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「マルティネッリのクロスの意義」~2024.11.6 UEFAチャンピオンズリーグ リーグフェーズ 第4節 インテル×アーセナル レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

意外性のある左サイドからの攻勢

 3節を終えてここまで無失点同士のインテルとアーセナル。アーセナルにとってインテル戦はポット1のアウェイゲームであり、もっともタフな一戦という位置づけだ。

 まず、抑えておきたいのはアーセナルがリーグ戦のメンバーを踏襲している一方で、インテルが今季のCLの基本線であるターンオーバーでリーグ戦とは異なるメンバーを起用したということ。リーグ戦のスターターからはテュラム、ディマルコ、バストーニ、ムヒタリアン、バレッラの5枚が外れる構成となった。

 序盤はインテルがペースを握る。意外だったのはインテルがペースを握ったことそのものではなく、左サイドから進撃をしていったこと。ディマルコとバストーニがいなくなった左サイドは個人的には攻撃は割引かと思っていたが、序盤は大外のダルミアンからインテルがアーセナルのボックス内に入っていくスタート。代わった選手がきっちり仕事を果たして主導権を掌握する。

 ダルミアンの後方のビセックは右で起用されることが多いCBと記憶しているが、左サイドでもサカを置き去りにするドリブルからキャリーをするプレーもあった。先にいっておくが、後半での跳ね返しでの貢献も含めてビセックはこの日のインテルでもっとも輝いた選手の1人だと思う。

 インテルの左サイドに対して後手に回る上、序盤はボールの失い方が悪かったアーセナル。序盤の10分ほどの閉塞感は相当のもので、インテル相手にまともにセットして攻める場面すらなかったほどだ。

 アーセナルが落ち着くきっかけになったのはプレッシングの整理である。インテルの3バックでのビルドアップに対して、SHは無理に出て行かずにステイ。2トップが横にスライドしながら制限をかける。ややニュアンス的な表現になって申し訳ないが、時間の経過と共にインテルのバックスがボールを動かすというよりも、アーセナルがインテルのバックスにボールを動くように迫る場面が多くなった。

ファークロスを狙う意義

 インテルはプレスに出て行くところとリトリートを使い分けながらアーセナルの攻撃に対応した。基本的には時間経過と共にリトリートの割合を増やしながら守っていると表現して差し支えないだろう。

 アーセナルが押し返す要因になったのはまずはロングボールを収める先が安定していたということ。中央からサイドに流れてつっかけるハヴァーツと、右サイドのサカはロングボールのターゲットになっており、手軽に前進ができるきっかけになっていた。

 もう1つはアーセナルの大外へのインテルの対応である。インテルはWBを手前にしつつ、IHを後方に構えさせる二段構え型のダブルチームを組んでいた。アーセナルの右だったらサカと対面するダルミアンの後方にジエリンスキが立つ。左のマルティネッリのカバーにはフラッテージかあるいはラウタロが時折戻ることもあった。

 こうなると、マークが浮きやすいのはサカの手前である。トーマス、もしくはトロサールがダブルチームのジエリンスキの背後に登場。インテルがWGの対応のために下がってあげた中盤のスペースを活用することで逆サイドへの横断のルートを作り出していく。

 左サイドのサポートにホワイトが顔を出すなどSBの仕事にも裁量の広さはあったかもしれない。いずれにしても基本的には右サイドで前向きの選手を作り、逆サイドへの横断、大外で引き取ったマルティネッリからのクロスでボックスに迫る形であった。

 そうでない向きも多いのは理解しつつ、自分はマルティネッリのプレー自体は好印象。ファーサイドへのクロスを基本の狙い目として、巻くようなクロスは単純に相手のバックラインは対応しにくい。アーセナルは右サイドで制空権を取れているわけではないので、単純な高さ勝負で打ち負かす場面はなかったが、下がりながらの対応は不安定になりやすく、二次攻撃や得意なセットプレーへのチャンスになりやすい。

 それでいて、マルティネッリのキックは大外に誰も触らずに流れてゴールキックになるケースが少ない。もちろん、このクロス自体が殺傷性を持てれば理想だが、それでも相手を動かしながら二次攻撃をうかがえるのは悪くないと思う。

 自分はワールドトリガーというマンガが好きなので、同じこの漫画の愛読者に伝わる(そうじゃない人はここ読み飛ばしてください)ようにマルティネッリのクロスを表現するのであれば「そのクロスは相手を動かすためのクロス」である。加古隊長です。ブロックを固めている相手をこじ開けるためにはスペースが必要。相手に難しい対応を強いる外に流れるクロスでインサイドのスぺ―スを空けるイメージである。

 マルティネッリのクロスで終わる形を重要視したことにはネガトラにおいても大きな意味がある。アーセナルにボールを持たれる時間が長くなるということはインテルの攻撃は当然カウンターがメイン。インテルのカウンターはラウタロまでボールを届けることが出来れば、大外からの攻め上がりの時間を作ることが出来て、攻撃が間に合うことが多かった。

 背負った状態でもサリバに対峙できるラウタロは非常に優秀。少しのスキでも体の向きを制御して攻めあがる味方のスピードを落とさないようなスルーパスを送ることが出来る。

 そのため、下手なパスミスをすればアーセナルはカウンターから素早くラウタロにボールを預けられてしまい、一気に自陣に攻め込まれてしまう。逆説的な話での証明になるが、失点シーンのきっかけもサリバからファウルを奪取したラウタロから。

 押し込みながらファーへのクロスを両サイドから狙うアーセナルと、ラウタロに預けるカウンタベースのインテル。初めの10分以降は異なる毛色で均衡した展開だったが、前半追加タイムのハンドによるPKでインテルが先制ゴールを決める。

ハヴァーツをサイドに解放しアクセントに

 前半のアーセナルの課題はサイドの攻撃のフォローであった。より具体的に言えば、ハーフスペースの裏抜けである。ファーサイドに狙うクロスに関しては上に述べた通り方向性としては悪くはないが、仕留めるだけの擦傷性が足りない。大外に対してニアで裏抜けをする選手が特に左サイドにいないことで停滞感はあった。要は左サイドにハヴァーツが足りない。

 この課題はニューカッスル戦と同じ。レビューでは解決策としてメリーノがサイドでハヴァーツ役をやるか、ハヴァーツをIHに下ろしてボックス内にジェズスを入れるかという策を提示した。試合終了の会見ではメリーノのコンディション面の不良についても口にしていたため、タクティカルな側面がどこまであるかは難しいところだが、後半は後者のプランをテストしたということになるだろう。

 ハヴァーツがCFから離れることで真っ先に懸念されるのは陣地回復におけるターゲット役の代替をジェズスができるかどうか。これに関しては問題なく、デ・フライ相手にもボールを収めながら味方が攻めあがる時間を作ることが出来ていた。

 サイドへのフォロー役もハヴァーツとトロサールが流動的に左右に顔を出すことで担保。前半よりは相手を動かしつつ、ボックス内への迫り方に多様性をもたらすことが出来ていた。

 プレッシングは中盤から人が前列に出て行くことでインテルへの圧力を上げる。前半は2トップのスライドがベースだったが、後半は枚数を合わせるようなアプローチになったというイメージである。

 アーセナルは前に人をかける分、当然ながらリスクが増大。インテルはショートパスをつなぎながら裏返し、前半以上に効果的なカウンターを仕掛けることが出来るようになった。リスクは増大しているが、少しでもトランジッションの成分を増やしたいアーセナルからすれば、後方の守備ブロックを信頼するこの決断は妥当性があるものと考える。

 実際のところ、アーセナルはインテルのカウンターのリスクを避けながら攻撃に専念することはできていた。70分台に関してはもっともアーセナルが効果的に敵陣に攻め込むことが出来ていた時間帯。クロス主体の攻撃は変わらないながら、ギリギリのクリアで紙一重のシーンが増えた。

 インザーギの手打ちは5-4-1へのシフト。前進はテュラムに託し、サイドの攻撃をきっちり封鎖することに傾ける。

 この手打ち以降、アーセナルは苦しくなった。サイドでボールを動かすアクションがなかなか効果的なものにはならず。ジンチェンコが上げたクロスはマルティネッリのそれとはまた異なる「相手を動かさない」タイプの人を目がけたものである。

 ニューカッスル戦に引き続き切り札として入ったヌワネリはミドルをはじめとしてライン間で待つだけだった先週末よりはできることを見せた。カットインしながら相手を動かすことはできていたので、あとはサイドのサポートをするランができるようになりたい。

 多くのシュートを浴びせながらこじ開けることが出来なかったアーセナル。2戦連続の0-1の敗戦でCL今季初黒星を喫した。

おまけ

 林さんが「ビルドアップは3-2-5を固定した方がいいのでは?」といっていたらしいので、そこについて見解を。HTの解説を聞く限り、林さんの意見はざっくりと下の図で保持時の形を固定した方がいいのでは?という話だった。

 ここからサカとホワイトの間にトロサールが落ちるというイメージでインテルの2トップの脇から前進をするという形である。

 3-2-5の固定という言葉の定義は難しいが、上の図をベースにトロサールが移動するところまでを役割の固定と定義しよう。

 自分の認識としてアーセナルは22-23シーズンに3-2-5で固定したシステムを採用した結果、相手のハイプレスをいなし切ることが出来ず、プレス耐性の更なる向上が必要とされていた。

 それを踏まえて、よりショートパスでの組み立てに優れているラヤの加入やインサイドとアウトサイドの両面でプレーできるSBの活用(ティンバーの加入&冨安のインサイド化&トーマスのコンバート)により、動くアンカーとなったライスにより後方の陣形の流動性を獲得。相手の対策が難しくなり、プレス耐性が高まるという流れになったのが23-24シーズンだ。

 24-25シーズンもカラフィオーリの獲得等23-24シーズンの道をベースに進んでいるように思う。3-2-5固定の提案はいわば22-23シーズンへの回帰である。22-23シーズンのように役割を整理して立ち位置が固定する方向性はやる側は楽ではあるが、対応する側も楽という関係性になっていると考える。

 勝てない苦しいチーム状況において、まずは自分たちのやるべきことを整理するというのはわからなくはない。ただ、ビルドアップに関してはそこまで自分たちが混乱しているようには思えず、不定形で枚数を調整しながらバランスを維持できているように思う。いわば、自分たちは楽で相手だけを困らせている状態になっていると考える。

 この試合に話を戻す。攻略のためにインテルの2トップの脇に起点を作るべきというのは正しいだろう。ただ、降りる選手は別にトロサールに限らないでもよい。サリバでもホワイトでも問題ない。そうした方が相手側の対応は多様化するはずであり、その分相手のチームの中の連動にギャップが生まれる可能性は高まるはずだ。

 以上のことから特段ビルドアップで3-2-5の配置固定にこだわる必要はないと思う。ただ、アタッキングサードにおいてはもう少しハーフスペースの裏抜けを繰り返してもよいと思う。特にメリーノに関してはビルドアップ時に下がった後、上がり直すのに迷いが見られることが多い。ボックス内の飛び込みとハーフスペースの裏抜けというアタッキングサードで求めることをまずはきっちりやってもらうという方向性でもいいのかもしれない。

あとがき

 インテルは非常に力のあるチームであり、先制点が大きなファクターになるのは明らかな相手だっただけに、ああいった形で点を奪われるのはなかなかにつらいものがあった。わずかなこときっかけでもスコアが入ればこういう強いチーム相手の一戦は一気に難しくなる。

 惜しいシーンはあったし、この試合でできることはやり切った感があったが、インテルは週末も考えながらプレータイムをシェアするマネジメントを重視している。疲労分散と結果を得ることをどっちも持っていかれたのはシンプルにひっくり返す力がなかったなと言いう感じ。それでもニューカッスル戦に比べれば扉を叩くことはできていたから報われてほしかったけども。

試合結果

2024.11.6
UEFAチャンピオンズリーグ
リーグフェーズ 第4節
インテル – アーセナル
スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ
【得点者】
INT:
ARS:
主審:

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