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「崩れない不思議なバランス」~2020.6.21 リーガ・エスパニョーラ 第30節 レアル・ソシエダ×レアル・マドリー レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
あいつらに前をむかせる

 低い位置からボール保持をベースに進める両チーム同士の対戦となった。ベースポジションは4-3-3のソシエダ。アンカーのスペルディアがCBの間に落ちる動きとアンカーの位置に戻る動きを繰り返して、枚数調整をかけているのが印象的であった。

 ソシエダのボール保持の目的はおそらく、メリーノかウーデゴーアに中盤で前を向いてボールを持たせることだろう。そのために、GK、最終ライン4枚とスペルディアでマドリーの中盤をプレスに引き出すことを意識していた。

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 マドリーは高いライン設定でプレス隊は前方にステイするものの、強度はそこそこ。ボールを強引に奪ってショートカウンター!というよりは高い位置から前進ルートを遮断して、ボールを前方に進めない!という意図が読み取れる。

 プレスの受け渡しは非常に慎重。ベンゼマに加えてバルベルデorクロースがプレス隊に参加することはあった。プレス発動に合わせての後方の連動は意識が高かったように思う。したがって、誰が誰につくというマンマーク的な要素は少なかったのだが、カゼミーロはウーデゴーアよりもメリーノを気にしているように見えた。てっきりウーデゴーアが優先事項かと思ったので少々意外だった。実際始まってみると、メリーノはスルーパスバンバン通すから割と気持ちは分かったけど。

 ウーデゴーア、メリーノがフリーで前を向いてからは自在。イーザックが裏でスピード勝負を挑めるし、ポルトゥとオヤルサバルはポジションチェンジを繰り返しながら楔を引き出す。基本は間のパス交換で良い形を模索していた。パス交換をしながら外側ではSBがオーバーラップ。人数をかけて厚みのある攻撃を繰り出そうという狙いである。

   メカニズムは上々、とはいえ相手はレアル・マドリーとなると、ボール運びまではうまくいっても決定機の創出に至るまでに跳ね返されてしまう。骨までは断たせないというのはマドリーっぽい。あとはWOWOW解説の安永さんは「中断前の方がよさげだった」的なことを言っていたので、もう数ランクコンディションに上積みの余地があるのかもしれない。

【前半】-(2)
三角形の意識

 さて、マドリーのボール保持。こちらもベースは4-3-3。ソシエダのプレッシングは4-4-2。誰が前に出てくるか流動的だったマドリーとは異なり、インサイドハーフからウーデゴーアが前に出ていく役割を任されていたようである。ソシエダのプレスはマドリーより圧力が強かったが、マドリーはショートパスベースで回避していく方針だったよう。

 マドリーのボール保持はCBがPA幅まで大きく開く。特徴的なのは彼らの前方のサポートのバリエーションである。PA幅のCBを起点に大外と内側にサポートが入る。一番わかりやすいのはSBが大外高い位置でサポートをし、CH3人のうちの誰かが内側に入る形。

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 バリエーションが見られたのは前方の内側に入る役割の選手。カルバハルやマルセロなどが絞って受けることもあれば、パスを出したCBがこの位置に入ることもある。

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 必ず三角形を作りなさい!という感じではなかったけど、同サイドでの三角形の形成は割と意識されていたように思う。人の入れ替わりが多いがバランスは崩さない。

 ビルドアップ以外でも左のWGであるヴィニシウスを除けば、その他の選手はポジションの入れ替わりが激しかった。自由なマルセロがマイナス収支にならないのは中盤の気の利かせ方によるところが大きそう。パッと見ただけで「誰がこう入って、ここがこうで」と説明できないのは相手チームにとってもやりにくそうである。ソシエダも中盤のパス交換においてはそんな感じだったけど。

 ビルドアップのサポートでプレスを回避し続けたマドリー。ウーデゴーアが1列前にプレスに行く動きをスイッチに行われていたソシエダのプレスのラインも徐々に下がっていく。押し込んだ後は左サイドから攻め込むことが多かったマドリー。外からカットインを狙うヴィニシウスを内側からベンゼマ、クロース、マルセロがサポート。押し込めた時は多角形形成で打開を狙う。

 右サイドからの攻撃は左からのサイドチェンジを受けてのものが多かった。逆サイドのヴィニシウスとは異なり、ハメスはサイドに張ることはあまりせず。サイドチェンジで生まれた広いスペースを使ってドリブルするのは「カルバハル、時々バルベルデ」といった形。オープンスペースからのシンプルな攻撃でエリア内を狙うケースが多く、多人数での崩しの意識は逆サイドほどは高くなかった。開始直後のショートカウンターくらいじゃないかな。

 徐々に試合を手中に入れていくマドリーだが、シュートまではなかなかたどり着けない展開。40分過ぎに突如テンションを高めて、強気プレスからのセルヒオ・ラモスの攻め上がり!みたいなノリノリムーブを始めたのは何だったんだろう。ちょっと不思議だった。

 試合は0-0でハーフタイムを迎える。

【後半】
シンプルなマドリー、ヤヌザイで変化をつけるソシエダ

 マドリーは4-4-2フラットにフォーメーションを変更したように見える。前半から右に流れることが多かったバルベルデがRSH。ハメスは中央で、攻撃の時のフリーマン具合はさらに増したか。後半頭に見られたマドリーの攻撃の特徴はヴィニシウスを走らせるパスでの崩し。ショートパスの意識が強かった前半に比べて、裏抜けベースのシンプルなものが数本続いた。PKが得たシーンもそう。判定自体は微妙だが、前に入られた時点でマドリーとしては攻撃の狙いを遂行できたといえそうである。

 PKで得たリード、前に出ていけるセルヒオ・ラモスの負傷、そしてドリブルで運べるヤヌザイの投入で、この直後はソシエダが攻め込む時間帯が続く。ボールを受けて運ぶことをさぼらないヤヌザイの投入は割と効果的で、中盤を突破してマドリーのDFラインと相対するところまでは運べるようになってきたソシエダ。それだけにヤヌザイのシュートがネットを揺らしたシーンでの落胆は理解できる。オフサイドの判定は妥当ではあると思うけども、いいじゃん!と言いたくなる気持ちはよくわかる。

 次に点を決めたのはマドリーの方。フィフティーのボールを奪い返したバルベルデが力を振り絞って上げたクロスがベンゼマのもとに届いて追加点。まだ見てない人は、バルベルデが結構力振り絞っている感があるのでオススメ。右サイドを何とかしようと駆け巡っていたバルベルデというか、この試合のマドリーの右サイドを象徴するようなゴールだった。

 初めはSH気味だったヤヌザイは徐々に中央常駐になる。どのタイミングかはわからないが、4-3-1-2っぽくシフトといってもいいかもしれない。ヤヌザイもあまり外に張るタイプでもないし、どうせなら中央固めで突撃しよう!という考えなのか。はたまたヤヌザイだけフリーマンの4-3-3なのか。

 なんにせよ、ヤヌザイが内側にポジションを取ることで、ソシエダの幅取りはSBの担当に。一矢を報いたシーンでは交代で入ったSBのエルストンドが深さを作り、同サイドの同じく交代選手であるアルカイデがアシストのクロスをメリーノへ。マドリーは大外のメリーノを逃がしてしまった形だ。

 その後も攻勢に出るソシエダだが、4-5-1にして中盤を厚くしたマドリーになかなか決定的なシュート機会を与えてもらえない。カゼミーロや交代で入ったアセンシオあたりはDFラインに吸収されることも。ここら辺の割り切りはさすがである。

 試合はそのまま終了。マドリーが1-2で逃げ切りを決めて、首位キープに成功した。

あとがき

■ポテンシャルの高さを感じるソシエダ

 ソシエダの試合をレビューするのは初めてなのだが、今季は面白いという評判をやたら聞くチームである。試合を見ると納得。ビルドアップの引き出しは多くみられるし、中盤はテクニシャンぞろいで日本人好みにマッチしそうだと思った。ゴールは認められなかったが、ヤヌザイのミドルのように魔法の杖を振ることができる選手もいて、チームとしてのポテンシャルは高そうだった。

 本文中でも触れたが、コンディションに向上の余地はありそうとのことなので、上積みが楽しみである。ただし、この試合の力関係でいえば一歩及ばなかった印象が強い。「判定に泣く」という見出しをちらほら見かけたが、決定機の数でいえばマドリーに分が合ったようには思う点も記しておきたい。

■物語の続きに向けて

 感じたのは抜け目のなさ。自分がイメージするマドリーらしい90分だったといえる。互いのポジションの入れ替わり方が絶妙。ベンゼマ、クロース、カゼミーロなどはポジションチェンジを繰り返すチームのバランスが崩れないように整える役割がとてもうまい。右サイドのユニットがやや寂しい感じはしたが、カルバハルとバルベルデが根性で何とかしていた。

    マルセロが自由なのはわかるけど、カルバハルが内に絞る動きはいつの間に始めたのだだろう。普段マドリーの試合を見ないだけかもしれないが、あまりイメージがない。本文中で述べた低い位置のサイドでの三角形のイメージも、ここ最近はよく見られる現象なのだろうか。気になる点は多い。あとはアザールバージョンだとどうなるのか、とか。

 レアル・マドリーのレビューを書くのは苦手なのである。強さはわかりづらいし、型を持たないので、うまく表現するのが非常に難しい。それでも、この試合をレビューしたのは今季のCLの物語の続きがあるとすれば、マドリー×シティにありそうだからである。プレミアに加えてJが再開する中で、どこまで追えるかはわからないが、個人的には欧州の中ではウォッチングを続けたいチームである。

試合結果
2020/6/21
リーガ・エスパニョーラ 第30節
レアル・ソシエダ 1-2 レアル・マドリー
エスタディオ・アノエタ
【得点者】
RSO:83’ メリーノ
RMA:50’(PK) セルヒオ・ラモス, 70’ ベンゼマ
主審:ハビエル・エストラーダ・フェルナンデス

 

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