。右サイドからまだ攻め上がりの人数が足りない状態。時間を作ってどこから攻めていくのかな?と思ったら、ウーデゴールの走り込みに合わせて自らのカットインからあっさりとゴールまでもっていってしまうのだから恐ろしい。

 なお、この場面はトーマスのパスミスがきっかけ。ロストからバタバタした展開を作り出すと、クイックリスタートから素早くサカに預けてゴールシーンをおぜん立てすることに成功している。ミスが相手ではなく自軍のゴールにつながったのは本当に運が良かった。

 その後も安定した試合運びを見せたアーセナルは2-0で快勝。圧倒的な展開で押し切ったというよりは静かに淡々と力の差を見せて、勝ち点3を掴んだといえる90分だった。

あとがき

 めちゃめちゃシャープというわけではなかったが、優勝を狙うチームが開幕からバキバキに仕上がっていても怖いので、これくらいが妥当なように思える。プレビューで述べたミスからの失点で勝ち点を失う展開は避けたいため、もう少しミスは減らしたいところだが、それ以外のプランは問題ないだろう。

 高い位置からのプレスや、自陣での変幻自在のビルドアップ、さらには多彩なセットプレーなど昨季の基本要素をきっちり打ち出し方向性を提示したのもよかった。ここから序盤戦のアーセナルは死のロードが待っているが、まずは1勝を挙げてはずみをつけられたことはとてもよかった。

試合結果

2024.8.17
プレミアリーグ 第1節
アーセナル 2-0 ウォルバーハンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:25′ ハヴァーツ, 74‘ サカ
主審:ジャレット・ジレット

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次