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「ご褒美」~2020.7.15 プレミアリーグ 第36節 アーセナル×リバプール レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
人海戦術優先で

 ホームチームは前節で苦しくなった他力本願の欧州カップ出場権、アウェイチームは1シーズンの勝ち点記録の更新とミッドウィークに迎えた両者の対戦は、過密日程の中でモチベーションを見出すのが難しい状況であった。

 アーセナルの並びは3-4-3。この日はオーバメヤンが不在でペペが左、右にはネルソンが入る。実際のアプローチにより近い表記をするなら5-2-3という方がしっくりくる気がする。WG2人は外から内に囲い込むようなプレスでCBにアタック。ラカゼットはアンカーを見る役割を課されており、WG2人よりも低い位置を取ることもしばしばであった。

 前線にはブロック守備を敷いているときにプレスバックをする役割も課されている。アーセナルのプレスはCHの2人こそ、連動して高い位置を取るものの、5バックはフラットさを崩さないことが多かった。したがって、深さを取られてしまえば、SBという安全地帯がリバプールには存在することになる。

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 この試合で判断が難しかったのはアーセナルのWBの守備の基準である。とりわけセドリックの基準はどこにあるのかわかりにくかった。逆サイドはサラーがハーフスペース、アレクサンダー=アーノルドが大外と役割ははっきりしていた(それでも面倒なんだけど)ため、ティアニーとサカをそれぞれにぶつけた印象。

 それに比べると、リバプールの左サイドは動きがややこしめ。人についていくだけだとスペースを利用されてしまう可能性が高い。察するに、シャドーもしくはCHから最終ラインのカバーリングに入れる人員がいると判断した時に出ていっていいという決まりになっていたのではないだろうか。

 この日のアーセナルの守備は人海戦術。とりわけ最終ラインはその色が強かった。WBが空けた裏のスペースはスパーズ戦の後半でソンにやたら使われていたし、スピード豊かなリバプールのアタッカー陣にここを使われるのがいやというのが念頭にあったのではないだろうか。この試合ではムスタフィじゃなくてホールディングだったけど。

 マネが下がって受けるときはセドリックはついていく割合が高かったように思う。これはスペースでスピード豊かに暴れまわる張本人がその場を離れたからと考えることもできるだろう。

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 リバプールの左サイドはワイナルドゥム、ロバートソン、マネのトライアングルに中央のフィルミーノを加えてアーセナルの守備陣を中央から引き剥がす試みをする。どちらかといえば右サイドがフィニッシュ、左サイドが組み立てなリバプール。中央を空ければフィルミーノへのパスコースは空くし、外はロバートソンがいるし、間を空ければマネに侵入されるし、ワイナルドゥムは面倒だしで厄介な対応が迫られたアーセナルの右サイド。

 ここから先制点を得たリバプール。サイドに流れるフィルミーノと入れ替わるように斜めに入ったマネがロバートソンのクロスに合わせて先制する。マネはどんだけアーセナルから点とるんだよいい加減にしろ。中央とサイドが入れ替わった分、ルイス、ホールディング、トレイラが釣りだされていたこのシーン。中央はジャカとティアニーでは賄いきれなかった。セドリックのチャレンジ失敗から端を発する歪みをリバプールがうまく使ったといえそうだ。

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【前半】-(2)
報われたラカゼットとネルソン

 逆サイドのWBのサカはセドリックより高い位置に出る機会が多かった。もちろん、逆サイドにボールがある時などは彼もまた最終ラインに入るのだけど。アーセナルはボール保持で4バックっぽく変形する。左サイドはティアニーがSB、サカがSHのような立ち位置に。サラーは3トップの中では一番戻りが緩慢だし、アレクサンダー=アーノルドも高い位置を通ることが多い。したがって、中央から左サイドのフリーの選手を目掛けたフィードを狙うアーセナル。ところがやたらこのパスが合わずに前進することができない。

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 そうなると、アーセナルはシンプルなやり方に移行する。ペペとネルソンを軸に裏への抜け出しでの駆け引きを始める。ラカゼットがやたら落ちる動きを繰り返すこともあってか、きわどいオフサイドのシーンがちらほらみられるようになるリバプール。効果抜群ではないが、アーセナル目線でいえば揺さぶりがいがあるという印象だった。

 そういう印象を持った理由はどことなくこの日のリバプールの最終ラインに重さを感じるからだろう。同点弾はその最終ラインのミスからだ。ファン・ダイクのミスを誘発したネルソンのプレスを起点として、ミスパスをかっさらったラカゼットがゴール。ロバートソンもアリソンも空いていた状況だったが、ダイクはキープに失敗してしまう。普段だったらもっと早くリリースしていたのでは?と思わずにいられないシーンだった。

 この日はショートパスではほぼ前進できなかったアーセナルだったが、このシーンではペペのキープで全体を押し上げる。オフサイドからのリスタートのハイプレスが起点になったゴール。プレスで駆け回るネルソンとラカゼットとは違い、ボールキープで役割を果たすペペであった。

 そして、WGより後方までプレスをかけていたラカゼットが報われたのが2点目。今度はアリソンのパスミスをかっさらうと、ネルソンにラストパス。冷静なフィニッシュはもちろんのこと、オフサイドからの素早いリカバリーもgood!であった。試合を優勢に進めながらも、まさかのミスが立て続けに発生したリバプール。口をあんぐり開けたクロップの姿はリバプールサポーターの気持ちを代弁しているかのようだった。

 試合は2-1でハーフタイム。シュート2本で2点をとったアーセナルがリードして後半を迎える。

【後半】
焦りで増えたシュートブロック

 後半も大枠の展開は同じだ。リバプールがボールを持ち、アーセナルが持たれる。サイドを軸に揺さぶりをかけられるのも全く同じ。立ち上がりはやや前に出てきたアーセナル。セドリックが後方をホールディングに任せて上がってくるロバートソンをケアしたりなど、隙あらばラインアップして高い位置で止める意識はあった。

 この意識結構大事だと思う。ボールは取り切れなくても、なるべく遠ざけて少しでもゴールから遠い場所でのプレーをさせる。ラインは下げられてもまた上げるみたいなあきらめの悪さ。アルテタが就任してから地味に一番変わった部分でもあると思う。

 とはいえボールを持たれて押し込まれ続けるのはきつい。アーセナルの右側のサイドから徐々に突破を許すも、エリア内で跳ね返す!という時間は続く。

 そんなことが10分ほど続いたところでアーセナルは選手交代。オーバメヤン、ウィロック、セバージョスの投入で反撃の糸口を探る。てっきりオーバメヤンがトップに入るのかなと思いきや、ウィロックがトップ下で守備だけラカゼットロール、オーバメヤンはシャドーだった。

 しかしながら状況は継続。マネの躍動は止まらず、交代で入った南野も中央で起点を作る。アーセナルのラインを高く保つ意識を利用して、早めに裏にクロスを上げてアーセナルのDFラインに背走させて対応させるようなシーンもあった。リバプールはボックス内での強靭さがあるチームではないし、アーセナルは苦手だから。背走での対応が得意なチームなんてないだろうけど。

 効果的だったのは背走させたて作ったマイナスのスペースを活用する場面。アーセナルは人垣でブロックしてひたすらしのぐ時間帯が続く。ペペのドリブルでファウルを受けたところでクーリングブレイクに入ったのは、若干エスケープ感があった。

 終盤もリバプールがひたすら攻撃をし続ける展開に。アーセナルとして助かったのは、リバプールにやや焦りがあったのか、アーセナルをずらすようなアプローチが減って、ダイレクトにシュートまで持っていくような展開が増えたこと。後半途中まではアーセナルはサイドからは割と簡単にえぐられていたが、リバプールがシュートを急ぐあまりそういうシーンは減っていったような。やたら中央でシュートブロックにあっていたのはアーセナルの守備のブロックを動かせていない裏返しでもある。

 アーセナルは前線唯一のフルタイム出場となったペペのところが穴になりかけるシーンが散見されたものの、マルティネスを中心にしっかりとはじき返した。

 試合は2-1。ホームチームが何とか逃げ切りに成功。優勝チーム相手に逆転勝利を決めた。

あとがき

■船長も船員も入れ替えない旅の行き先は?

 最後に追いつくチャンスもあったが、マルティネスに阻まれ敗れたリバプール。重要な時間帯に点を取り続けるのが今季の彼らの凄味だったが、この試合ではそうではなかった。優勝が決まった後のモチベーションは彼らの中の話であり、本当のところはわからない。

 当然気になるのは来季の動き。獲得報道はあまり多くなく、放出は多少あれど獲得は最小限になりそうな匂いである。昨夏に続いてスカッドの入れ替えがないとなるとなかなかなチャレンジ。監督留任だけでなく戦力の出し入れなしに継続して成功を収められるか?という命題に挑むことになる。じわじわ上がってくる主力の年齢が気になる部分はあるが、近年のフットボール界であまり例を見ない道を進む彼らがどこにたどり着くのかは非常に興味深い。

■やらなければ手に入らない「ご褒美」

 首位相手に逆転勝利。結果だけを見ればピカイチの勝利である。とはいえ相手に助けられた部分は大きい。プレスは2つの得点とも、隙の無い圧力満点の嵌め殺しから引き出したエラーではなく、リバプールの緩慢なプレーによるところが大きい。また、ショートパスではリバプールのプレスに屈してしまい、ハーフラインから前につないで前進する機会はほぼなかった。やりたいサッカーに対して満点か?と言われればそうではなく、プレスもボール保持でも課題はまだ多い。

 じゃぁ、たまたま勝ったで終わらせていい試合なのか?無論ノーである。崩されかけた場面が全くなかったわけではないが、特に後半は多くのシュートに対してブロックに入ってコースを制限できていた。ここ数試合述べている、ブロック守備が強固になった点がリバプール戦の勝利をつなぎとめている。ファン・ダイクもアリソンのパスミスも、ラカゼットやネルソンが詰めていなければ、わずかにずれただけのパスで終わる話である。相手にミスはあったが、それをモノにしたのは自分たち。この試合の2ゴールはまるで勝利に対して泥臭く手を伸ばし続けた彼らに与えられたご褒美のようだった。

試合結果
2020/7/15
プレミアリーグ
第36節
アーセナル 2-1 リバプール
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 32′ ラカゼット, 44′ ネルソン
LIV: , 20′ マネ
主審:ポール・ティアニー

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