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【前半】
ブロックは組んでいるけど…
「ルヴァンカップの前半15分の再現を目指す」というフィッカデンティの言葉、そしてビルドアップに一日の長がある田中碧と大島僚太のベンチスタート。名古屋は当然強気のプレスで来るかと思っていたがそういうわけではない立ち上がりだった。
試合はミドルゾーンでの組み合いにはなったが、やや緩さが目立つのは名古屋。ブロック自体の形成は見事なものの、肝心のボールホルダーにプレッシャーがかからずに、ボールを動かされてしまうことが多かった。特に顕著だったのはマテウスとシャビエル。開始直後、4分に右サイドからの決定機は、山根に対するマテウスと吉田の連携が間に合わずにハーフスペースに抜ける家長をフリーにしてしまう。シュートは決められなかったけど稲垣を引き付けた脇坂はGoodでした。
脇坂に対して稲垣が出ていかなければいけなかったように、名古屋の前線の守備は誰がどこにチェックに行って、どこに追い込んでボールを取るかの意識が見えにくかった。ボールホルダーにもプレッシャーがかかっていないので、少し狭いと感じたら川崎は自由にサイドチェンジが可能。右から左に大きく振って三笘からのドリブル突破を狙うことができた。
中央からの縦パスもプレッシャーがイマイチで中央を経由しても楔も入る。ダミアンも三笘も相手を背負いながら次のプレーをすることができていたし、ラインを越えた後のプレーも狙いは見えるシーンが多かったように思う。
ただ、サイドでフリーで持てて崩せていたり、中央でダミアンが背負える分、近め近めの意識が強く、名古屋相手に横で揺さぶる動きが時間と共にじわじわ減ったのは気になった部分でもある。崩せそうだったし、崩せてもいたから問題ないっちゃないけど、視点が一旦近くなると可逆的にまた遠くを見るフェーズにならないのは気になるかも。特にビハインドとかこじ開けられなかったときにおいて。
ボールの保持で他に気になったのは守田のボールを入れるタイミング。プレーをキャンセルできるようになった田中碧の成長を見ても、早くさばけばいい!というわけではないことは明白なのだが、守田に関してはキャンセルするというよりは単に入れられずにプレーを遅らせた結果、イマイチな選択肢を選んでいるように見える。スキルの部分なのか、メンタルの部分なのかはわからないが、この部分は要改善項目に見えた。
車屋もボール保持の時になんとなく体の向きでボールの出所がわかりやすいように思う。自分が川崎と戦う立場ならば、この2人をボールの取りどころにするだろうなとぼんやり思った。
エリアに侵入する機会もできていたし、開始直後は決定機も作れていた。ボール回収も含めて序盤はうまく回っていたように思う。今までと勝手が違ったのはクロスボールの質の部分と名古屋の強度のところで、一山超えずにクロスをあっけなく跳ね返されるシーンは結構あった。そこはもったいなかった。
【前半】-(2)
勝負したいところで勝負できた先制点
ガチンコ感が強かったのは名古屋のボール保持の局面。川崎は4-3-3と4-4-2を使い分けながらミドルゾーンに構えるやり方で対抗した。CBまでプレッシャーに行くハイプレスまではいかないけども、下がりすぎはしないぜ!という形。ただ、この日の4-3-3はむしろ4-5-1といった方が正しいかもしれない。三笘と家長がDFラインにプレッシャーに行く機会は非常に稀で名古屋のSBを空けないことを意識していたと思う。
逆に川崎が名古屋のSBを空けるときはセオリー通りSBを経由させて運んでいく意識が強かった。例えば11分。家長が前に出てきたのを見て吉田を経由して山根を前に引っ張り出したシーン。吉田は一発ではたいて山根の裏のマテウスを狙っている。おそらくここまでが名古屋の狙いとしてセット。川崎のWGの裏へ空いた自軍のSBを経由して、川崎のSBを引っ張り出す。そしてその裏のマテウスで勝負。
三笘のサイドの裏を突かれる場面もあったが、とりあえず突破役としてはアシスト能力が高いマテウスを任命したかったんだろう。川崎の右サイドを狙う場面が多かった。ただし、川崎もここはジェジエウが先読みでカバーリングをする。この出てくるジェジエウを外せるもう一手があれば、名古屋は大チャンスを作れたのだろうが、そこには至らない名古屋。相手を背負ってのポストも川崎に比べれば起点となることはできず、守田やCB陣に潰されていた。給水タイム前までは川崎が優勢だったように見えるミドルゾーンの綱引きであった。
ちなみに脇坂はだいぶ後方と連携しながらスムーズに前に出ていけるようになった気がする。中盤の4枚も下田と守田がさすがのカバーリングを見せる場面もあったし、彼らなりの持ち味は出せていたように思う。
しかし、先制点を得たのは名古屋。マテウスの金崎へのクロスの質と、稲垣のサイドチェンジはお見事だった。川崎としてはシャビエルにポストを許してしまったのがつらかった。プレスに行った下田が空けた穴を使われてしまった形。シャビエルが受けるスペースが空いていたところを起点として考えると、シャビエルに近い谷口が離れていく動きを見せて、遠いジェジエウが前で出ていく選択をしたのは気になった。ちょっと谷口が逆を取られてしまったかなと。クロス対応もそうだけど、その前のポストプレーへの対応も気になったシーンだった。
それにしても名古屋はこの日一番の崩しから点を取ったように思う。一番いい崩しから点を取って完封で勝つのは気持ちいいだろうなぁ。
試合は1-0。終盤に点を決めた名古屋のリードでハーフタイムを迎える。
【後半】
偏り、狭く、閉じられて
後半頭から川崎は選手交代。脇坂、下田の両インサイドハーフに代えて、大島と旗手を投入。家長を中に入れるシステムに変更した。
後半の立ち上がりは両チームの前半のパワーバランスはあまり変わらなかった。やり方の部分でやや違いを感じたのは川崎の方だろうか。左よりのポジションに入った大島が高い位置まで進出することで存在感を見せる。大外の三笘とハーフスペースを抜ける大島のコンビで名古屋を深くまで抉っての決定機の創出が見られるようになった。
前半の立ち上がりは右で人数をかけて左に振って三笘で勝負!という場面がちょいちょいあったけど、後半は逆。左に人数をかけて、逆に振るというよりは崩し切りにかかるイメージの方が強かった。
右の崩しは若干苦しんでいたように思う。交代で入った旗手自身はミドルやカットインなど好調をアピールしたが、連携しての崩しという部分ではあまり見られなかった。脇坂が不在になり、相手を縦に引っ張るような動きが減ったように思う。ただ、連戦の疲労を考える裏抜けが期待できる山根のオーバーラップの減少は仕方ないところだろう。吉田の存在が最後まで面倒くさかったのもあるし。
後半は名古屋のラインは前半よりも下がる。これまでの川崎の傾向を考えると後半逆転は何度もやってきている。ただよく考えてみると、こういうどう?行けそう?行けるよね?といった場面をここ数試合打開してきたのは三笘薫だったりする。そんな三笘が70分過ぎに負傷交代すると徐々に雲行きが怪しくなってくる川崎である。
行けそうで行けない展開になると、近めの崩しの意識が強くなるのはやはりこのチームのDNA的な何かがあるのだろうか。遠くを意識したサイドチェンジから近めのパス交換に終始する形にシフトすることはあっても逆はまずない。不可逆的。名古屋は丸山や中谷が潰しに平気で出てくることもあるのだが、その穴は中盤が最終ラインに入ることで埋めていた。これは見事。川崎としては目先を変えて1つ飛ばすようなパスでCBが出ていったスペースを使いたかったがかなわなかった。
もう1つ想定外だったのは名古屋のボール保持の部分。ルヴァンカップから感じていたのだが、名古屋はいなすようにボールを持ちながら時間を進めるのがうまくなったように思う。風間政権の時になかったやーつ。これがこの日の川崎には効いた。
川崎のブロック守備は悪くはなかったものの、ボールを取り返したいときに前から圧力をかけて仕留める形ではなく、ミドルゾーンで受ける形がこの日の主流。このやり方も精度はあったけど、追いかける展開になってボールを取り戻すとなると話は別。徐々にボールに近い選手だけが飛び出すプレスが始まってしまう。そうなると名古屋の思うツボ。後半の中盤あたりにボール保持の時間を作って陣形回復を図ることが最後の最後の逃げ切りに効いていた。
最終盤の局面では金崎と山崎が前線でカウンター要員として踏ん張り体を張る。彼らで押し上げられたらラインを上げてもう一度少し高めから追い直す。無理だったらリトリートしてローラインというやり方にシフト。川崎は最後まで牙城を崩せずに名古屋の逃げ切りを許すことになった。
試合は1-0。ホームの名古屋が首位川崎の連勝ストップに成功した。
あとがき
■ボール保持にこそ強さあり
非保持でのブロック守備の強固さに目がいきがちだが、この日の名古屋の勝因は間違いなくボール保持のところ。先制点もピーキーなパスをいくつか決めたビルドアップからの崩しだったし、相馬を入れた後半もとっとと自慢の高速アタッカー陣のカウンターで仕留めて楽になりたいところを、じっくり作り直す時間を入れることで一呼吸。自分たちが手早く攻撃できない代わりに、川崎の攻撃の機会も取り上げた。こういうやり方をする名古屋を見るとフィッカデンティのカラーをうまく上塗りしたなと思う。
前半の緩さは正直目についたが、後半を見据えたペース配分と捉えることもできなくはない。結果としてリードしたまま見据えた後半にたどり着くことができた。最後の局面における稲垣や吉田などの身体の投げ出し方はおそらくファンならば胸を打たれるはず。彼ら主力の離脱さえなければ上位進出の準備は整ったといえるだろう。
■今日に始まったことではない
連勝は止まってしまったが、この日の川崎が特別何か悪かったかと言われると微妙なところ。本文中で指摘した個人の足りない部分も、時間の経過とともに近めにシフトする視野の話も、慌てるとブツ切りになってしまうプレスの問題も今日に始まったことではなく、これまでの川崎が抱えている話ばかりである。
これまではこういった問題を抱えつつも勝ってきた。狭いスペースを打開することもあったし、セットプレーからの得点が試合を楽にすることもあった。この試合では先制を許して敗れたが、逆にいえば仙台戦も湘南戦もC大阪戦もこの試合のような展開になってもおかしくはなかったということ。
それらの試合はわずかなチャンスをモノにすることで試合の形勢を引き寄せて、勝ち点3を得ることができた。この試合でも形勢を一変できる決定機は得ることができている。疑問視されたターンオーバーもそれらをモノにしていれば変わっていたはず。
連勝を軽んじることはもちろんできない。選手たちが力を見せて勝ち取ってきた功績だからだ。今シーズンここまで強さは見せてきたことは間違いない。と同時にこの川崎が無敵の最強チームでないことも間違いない。向上の余地は残されている。一つ違えば連勝を伸ばすことが出来たかもしれないし、一歩間違えればとっくに連勝が止まっていた試合もこの10連勝の中にはあった。ボタンの掛け違いで一喜一憂している場合ではないだろう。
次の試合はすぐに来る。神戸も名古屋同様、ボール保持で時間を作ることが出来るチーム。課題は引き続き試されることになる。一つ一つ解決して次の勝利を目指す。それが川崎らしい次の一歩の踏み出し方だ。
今日のオススメ
90分の小林悠のシュート。38分のジェジエウの裏をカバーした下田と迷ったけど、失点に絡んでしまったのでこちらで。ボールが回ってくれば同点に俺がしてやるという魂がこもったシュートは、追う時間帯の終盤に淡白になりがちな川崎を引き締めたように思う。追いつかなかったけど、追いつきたい姿勢が見えることは大事。
試合結果
2020.8.23
明治安田生命 J1リーグ 第11節
名古屋グランパス 1-0 川崎フロンターレ
豊田スタジアム
【得点】
名古屋:44′ 金崎夢生
主審:佐藤隆治