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「ウーデゴール帰還の意義」~2024.11.26 UEFAチャンピオンズリーグ リーグフェーズ 第5節 スポルティング×アーセナル レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

右サイドのライス登場の位置づけ

 CLも半分が終わり後半戦に突入。ボヤっとしていたレギュレーションもようやく輪郭が見えてきて、そろそろ現実的な目標と星勘定を始めるフェーズに突入したといっていいだろう。

 現在12位のアーセナルとしては勝ち点を得ることも大事だが、上位の勝ち点を削ることも大事。そういう意味で2位につけるスポルティングとのアウェイゲームはシックスポインター的な扱いといえるだろう。

 序盤からボールを持っていたのはアーセナル。いつも通り、右サイドを軸とした仕掛けで主導権を握り、7分にはあっさりと先制ゴールを決める。

 先制点のポイントとなったのは右サイド偏重の攻撃。具体的にはライスが右のハーフスペースに出張したことが大きなポイントとなった。トーマスも右サイドに偏る布陣となっており、この時点でサイド攻撃の参加者は5人。いわゆるオーバーロードに近い形でのサイド攻略となった。

 トリガーになっているのはウーデゴールの動き出しである。右の大外、サカとティンバーの間に流れたり、あるいは低い位置でビルドアップに関与したりなど、あらゆる場所に顔を出すウーデゴール。本来は右のハーフスペース付近が基本ポジションではあるが、そこから大きく動くことは今のアーセナルの右の特徴の1つだ。

 対面の守田はウーデゴールの動きを気にしており、時には深追いすることもしばしば。よって、スポルティングもこの右のハーフスペースを空けることが多かった。

 ライスがこのウーデゴールによって生み出されたスペースを使うことでアーセナルは右サイドの裏抜けの起点づくりに成功。ラインブレイクからマルティネッリの先制ゴールにつながることになった。この試合では左のCHのライスが守田の空けた位置に侵入するアクションが特に際立っていた。

 だが、右に寄る動きは別にライスに下された特命ではないだろう。この試合でも序盤はトーマスがこの高い位置を使おうとしていた。結果的に対面のエドワーズがトーマスについてくるアクションをしてきたので有効にはならなかったが、狙いは見せていたということだ。

 そもそも、週末のフォレスト戦の2点目の場面ではトーマスが先制点のライスが入り込んだ位置に近いところからゴールを決めている。週末の試合の際にはウーデゴールの裏抜けのアクションによる守備者のおしのけ(この試合で守田を釣りだしたのと同じメカニズム)、サカに守備側がダブルチームをつけたことによってトーマスは完全にフリーになった。

 なので、感覚としてはライスにここを使わせる仕掛けをメインに組んでいたというよりもいくつも仕掛けを施した中でライスを使った形がもっとも綺麗に刺さったということなのだと思う。今のアーセナルは右の崩しが明確な強みになっているので、その分こちらのサイドにはいろいろな仕掛けを入れ込みやすいのだと思う。

 ウーデゴールのサイドフローに合わせてやや右サイド寄りに左のCHが入ってくる動きもメリーノがフォレスト戦の後半ですでに見せている。こちらも特殊なものではないだろう。サカとウーデゴールというスペシャルなコンビを活かすための仕掛けの種類が今のアーセナルには増えている。それを象徴するような先制ゴールだった。

アーセナルCB陣のギェケレシュ対策

 スポルティングは自陣からショートパスで脱出口を探りに行く。アーセナルはサカがイナシオの外からプレスにいく形になっていたので、実質4-2-4のような形でプレスに出て行くことが多かった。

 スポルティングの前進のルートはこのアーセナルの前がかりなSHの背後だった。スポルティングの左サイドはサカの背後を取るアクションを見せる守田、右サイドはマルティネッリの背後に降りてくるトリンコンがパスを引き出す役となり、ここから一気に前進を狙っていく形をとっていた。

 ミドルゾーンから先の前進は前線の選手に当てるやり方が主だった。ターゲットになるのはギェケレシュ、そしてエドワーズの2人だった。個人的にはスポルティングはこのミドルゾーンから先のフェーズに問題を抱えていたと思う。

 前提としてアーセナルのギェケレシュ対策はとてもよく練られたものだったと思う。ギェケレシュを活かした突破で最も怖いのは体の強さである。特に体を当てられた際に強さを発揮することが多く、ボールを取りに来た相手に対して体をいれつつ加速することで、相手を抑え込みながら置き去りにするケースが多い。

 なので、アーセナルのDFが徹底していたのは加速されそうになった場合はあえて離して守ること。ギェケレシュは外側、アーセナルのDFは内側という位置関係を守ることを優先する。

 アーセナルのCBくらいスピードがあれば、相手が加速しても間合いが取れれば入れ替わられることはない。ただし、終盤に出て行ったキヴィオルが千切られたことからもわかるようにこれはガブリエウとサリバのポテンシャルありきのところが大きいことは留意すべきだ。

 もちろん、加速されないに越したことはないので、反転をさせる前に解決できる!と判断した時にはきっちりと寄せることも怠らない。寄せるところと離して守るところの使い分けが非常に見事だった。

 左のシャドーのエドワーズに関してはトーマスが守田を気にすることが多かった影響から、ライン間でフリーでボールを受けることが多かった。ただ、スポルティングはエドワーズにフリーでボールが入った後の設計があまり見えてこず、迷っているうちにアーセナルのリトリートが間に合ってしまい、結局はブロック攻略を強いられることが多かった。抑えられていたギェケレシュと異なり、こちらは単純に活用するプランが準備できなかったように見えた。

 結局、スポルティングの攻撃はアーセナルのブロックの外から狙うものが多かった。例えば、右のWBのクエンダのカットインとか。彼はとてもいい選手。先制点のシーンではマルティネッリを逃がしてしまったが、対面の守備では簡単に動かないし、動いた時には少なくとも引き分け以上に持ち込むことが出来る。攻撃面でのポテンシャルももちろんだが、水準以上の可能性を感じさせる非保持面での対応もとても優れていた。

 だが、やはりブロックの外からの攻撃なので確実性に欠ける。押し込んだ際の攻撃においてはブロックに入り込めるアーセナルの方が上だった。トーマスの隣を誰が使ってもいいように空ける3-1-6のような形から浮いた人員を右サイドに偏重させて、浮き球を軸にハーフスペースの奥を取りながら攻め込むという先制点の形は引き続き有効。トーマス→サカの浮き球のパスから最後はハヴァーツが仕留めてリードを広げる。

 そして、3点目はセットプレーから。プレミアでは対策が目立ってきたガブリエウの飛び込みだが、スポルティングは体格で明確に劣るアラウホをマーカーにつけて、インサイドでのカバーがいなかったことを見ると、対策が不十分だったのだろう。あとは正確なキックさえ飛んでくればもう防ぎようのないゴールに思えた。

 試合は前半で0-3のリード。アーセナルが主導権を握り、スコアを動かすことが出来た前半だった。

ウーデゴール主導が主導する反撃

 後半も引き続き、アーセナルは前からのプレッシングに出て行くスタンス。スポルティングもショートパスからボールを動かしていくことでこのプレスの脱出を狙う。

 前半と同じような光景だったが、スポルティングは守田のインターセプトから左右に動かし、中央に作ったスペースから守田がミドルを放つことで前半とは違いがある!ということを主張する立ち上がりとなった。

 さらにセットプレーからカラフィオーリを振り切ったイナシオが素晴らしいゴールを挙げてスコアを動かすことにも成功。反撃ムードが出てくる。

 このゴールで動揺が見えたのはアーセナルの左サイド。マルティネッリが自陣を埋めるようにラインを下げることを優先することでこちらのサイドのCBであるシン=ジュステがボールを運ぶことが出来るように。スポルティングが押し返すためのきっかけを作っていく。

 アタッキングサードでは中央にポジションを取ったギェケレシュがポストから味方を活かす場面が増える。スポルティングが押し込んで前線に多く人数を送り込めるようになった分、反転せずとも味方を活かすことが出来たギェケレシュ。きっちりと後半に存在感を示したパフォーマンスだといえるだろう。

 押し込むフェーズが増えたスポルティングに対して、アーセナルが活路を見出したのはプレッシングだった。右サイド主導で高い位置からボールを奪いに行くと、ここからのカウンターでPKを獲得。イナシオを交わしてボックス内に侵入したウーデゴールがカバーに入ったディオマンデからファウルを誘発。これで反撃ムードに水を差す4点目を決める。

 この流れの取り返し方はチームが上向いている証拠だと思う。これまでのアーセナルであればイナシオの追撃弾が決まった時点で、リトリートを優先し、5バックもしくは6バックに移行してもおかしくはない。つまりはシン=ジュステを放置したマルティネッリの行動指針が是とされることが基本だったということである。

 だけども、右サイドは高い位置からのプレスを主導することでいわば先制する前と変わらない戦い方からリズムを取り返しに行っている。もちろん、ベタ引きの6バックが悪いわけではない。アーセナルはボックス内の守備の堅さで言えば欧州でもトップクラスのチームだし、この堅さを生かして逃げ切った試合や守り切ったポイントはいくつもある。SHの守備意識の高さもこのプランにうってつけ。今後もよりタイトな試合では実装することは普通にあるはずだ。

 その一方で、そのほかの主導権の取り返し方がない故にリトリートにチームプランが傾倒していたのも事実だろう。そういう意味でウーデゴールが舵を取ってプレスから主導権を握り返した成功体験は大きい。チームとしてもこういうところでアクセルを踏む余裕ができたということもあるだろうけども、ピッチ内で前向きな守備から主導権を取り返すことを仕切れるという意味でもウーデゴールが戻ってきた意義は大きい。

 アーセナルは4点目以降も下がり過ぎないプレスから前向きの矢印を失わないような守備を実践する。スポルティングはトリンコンのキャリーなどからCHの積極的なミドルで押し込むフェーズを作ってはいたが、アーセナルの保持に対してハイプレスに出て行けない分、保持の主導権を握ることに関しては据え置き感があった。

 ヌワネリに経験を積ませながら、トロサールのゴールという得失点的に大きい1点を乗せることが出来たアーセナルにとっては理想的な終盤だったといえるだろう。難所であるポルトガルアウェイを攻略し、アーセナルはストレートイン圏内の7位に浮上した。

ひとこと

 前半のリズムよく得点を重ねる時間帯も気持ちよかったが、後半に反撃に遭いそうなフェーズから主導権を取り返すことが出来たというのが何よりも大きいと思う。後半戦になれば、おそらく主導権を長い時間がっちり握る試合だけでなく、綱引きのような試合も増えるだろう。だけども、今のアーセナルは主導権の先に得点があるチーム。なので、主導権を前向きな矢印で取り返す力があるチームだと示すことが出来たことがこの試合の一番大きな収穫だ。

試合結果

2024.11.26
UEFAチャンピオンズリーグ
リーグフェーズ 第5節
スポルティング 1-5 アーセナル
エスタディオ・ジョゼ・アルバラーデ
【得点者】
SPO:47‘ イナシオ
ARS:7’ マルティネッリ, 22‘ ハヴァーツ, 45+1’ ガブリエウ, 65‘(PK) サカ, 82’ トロサール
主審:シモン・マルチニャク

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