MENU
カテゴリー

「揺さぶりはいなされて」~2020.5.26 ブンデスリーガ 第28節 ドルトムント×バイエルン レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
2,3歩手前まで踏み込むドルトムント

 無観客だろうが、中2日だろうが、ミッドウィークだろうが天王山だ。残り試合と両者の勝ち点差を見れば、この試合が泣く子も黙る首位決戦であることは間違いない。今季のブンデスリーガの覇権の決定打となりうるカードである。

 ともにスタメンは前節を踏襲した形。22人中、前節スタメンではなかったのはグナブリーただ1人である。メンバーから考えてもクラブカラーから考えても、自分たちのスタイルになるべく長く引き込むにはどうする?という視点からの主導権の握りあいになりそうである。

 そういう意味で先にクラブの色を出せたのはドルトムントだった。ドルトムントのボール保持に対して、立ち上がりは前に出てきたバイエルン。以前見た時のバイエルンは、SHが外から内に絞るようにプレスをかける旧リバプール方式で高い位置から詰めていた。

画像2

 この試合の立ち上がりもそんな風味でのプレスをドルトムントに仕掛ける。「浮き球で外にボールを逃す」というのは、このプレスに対する1つの回答である。1分のシーンでアカンジがゲレーロに浮かしてプレスを回避したパスを起点に、フンメルスが逆サイドに展開する形を披露。この形はドルトムントでよくみられる展開の1つ。逆サイドで受けるハキミがデイビスと1対1で挑む形まで持っていくことができた。降りてくるブラントもこのサイドチェンジの起点の役割を果たせる選手である。

画像6

 バイエルンは立ち上がりこそ積極的なプレスの姿勢を見せたが、徐々に早めの撤退をするようになる。SHは外→内のハイプレスではなく、リトリートして大外をケアする形だ。ひとまず手合わせした結果、慎重に行きましょうという判断か。まぁ、中2日ですし。

 ハイプレスを取りやめたバイエルンの優先事項は間を締めること。とりわけアザールとブラントがDFライン前で前を向けるスペースをなくすことである。ディレイニーとダフートを自由にしすぎず、ブラントがボールを受けるのはバイエルンの中盤4枚の手前のスペースに限定。シャルケ戦でいいように使って無双した場所をまずは封鎖する。

画像6

 バイエルンの中盤4枚が内側にコンパクトになった分、大外は使える状態になるドルトムント。間でつなぐのはきついが、バイエルンからのプレッシャーの緩い最終ラインから両ワイドへの展開は可能だった。特に狙っていたのはバイエルンの左サイド。大外のハキミ、そしてアザールとハーランドの裏抜けである。

 ドルトムントの攻勢が決め手に欠けていたのはこのサイドでのデュエルで優位に立てなかったからである。バイエルンの守備面では危険なスペースを埋めるゴレツカも手ごわいが、なんといってもアルフォンソ・デイビスの存在が際立っていた。ハキミとの対人はほぼ完勝。アザールやハーランドに出し抜かれたとて、裏抜けを無効化できる加速力は異常だ。やべぇよ。というわけでバイエルンは狙い撃ちされたサイドでドルトムントを返り討ちにしていた。ドルトムントはどうしてこっちサイドを狙ったのだろう。デイビスを押し込みたかったのだろうか。

【前半】-(2)
楔と幅を使い分けるバイエルンの前進

 数回はノイアーを脅かすことはあったものの、ゴールの2,3歩手前で足止めを食らっている感が強かったドルトムント。攻撃を跳ね返される時間が続くと、徐々にバイエルンのポゼッションの割合が増えていく。

 バイエルンのポゼッションの第一段階はCBの2人から。何といっても中心はアラバである。CHは最終ライン深くまで落ちていくことはほぼない。SHは内側に絞り、レバンドフスキとミュラーの計4名が内側の3レーンでパスを受ける構えが多かった。大外はSBのもの。アタッカー陣も流れることもあったけど。トップ下のミュラーがサイドに流れることが多かったのは意外。

画像5

 アラバやボアテングからすれば、中央3レーンのアタッカーに楔を入れられるならそれが第一優先。難しいようならば、デイビスやパヴァールを経由し、斜め方向からアタッカーにパスを入れていく形を狙う。この日はコマンへのパスが攻撃を加速させるスイッチになっていた。

 CHは縦関係。前を務めることが多かったゴレツカはクロスが入る時はPA内へ突撃する役割、後方のキミッヒはボールサイドに寄っていって崩しを手助けする役割と棲み分けられていた。ロスト時にやや中央は手薄になるが、そこは即時奪回の意識の高さでカバー。ドルトムントは反撃のロングカウンターを縦に急げずに後ろに戻す場面が目立つようになる。

画像6

 前線に入った後のコンビネーションは優秀で、レバンドフスキを中心にミュラーをはじめとした受け手の抜け出しをうまく生かしていた。あと1人で打開できてしまうコマンの素早さもドルトムントを苦しめていた。

 じわじわ相手陣での時間帯が増えてきたバイエルン。相手ゴールまであと1歩っていう状況で、決定機といえないわずかなチャンスを決めたのはキミッヒ。このゴールについては事細かに書いてくれているアイドルがいらっしゃるので、こちらを参考にしてください。

ぴしゅちぇく | 日向坂46 影山 優佳 公式ブログwww.hinatazaka46.com

 じりじりとした首位攻防戦はバイエルンが先手を取ってハーフタイムを迎える。

【後半】
サイドチェンジに狙いを絞るが・・・

 ハーフタイムに交代枠を2枚使ったドルトムント。下がり気味でボールを受ける機会が多かったとは言え、カウンターの旗手になっていたブラントを下げたのは結構意外であった。

 下がったディレイニーに代わって、ダフートとコンビを組むのはエムレ・ジャン。2人のCHは縦関係になることが前半より増えただろうか。ジャンが後方でボールを受けることが多く、ダフートが1列前まで上がっていくことが増えた。

 大きなチャンスを得たのは58分。そのエムレ・ジャンが左サイドのアザールに展開したところからのハーランドのフィニッシュは、ドルトムントにとってこの試合で最も大きい決定機だった。

    このシーンのようにドルトムントが好機をうかがうのはサイドチェンジからである。前半に狙っていたデイビスのサイドと逆側を狙うシーンが後半は増えるように。サンチョとアザールの併用は両サイドからドリブルで戦える選手を入れたかったかもしれない。

 それでもドルトムントがなかなかボールを進められなかったのは、前線の選手のパフォーマンスがやや低調だったから。ハーランドはボールタッチが流れることが多く、サンチョは降りて後ろ向きで受けてからの大回りのターンで囲まれてしまう場面が目立つ。特にサンチョはマイナス方向のロストが多く、バイエルンのショートカウンターの温床になっていた。

 前半から引き続き、バイエルンは中央をガッチリプロテクト。サイドの突破がドルトムントの生命線だったのだが、両SHともにバイエルンの選手が密集している内側にカットインするプレー選択が多く、跳ね返されてしまう。正対してボールを受けるところまでは行くんだけど。WBがもう少し外側でフォローして深さを作ってからクロスを上げられていたら、もう少し違ったかもしれない。結構バイエルンのDFはクロスに対してボールウォッチャーになった場面もあったし。

 ただ、サイド突破を中で待ち受けるハーランドは負傷交代。この日の後半は前線で唯一好調だったアザールが中央に移動すると、ドルトムントの手詰まり感は増していく。最後の交代カードのゲッツェも前線に違いをもたらすことはできなかった。

 リードしているバイエルンはどっしり構えていた。5-4-1のドルトムントのブロックを前に、無理な楔を入れず、やり直しを厭わない。下手なボールロストを減らしつつ、相手のカウンターの初動を抑えて芽を摘む。ボール保持は前半から引き続き、右のハーフスペースで楔を受けるコマンがスイッチに。裏を狙うのもこちらのサイドが多かった。ミュラーは相変わらず左右に広く動きながらボールを引き出していた。左のグナブリーやCHのゴレツカは中央のレバンドフスキの近くでプレーする役割だ。

 後半のバイエルンが牙をむくのは時折だった。この日は崩しまくってドルトムントを追い詰めたというよりも、コントロールして試合を眠らせたといった方がいいだろう。逆転を狙うドルトムントだったが、バイエルンを前に90分間沈黙することに。試合は0-1。首位のバイエルンが優勝を大きく引き寄せる1勝を手にした。

あとがき

■ドリブラーで致命傷を与えられず

 優勝が大きく遠のいてしまったドルトムント。立ち上がりは主導権を握ったものの、ゴールに迫る機会は非常に限られていた。前節まで崩しの中心地だったDFライン前でのスペースはバイエルンに完全に消されることに。アザールとブラントが攻撃を加速するスペースは与えられず、交代して投入したサンチョやゲッツェも打開策にはならなかった。

 ハーフタイムの選手交代に関してはドルトムントファンも言いたいことがあるかもしれない。ただ、中央での突破を捨てて、サイドチェンジの量を増やしたのは悪くなかったと思う。裏を狙うのをパヴァールのサイドに絞りつつ、前節まで有効だったアザールとブラントを片側に寄せるアプローチを併用することで、左側からバイエルンの陣形に穴をあけるとかを狙っても良かったかもしれない。この日のやり方だとドリブラーの突破力に拠るところが大きく、残念ながらバイエルンに致命傷を与えるまでには至らなかった印象だ。

武道の達人っぽい

 圧倒的な強さを見せた!という表現というよりは、粛々とドルトムントの攻撃を受け止めたことで強さを示したというほうがしっくりくるかもしれない。ドルトムントの破壊力を封じ込めたのはお見事。引き分けOKの心持があったのかはわからないが、強引に崩しに行く場面はあまり見られず。キミッヒの先取点の後は握った試合の主導権を離さなかった。サイドチェンジで揺さぶるドルトムント相手にも、ほとんどの場面で重心を崩さずに跳ね返す。柔道の達人みたいだった。

 今のバイエルンは4局面で強い!というよりは、得意とする展開を選ぶチームだと思うのでCLでどこまでいけるかは気になるところ。この日のドルトムントよりカウンターのスイッチを早く入れられるチームや、サイドでのマッチアップで劣勢に立つ相手と当たった時にどう戦うかは気になるところだ。

試合結果
2020/5/26
ブンデスリーガ
第28節
ドルトムント 0-1 バイエルン
ジグナル・イドゥナ・パルク
【得点者】
BAY: 43′ キミッヒ
主審: トビアス・スチュイラー

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次