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「新しい日常を探して」~2020.5.16 ブンデスリーガ 第26節 ドルトムント×シャルケ レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
CH後方の攻略パターン

 欧州リーグが日常に帰ってきたというのが正しいのか、はたまた新しい日常の第一歩という表現が正しいのかはわからないが、ひとまずブンデスリーガが欧州の先陣をきってリーグ戦を再開する。というわけでレビュー生活も再出発である。

 再開を彩るのは因縁のレビアダービー。本来ならばブンデスリーガらしいアグレッシブな両チームがダービーで燃え上がるはず。ただし、現状のコンディションは未知数。攻撃的でエネルギッシュなスタイルを両チームがどうまとめるかが注目ポイントだろう。

 試合はドルトムントのボール保持で始まった。ドルトムントはフォーメーションの並びの通り、3バックが等間隔に並んで横幅をいっぱいに使う。両WBのハキミとゲレーロは最終ラインとフラットな位置まで下がることはなく、ビルドアップの最後方は3バックが担当する。

 今季序盤の試合でいくつか予習したところ、シャルケのスタイルは非常にアグレッシブ。絶え間なくプレスをかけて、息をつかせる暇を相手に与えないというスタイルである。大枠で言えばいわゆるストーミング志向が強いチームといっていいはずだ。

 ただ、ダービーとはいえ久々の実戦。序盤から炎を燃やし続けるのは自分たちに重荷となって帰ってくる可能性もある。というわけで行けるときは行くけど、いけないときは5-4-1でブロックを敷きましょう。というのがこの試合のシャルケのスタンスだった。「行くのやめましょう」の判断基準もやや慎重で、難しいと判断したら比較的リトリートの選択を手早くするという印象を持った。

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 それに対してドルトムントはどう対応したか。まずは動いたのはCH。ディレイニーとダフートのコンビは最終ラインのサポートとして、低い位置まで降りてくる。これがシャルケの中盤を釣りだす動きとして有効だった。行動範囲が広いドルトムントのCHに対してシャルケの中盤が押し上げる動きを見せる。ドルトムントのアタッカー陣が狙うのはその背後である。

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 前に出てきたシャルケのCHの背後の部分を使うのがうまかったドルトムント。ブラントやアザールがここの間、もしくは裏で受けるパターンを活用する。ドルトムントのWBが幅を取って対面のWBを引き寄せることで、シャルケのワイドのCBは広い範囲をカバーしなければいけなくなる。下図ではピシュチェクが配球役だが、中央のフンメルスも配球役として貫禄はあったし、アカンジも時折見せる持ち上がりからパスの起点になることもあった。

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 ドルトムントが巧みだったのはこのスペースに入ってくるのがシャドーの2人だけじゃなかったこと。WBのハキミやゲレーロが内に絞って受ける場面もある。彼ら2人は中断明けを感じさせない躍動感であった。そのため、ボールの進め方として大外の裏抜けで相手を押し下げる形もレパートリーに入ってくるドルトムント。降りてくるハーランドを囮にハキミが裏を取った12分のシーンがその一例だ。

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 シャルケが自由にDFラインを上げ下げできなかった一因はハーランドの存在も大きいだろう。スピードもパワーも十分な大型CFには、足が速いとは言えないシャルケの最終ラインは分が悪い。シャルケの最終ラインは彼にピン止めされて、低い位置に受けに行くドルトムントのシャドーを自由に捕まえに行く機会が限られていた。

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 というわけでCBのナスタシッチとトディボは難しいかじ取りを強いられることになる。前に出て行きたいけど、ハーランドの活用できるスペースを明け渡すわけにはいかないからだ。時には積極的に前に出ていき潰すシーンもあったが、食いつけば食いついたでそこを利用するのがドルトムント。22分のシーンのようにブラントがマークマンを引き寄せると、それと連動してアザールが同サイドに侵入。シャドーのコンビが同サイドに顔を出すことによってフリーで間で受ける選手を生み出していた。

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 先制点のシーンもまさしくアザールとブラントが同サイドに入ることで崩したもの。起点は右のピシュチェクで、ブラントが楔を受けに降りてくる動きに合わせて、アザールが裏を狙う動き。

 ちなみにドルトムントは左右のワイドなプレイヤーを試合中何度も入れ替えがち。なんでかは知らないけども。

【前半】-(2)
答えの出ない起点探し

 プレッシングはおとなしめに入ったシャルケ。攻撃面ではマッケニーがアンカーのように振舞う3-1-4-2と表現するのがいいだろうか。

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 序盤のビルドアップのメインルートは左側から。左WBのオツィプカは逆サイドのケニーと比べると引いて受けるシーンが多め。したがって形だけはミシャ式っぽい4-1-5っぽく見えるときもあった。

 前線の中でビルドアップに絡む役割を任されているのはアリのように見えた。引いて受けるアリが前を向くことが攻撃を加速させるのがシャルケの狙いだった。しかし、この日はこのアリがハマらない。ドルトムントの早い寄せに対して前を向くことができず、起点としての役割を果たすことはできなかった。

 ボールをじっくりもたれた時のドルトムントは撤退型の5-4-1だったが、相手のカウンターを止めるべくプレスに転じた時は早かった。防波堤となる中盤の出足が良く、アリに限らずシャルケの中盤の選手が前を向いてボールを持てる機会は稀だった。

   ボールを持つときに時間を与えられたシャルケの最終ラインが、相手を引き付けたり動かしたりしながらボールを動かせないのも、シャルケの受け手が苦しくなる一因だろう。ドルトムントのビルドアップと比べると、出し手も受け手も物足りなさは否めなかった。前線も背負って起点も作れず、裏抜けで押し下げもできず。ドルトムント相手に前でタメを作ることができなかった。

 前を向けないビルドアップに加えて、接触プレーでトディボが負傷。シャルケはなんとかハーフタイムまで1点のビハインドでとどめてエスケープをしたいところだったが、GKのシューベルトのビルドアップミスが痛恨の追加点の起点になってしまう。先制点同様、こちらもラストパスをお膳立てする起点づくりをしたのはブラント。いい選手や。

 展開を如実に表したスコアになったレビアダービー。試合は2-0で前半を折り返す。

【後半】
退けられた本来の形

 2枚の交代カードと4バックへのシステム変更を携えて後半のピッチに降り立ったシャルケは、まさしく予習してきた通りのエネルギッシュなチームだった。はじめから後半勝負という腹積もりだったのだろうか。

 シャルケのプレスの特徴は前の選手たちが内側に大きく絞ることにある。今季前半のライプツィヒ戦では、4-4-2を採用。ただ、ライプツィヒのCHを両SHが絞ってマークしていたので、厳密に言えば4-2-2-2っぽかった。

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 この試合の後半で採用したスタイルは4-1-3-2のような形。真ん中から外に押し出すようにプレスをかけるのがシャルケの形の特徴だ。裏を返せば相手のSBは時間を得ることになる。相手は当然SB経由でボールを回してくるが、シャルケはここで封じ込めるべく全体をスライドする。逆サイドに配置された中盤の選手も中央付近まで極端に片側による。

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 相手のSBのマークはSBもしくはCMFのどちらか。ここで閉じ込めるのが生命線なので、裏だろうが逆サイドだろうがここから脱出されたら一気に数的不利になる。

 利点としては前線で絞る選手が多い分、カウンターに転じた時に数的優位な状況を作りやすいこと。転じることが出来さえすれば強いというイメージだ。これを試合開始からやるのが本来の彼らのスタイル。先行逃げ切りの様相が元々強いのである。

 さて、この日はそもそも2点ビハインドという状況。さらに1点取られたら終了という状況での本来のスタイルの登場となった。

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 立ち上がりはシャルケがボールを握る。4-1-3-2の中央密集スタイルは、この試合においては崩しでも同様。ドルトムントの守備ブロックを中央からコンビネーションで打開することにチャレンジしていた。

 しかし、基本的に相手を中央からかち割るのは難易度が高い。加えてシャルケのアタッカー陣のコンビネーションはやや怪しめ。ということでどうしても避けたかった「ボール保持でどん詰まりからの被カウンターで早々に決着」という最悪のパターンにハマることになってしまう。難しい対応だったとはいえシューベルトは2失点目に続いてやや疑問の残るパフォーマンスになってしまった。

 試合は実質このゴールで終わってしまった感がある。シャルケはそのあとも攻める姿勢は見せたし、ドルトムントは最終ラインが前を向いたシャルケのアタッカー陣と対峙すると危うさを見せる場面もあったのだが、そもそもその状況にもっていくのに苦労した。

 シャルケが反撃の意志を持って臨んだ後半は、華麗なドルトムントのカウンターとWBの豪快な脚力によって黄色く塗りつぶされることになった。

 ドルトムントがさらに一点を加えて試合は終了。レビアダービーは一方的な展開でドルトムントに軍配が上がった。

あとがき

■とがったチームの軟着陸

 2か月もの間が空くという前代未聞の状況で再開したブンデスリーガ。その間の練習も制限されていたということで、本来今季やりたかったことやコンディションはぐちゃぐちゃになっていてもおかしくない。志向するスタイルと現状をにらめっこしながら、どう軟着陸するかの落としどころが問われることになるだろう。

 そういう意味ではシャルケのとがったスタイルは舵取りが難しい。本来のやり方を出せる時間はコンディション的にさらに少なくなるだろうし、かといって引いた時に堅実にやれるタイプのスカッドでもない。後ろの足元がうまくパスワークがスムーズかつ前線にスピードがあるドルトムントとの相性が悪かったのもあると思うので、この試合の結果を必要以上に引きずる必要はないと思うが、中断前の悪い流れをダービーマッチでさらに難しくしてしまった印象もあるのは事実。ワーグナー監督にとってはまだまだ渋い理想と現実のにらめっこが続いていきそうだ。

■新しい日常にテイクオフ

 シャルケとは対照的にブランクを感じさせなかったのはドルトムント。特に両WBのハキミとゲレーロは化け物じみていた。守備時の出足の良さも含めて、この日は彼らの方が新しい日常に向き合う準備はできていたといえそうだ。

 頭からおしりまで上手さを感じさせるイレブンで、連携も上々。負傷者続出を感じさせない出来で逆転優勝に向けてリスタートをすることができた。課題はブロック守備。引いて守る時間が増えると明らかにバタつくので、なるべく避けていきたいところ。じっと我慢してうまくやれるタイプではないように見えるので、止まらずに突き進まなくてはいけない。それだけにこれ以上の怪我人の連鎖は止めたいところだ。

 とはいえ、離陸には成功した感のあるドルトムント。この試合を見て感じるのは止まった時の不安よりも、むしろどこまで突き進めるかの期待の方だろう。

試合結果
2020/5/16
ブンデスリーガ
第26節
ドルトムント 4-0 シャルケ
ジグナル・イドゥナ・パルク
【得点者】
BVB: 29′ ハーランド, 45′ 63′ ゲレーロ, 48′ アザール
主審: デニス・アイテキン

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