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「準備の跡が見えた新潟」~2024.10.9 Jリーグ YBCルヴァンカップ Semi-final 1st leg アルビレックス新潟×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

新潟の施した準備

 ルヴァンカップは準決勝の4チームが出揃うフェーズに。ビッグスワンでは昨季の天皇杯の再戦となる新潟×川崎が開催される。

 2週間前のリーグ戦での対戦では新潟のボール保持に対して、川崎がハイテンポで高い位置から捕まえに行く構図であった。しかしながら、この試合で目に付いたのは川崎の保持に対する新潟のプランが非常に明確で機能的だったことである。

 新潟の4-4-2という仕組み自体は等々力でのリーグ戦と異なる形ではあるが、プランは異なっていた。まず、トップの2人がCB(特に左のアイダル)を明確に捨てて、中盤を固めに行く形であった。川崎の中盤にボールが入ると、前線の長谷川や小野は中盤と連携して挟みに行く。CBに出て行かないことで4-4-2のギャップを作らずに、前進のキーポイントを抑える形を意識する。

 アイダルはこうした陣形を向こうに回してのビルドアップはとても苦手。前回のリーグ戦の新潟のCB陣と同じく、長いレンジをのパスを刺すのは得意だが、ドリブルで相手を動かすことは得意ではない。そういうCBにとって、新潟のこの日の「刺したい場所に待ち構える」陣形は天敵である。中盤では供給役のCHも潰されているという苦しい状況だった。

 加えて、このプランは新潟のCHの弱点である守備におけるカバー範囲が広くないことをカバーすることもできる。守備に出て行く範囲をあらかじめ絞ることで、前プレ時に発生する連鎖的な守備の乱れを予防することも可能。相手のCBの弱みを晒し、自分たちの守備における弱みを覆い隠す準備をきっちり新潟はしてきたということである。

 ただし、川崎は直近の町田戦で見せた三浦を活かした前進の手段がある。CBと同じ高さに立つ三浦がフリーでボールを受けると、そこからのパス交換で列を上げるアクションを見せる形である。

 この試合では大外の低い位置でマルシーニョが受けて、その背後に遠野が抜けるというパターンがほとんどであった。

 しかしながら、このパターンも新潟を前に通用しなかった感がある。三浦を活かした町田式殺法の肝は相手が三浦を潰すために出てきたところの逆を取り、列を上げた三浦が再びボールに関われることにある。2つの上の図である相馬はその餌食になったといえる。

 だが、太田はそもそも低い位置に立つ三浦には特にケアしなかった。だが、三浦が列を上げようするとそれに影のようについていく。相馬が餌食になったのは「前に潰しに行くことの逆を取られて」三浦の列上げに対応しなかったことが理由。太田は「前に出て行かずに列を上げた時のケアに絞って」三浦をケアしていたので、川崎は列を上げた三浦がふたたびボールに関わることが出来なかった。

 逆に川崎の右サイドは谷口が積極的に列を越えたプレスを仕掛けていた。よって、ファン・ウェルメスケルケンに背中を取られるケースもあった。だが、こちらのサイドは大外を取ることが出来る選手がファン・ウェルメスケルケン以外に不在。右の大外の裏を突くことが出来る選手がいない。時折、遠野などが顔を出していたが、いずれも単発で構造として活用していたかといわれると疑問が残る。

 まとめると、アイダルの放置、三浦を使った町田式殺法への対策がいずれも効果を発揮。新潟の準備が川崎にきっちり刺さった格好だろう。

 こうした状況で川崎は何ができたか。新潟のプランは基本的には川崎のDFラインに持たせてOKというものである。DFがフリーであるならば、気楽にトライできるのは相手のDFの裏を一発で通すアクション、もしくはCFへのロングボールである。

 そういう状況において、遠野のような長いボールをどうにかする適性が全くない選手が前線にいるというのは川崎にとっては厳しいところ。味方のFWが作ったスペースを使うのが得意な選手なのはわかるが、今の川崎の2トップは中盤に降りてゲームメイクするか、ポストプレーをやるか、もしくは奥に引っ張りながら相手を押し下げるかのどれかを効果的にできないと難しいように思う。

稲村がゲームチェンジャーに

 新潟は保持面でも非常に明るい見通しを立てることが出来ていた。基本的な仕組みが変わらないのは非保持面と一緒。GKを絡めつつ、両CBそして両CHを軸として布陣を変えながら相手のプレス隊をショートパスで剥がしていくプランである。

 違いとなったのは左のCBに入った稲村だろう。ボックスの横付近に広がり、対面でマークする遠野とエリソンの守備範囲を広げることで駆け引きをより楽に。川崎の前線の選手たちはインサイドを消した!と思っても、結果的には背中側に立つ新潟のCHにボールを通されることもしばしば。

 川崎の中盤からすると「遠野の背中はパスコースを切れているだろう」という想定なので、当然出て行くのも遅れるという形であった。このように稲村を軸とした駆け引きに関して川崎は完敗。序盤に追い込むような形を作ることが出来たにもかかわらず、遠野がファウルで相手が落ち着く隙を見せてしまうなど、完全に詰めが甘い。勢い任せの4-4-2は晴れていて稲村を装備している稲村には完全に機能しなかった。

 敵陣に運ばれた場合はサイドに自由に流れる小野がアウトナンバーとなり、守備を乱しに行く。川崎の4-4-2の守備は2トップがプレスバックをしないことになっているので、外の小野に対応しようとすれば内側が空く、もしくは外の小野に対して枚数が足りないという事態が頻発した。

 こうしたクリーンに2トップを外された部分以外にも新潟はトランジッションから前進の機会を見出す。川崎の攻撃時には大外で高い位置をとるファン・ウェルメスケルケンが空けたスペース周辺をボールの預けどころに。長谷川を中心に左サイドのハーフスペースにボールを預けて、右の太田で勝負を仕掛ける形でピッチを広く使ったカウンターを仕掛ける。

 太田と三浦のマッチアップは非常に見ごたえがあり、一進一退の攻防が繰り広げられた。この新潟の右、川崎の左で明確に新潟が勝利したところから先制点は生まれる。切り拓いたのは三浦と激しいつばぜり合いを繰り広げていた太田ではなく、サイドに流れた小野。彼からのクロスをファーの谷口が叩き込んで新潟が先制する。

 三浦からするとオーバーラップする藤原が気になったというエクスキューズはあるとはいえ、もう少し小野には寄せたかったところ。逆サイドに振られた攻撃の対応としては山口とファン・ウェルメスケルケンの対応にも不満が残った

 失点した川崎は何とか保持のソリューションを見つけたいところ。後方に降りる役を橘田とし、三浦は背後に抜けきる役という形で役割をマイナーチェンジする。

 インサイドを広げるという意味合いとしてはこのアプローチは悪くなかったように思う。ただし、広げたインサイドを使う人がいない問題が出てくることに。2トップ、中盤の仕事できない問題がここにきて再燃した感もあるし、町田戦では脇坂、山本、河原あたりがこの辺りの仕事をスムーズにやっていた感もなくはない。

 結局、川崎のサイド攻撃はツーマン的な形で強引に攻め切ろうとする形が増えるように。そうなった結果、新潟はサイドでボールを奪いきってのカウンターに出て行ける形が出てくる。

 その結果が前半追加タイムの追加点につながることになる。インサイドに出し手がないファン・ウェルメスケルケンのロストから左のハーフスペースにポイントを作るというこの日の新潟の王道ポジトラパターンが炸裂。右の大外で勝負した太田が追加点を決める。

 この試合でのアイダルの出来は全体的に悪かったが、この2失点目だけは貧乏くじと割り切ってもいいだろう。全速力でおいついただけでもという感じ。そしてこの場面の太田を見ればわかるように。全速力で戻るDFの逆を取るのは優秀なドリブラーに取っては簡単なことということだろう。ロストした際に慌てた橘田が1つ前に出て行った分、中盤の潰しが遅れた時点で、川崎にとっては「アイダルか山口が止めてくれればボーナス」といえるくらい悪い状況であった。

勝負手も外されて試合はワンサイドに

 2失点を前半で喫した川崎は2トップを入れ替えて前からのプレスに出て行くことに。前線とタイミングを合わせて、中盤がボールを潰しにいくという手順を前半は大事にしていた感があったが、後半は中盤が前に出て行くことで圧力を高めていく決断をする。

 しかしながら、またしても立ちはだかるのは稲村を中心とした新潟のビルドアップ隊。脇坂の外切りプレスをキャリーであっさりと振り切ったり、あるいは中盤から前に出て行くところで対面の河原や橘田を置いていったりすることでスムーズに前進する。

 前半はファン・ウェルメスケルケンのサイドから裏を取っていた新潟だったが、あるところから三浦のビルドアップ関与が減ったため、途中から三浦サイドからカウンターを打つようになっていたのも憎いところである。

 川崎の勝負手の圧力をかけたプレスを交わし、新潟は後半頭に次々と追加点をゲット。きっちりと前に出てきたプレスを外した分、川崎は後方の迎撃があやふやに。引いて受けたがるDFラインの中で唯一出ていきたがるアイダルがさらに状況を悪くするという形であった。新潟は早々に追加点を2つとって、試合を決めにいく。

 川崎としては辛いところである。準備した手は使い尽くしたし、ここから先は応急処置だろう。三浦がビルドアップで効かないならばインサイドに絞って仕事ができそうな瀬川、そして空回っていたアイダルに代えて丸山の2枚の交代を行う。

 瀬川はインサイドでポイントとなりつつゴールを決めたし、丸山も投入直後は前に出て行って相手を潰すことができていた。しかしながら、あるポイントからやや空転感が目立つように。瀬川は強引なプレーが目についたし、丸山はズルズル後退して潰す場所を見切れない。その2人の後に交代で入った山本も投入以降に少し押し返す時間はあったが、盤面に何か変化を与えるわけではなかった。

 新潟の流れに完全に飲まれた川崎。3点という重いビハインドを背負って4日後に奇跡の逆転劇を狙う状況となった。

あとがき

 新潟がとにかくきっちり準備してきたなという感じ。アイダルの弱みを晒し、三浦の強みを消すプランで左サイドはほぼ封殺されていたし、川崎はその先には何もなかった。この試合の後半のプレスもそうだが、2ndレグでは新潟に対して効くやり方かどうかよりも、スコアを動かすということを念頭に置かなくてはいけないのもしんどいところ。相性の悪い前プレを軸としたプラン構築になるだろうが、迷いがなくなったことをエネルギーにして何かを引き起こすことをひたすら続けるしかないだろう。

試合結果

2024.10.9
Jリーグ YBCルヴァンカップ 
Semi-final 1st leg
アルビレックス新潟 4-1 川崎フロンターレ
デンカビッグスワンスタジアム
【得点者】
新潟:25′ 谷口海斗, 45′ 太田修介, 50′ 長谷川元希, 53′ 星雄次
川崎:77′ 瀬川祐輔
主審:山本雄大

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