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「全ての要素は跳ね返す材料」~2020.3.11 UEFAチャンピオンズリーグ Round 16 2nd leg リバプール×アトレティコ・マドリー レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
全体ではなく偏重で勝負

 ブロックを組むぞ!というチームで最近よく見られる光景は、DFラインがPAの幅で守るというシーン。最近書いた中ではバルセロナ戦のナポリとか。

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 SHは低い位置まで降りてくることが前提。仮にSBが大外に出ていったら最終ラインまで降りて最終ラインに加わることもある。

 PA幅を4人以上で守る!という手立ては攻める側の高さがない時によくみられる。今回のリバプールもそれに当てはまるチームである。エリア内でまともに空中戦をやれば、アトレティコが有利なはずだ。

 試合開始直後こそアトレティコのシュートで幕を開けたものの、基本的にはリバプールがアトレティコのブロック崩しに挑むという構図だった。開始直後のアトレティコはプレス隊がハーフライン付近、最終ラインはPA手前で4-4-2のブロックを組む。4バックは基本的にPA幅を守ることを優先する。

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 アトレティコの中でマンマーク志向がやや見られたのはSHで、ラインが押し下げられたときにオーバーラップしたSBについていく役割だった。特にコレアはロバートソンへの意識が強め。なんでそんなことになっているかは後述するけども、PAの守備に参加することもしばしばあった。

 今季のリバプールは「ピッチを広く使う!そこからでも攻撃してやる!反撃してきてもいいよ!こっちも打ち合いなら上回れるしさ!」という印象をざっくり持っているのだが、この試合の前半のリバプールは結構ニュアンスが違った。

 まずはピッチ全体を広く使って相手を横に揺さぶる意識は強くなかった。攻撃に関しては右偏重である。左サイドからの攻撃はマネが単独で裏を取れた場合か、何枚も剥がせた場合くらいで、基本的には右サイド主体。アレクサンダー=アーノルド、オックスレイド=チェンバレン、サラーをベースにポジションチェンジ+三角形を形成するのが主なパターン。ここにヘンダーソンやフィルミーノが追加で参加していくスタイルである。

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 コンセプトとしては、多角形の1人が大外に張ることである。ただし、大外から仕掛けるのがメイン!かどうかは微妙なところ。意味合いとしてはアトレティコのLSBのロディを揺さぶる意味合いが強かったと思う。

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 先に述べたように、アトレティコはPAを守る意識が強め。リバプールとの身長差を考えても、妥当な判断ではあると思う。ただし、リバプールの選手は遠い距離からピンポイントでクロスを上げるのが得意。右で言えばアレクサンダー=アーノルドだけでなく、サラーもうまい。クロスも人に対してではなく、スペースに上げれば真っ向から勝負するよりはアトレティコともやりあえる。

 スペースへのクロスを上げるための歪みの下準備がロディへの揺さぶり。大外からクロスがさせるアレクサンダー=アーノルドやサラーを放置していい!となることはやはり多くなく、結果としてロディは大外に出ていく機会が多かった。

 そうなると次に判断を強いられるのはトーマスやフェリペなど同サイド側の中央のプレイヤー。リバプールの選手はニアのハーフスペースへの走り抜けをやっていたので、そこについていくのか、それとも中央を空けるのか難しい判断を迫られることになる。ニアへのラン、サボらないのも大事だね。

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 大まかに言えばリバプールの攻撃の流れは

① 大外で起点を作る。
⇒ロディを揺さぶる
② ニアのハーフスペースに走りこむ。
⇒アトレティコのCHに中央orハーフスペースの2択を迫る
③ クロスorミドルシュートでフィニッシュへ。

 ということでPA内で待ち構えるのは左サイド選手の役割。フィルミーノが右に流れる分、マネとワイナルドゥムはPAで待ち構える役割で、時にはロバートソンもここに飛び込むことが多かった。コレアがPA内を守る機会が出てきたのは、リバプールのPA内担当が左サイドの選手担当てあり、ロバートソンがそこに顔を出す機会が多かったからである。アトレティコとしてはラインを下げられる場面もあったけど、最後の最後のところで跳ね返し続ける展開になる。跳ね返せるのさすがである。

 サイドごとの役割を固定化し、偏重させるやり方はファビーニョがスタメンから外れたこともあるだろう。このやり方ならば、ミドルパスでピッチ全体を支配するファビーニョの不在は苦になりにくい。調子の上がらないファビーニョを外したやり方を模索したのか、ファビーニョが長い時間起用できない苦肉の策だったかはわからないが、彼の不在とこのリバプールの攻め方は相関がある可能性は高いと思う。

【前半】-(2)
狙った形を貫いた先制点

 試合開始15分くらいはアトレティコもボール保持で落ち着く場面があった。ボール保持はややアシメ気味。右サイドはSHのコレアがアタッカータスクを背負って前に出ていく分、コケとトリッピアーが低い位置をカバー。左SHのサウールは中盤としてのタスクがメインで、こちらのサイドはロディが高い位置を取ることが多かった。

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 アトレティコの選手はボール保持も上手なのだが、この日は限られた攻撃の機会で期待されたコレアとジョアン・フェリックスが持ち味を見せる場面はあまりなかった。まぁコレアは守備でもハードワークしていたし、フェリックスも病み上がりなのだけど。

 この日のリバプールは本気モードなので、アトレティコがボール保持に時間をかけていると前線の選手が挟み込みにやってくる。そうなるとなす術がなかったアトレティコの選手たち。1stレグでは破壊力があったロディのクロスもやや精度を伴わない。

 徐々にリバプールに多角形から押し込まれる時間が増えていくと、アトレティコはボール保持の時間確保もままならなくなってくる。ロングボールや流れの中で、ここ数試合のリバプールの泣き所になっているファン・ダイクの裏側を狙う意識は強め。ただ、このボールはゴメスのカバーリングやファン・ダイク自身の身体能力で無効化されることが多々。このアトレティコの狙いも実を結ぶことはなかった。

 一進一退の攻防、ともにシュートまで行ける機会がない中で狙った形をもう一度披露して得点につなげられたのがリバプール。サラー、アレクサンダー=アーノルドの三角形から抜け出して、クロスを上げたオックスレイド=チェンバレンを中央でワイナルドゥムが仕留める。左サイドのPA担当要員であったワイナルドゥムの侵入するタイミングも秀逸だが、この試合を通してオックスレイド=チェンバレンはスムーズにパスをオフザボールで引き出しており、非常に好パフォーマンスが光った選手といえる。

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 先制点を取ってタイスコアに戻したリバプール。1-0のリードで第2ラウンドはハーフタイムを迎える。

【後半】
横幅使用開始

 両チームともタイスコアに持ち込んだことで、どちらも勝ち抜けには得点が必要な状況になった。そのため、後半頭は比較的オープンな展開に。両チームとも得点の可能性を広げつつ、失点のリスクを受け入れる時間帯だったように思う。

 そういう流れの中でシメオネがジエゴ・コスタを下げたのは意外だった。ボールを握られる展開の中で個人で起点を作れる選手だろうし、他の前線の選手の調子も良くない中でセットプレーで強みがありそうなコスタを真っ先に下げたのは賭けだなと思った。フィジカル押しではダイクーゴメスを打ち破れないと思ったのかもしれないけども。

 ちなみにアトレティコは後半開始からSHのサウールとCHのコケの場所を入れ替え。この理由も想像に過ぎないんだけど、より運動量が必要なSHを半分ずつでやろうぜ!なのかなと。2人とも走行距離半端なかったけど、マルチ性を利用して、しんどい役割半分こしたのかなとか。

(追記:アトレティコファンのozamendiさんにコケとサウールの入れ替えの理由を考察いただきました)

 オープンに試合が進む中で、徐々に試合を掴んできたのはリバプール。後半開始間もない時間帯は、シンプルにサラーの裏へのボールを狙うことで右サイドから攻め込むシーンが目立つように。独力の陣地回復から、ボールを握ってアトレティコを押し込むようになる。アトレティコのプレス開始ラインはハーフラインからずいぶん後ろになってしまった。

 その状況を迎えたリバプールは前半とやや異なるアプローチで挑む。片側偏重とは打って変わって、後半はヘンダーソンにファビーニョタスクを負わせる形に。アトレティコが低いプレスラインであることを利用して、フリーになるヘンダーソンから、大外の裏に長いボールを供給し、最終ラインに人が多かったアトレティコを面ごと攻略する狙いだった。右に流れてばかりだったフィルミーノやエリア内のタスクが多かったワイナルドゥムが左サイドでマネやロバートソンを手助けするシーンも目立つようになる。

 跳ね返された後は外からファーを狙ったクロスを連発。精度もバッチリで、オブラクがいなければかなりの確率で失点していたのは間違いないのではないだろうか。おそらく後半はアトレティコ的には最も苦しい時間帯だったと思う。

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 激しい試合展開とは裏腹に選手の交代が少なかったこの試合。アトレティコは苦しい時間をしのぎ続けて、延長勝負!というプランだったのかもしれないが、リバプールはどちらかといえば、カードを切るのが難しくて動けなかった側面もあると思う。この試合は上手く行ってたし、ベンチのメンバーの方がより良いパフォーマンスができるかは微妙なところ。オックスレイド=チェンバレン⇒ミルナーの交代でよりワイナルドゥムが前に出てくる場面は増えた気もしないでもないが、攻撃のテコ入れといっていいかはわからない。

 それでもチャンスを作り続けるリバプール。広くピッチを使いつつ、右のサラーを起点にロバートソン、マネ、フィルミーノを中心にゴールに迫る。しかし、クロスバーとオブラクにすべて跳ね返されてしまう。逆にラストプレーでFKからアトレティコがネットを揺らすもこれはオフサイド判定。決めきれないリバプールが最後に冷や汗をかいたところで、試合は延長戦に突入することになった。

【延長】
途中交代のマドリーコンビが決め手に

 延長戦でまず存在感を発揮したのはワイナルドゥムだった。ミルナーの投入に伴い右サイドに移動したワイナルドゥムは、前半にチェンバレンが頻繁に見せていたハーフスペースの抜け出しでまずはフィルミーノに決定機をお膳立てする。シュートは惜しくも枠外に。

  「あの90分やった後にこんなフリーランできてすごいな」と思ったのもつかの間、今度は独力で右サイドを突破。そしてクロスを上げて今度こそフィルミーノのゴールを演出することに成功。公式記録上ではフィルミーノがシュートを一度ポストに当ててから押し込んでいるため、アシストは付かないだろうが、実質のアシストどころか得点の何割かもワイナルドゥムのものといっていいくらいの働きだった。

 ここからアンフィールドの声援をバックにリバプールがさらに相手を押し込むかと思いきや、試合の流れは再び変わることに。バックパスを受けたアドリアンが手痛いパスミスをしてしまうと、そこ逃さなかったのは途中出場のマルコス・ジョレンテ。トータルスコアで同点、アウェイゴール差でアトレティコの勝ち抜けとなるゴールを叩きこむと流れは一変する。

 ここからはモラタとジョレンテというマドリー育ちの2人が見せ場を独占。アトレティコの2点目のシーンはジョレンテのコース取りが抜群で、ファン・ダイクの注意をモラタ1人に向けないようにしていた。ただ、シュートの前の場面でのゴメスの対応の淡白さは目についてしまうところである。

 リバプールもオリギ、南野と攻撃的なタレントを全力で投入するが、攻撃のつなぎ役として信頼度がピカイチであるフィルミーノがいなくなったことで、個々人がそれぞれでなんとかしようとする場面が多くなっていってしまった。元気な時ならそれでもいいのかもしれないが、エネルギーを使い切った延長後半にヒメネスを入れてより強固になったアトレティコのブロックの前だと分が悪かった。

 最後はモラタがケーキにイチゴを乗せるゴールを決めて、この試合だけのスコアでも逆転。アンフィールドを完全に黙らせた。

 試合は2-3。トータルスコアは2-4でアトレティコが勝ち抜けを決めた。

あとがき

要塞に散らばる勝利の材料

 90分で見てどちらが優勢に試合を進めたか?といえば、間違いなくリバプールだろう。アトレティコは特に後半苦しみに苦しむこととなった。ただ、勝利したのはアトレティコだった。リバプールとしては90分で決めていれば…がよぎる試合になってしまった。

 この結果を分けたものがあるとするならば、リバウンドメンタリティになるのではないだろうか。断わっておくが、今季のリバプールは苦境に弱いチームでは決してない。むしろ、土壇場で容赦なく得点を決めることで何度も引き分けや負けの試合を勝ちに変えてきた屈強なメンタリティを持つチームであると思う。

 ただ、両チームが延長に迎えた「得点を決めなければ負け」という状況をうまく乗り越えたのはアトレティコの方だった。アドリアンのミスが流れを手放した要因であるのはわかるが、リバプールの2失点目の対応はもう一度試合をひっくり返すのに十分な質のものではなく、味方のミスに気落ちしたことを如実に表すこととなってしまった。むしろ、試合を決定づけたのはこちらの失点の方かもしれない。

 ふるわないリーガでの成績、後半の苦しい展開、リバプールを後押しするアンフィールド。1点リードしていたとはいえ、パッと見ればアトレティコには苦しい材料がそろっていた2ndレグだった。しかし、裏を返せばこれらは全てシメオネが選手を奮い立たせる要素になりうる。アンフィールドは今季全てのチームにとって要塞だったが、ディエゴ・シメオネにとってはそうではなかったということだろう。

 最後に難しい情勢の中、フットボールを通して多くの喜怒哀楽を表現してくれた両チームに感謝の意を示したい。準備においていつも通りにいかない場面もあったと思うが、両チームは寂しい思いをしている世界中のサッカーファンに素晴らしい試合を届けてくれたように思う。

試合結果
UEFA Champions League 
Round 16 2nd leg
リバプール 2-3 アトレティコ・マドリー
アンフィールド
【得点者】
LIV: 43′ ワイナルドゥム, 94′ フィルミーノ
ATL:  97′ 105+1′ ジョレンテ, 120+1′ モラタ
主審: ダニー・マッケリー

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