MENU
カテゴリー

「1+1の出力」~2010.4.20 UEFAチャンピオンズリーグ semi final 1st leg インテル×バルセロナ レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【まえがき】
ここから始まるヘビーローテーション

 レビューのリハビリを本日よりスタートしようと思う。とはいっても、試合はやっていないので、題材はDAZN配信のクラシックマッチからピックアップする。

 今回の題材は2010年のCLである。2010年といえば、アイドル界でAKB48が世間を席巻している最中。前田敦子と二大エースとしてしのぎを削っていた大島優子が初めて選抜総選挙を制覇して、シングルのセンターを務めたのがこの年だ。

 前田・大島の両巨頭のAKBがアイドルブームの中心を担う一方で、サッカー界でこの年から長年相対することになるのがモウリーニョとグアルディオラの両名である。欧州サッカーファンはここから両者の率いるチームの対戦を「ヘビーローテーション」で楽しむことになる。

 前者がインテル、後者がバルセロナを率いて初めての対戦をすることになるのが09-10シーズンだ。ちなみにこの年のバルセロナとインテルはCLのグループステージですでに対戦済み。年が明けて、AKBから野呂佳代が卒業した2か月後に迎えた今回の準決勝 1st legが3回目の対戦となる。

 バルサはCLの前年王者。新人監督で3冠を達成したグアルディオラが欧州でも勢いを増している時代である。グループステージでのインテル戦では180分間得点を許していない。インテルは前年度CLベスト16。インテルがバルサに胸を借りて挑む。そんな状況で迎えた対戦だった。

【前半】
インテルが捨てたところから

 バルセロナのトレードマークといえば4-3-3だが、この試合の並びを見る限りは4-2-3-1と表現するほうがしっくりくる。ビルドアップに関与するのは主に2CB(ピケ、プジョル)と2CH(ブスケッツ、シャビ)。4人で四角形を形成するというよりは、2CHはどちらかが流動的に降りる形が多かった。

画像2

 シャビとブスケッツは低い位置に降りて受けるだけでなく、機を見て高い位置で受ける判断が絶妙。この試合は欠場していたイニエスタがいれば、おそらくクオリティはさらに上積みされていたことだろう。

 2CBも主にプジョルが横移動を駆使することで広い行動範囲でビルドアップに関与。後方のメンバーは動きながらボールの出し入れを行うことでインテルにプレスの狙いを絞らせていなかった。

 このビルドアップに対して、インテルはハーフライン付近まで1stDFを下げる。相手の最終ラインにはむやみにプレスに行かず、ミリートはコースを切り、スナイデルは中盤をケアすることに重きを置いていた。

 バルセロナが厄介なのはピッチ中央のレシーバーが多いこと。この試合ではトップ下のメッシに加えて、左SHのケイタも絞って受けたり、ビルドアップに関与することも。時にはCFのイブラヒモビッチも下がって降りるなど、中盤でボールを触りたがるプレイヤーが多かった。インテルからすると「前門のシャビ、後門のメッシ」という状況で、前に行くか後ろを気にするか難しい状況だ。

画像3

 インテルはこれに対して、中盤を増員することで対応。SHが自陣深くまで下がるだけでなく、内側に絞ってコースを切ることで、バルセロナに対して外側からの攻勢を許しつつ、内側を締める意識が強かった。エトーが時にはCHと見間違う立ち位置で守っているあたりはモウリーニョのカリスマがなせる業といえるかもしれない。

画像4

 特にカンビアッソとモッタの2枚は中盤の防波堤として機能。ビルドアップでは降りて受ける選手が多いバルサだったが、彼らの多くが前を向けなかったのはインテルの2枚のCHと最終ラインが協力して挟み込むようにプレーを制限していたからだ。

 うまく守っているように見えたインテルだったが、突然ほころびが発生。起点になったのはインテルが捨てた外からカットインしてきたマクスウェルだ。彼に対してマイコン、カンビアッソ、ルシオのいずれも淡白な対応になってしまった。PA中央で待ち構えていたペドロが打ち抜いて先制点を挙げる。シャビとメッシのコンビが珍しく左に流れたことでエトーとモッタが引っ張られた上に、カンビアッソもサイドに出て行ったため、ペドロがシュートしたバイタルエリアはかなりお留守になっていた。モウリーニョのインテルらしくない失点だったといえるだろう。

【前半】-(2)
バルセロナの2つの懸念

 ペップ・バルサの印象で強烈なのは、ボールロスト後のハイプレスからなる「ずっと俺のターン」のサイクル。しかしながら、この試合のバルセロナはそこまで強烈なプレスを発動せず。ボールを奪ったあとのインテルはカンビアッソとルシオを中心に裏へのパスを素早く狙ったので、時間で言えばバルセロナのボール保持は長くなったものの、即時奪回の印象はこの試合ではあまり強くなかった。イブラヒモビッチとメッシが1st DFだと難しいのかもね。それでも先制してから前半30分まではこの俺のターンサイクルが最もうまくいっていた時間帯かもしれない。

 4-2-3-1というバルセロナの布陣がより顕著に見られたのは非保持のとき。ケイタはマイコンを監視する役が多かった。4-2-3-1を使ったのはイブラヒモビッチとメッシで中央の起点を複数作りたかったのか、ケイタをマイコンに監視させたかったのかは不明。

 ただ、バルサは受けに回るとやや弱さを露呈。シャビとブスケッツはフラットというよりはシャビがやや前に位置することが多く、ブスケッツの周辺にはスペースがある状況が頻発。インテルのバックスはこの時代にしてみれば足元に優れていたため、積極的に縦パスを入れるシーンがあった。受け手となるのはエトー。ワイドのスタートから機を見てうちに絞ることで、楔の受け手として機能していた。

 ディエゴ・ミリートは前半を通じて非常に献身的な裏抜けを披露。やや左サイドからの裏抜けが多かったのは、アウベスの裏のスペースが空きやすかったうえに、プジョルよりはピケのほうがスピード勝負で分があると踏んだのだろう。オフサイドを繰り返しながらも、出し手も受け手もここはかなり意識して勝負していた。

画像5

 インテルのラインの揺さぶりが功を奏したのは30分。右サイドでエトーとマイコンがバルサの最終ラインを押し下げると、下がった最終ラインをバルサがうまく圧縮することができず。アウベスが内側に絞ったおかげでフリーになったのは逆サイドに待ち構えていたスナイデル。内側に走りこんでアウベスを釣ったパンデフが助演男優賞である。アシストを決めたミリートはスナイデルと並ぶ主演男優賞。

 同点に追いつかれてからはバルセロナの攻めあぐねが目立つ。降りてボールを受けても、前を向けないメッシとイブラヒモビッチ。アウベスがサイドから上げる高いクロスはイブラモビッチに合わない。点が欲しいにも関わらず、後半の早い段階でイブラヒモビッチが交代させられるのは、起点としてもフィニッシャーとしても十分な働きができていなかったからだろう。メッシとの相性も良くないし。

 一方でインテルは追いついてからは守備の規律がより際立つように。上下左右によく動くバルセロナの面々に対して中盤3枚(スナイデル、モッタ、カンビアッソ)やSB-SHの2枚はチャレンジとカバーを繰り返して対応。マイコンが前に出ていくときは、エトーはSBのような守り方をするときも出てくるようになる。

 ボールを持つのはバルセロナだが、むしろ時折鋭い攻撃を見せるのはインテルのほう。タイスコアだが、ホームチームがやや盛り返した雰囲気で試合はハーフタイムを迎える。

【後半】
プレスもバスも隙はあったけど

 後半の立ち上がりをいい流れで迎えたのはインテル。相手がバルセロナ、タイスコアとはいえアウェイゴールを許しているのだから、試合展開を考えれば必然だ。カンビアッソとモッタの防波堤コンビもハーフライン付近と前半に比べると前に出てくる機会が多くなった。サムエルとルシオも降りてくるイブラヒモビッチやメッシを単独で逃すことなく捕まえたため、インテルは高い位置でバルサの攻撃を止められるように。前に出る強気のプレスへのシフトはインテルにとってプラスに転がった。バルセロナはまったくもってプレスを回避できなかったわけではないけど、プレスを回避した後の攻撃のスピードアップが見られなかったのが気になった点である。

 まさにその「プレスを回避した後のスピードアップ」がインテルの2点目のキーワード。メッシを止めたモッタからカウンターが発動。サネッティの縦パスを受けたパンデフがマークをものともせずに縦に進んでミリートに裏抜けのパスを決めると、最後は内側に走りこんだマイコンがフィニッシュ。パンデフがドリブルを開始したときは、彼より後方にいたはずのマイコンがいつの間にかゴール前にいるのは驚きのひとことである。

 インテルはパンデフに代えてスタンコビッチを投入。スナイデルがプレスで前に行く分、ビルドアップで中盤でバルサが3対2の数的優位を生かしてシャビやブスケッツがフリーになる機会が多かった。そのため中盤で数を合わせてビルドアップに邪魔をかけるためのシステム変更だろう。

画像6

 スタンコビッチは前線でスペースを作ることはできないが、前線のスペースに飛び込むことはできる。リードはしているとはいえ、アウェイゴールを与えているインテル。カンプノウで無失点で逃げ切る確率の低さを考えれば、インテルはここでひきこもることはできないはず。ビルドアップに阻害をかけつつ、得点力を失わないためのモウリーニョの策だろう。

 インテルの3点目はそのビルドアップ阻害から。モッタが即時奪回で奪ったボールから、カウンターが発動。最後はここまで献身的な役割を見せてきたミリートのゴール。スナイデルをフリーにしたアウベスは、2点目に続きポジショニングに疑問符が付く形になってしまった。

 2点のリードを得たところで息をついてペースをやや落としたインテル。後半開始時のテンションで45分乗り切るのは無理な気がするので、しかたないところ。というかペースを落とす前に2点のリードを得ているので十分である。

 機能しなかったイブラヒモビッチをここで見切ったグアルディオラ。アビダルを投入し、マクスウェルと縦に並べる。狙いは正直よくわからなかったが、メッシとイブラヒモビッチの渋滞解消なのかもしれない。

 2点をリードしたところでモウリーニョはバスを止めにかかる。マイコンが脳震盪で負傷したことも一因だろう。ただ、足をつったミリートに代わって登場したバロテッリは相当に怪しかった。右サイドに投入されたのだが、ほぼ攻守に無気力。守備に戻らないし、戻ったとしても立っているだけ。カウンターでも走らないというある意味驚異的なメンタリティ。前年王者をCLの準決勝で倒せそうなときにこのプレーができるのはすごいっちゃすごい。おかげで中央に移動したはずのエトーは、右サイドまで出張して2人分守る羽目になった。

 バスを止めたといっても右サイドのバロテッリという一点の曇りはあったインテル。しかし、バルサもこのサイドから活路を見出すことができない。ポジションは入れ替えて、フリーの選手は作るものの、誰が責任を取りたいのかが見えてこない状況。ポジショナルプレーの目的が見えてこないパターン。ピケのパワープレーなど強引なプレーでゴールを狙いに行くが、機能しないイブラヒモビッチを下げてなお、結果も内容も改善しなかった印象である。

 試合は3-1。ホームでインテルがグループステージの雪辱を果たすことに。モウリーニョにとってはグアルディオラ相手に初めてとなる勝利となった。

あとがき

後方の足元の技術、前線の相乗効果

 率直に面白い試合だった。おそらくこの時代にしては両チームとも、バックスの足元の技術が高かったように思う。バルセロナは言わずもがなだが、インテルもむやみやたらに蹴るというよりは、ミリートやエトーめがけた精度の高いボールが目立った。

 シャビとブスケッツはさすがのうまさで、イニエスタがいれば試合展開はひっくり返すことはできたかもしれない。逆を言えば、イニエスタがいなければこのどん詰まりの展開は避けられなかったようにも思う。メッシとイブラヒモビッチは共に沈黙。個人個人での戦いに終始し、フリーの味方を作り出したり、生かしたりする動きは見られなかった。

 逆にインテルは前線の個の能力が非常にかみ合っていた。裏抜けを献身的に続けたミリートとストライカータスク、ウイングタスク、守備者として様々な顔を見せたエトーを軸にスナイデルとパンデフ、マイコンが合わせるカウンターは非常に美しかった。個の能力でいえばバルセロナに軍配が上がるかもしれないが、足し合わせた時の出力はこの試合ではインテルのほうが上だった。

 インテルの後方で印象的だったのはカンビアッソ。モッタとのコンビではてっきり汚れ役の担当かと思っていたのだが、配球役としても光るものがあった。サネッティもメッシとの1対1で負ける場面はほとんどなく、SBとしても能力の高さを見せつけた。彼らは前に出ての守備も非常に質が高かった。最後はともかく、それ以外の時間帯では、バスを止めるというモウリーニョのインテルの先入観とは少し異なる印象の試合だった。

試合結果
2010.4.20
UEFA Champions League 
semi final 1st leg
インテル 3-1 バルセロナ
スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ
【得点者】
INT: 30′ スナイデル, 48′ マイコン, 61′ ディエゴ・ミリート
BAR: 19′ ペドロ
主審: オレガリオ・ベンケレンサ

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次