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「サイド崩し成立の要件」~2024.8.24 プレミアリーグ 第2節 アストンビラ×アーセナル レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

ティンバーのSB起用の利点

 ウォルバーハンプトンとの開幕戦を制し、悲願の優勝に向けて順調な滑り出しを見せたアーセナル。しかしながら、本番はここから。特にアウェイでの強敵が続く序盤戦を凌がなければ、アーセナルはライバルに遅れをとることとなる。

 1つ目の要塞はビラ・パーク。昨季はシーズンダブルを食らったアストンビラにリベンジを果たす必要がある。立ち上がりからボールを持つことを許されたアーセナル。2トップは中盤をケアすることを優先し、アーセナルのバックスへのプレスは限定的だった。

 アーセナルの保持の方向性は基本的にはウルブス戦と似たものだった。LSBのティンバーがアンカーのトーマスの隣に立つ3-2-5がベース。IH役のライスとウーデゴールはアストンビラのCHの外側に立ち、相手のプレスを揺さぶっていく。

 ライスを例にとって考えてみよう。3バックの左に入るガブリエウがボールを持つときはSHのベイリーを前後で挟み打つイメージである。

 ベイリーの背後を取ることができたら誰がライスを捕まえるかが問題になる。SBのキャッシュはマルティネッリを捨てて前に出て行かなければいけないので難しい。ということでCHのオナナが出て行くのが無理のない対応として考えられる。

 しかしながら、CHが外に広がれば、当然CHの間は広がる。ハヴァーツがここに降りてくればなかなかCHだけでケアするのが難しいということになる。

 ざっくりと守る側は外を食い止めるか、中を食い止めるかを選ばなくてはいけないことになる。ベイリーがガブリエウについていった時点でアーセナルはこの2択をアストンビラに突き付けることができるということになる。ちなみにマッギンに比べると、ベイリーの方が釣れそうではあった。

 というわけでトーマス、ティンバーのライン間に幽閉される側は立ち位置を守ることができれば誰かが助けてくれるという状態。1:45に内側に絞ってポストを引き出したライスはティンバーを助けたということになる。ポストからの落としを受けたティンバーはスルスルと中盤を交わしながら、右サイドにボールをつけにいく。サカへのパスは残念ながらカットされてしまったが、狙いとするプレーはこういうテイストのものでいいように思う。

 ただし、アストンビラは前線の守備は非常にオーガナイズされており、簡単にFW-MF間は空かない。プレスに出て行くところとカバーリングの連携が見事で伸縮を繰り返しながらアーセナルへのプレスとスペースの管理を両立することができていた。

 そうなった場合、今度はアーセナルが変化を狙うこととなる。時間の経過と共にティンバーはインサイドに入る頻度を減らし、SBとしての正位置に立つことが増える。こうすると、どのような効果が想定できるか。ガブリエウでベイリーを釣らなくても、外に開いたティンバーがベイリーと対面することとなる。ということでサイドにつられるライスはCHの管理となり、中央を広げる駆け引きがより発生しやすい状況になる。

 ティンバーの起用のメリットはこうしたアンカーの隣から解放された立ち位置を取る場合におけるポジションの引き出しが広いことだ。アンカー位置からCB位置にそのまま降りて、サイドにガブリエウを広げる形はジンチェンコであれば非保持に転じた時の中央の強度低下というリスクが伴うが、ティンバーであればそうしたリスクは抑えられる

 ウルブス戦のレビューで述べた通り、序盤の保持におけるテーマは「FW-MF間の人の出し入れを軸にライン間を広げること」にあるように思える。CBも出し入れに組み込むことができれば、よりレパートリーは広がる。仮に左のCBがカラフィオーリになれば、彼が列を上げてトーマスの隣に立つパターンも想像できるだろう。

 中央に顔を出す人を入れ替えながら、相手の各層に対して出て行くかステイするかの選択肢を迫るのが今のアーセナル。一瞬のスキに対してインサイドに差し込む頻度が高いなど、中を覗く意識の高いアーセナル。とりあえず外につけてWGで勝負という形の負荷を下げるために、まずはインサイドにつけられるスキを作ることにフォーカスしようというトライをしているのかもしれない。

左右のサイドの攻撃の引き出しが違う理由

 しかしながら、先に述べたようにビラはインサイドを受け渡しながら守るのがうまかった。CHは外につられて中央を空けるケースは少なかったし、22:30のようにアーセナル側的にもアストンビラのCH広がったタイミングでハヴァーツが中央に降りられなかったパターンもあった。

 すぐに効果は出なくとも、こういうボールの動かし方は非保持側にはジリジリ足を奪うものになるので、意味がないとは思わない。だが、ほかに手段があるのに攻めあぐねてしまっては仕方ないので、アーセナルはサイドにボールをつけての攻略にもトライする。

 攻撃の練度は左右で異なった。右サイドはサカ、ウーデゴール、ホワイトのトライアングルからボックス内に迫っていく。前節は細かいことをせずにひとまずファーにクロスを蹴ろうという方向性だったが、今節はきっちりと奥行きを使ってラインブレイクをすることでビラのバックラインを揺さぶろう!というものだった。そのため、ホワイトの出番は前節よりも増えた。

 右サイドの熟練度はさすがであった。2人を引き付けつつ、周りの動き出しを探ることができるサカとウーデゴールはかなりタフな状況でもフリーの味方につなぐことができていた。もちろん、持ちすぎてロストすることもあるが、総じて収支はプラスといえるだろう。

 左サイドは右サイドに比べるとタフだった。まず、3人目の役割がいないことが多い。ティンバーは先に述べたように後方のタスクにフォーカスしていた感があったので、逆サイドで言うところのホワイトのような役割をこなすことが少なかった。

 よって、囲まれて時間を作っている間に味方の動き出しで状況が良くなるケースが右サイドに比べて少なかったことはマルティネッリにとっては不運。SBのタスクが後方フォーカスであることと連携面の両面の要因で左サイドの枚数をかけた攻撃はなかなか苦しいものがあった。

 キャッシュの負傷により交代で入ったネデリゴヴィッチのパフォーマンスが良かったことも厄介だったといえるだろう。対面を1on1で相手を置いていければ楽になるのだが、ネデリゴヴィッチはそこまで簡単な相手ではなかった。

 というわけで左サイドの攻撃の有効打は「初手の動き出しでできたズレを生かして破壊しきる」というものに集約された。例えば、30分過ぎのライスの裏を取るアクションに合わせて、マルティネッリが内側にスライドする動きは瞬間的なオフザボールのズレでフリーマンを作り出す動きとしては興味深かった。

 ただ、左サイドにおけるこうした駆け引きは2,3回に終始。押し込んだフェーズにおける解決策として左サイドは少し不十分だったといえるだろう。

機能不全のワトキンスをカバーしたのは・・・

 アストンビラのボール保持は後方3枚を担保。自陣深い位置ではマルティネスを3人目としてカウントできるので、両CBはシンメトリーでSBもきっちりと幅を取る形に。ある程度アーセナルのプレスを押し返すことができれば、キャッシュがCBに入って幅取り役をディニュとベイリーが行うという左右非対称な3-2-5がベースとなった。

 保持で相手を自陣に引き付けた上でボールを縦につけて一気に回復するというアストンビラの伝統芸能はこの日は不発であった。大きかったのは後方からの長いボールのターゲット役となるワトキンスがアーセナルのCBによって完全に抑えられていたことだろう。

 もちろん、サリバの質の高さは前提であるが、ウェストハム戦でもワトキンスは起点として機能していなかったため、まだエンジンがかかっていないように思える。ハイプレスに成功した24分の絶好機を決めていれば明らかに試合の景色を変えることができたことも含めて、この日の出来も物足りないものであった。

 アストンビラのストロングである左サイドにボールを回されてもサカとウーデゴールの機能的なプレスでロングボールを蹴らせることに成功していたアーセナル。この日のワトキンスとアーセナルのCBのマッチアップを考えれば、アーセナルとして蹴らせれば正解!となっているので、追い込んで蹴らせればアーセナルのプレスは完結することが多かった。

 仮に破られてプレスバックを強いられてもサカはかなり献身的なプレスバックをしているため、大事になるケースは非常に少ない。こういうカバーの意識を前線が持ってくれているので、ハイプレスにも躊躇なくチャレンジできる側面はありそうである。

 苦しい保持のフェーズになっていたアストンビラだが、解決策になっていたのがライン間のロジャース。縦パスを受けてからの反転からスピードアップ、そしてフィニッシュまでという流れを一手に引き受けてアーセナルの脅威になっていた。

 対面のトーマスの出来は据え置きとしたい。おいていかれるシーンも多かったものの、マッギンをスライドして封じた10分の動きなど昨季の終盤に比べれば勘が冴えているなと思うところもある。ただし、6:20のティーレマンスを捕まえるのが遅れるなど、ハイプレスへの連動が完璧かといわれると怪しい。今後もコンディションは注視する必要があると思う。

テーマ通りの左右の崩しからゴールを奪う

 後半も前半と同じく、ソリッドな守備に対して互いに解決策を探りあう展開になる。ハヴァーツの上下動からCHの間を狙う頻度が上がるなど、前半を経て後半の狙いが整理されているのかなと思える動きもあった。ただし、後半も引き続きアストンビラのライン間のスペースは管理されているので、裏に蹴って様子を見なければいけないシーンも出てくる形となった。

 アストンビラはカウンターがベースとなった後半。ライン間のロジャースに加えて、オナナの迫力ある攻撃参加が目立つようになっていたので、前半に比べれば時間経過と共に展開はオープンになっていたように思える。

 いうまでもなく53分のシーンは特大決定機。ミドルが幸運な形で跳ね返ったことであとは押し込むだけ!という場面を作るが、これは素早い起き上がりからセーブしたラヤによって阻まれる。

 アーセナルも60分付近からウーデゴールへのマークが緩くなり、右サイドからの攻略の精度が少しずつ高まるように。前半から奮闘を続けた右サイドの崩しは先制点という形で結実。キープに奮闘したサカがオフザボールの動きでディニュを振り切ると、右サイドから角度をつけた折り返しに成功。これを交代直後のトロサールが仕留めて均衡を破る。

 結果を出したトロサールは追加点の崩しでも貢献。ガブリエウから相手のバックスの逆を取っての抜け出しはまさしくこの試合の左サイドの崩しのテーマとなっていた「初手の動き出しでできたズレを生かして破壊しきる」を体現するもの。この動きを生かしてビラのバックスを押し下げると、最後はサカの折り返しをトーマスがミドルで仕留めて追加点を奪う。

 サリバがラムジーの抜け出しを後方からキャッチアップするなど、守備陣の奮闘も目立った後半のアーセナル。紙一重の戦いを制して開幕連勝を飾ることに成功した。

あとがき

 もちろん、紙一重で流れが変わる試合ではあったが、アウェイで難敵を相手にすればそういう展開になるのは当然だし、そういう紙一重の試合を制するかどうかは非常に大きいというのも昨シーズンを通してよく知っている。結果を出した選手たちを素直にたたえたい。

 左サイドは後方のシステム調整の割を食っている感がある。そのため、マルティネッリには少し気の毒なところもある。ただ、やはり彼にはそういう状況においても対面の相手を引き剥がす力強さが欲しい部分も同時にある。

 今はアタッキングサードでできることはトロサールの方が多いと思うが、非保持での強度はトロサールよりも上なので、今はどちらが頭から出てきてもおかしくはない状況といっていいだろう。そういう議論が出てくること自体が健全なポジション争いができている証拠。アーセナルファンが望んでいる「控えとレギュラーの差が小さい状態」が一番具現化されているのがこのポジションかもしれない。トロサールの態度を見ればマネジメントは当然難しいものになるが、少なくともピッチの上で競争は加熱することはいいことのように思える。

試合結果

2024.8.24
プレミアリーグ 第2節
アストンビラ 0-2 アーセナル
ビラ・パーク
【得点者】
ARS:67‘ トロサール, 77’ トーマス
主審:マイケル・オリバー

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