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「同じ悩みを抱えて」~2020.6.14 リーガ・エスパニョーラ 第28節 ビルバオ×アトレティコ・マドリー レビュー

    リーガもいよいよカムバックである。各国リーグが中断に入る3カ月前に欧州の中心地にいたチームといえばどこか?と聞かれたら「アトレティコ!」と答える人は多いかもしれない。アンフィールドで延長戦を制し、リバプールから今季やることを奪ってしまったのはアトレティコだった。ただし、CLでは今季一番のインパクトを残した彼らもリーグ戦では苦しんでいる。優勝争いからは脱落し、セビージャ、ソシエダ、ヘタフェとCL出場権争いを繰り広げている。その原因は得点力の少なさ。27試合で31得点はリーグの真ん中である。堅牢な守備をベースにしていてもこれだと勝ち点が伸び悩むのは必然だ。

    今回のアトレティコの相手は彼らと同じ悩みを持つチーム。ビルバオはアトレティコ同様に欧州屈指の失点数の少なさを誇りながらも、得点力不足に苦しむチームだ。同じ悩みをもつ両チームは再開直後のこの試合で課題克服にどう挑んだだろうか。

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
右サイドで優位に立つビルバオ

 体の動きは悪くなかったが、試合勘が鈍っているのかな?と思ってしまう立ち上がりのビルバオ。ラウール・ガルシアとムニアインのいきなりのハードタックルは3カ月のブランクを感じさせるものだった。特にムニアインのタックルはギリギリイエローで済んだというのが正しいだろう。タックルの距離感を見誤ったプレーはしばらくは各国で見られることになるかもしれない。

 序盤は両チームとも蹴りあい落ち着かずにボールが行きかう展開に。攻守ともに片側サイドに圧縮されつつ、ピンボールみたいにボールが行き来する立ち上がりだった。10分ごろにようやく試合は落ち着き始める。

 アトレティコのボール保持で特徴的だったのは、守備時は左のSHのカラスコが内側に絞ってコスタやジョレンテのそばでプレーする機会が多いことである。その分、左の幅取役を務めるのはSBのロディ。今流行りのSBのアシメ。つがい型っていうのかな?ロディの上がりに合わせて後方からCH(主にサウール)、そしてPAラインの横幅付近まで開いたヒメネスが支援するという形で変形をする。もう1人のCBのサビッチはヒメネスとは異なり開かずに中央に残る。左から攻めるときは右のトリッピアーも上がりを自重して、3バックっぽくなることが多かった。

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 しかしながら、前半のアトレティコは丁寧に崩すというよりはダイレクト志向。アバウトに長いボールを蹴りこむことが多かった。序盤で迎えた唯一の決定機であるカラスコのシュートシーンも、ジョレンテとカラスコでカウンターから相手の最終ラインを切り裂いた形。ウナイ・シモンは転んだあとよく冷静に対応した。そのシーンを除けば、決定機はほぼ作れず。コスタへの長いボールやカラスコのカットインで縦に速く前進を狙う場面が多かったが、うまく収まらなかった。

 序盤にボールも展開も握ったのはビルバオの方である。こちらはダニ・ガルシアが最終ラインに落ちるサリーを活用。アトレティコの守備システムは4-4-2でトップのジョレンテが全体のラインが下がった時(主にプレス隊がハーフラインより後ろになった時)に2列目の守備に参加するような形が多かった。

    したがって、アトレティコのプレス隊に数的優位を活用しつつ、両SBを上げるビルバオ。SHが内に絞りつつ、トップ下のムニアインは下がって受けるMFロールもこなすという様相だ。カギになったのはRSHラウール・ガルシアのところ。トップのイニャキ・ウィリアムスはサイドに流れることも多く、中央でプレー可能なラウール・ガルシアと入れ替わることも多い。そして、左サイドからのクロスはどちらの選手もフィニッシャーとしてエリア内に飛び込む。
 
 つまり、ビルバオの右サイドには屈強なタイプのアタッカーでイニャキ・ウィリアムスかラウール・ガルシアがいる時間が多かった。これを非常に気にしていたのがカラスコ。ビルバオの屈強FWをやたら気にするポジションをとるため、アトレティコはぱっと見5バック気味になることも多かった。

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 実際はシメオネの指示なのか、アドリブなのかはわからない。身長差のあるロディでは屈強タイプのマークは心もとないと思ったのかもしれないが、ラインを下げる分ビルバオの右サイドの選手に時間を明け渡すことになる。これがビルバオが前半に主導権を握った原因である。後方のジェライの押し上げも手伝ってフリーでボールを持てることが多かった右サイドバックのカパ。ここへのプレスが遅れることからアトレティコの守備はゆがみ始める。

   パス交換からの同サイドの裏抜け。あるいは素早いサイドチェンジ。アトレティコは逆サイドのSHであるコケがしっかり絞るのだが、ボールホルダーへのマークが遅れる分、簡単に逆サイドに通されてしまう。両サイドからのクロスの質は高かった。前述のように左サイドからのクロスに対してはイニャキ・ウィリアムスとラウール・ガルシアが待ち構える。

    とにかく1人目がフリーになっているため、パス交換から簡単にフリーでクロスをあげられるアトレティコ。右サイドはクロスを上げる直前にカラスコやロディが慌てて出ていくことが多く、それによってクロスが上がる直前にエリア内でのマッチアップにズレが生じる。イニャキ・ウィリアムスが決定機を迎えた24分のシーンでは、アトレティコは枚数が足りているにも関わらずフリーでのヘディングを許している。クロスを上げる直前に「ズレ」起こっており、マークの受け渡しが間に合っていない。

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 右の浅い位置を明け渡したことで主導権も明け渡したアトレティコ。苦しい跳ね返しが目立つ中で、先制点を奪われることになる。始まりはその右サイドの崩しから。初めの1人をフリーにしたせいで多角形形成するビルバオ相手に後手に回ったアトレティコ。そこからクロスを上げられてしまう。逆サイドに流れたボールに対してもう一度ユーリがクロスを上げると、斜めに入り込んだムニアインが技ありシュート。右サイドの優位と外と内を使い分けるアタッカーの良さが出た得点であった。

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 先制点は試合の流れに即したものだったが、直後の同点弾は流れとは無関係のミスによるもの。押し込んだアトレティコに対して、ジェライのクリアはサウールの足元に。コケ→コスタと素早くつないでGKとの1対1を制して追いつく。ビルバオとしては非常にもったいないプレーだったが、素早いサウールの縦へのつなぎとコケのアシストは見事だった。

 配置で得た有利をミスでフイにしてしまったビルバオ。1-1のタイスコアで試合はハーフタイムを迎える。

【後半】
悩みが顕在化

 得点は入らないけど、失点はしない。そんな両チームの特徴を体現するような後半だった。前半からあまりオープンな試合ではなかったが、後半は一層膠着した印象である。

 メンバーは代わらなかった両チームだが、いくつか変わった点はあった。まずはアトレティコの攻撃。後半スタート直後こそ長いボールをける機会は多かったものの、徐々にショートパスをつなぐパターンが出てくるように。特に右サイドはコケ、トリッピアー、ジョレンテ、コスタで短いパスをつなぎつつ前進ができるようになってきた。再現性が見られたのは大外で受けたトリッピアーがハーフスペースに抜けるコケにスルーパスを出す流れ。ここからクロスを上げるパターンだ。

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 守備で問題点として挙げたカラスコは高い位置にプレスにでてくるように。コスタ、ジョレンテも含めて前半よりも強固な4-4-2になった。そのためビルバオは徐々に攻めあぐねるように。サリーちゃんで最終ラインに数的優位はあるものの、アトレティコの陣形のバランスを崩せず、中盤の4枚に跳ね返されるシーンが続く。後半唯一ビルバオがうまくいったのが60分付近のシーン。コルドバがトリッピアーをつり出し、ヒールでイニャキ・ウィリアムスに。オーバーラップしたユーリと共にサビッチと2対1を作り出した。

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 しかし、このシーンですら中央の枚数はアトレティコの方が多く、崩し切ったとは言い切れない。同様にアトレティコも決定的なチャンスとなるサイドの崩しが見られたとは言えず、ともに最後の部分で相手を上回ることができない。

 60分に計5枚の選手交代をする両チーム。メンツを見るとアトレティコは若干決め打ちっぽい交代だ。終盤に行くにつれて重さが抜けなくなってきたビルバオに比べれば、アトレティコはフレッシュだったのは確か。しかし、つなぐという部分では単純に交代前の選手たちの方がスキルが高かった感じも。4-4-2相手にSBのクロスと前線の個人技での勝負になっていた。せめてSBのクロスの精度がもう少し高ければ。ロディ、リバプール戦は結構いいクロスを上げていた気がするのだけど。

 試合は両チーム決め手を欠いて終了。共に1点ずつ得点する痛み分けで終わった。

あとがき

もったいないけど内容は上々

 もったいない試合をしたのはどちらかといえばビルバオだろう。特に配置を優位に進めていた前半にアドバンテージを得られなかったのは痛い。アトレティコと比べると後半のガス欠が早かったことからわかるように、前半から力を使っていた印象。修正したアトレティコを崩すのは難しかっただけに、ガソリンを使っていた前半にリードが欲しかったところだろう。

    一方でその前半の内容は見事だった。ピッチを広く使ってアトレティコを横に揺さぶれていたし、正確なクロスはその揺さぶりによって生じた穴をうまく狙える精度だったと思う。アトレティコが相手じゃなかったらもっと点入ってそうだけど、得点数が少ないってことはフィニッシュ苦手なんだろうか。

 相手の嫌がるところも突くことができていたし、結果はともかく内容としては上々の滑り出しではないだろうか。大目標は因縁のソシエダとのファイナルになった国王杯だろうが、そこに向けて状態を上げていきたいところだ。

 あと、ウナイ・シモン覚えました。

■個人的に気になるジョレンテのこれから

 前半はビルバオに優位を取られてしまったアトレティコ。左サイドで生じた問題については、コンディション面で頭からインテンシティ高めにいけなかったんだ!という可能性もあるが、ポジション自体は下がっているし、カラスコの攻撃時の役割を考えるとなるべく高い位置に残った方がいいだろうから、なんで?という部分の疑問はぬぐえない。ロディをラウール・ガルシアにぶつけた時の身長のミスマッチ解消が違う問題を引き起こしたと捉えるのが自然に思える。前半のうちに追いつけたのは幸運でもあり、さすがでもある。

 打って変わって後半はボールを握ってと二面性を見せたのは、今季のアトレティコの取り組みらしい変化といえそうである。ただ、ボールを落ち着いてもった時の破壊力という面ではどうだろうか。この試合でいえばマルコス・ジョレンテは抜群だったが、相手が前に出てきたときにドリブルでスペースを切り裂く方がより強みを見せているように思う。リバプール相手にやれたのは相性の部分もありそう。この試合で見えた課題は押し込んだ時に手詰まりになる可能性である。

 ただ、交代の時間や選手の顔ぶれを見ると、この試合は初めからある程度決めた枠組みの中で選手を入れ替えていた可能性もある。そうした制約の中で後半しりすぼみになったのは何とも言えないところである。個人的に気になったのはマルコス・ジョレンテを高め固定にするなら、ジョアン・フェリックスどうするねん!です。

試合結果
2020/6/14
リーガ・エスパニョーラ 第28節
アスレティック・ビルバオ 1-1 アトレティコ・マドリー
【得点者】
ATH:37’ ムニアイン
ATL:39’ ジエゴ・コスタ
主審:ゴンサレス・ゴンサレス

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